渋谷らくご

渋谷らくごプレビュー&レビュー

2021年 4月9日(金)~13日(火)

開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。

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4月10日(土)14:00~16:00 三遊亭好二郎 立川志ら乃 橘家文蔵 春風亭昇々

「渋谷らくご」春風亭昇々真打昇進目前壮行会

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プレビュー

 この渋谷らくごがはじまってからずっと出演を続けてくださっている春風亭昇々さんが、5月から真打に昇進します。2016年渋谷らくご大賞受賞後、ポンキッキーズにレギュラー出演、ラジオのレギュラー番組をもち、創作ユニット「ソーゾーシー」でも活動している昇々さん。昨年末には「渋谷らくご創作大賞」も受賞し、いよいよ今年真打昇進です。
 そんな昇々さんの壮行会に、縁もゆかりも薄い3名の出演者が揃いました。圓楽一門会の好二郎さん、落語立川流の志ら乃師匠、落語協会からは文蔵師匠、最後は落語芸術協会の昇々さん。今後のお披露目でも絶対にない組み合わせでずっとアウェーな昇々さんを応援する会です。春から新生活スタートという方にも、昇々さんの熱量を感じてもらいたいです。

▽三遊亭好二郎 さんゆうてい こうじろう
2016年25歳で三遊亭兼好師匠に入門、2020年2月二つ目昇進。マスクは黒色やグレーを選びがち。竹下製菓のブラックモンブランというアイスがソウルフード。「マルタイラーメン 長浜博多とんこつラーメン」もソウルフード。

▽立川志ら乃 たてかわ しらの
24歳で入門、芸歴23年目、2012年12月真打昇進。スーパーマーケットが大好き。最近グミにはまっている。大成食品の麺に感動して、大成麺市場に通っている、ポイントカードもためている。

▽橘家文蔵 たちばなや ぶんぞう
24歳で入門、芸歴35年目、2001年真打昇進。ツイッターで、朝ご飯や酒の肴など、日々の料理をつぶやいている。最近つくった料理は「春キャベツとハムのパスタ」と「あさりの酒蒸し」。iPadで麻雀ゲームをしがち。

▽春風亭昇々 しゅんぷうてい しょうしょう
1984年11月26日、千葉県松戸市出身。2007年に入門、2011年二つ目昇進。2021年5月、真打昇進が決定。「2020年渋谷らくご創作大賞」受賞。17ライブでは、ロックマン2をプレーしている様子をライブ配信している。

レビュー

文:高祐(こう・たすく) Twitter:@TskKoh

三遊亭好二郎(さんゆうてい こうじろう)-元犬
立川志ら乃(たてかわ しらの)-紙入れ 
橘家文蔵(たちばなや ぶんぞう)-笠碁
春風亭昇々(しゅんぷうてい しょうしょう)-妄想カントリー

5月に真打に昇進される春風亭昇々さんを二つ目として最後に迎える回。昇々さんに縁もゆかりもない人たちで揃えました!とのことだが、裏を返せば普通の寄席では見られない、圓楽一門会、立川流、落語協会、そして落語芸術協会の各会から落語家の方々が揃ったということだ。とはいえ、その違いもよくわからなくても楽しめるのが渋谷らくごの素敵なところ。とりあえずこの場を楽しめばいいのだ、と開き直って開演を待った。

三遊亭好二郎さん 「元犬」

  • 三遊亭好二郎さん

昇々さんとなんの縁もゆかりもない、が、お祝いしたい気持ちはたくさんある、と豪語して始められた好二郎さん。昇々さんも渋谷らくごに早くから出ていたらしいが、好二郎さんはなんと渋谷らくごに客として通っていたとのこと。そういう落語家さんを初めて見た、というかついにそういう人も出たのだ。確かにアーカイブが残るだけでも2015年4月からちょうど丸6年、小1が卒業し、中1が大学生になるくらいの年月が経っている(実際は2014年の秋から始まっているはず)。
その年月に思いを巡らせているうちに、好二郎さんの軽快なまくらがどんどん進んでいく。先日は橘屋文蔵師匠(この日の3人目)の弟子である文太さんと、福岡で二人会を開催したという。文太さんは出身地である九州に拠点を移しているとのことだが、なんとその文太さんにマネージャーがついていたとのこと。しかも北九州の市政番組に出るとのこと。生粋の北九州の元ヤンキー(らしい)が、文化人として(?)市政番組に出るというのはめでたい話だ。
めでたい話続きで、全身白い犬が満願かなって人間になったら、という「元犬」の噺に入った。人間になった元犬に、素っ裸だからこの衣紋を着なさいという場面と、上着を脱ぐ所作を絡めたかと思うと、その中にきていた着物が、まさに元犬のような白い着物だった。正しく言えば少しだけ灰色がかってはいたが、白犬を思わせるような、かつ春らしい着物だった。冒頭のまくらに続いて、切れ味のある口調も、気持ちがいい。元犬の若者に翻弄される上総屋さん(仕事を手配する人)と、一方でそんな若者を面白がるご隠居さん。「壮行会ですみません」と言いながら、人間では恥ずかしい犬の所作を思いきりよく見せていくところも、見ていて気持ちのいい一席だった。

立川志ら乃師匠 「紙入れ」

  • 立川志ら乃師匠

今日は一見暖かそうに見えたから下のヒートテックを着て来なかったのだが寒い、といまだ上下でヒートテック常用を宣言された立川志ら乃師匠。いまだ上下ヒートテック着ているが着替えの時にそうと見られるのが嫌だ、それが自意識過剰だということも知っている。そんな自分の中の気持ちのやりとりも鬱陶しいのだろう。あと何回季節を経験すれば、バッチリ服装を合わせられるのか。窓を開けなくても、わかる、そのスキルを身に付けたい、とおっしゃりつつ、心理的な駆け引きが面白い「紙入れ」の噺に入った。
世話になっている旦那のおかみさんと逢瀬を重ねる新吉という若者、この新吉とおかみさんのキャラに、志ら乃師匠の魅力が全開する。「悩みがわかった瞬間のよろこびも良いけれど、なんだか分からない悩みもそれはそれでいい、そこにもじんわり(?)したよろこびもあるのよねぇ、りっしんべんの「悦び」なのよー」とおかみさんが叫ぶ。悩みを名指せないことを、よろこびと捉えるのか!と衝撃を受けている間に、おかみさんの肝の座り方、人生の達観ぶりが次々と繰り出される。「誰かと比べないと私の良さが分からないのかい、私は誰かと誰かを比べたことなんかないよ、その都度十分に愉しんでいる、愉しむということに対して真摯に向き合っている!」と新吉との逢瀬を肯定するおかみさん。志ら乃師匠らしく、自分の気持ちを掘り下げまくっているおかみさんなのだ。
新吉の動揺と妄想も度が過ぎている。おかみさんとの関係を旦那に気づかれたんじゃないかと早とちりして、まずは逃げようと逃げようと考える、それがうまく行かないと(妄想で)思い到ると、逃げる選択肢を捨てるが、妄想が妄想を呼び、結局翌朝まで寝られない。
翌朝の新吉と旦那のやりとりも最高だが、その横で笑い転げていて、大丈夫、バレるわけないという、そのおかみさんの肝の座りようがまたすごい。肝の小ささによって妄想が炸裂する新吉と、座り過ぎて達観し過ぎているおかみさんの振れ幅がすごい一席だった。
アウトプットは全く違うのだが、妄想が引き起こす葛藤ぶりと、葛藤した挙句の行動・挙動の描き方が最高という意味で、志ら乃師匠と本日の主役昇々さんは似ているような気がした。

橘家文蔵師匠 「笠碁」

  • 橘家文蔵師匠

妄想・迷走系の二人の演者に挟まれて、安定感の半端ない文蔵師匠。風体もさることながら(風体は落ち着くというより組長系のこわもて)、ゆったりとした口調のまくらから、碁を愛して止まない二人の隠居の噺「笠碁」へ入っていく。
最初の語り口は穏やかだが、ご隠居たちのキャラクターは決して穏やかでない。たかだか碁の一目の待った待たないの話から、一昨年の金貸しの話になり、相手の人格まで槍玉にあげる始末。しかも言われた方は、「昔から強情が着物をきて歩いていると言われた」と得意そうな顔をし、もう一方も「わがままが着物を着て歩いていると言われてきた」とこちらも得意そうな顔をしている。そのがんこで得意げな顔2つを、微妙に使い分ける文蔵師匠の顔芸に目を奪われる。
視線のやりとりもまるで恋する男女のような繊細さなのだ。絶交を誓ったのに、碁恋しさのあまり相手側の軒先を通り過ぎる時の、ほんの少し顔を傾けて店先を覗くご隠居の視線、対してその相手を店先から目で追って行き来を見守るもう一方のご隠居の視線。細かな視線のやりとりが、相手が来ないかな(来てほしい!)というご隠居のそわそわ感と期待を十分に、絶妙に、伝えてくる。
所作はもちろん、表情や視線のやりとりで、ご隠居のたちの強情さから素直な心持ちまで表現する文蔵師匠の芸を堪能した一席だった。

春風亭昇々さん 「妄想カントリー」

  • 春風亭昇々さん

落語研究会、通称おちけん(落研)が新歓で観客に来ていると聞きつけた昇々さん。昇々さんご自身が新歓で誘われて落研に入った際のエピソードを話してくれた。最初に覚えた演目「つる」にまつわるエピソード、落研内の人間相関図を描いて先輩とじゃれていたこと、寮の中の騒音問題、シャワー問題、胴着着て大学のシャワー室を無料で使っていた話などなど、青春エピソードをつい先日のことのように語ってくれた。18年も前のことをこれほど鮮度高く語れることにまず驚いた。
青春エピソードを語らずとも、昇々さんにはいつも鮮度を感じる。目の下にくまが出ていて(色が白いから見える)今日は疲れていそうだな、というとき時でさえ、高座自体はいつも鮮度がある。真打昇進を知っているせいで余計に感じるのかもしれないが、彼が青春ネタの創作落語を語るのは、その鮮度感が30代半ばの彼ととても合っているのだ。そして18歳を前にして青春をこれほど熱く語って違和感がないこと自体すごいことなんじゃないだろうか。
今回の落語は、田が広がる片田舎で夏休みを過ごしている女子大生、ゆみちゃんのお話。暇すぎるとしても、鯉の真似をしたり、素直すぎる中二男子の田吾作(親戚?)とイナゴとりをしたりする女子大学生がいるだろうか、と思ったが、振り返れば近いことをしていた気もする。出てくるゆずの曲が「夏色」は、きっとこの曲は今の大学生が生まれる前に流行ったはずだから、ゆずの「夏色」と青春と結びつく世代は30代半ば以上になってしまう。まぁそれはともかくとして、田吾作に自転車を操らせて坂を下る、夜の公園ならぬ畦道で線香花火をする、さらに田舎の学校のプールサイドでの甘酸っぱい事故、そういう妄想を、田吾作を巻き込んで実行していく女子大生ゆみちゃんなのだ。 青春を「あおはる」と呼び、青春的状況を作って義務的に楽しもうとする。思いがけず田吾作が青春していることを知って泣きだす。全く不本意な理由でプールに飛び込むことになる。青春って振り返れば美しいけれど、当事者は結構きつくて、惨めで、苦しい。それでも全力で青春を肯定する昇々さんがまぶしかった。

写真:武藤奈緒美Twitter:@naomucyo
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