渋谷らくご

渋谷らくごプレビュー&レビュー

2020年 9月11日(金)~15日(火)

開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。

イラスト

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9月15日(火)20:00~22:00 柳家花ごめ 三遊亭ふう丈 立川寸志 春風亭昇々 三遊亭丈二「大発生」 林家彦いち(トークのみの出演)

創作らくごネタおろし「しゃべっちゃいなよ」 2020年4月振替公演

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プレビュー

 隔月の最終公演に行われている創作ネタおろし会「しゃべっちゃいなよ」。
 しかし今年の4月公演のみ、開催されませんでした。そこで、今月、新たに演者の皆様にスケジュールを頂戴し、振替公演が実現しました!
 レジェンド噺として三遊亭丈二師匠の「大発生」をレコメンド。彦いちプロデューサーからも、ぜひこの時期に聴いていただきたいとメッセージがありました。
 宇宙初公開の落語、創るのは、演者さんと会場のお客さんです!

▽柳家花ごめ やなぎや かごめ
2009年入門、2014年6月二つ目昇進。ラジオトークにて、小説朗読を定期的に配信している。「ミニラ」に似ていると言われてから、ミニラを見ると嬉しくなってしまう。

▽三遊亭ふう丈 さんゆうてい ふうじょう
2011年4月入門、2016年5月二つ目昇進。怠けないようにという決意を込めてnoteにショート落語を書き続けている。ゴルフをやっているがあまりうまくない。

▽立川寸志 たてかわ すんし
44歳で入門、芸歴10年目、2015年二つ目昇進。編集マンをやめて、落語家になった。チラシの構成から、文章まで編集マンの能力を遺憾なく発揮する。購入者のためだけに落語をお届けする「《落語・さしむかい》」という取り組みをを定期的に開催している。

▽春風亭昇々 しゅんぷうてい しょうしょう
1984年11月26日、千葉県松戸市出身。2007年に入門、2011年二つ目昇進。2021年5月、真打昇進が決定。毎朝とにかく走り続けることを習慣にしている。消臭力の「ラブリーブーケの香り」がお気に入り。

▽三遊亭丈二 さんゆうてい じょうじ
1990年10月入門、芸歴30年目、2005年9月真打昇進。バーテンダーの資格があり、落語協会のファン感謝イベントなどではカクテルを振る舞う。珠算1級でありカラーコーディネーター2級の持ち主。

レビュー

文:木下真之/ライター Twitter:@ksitam

9月15日 20:00~22:00「しゃべっちゃいなよ」
柳家花ごめ-24時間マラソン
三遊亭ふう丈-起きたらアサダ
立川寸志-助詞次第
春風亭昇々-安心教
三遊亭丈二-大発生
林家彦いち(トークのみ)

新型コロナの影響で中止になった2020年4月14日の「しゃべっちゃいなよ」の出演予定メンバーが、スライドする形で登場した9月の公演。花ごめさん、ふう丈さんの初シブラク組と、勝手知ったる昇々さんと寸志さんの常連組に、レジェンド丈二師匠が加わるワクワクした会になりました。丈二師匠の「大発生」は、本当にすごかった。

柳家花ごめ-24時間マラソン

  • 柳家花ごめさん

柳家花緑一門で、女流の花ごめさん。落語家ユニット「落語ガールズ」のイメージが強く、落ち着いた語り口が記憶に残っていました。そんな花ごめさんがシブラク初出演のネタに選んだモチーフは、8月恒例の「24時間テレビ」の100kmマラソンです。
フィナーレよりも“6時間も早く”ゴールしてしまった女性アイドルのミサキが主人公。事務所の社長から「なぜ、空気を読まないのか!」と叱られるも、現場にいたマネージャーも、プロデューサーもスポンサーもなぜか「記憶がない」と責める様子がない。実はミサキ、アイドルでありながら、催眠術師でもあったのだ。芸能界にしがみつきたいミサキの魔の手は、社長にも伸びていき……。というお話です。
「6時間も早く」というインパクトのある出だしから、「実は催眠術師で」という以外な展開。日本中の人が知っている24時間マラソンから、こんな落語ができるなんて予想外でした。逆パターンですが、約20年前の24時間マラソンでギネス級の走りが生まれた「西村知美ワープ事件」を思い出さずにいられません。芸能人として何とか目立とうとして頑張った結果が逆効果。ミサキの必死さとずる賢さが伝わってくる一席でした。

三遊亭ふう丈-起きたらアサダ

  • 三遊亭ふう丈さん

新型コロナのステイホーム期間中、Twitterのリツイートでひんぱんに回ってきたのが、林家けい木さんの「ものまね時報」動画と、ふう丈さんのアサダ三世(五世)動画でした。物真似で一気にキャラ変したように見えるふう丈さんが、初登場のシブラクでどんなネタをやるのかと思っていたら、全編をアサダ二世の物真似で通す落語でした。100日間の連続物真似を達成した後だからこそ実現した、今日ならではのネタかもしれません。気になったらYouTubeで「アサダ三世」と検索。二世と三世の奇跡の共演を見ることができます。
お笑い芸人の岡本スグル(36)が朝起きると、見知らぬ老人の風貌になり、声も変わっていた。慌てて病院に駆け込むと、寄席好きの医師から「アサダ二世」とそっくりだと言われる。浅草演芸ホールに行くと、入れ替わっていた本物のアサダが「今度から、あーたが舞台に上がりなさい」。グダグダの高座が受けたことに自信を持ち、テレビのオーディションを受けたら見事に合格。テレビに出ると、みるみる人気者になって……。というお話です。
寄席でおなじみの手品師・アサダ二世を知っていれば余計笑えますが、知らなくてもマクラの仕込みがしっかりしているので大丈夫。展開が複雑なので多少冗長になる部分はあるもの、物真似の安定性で押し切りました。アサダマジックで欠かせないアイテムが登場するところもサービス満点。特殊過ぎる話だけに、再演できる場所は限られるかもしれませんが、マニアックな会で聞けたらラッキーです。

立川寸志-助詞次第

  • 立川寸志さん

前説で彦いち師匠が「寸志さんはあと15年で完成する(入門した年齢が遅いから)」と言っていましたが、まさに高速で成長を遂げている寸志さん。しゃべっちゃいなよでは「羊が一匹」「小林」の2作を口演しています。いずれも完成度は飛び抜けていて、特に「小林」は2019年の決勝大会で優勝手前まで迫った名作です。丁寧に作っている印象がありますが、3作目の「助詞次第」も元編集者の寸志さんの個性を活かした快作でした。
本作のテーマは「助詞」。フレーズは「ラーメンでも食うか」の一点突破。「でも」と「か」の2つだけをクローズアップして重箱の隅を突きまくります。会社の昼休み、「ラーメンでも食うか」とヤギサワくんがつぶやくと、先輩のムラカミさんが「でも」と「食うか」ではダメだといって正しい(?)言い方を指南する……。というお話です。
とにかく指南するムラカミ先輩がハイテンションで、口の回転が速い。松岡修造と古舘伊知郎の報ステコンビを掛け合わせたような熱いキャラです。「てにをはを意識せよ!」「人生は助詞次第!」とスパルタ塾の講師のような口調で乗せまくる。「か」のシチュエーションについて、質問の「か?」なのか、疑問の「か?」なのか、驚きの「か!」なのか、独り言の「か…」なのか、選択肢を示して正解すれば「エグザクトリー!」。古典落語の「あくび指南」のようなのんびりとした空気は流れません。先輩キャラはうざったくて胡散臭いけど、笑えて、ちょっとためになって、元気が出てくる。明日から「でも食べようか」と言うのはやめようかなと思える一席でした。

春風亭昇々-安心教

  • 春風亭昇々さん

「言いたいことも言えないこんな世の中じゃ、POISON…」とつぶやいて始まった昇々さん。GTOで、反町隆史ですね。POISONの宣言どおり、ちょっとブラックで毒のある落語でした。
今日も部長から怒られたニシモト君。老け顔アプリで気晴らししていると「安心会」の広告が目に飛び込んでくる。「本音をお聞きします」の宣伝文句に釣られて本部を訪れたニシモト君。信者、教団といった言葉に疑問をいだくも、頑なに宗教じゃないと否定する教組の言葉に乗せられ、入会してしまう。建前を排し、本音を話すことしか許されない安心会に通ううち、会社でも本音をさらけ出すようになる。すると、次第に会社で出世して行き、女子社員からもモテるようになる……。というお話です。
創作落語に取り組む人なら、多くの人が「本音をさらけ出す落語を作ってみたい」と思う普遍的なテーマです。しかし、面白い話を作るのはなかなか難しくて、断念するケースが多いと思います。古典の「大工調べ」や「堪忍袋」のように、普段は本音を隠して生きている人が、何かのきっかけで本音を語るというパターンはありますが、今回の昇々さんは「本音を言うことしか許されない宗教」に入り、それが成功してしまったことで、ピンチに陥っていくという展開。よく練られた作品です。
かといってシリアスになるわけでもなく、出てくる本音が「キモキモ部長」「会長ハゲ」「カレーが食べたい」とか子供じみたことばかりで、昇々さんの本領が発揮されていました。

三遊亭丈二-大発生

  • 三遊亭丈二師匠

丈二師匠自体、寄席の新作台本まつりや、正月とお盆のぷーく公演など、見られる場所が限られていて、「大発生」が聞けるのもレアなので、この日の観客・視聴者は本当にラッキーです。寄席でも聞ける「公家でおじゃる」とか「極道のバイト達」と比べて、「大発生」はかなり特殊な作品で、観客の想像力が試されるだけに、ツボにはまれば面白くて仕方ないはずです。
ネタバレを避けて簡単にいうと、ある島で「中村さん」が大発生し、島民に多大な被害が生じているので、どうしようかと知事や役人が対策を考える、というお話です。
新型コロナの感染拡大期には、毎日のように都道府県知事が出てきて「外出の自粛をお願いします」「3密を徹底してマスクを着けましょう」と呼びかけていました。中村さんに対する知事の対応は、そんな生やさしいものではありません。ゴジラに対する「ヤシオリ作戦」も顔負けの過激な対策の数々で、中村駆除のためなら、島民の犠牲も厭わない。ゲラゲラ笑いながらも、背筋が寒くなってきます。
そんなブラックな話が、元祖美少年落語家で、49才の今も青年らしさを失わないさわやかな丈二師匠の口から語られるギャップのすごさ。もっと多くの人に丈二師匠の落語が知られたらと思っていたら、花ごめさんが丈二作の「公家でおじゃる」をネタ出ししているチラシを見つけてうれしくなりました。
【この日のお客様の感想】
「しゃべっちゃいなよ」9/15 公演 感想まとめ

写真:武藤奈緒美Twitter:@naomucyo
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