渋谷らくご

渋谷らくごプレビュー&レビュー

2019年 9月13日(金)~17日(火)

開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。

イラスト

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9月15日(日)17:00~19:00 春風亭百栄 古今亭志ん五 桂三四郎 蜃気楼龍玉

「渋谷らくご」語り口を味わう:龍玉(りゅうぎょく)師匠、トリ公演

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プレビュー

 今月は5日間出演の隅田川馬石師匠、その唯一の弟弟子にあたるのが、蜃気楼龍玉師匠。五街道雲助のDNAを、色濃く引き継いだ若き真打。声質、語り口ともに将来を期待される若手のひとりです。前回のトリ公演は怪談が飛び出しましたが、今回はどうなるでしょうか。お楽しみに!
 上方落語の語り口の桂三四郎さん、安心して聴ける語り口にファン増殖中の志ん五師匠、独特すぎる唯一無二の語り口 百栄師匠。本公演は、特に「語り」の魅力をお持ちの演者さんたちを揃えました。初心者の方にもオススメです。

▽桂三四郎 かつら さんしろう
22歳で入門、現在入門15年目。疲れた日はサウナに入ってリフレッシュする。落語家さんには人見知りしないが、漫才師さんには人見知りをしてしまう。この夏は、鳴戸部屋の朝稽古を見学した。

▽古今亭志ん五 ここんてい しんご
28歳で入門、芸歴16年目、2017年9月真打昇進。平成30年度国立演芸場「花形演芸大賞」で銀賞。渋谷らくごの公式読み物どがちゃがでは、志ん五師匠の似顔絵コラムが掲載中。カラオケボイスドリンクを飲んで歌ってみた。

▽春風亭百栄 しゅんぷうてい ももえ
年を取らない妖精のような存在。さくらももことおなじ静岡県清水市(現・静岡市)出身、2008年9月真打ち昇進。
落語協会の野球チームでは、名ピッチャー。アメリカで寿司職人のバイトをしていた。日常生活の様子はわからないが、猫好き。

▽蜃気楼龍玉 しんきろう りゅうぎょく
24歳で入門、芸歴22年目、2010年9月真打ち昇進。身長が181cmと背が高い。飲み会では序盤からハイボールを飲むらしい。2016年国立演芸場花形演芸大賞受賞。各ジャンルのプロが集まって怪談話をする『怪奇蒐集者(コレクター)』というDVDにも出演している。

レビュー

文:月夜乃うさぎTwitter:@tukiusagisann お茶と和菓子が好き。9月始まりの手帳を使い始めました。

2019.9.15(日)17-19「渋谷らくご」
春風亭百栄(しゅんぷうてい ももえ)-鮑のし
古今亭志ん五(ここんてい しんご)-初天神
桂三四郎(かつら さんしろう)-過去のないワイン
蜃気楼龍玉(しんきろう りゅうぎょく)-やんま久次

9月の渋谷らくごは、仲秋の名月、十五夜の夜に始まる。渋谷の街も渋谷金王神社のお祭りを金曜日から連休中に行っていて、道玄坂の上の方では地元の方々がたこ焼きや焼きそばの屋台を出して祝祭の雰囲気を醸しだしていた。渋谷区に昔から住む人達がお祭りの用意をして屋台を出し、お神輿を担ぐ。それは渋谷という街への都会ゆえの偏見を拭うのにも一役買っていたと思う。普通に住民の方がいる街なのである。
渋谷らくごでも馬石師匠の『お富与三郎を聴く』企画があり、お祭りのように大勢の人達が集まり盛り上がってもいた。モニターで伺った15日は、渋谷金王神社のお神輿がゆらゆら揺れながら、スクランブル交差点を渡っているのを見かける。スマホでお神輿を撮影し、にぎわう大勢の人達の中を通り、足早にユーロスペースに向かう。
17時からの会は、プレビューによると、口調を楽しむ会だという。確かに、出演者の四名の方々は、口調もテンポも、よくかける演目も異なる個性の師匠方で、落語とひとくちに言っても多種多様で、落語家さんも十人十色なのを改めて感じる。

渋谷金王神社祝祭の日のユーロライブのある日常

春風亭百栄師匠

  • 春風亭百栄師匠

    春風亭百栄師匠

渋谷らくごの会場へ伺うと、ちょうど階段のところで百栄師匠とお会いした。「どうもこんにちは」と気さくにご挨拶してくださる。明るいのにどことなくアンニュイで、力の抜けた口調。その雰囲気は、話題作「全裸監督」での山田孝之という俳優を思わせる。気さくで声を張らない百栄師匠の開口一番は、もし、初めて渋谷らくごの席に座ってドキドキしている人が聴いていたとしたら、緊張感を一気に取り払われたと思う。
百栄師匠は、珍しい開口一番を楽しんでいる風で、サンキュータツオさんの前説と客席への諸注意に感心され、まるで、自分のお客様がいないかのように、春風亭の亭号の説明や自己紹介していらっしゃった。この会の座布団返しが百栄師匠のお弟子さんの枝次さんだったのもあり、開口一番のお手本をお見せしようとされていたのかも知れない。
実は、私は百栄師匠の落語がかもし出す世界観が大好きだ。百栄師匠ご自身が作られた野球関連の落語には、百栄師匠の野球大好き少年だった頃の想いが詰まっているし、「バイオレンススコ」は人間ではなく猫目線で物語が進行する落語で、さまざまな品種の猫たちの縄張り争いが実にマニアックに描かれている。『天使と悪魔』には若手の落語家が新作落語か古典落語かかける前の葛藤が。他の噺も名作揃いだ。さて、今日はどんな百栄ワールドが広がるのだろうと楽しみにしながら、百栄師匠のまくらを聴いていると、始まったのは、『鮑のし』という前座さんや二ツ目さんが一番目や二番目に出て来たときに拝聴する演目であった。今日は百栄師匠、とことん開口一番の役割を果たそうとしているらしい。
『鮑のし』は、貧乏所帯でお金がない中、どうやって夕御飯を買うお金を捻出するか考えたしっかり者の奥さんの計画に従ったものの、隠しごとが出来ない主人公が、予想外に滑稽な行動で笑わせる。『鮑のし』は結婚祝いのお話でもあり、おめでたい気分になる。今回は新作での百栄ワールドではなかったが、古典落語を活き活きとご自分流にアレンジしてかける形での百栄師匠の百栄ワールドが拝見できた。

古今亭志ん五師匠

  • 古今亭志ん五師匠

    古今亭志ん五師匠

志ん五師匠も、古典も新作も演じられる方である。今回は古典落語『初天神』で高座に上がられた。今回聴いていて思ったのは、志ん五師匠の口調はよどみがないというのが特徴だと感じている。実は、全く言われていないものの、この師匠こそ本寸法というか、スタンダードな落語家さんなのかも知れない。「初天神」を選ばれたのは、渋谷の街の坂上でお神輿やたこ焼き、焼きそばの屋台が出ていたので、渋谷のお祭りに合わせたのだと思う。志ん五師匠は毎月「どがじゃが」でも落語家さんの絵を描いていらっしゃって、サンキュータツオさんの前説でも小助六師匠の似顔絵が話題になった。小助六師匠の似顔絵はよく特徴をつかんで描かれている。絵だけではなく、特徴を掴むのが上手なのか、何年か前に拝見した金魚の壮大な旅の噺『でめきん』では、金魚のようなしぐさが素晴らしかった。 今回「初天神」は子供がずるさと可愛らしさを合わせ持っているのを表現されていて、楽しい。帰りにまだ渋谷のお祭りが続いていて、屋台が出ていたら、たこ焼きでも買って帰りたくなる一席である。もの凄くキャラが立っている訳ではない落語ですんなり耳に入って来る心地良い落語に癒された。

桂三四郎さん

  • 桂三四郎さん

    桂三四郎さん

3人目に登場の三四郎さんも、古典落語も新作落語もかける落語家さんである。
三四郎さんは、コテコテの関西弁に加えて、爽やかですがすがしい口調だ。柳亭小痴楽さんの真打ち昇進披露パーティの話題では客席から何度も笑いが起こる。やっぱり吉本所属の演者さんは、おもしろいと三四郎さんをお見かけするとしみじみと感じる。
今回は『過去のないワイン』というワインのお噺。場所はワインセーラーの中。名前の呼び方をあえて書くと、某コンビニで売っているワインは「セブンさん」、カルフォルニア産の「カルフォルニアさん」、フランス産のワインは独特で繊細。フランス産地は「ブルコニュさん」で、会話の妙がおもしろいので会話はあえて書かないが、要するに、ワインによるダジャレでうまいことをいうやり取りが楽しい。この新作落語からは、三四郎さんがワイン好きでワインに詳しいのが伝わってくる。好きな物には興味がわいて調べる。詳しくなると親近感を感じてもっと好きになる。好きになるとよく買うようになる。たくさん呑めば味の特徴に詳しくなる。詳しくなると更に好きが高じてワインの新作落語が生まれる。この落語は三四郎さんのワイン愛が溢れていた。特にコンビニで売っているワインを「安くて美味しい」と2回も推している所はおもしろい。某コンビニには三四郎さんが推していたワイン「セブンさん」が置いてあるのかも知れない。会場に笑いが起きると、同時に、三四郎さんの好感度と会場の一体感が高まって行くのを感じた。三四郎さんの高座は客席で楽しく気持ち良くたくさん笑えて、何だかすっきりさわやかな気持ちになる。

蜃気楼龍玉師匠

  • 蜃気楼龍玉師匠

    蜃気楼龍玉師匠

 今回のトリは、馬石師匠と同じ雲助師匠の一門の方で馬石師匠の弟弟子の龍玉師匠。細身の長身に刈り上げた短い髪が、何かのアスリートを思わせる。「珍しい噺を申し上げます。」との声が、また良い声で、声フェチの私の耳に心地良く響いてくる。声量も、かぼそい声と舞台俳優さんとの中間くらいの声、聞こえない箇所もなく、「やんま久次」に入られた。日本のお家制度は少し前まで長男が優遇され家督と全財産を継ぐのが一般的であった。次男以下の人達は養子に入ったり、自力で別の家に奉公へ行ったりしていたという。やんま久次も次男ゆえに実家から出て行ったようだが、すっかり現在でいう所の反社会的勢力の一員のチンピラ生活となっていたのだろうか。身体にやんま(鬼やんま?)の刺青をほどこして賭博などをしていた。そんな久次が家督を継いだ兄の家に脅しのように入ったことから事件となるのだが、実家も武士の家。反社会的勢力に屈するほど柔(やわ)ではなかった。やんま久次みたいな人は戦国時代であれば暴れる場所はいくらでもあったのだろうが。家の財産は長男だけではなく兄弟姉妹で平等に分けるよう法律が改正された現代でも、長男が家督を継ぐという風習は未だに残っている家も少なくはない。凄み、悪態をつく龍玉師匠の久次は悪魔のように恐ろしく見えた。実家を継いだ兄と家族側は家を守らなくてはいけない。久次は強く生きていかねばならない。凄み、悪態をつく龍玉師匠の久次は悪魔のように恐ろしく見えてもどこか悲しい。
【この日のお客様の感想】
「渋谷らくご」9/15 公演 感想まとめ

写真:武藤奈緒美Twitter:@naomucyo
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