渋谷らくご

渋谷らくごプレビュー&レビュー

2021年 4月9日(金)~13日(火)

開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。

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4月13日(火)20:00~22:00 入舟辰乃助 三遊亭兼太郎 春風亭昇羊 立川寸志 林家きく麿「スナックヒヤシンス」 林家彦いち

創作らくごネタおろし「しゃべっちゃいなよ」 2021年4月

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プレビュー

入舟辰乃助 いりふね たつのすけ
三遊亭青森 さんゆうてい あおもり
春風亭昇羊 しゅんぷうてい しょうよう
立川寸志 たてかわ すんし
林家きく麿 はやしや きくまろ レジェンド噺「スナックヒヤシンス」 
◎トーク(生中継) 林家彦いち はやしや ひこいち (プロデューサー)

※出演を予定しておりました三遊亭兼太郎さんが休演となり、
代演は三遊亭青森さんにお願いすることとなりました。この件に関するお問い合わせはshiburaku@eurospace.co.jpまでお願いします。


 さまざまな団体との他流試合で創作落語のネタおろしをするのは、演者さんにとってはとても負担ですが、そんな緊張感のなか世界ではじめて生まれる「落語」を、お客さんも一緒に産み落とす楽しさは、ほかに形容のしようがありません。
 「渋谷らくご」では偶数月の最終公演で必ず行っている「創作ネタおろし」。過去この公演から生まれた噺が、落語界全体を少しずつ変化させているといっても過言ではありません。
 2021年のシリーズも、4月で2回目。トリにはすでに古典化しつつある名作「レジェンド噺」として、きく麿師匠の「スナックヒヤシンス」が登場です。お楽しみに! 彦いち師匠は初のリモートでの参加です。どうなることやら!
※ここでの古典とは「ほかの演者もやるようになった創作噺」「他の演者やお客さんに多大なインパクトを残した噺」としています。

▽入舟辰乃助 いりふね たつのすけ
2012年27歳で入船亭扇辰師匠に入門、芸歴9年目、2017年二つ目昇進。インターネット限定の落語家ユニット「ブラックモンツキーズ」を先日立ち上げた。「孤独のグルメ」がすき。

▽三遊亭兼太郎 さんゆうてい けんたろう
23歳で入門、芸歴7年目、2017年二ツ目昇進。渋谷らくごに出演する時に、なぜか雨が多い。4歳のときの遊戯会で「三匹の子豚」に出演中、泣き出してしまった。自撮りする時、目つきが悪くなってしまう。

▽春風亭昇羊 しゅんぷうてい しょうよう
1991 年 1 月 17 日、神奈川県横浜市出身、2012 年入門、2016 年二つ目昇進。飲み会ではペースメーカーとなり、 一番盛り上がった時にしっかりと散会させる技術を持つ。おしぼりやお手拭きはしっかりとたたむタイプ。

▽立川寸志 たてかわ すんし
44歳で入門、芸歴10年目、2015年二つ目昇進。編集マンをやめて、落語家になった。チラシの構成から、文章まで編集マンの能力を遺憾なく発揮する。スマホの画面を拭きがち。人の話をじっくり聞くタイプ。先日精米機をみて感動した。

▽林家きく麿 はやしや きくまろ
24歳で入門、芸歴25年目。2010年9月真打ち昇進。観光地などにおいてある顔ハメ看板には、必ず顔を入れる。お魚を手に入れると、漬ける。深夜に、鶏肉を焼いて食べると罪悪感を感じない。うどんが好き。「北の国から」を見たが、号泣をしてしまった。

▽林家彦いち はやしや ひこいち
1969年7月3日、鹿児島県日置郡出身、1989年12月入門、2002年3月真打昇進。創作らくごの鬼。キャンプや登山・釣りを趣味とするアウトドア派な一面を持つ。創作らくごを作るときは、コーヒーを飲みながらアイデアをノートに書きなぐる。

レビュー

文:木下真之/ライター Twitter:@ksitam

「渋谷らくご」2021年4月公演
▼4月13日 20:00~22:00
「しゃべっちゃいなよ」
入舟辰乃助(いりふね たつのすけ)-麺の夢
三遊亭青森(さんゆうてい あおもり)-ミュージックスクール
春風亭昇羊(しゅんぷうてい しょうよう)-怪物のいる道場
立川寸志(たてかわ すんし)-いつものやりとり
林家きく麿(はやしや きくまろ)-スナックヒヤシンス
プロデューサー:林家彦いち(リモート参加)

観客入り(制限付き)で開催されたしゃべちゃいなよ。三遊亭兼太郎さんが久々に登場する予定でしたが、タツオさんによると3日前に兼太郎さんから不可抗力によって出演が叶わなくなったと連絡があったとのこと。代演を何人かに打診するも急すぎて捕まらず。Twitterで呼びかけたところ、何と7名の猛者から連絡が来たそうです。その中から、最初に手を挙げた三遊亭青森さんに出演をオファー。準備期間はわずか1日。どうなるのか。波乱含みの展開でしたが、フタを開けてみれば青森さんは最高のパフォーマンスを見せてくれました。
辰乃助さん、昇羊さん、寸志さんもそれぞれ個性を発揮。創作を手がける若手落語家の層の厚さを改めて感じた会でした。緊急事態に手を挙げた残りの6名の猛者たちも今後出演するとのことで楽しみです。レジェンド枠は「令和の爆笑王」こと、きく麿師匠。安定力抜群の高座で波乱の会を締めてくれました。
プロデューサーの彦いち師匠は営業先の岡山から。出発前の東京駅で前説用のビデオを収録し、終演後は岡山のホテルからzoomでライブ参加。何から何までイレギュラーの多いイベントで、忘れられない1日になりました。

入舟辰乃助-麺の夢

  • 入舟辰乃助さん

2020年8月に初登場で「ラップの神様」を披露。オリジナルラップで強烈な印象を残した辰乃助さんが2度目の登場です。前回は古典落語を大胆に改作した創作落語でしたが、今回は完全なオリジナル。舞台はラーメン屋なのに、なぜかラップが炸裂する、辰乃助さんらしさが発揮された一席でした。
落語家を辞めて、ラーメン屋になろうと人気店「かんでんなんでん」の川ノ内社長に弟子入りしようと面接に出かけた二つ目さん。ヘンテコなクイズに苦しめられながら、「ラーメンは心だ」という川ノ内社長から、ラップ勝負で勝てば採用してやると言われる。ラップでの戦いに勝利? するも、最後に命の大切さを学ぶために「ラーメンスープの寸胴で煮てやる」と言われて大ピンチ。というお話です。
「かんでんなんでん」はバブル期の80年代から90年代にかけて、とんこつラーメンブームを起こした「なんでんかんでん」のパロディですが、辰乃助さんの年齢で「なんでんかんでん」や、「マネーの虎」の川原社長を知っていて、それをチョイスしててくるセンスが面白かったです。面接に来た人に、変な無茶ぶりするのも、川原社長だったら現実でもありそう。
辰乃助さんの落語は、くすぐり(ギャグ)の数が多くて、受ける、受けないに関係なく、頭に浮かんだことを次々と繰り出していくところに好感が持てます。ちょっと攻撃的なところも若手らしくて、笑いを取りに行く貪欲さは本当にすばらしい。目玉のラップ対決はぐずぐずになってしまったけれど、決まったら絶対面白かったはず。リリックのセンスが抜群によくて、個人的には「大勝軒の山岸社長と柳家小さんは大体同じ」にはまりました。

三遊亭青森-ミュージックスクール

  • 三遊亭青森さん

代演で急きょ出演することになった顛末が、本人からも語られました。ある二つ目の先輩からのLINEで「落語って1日で作れるの?」「余裕、日常茶飯事」「13日空いてる?」「空いてる」から徐々に外堀を埋められていったとのこと。それでも断らずに出演を決めた青森さん。いいわけじみた前振りと、「渋谷らくごが好きだから」という、うさんくさいセリフ。そして、今回の落語における特別ルールを自身で決めて、それを口外してはいけないというルールを観客にも課す。前振りとしては完璧過ぎて、聞く前からどんな落語を聞かせてくれるのか、ワクワクしてきます。
青森さんは2月の「しゃべっちゃいなよ」で、事前録音の音声と生の高座との掛け合いで展開する「森羅万象クイズ王決定戦」を披露したばかり。今回はシンプルな会話劇で、しおりちゃんという小さな女の子が、ミナミミュージックスクールの女性講師からリズムのレッスンを受けるひたすらばかばかしい話です。
ミュージックティーチャーによる、4分の4拍子、4分の3拍子、4分の2拍子の説明や、それを応用した8分音符、さらに3連符、6連符といった説明がとてもわかりやすく、小学校・中学校の音楽の授業で挫折した私もスムーズに理解できました。8分音符が「いい国作ろう鎌倉幕府♪」で説明がつくなんて目から鱗。かつ、その説明が後半の落語の前フリになっていくなんて。
「タンタンタタタタ」といった複雑なリズムを駆使して、自身の半生と別れた男への未練を子供のしおりちゃんに語っていくミュージックティーチャー。まともな先生と思いきや、徐々にその本性が明らかになっていく巧みな構成とその神秘性。つかみどころのないミュージックティーチャーのキャラクターと、青森さんの淡々とした語り口。すべてが有機反応してできあがった奇跡のような一席でした。「特別ルール」もきっちり使い、観客の期待にも応える。前回のクイズ王のネタもそうでしたが、話の盛り上げ方や観客のあおり方が本当に上手い。改めてポテンシャルの高さを感じました。

春風亭昇羊-怪物のいる道場

  • 春風亭昇羊さん

昨年2月のしゃべっちゃいなよで聞いた、江戸時代の水茶屋の美人茶汲み女・お仙を軸に、お仙のおばさんの「怪獣おたけ」が言い寄る男を撃退する「笠森お仙」が好きで、今回も楽しみにしていました。
今回は、相模の国の若侍・徳治郎が、「怪物」の異名を取る武術の達人と相対する話です。門弟たちを腕相撲勝負で簡単に退け、達人との面会までこぎつけた徳治郎。怪物が徳治郎との勝負を承諾する条件は、小指1本の腕立て伏せで達人についてくることだった。勝負はどうなるのか。というお話です。
昇羊さんの創作は、妖怪が跋扈する世界を描いた時代小説、山田風太郎の小説のような趣がありますね。そして、強いものは圧倒的に強い。始祖の巨人並み。なのに勝負の内容は、指1本での腕相撲や、指1本での腕立て伏せ。強さのアピールが落語的でユニークです。そしてマクラで「上には上があるのが芸人稼業」と言った昇羊さんの一言が、二つ目のポジションにある今の昇羊さんを象徴しているようにも思います。怪物は神秘的で、何を考えているかよくわかりません。たぶんその怪物の上にもさらなる怪物がいるんでしょう。謎の多いこの怪物、もう少し詳しく知りたくなりました。

立川寸志-いつものやりとり

  • 立川寸志さん

年に1回、しゃべっちゃいなよで創作落語のネタおろしを続けている寸志さん。ペースはゆっくりですが、1回限りの掛け捨てではなく、何回も高座でかけられる一般性の高い作品を目指している様子がうかがえます。
今回は古典落語の定番、八五郎とご隠居さんの「まあまあ、おあがり」「どうも、ごちそうさま」の“いつものやりとり”を逆手に取った創作落語です。もしも、八五郎とご隠居さんのやりとりが現代なら……。井上八五郎は、嫌がるご隠居・尾形清十郎氏の宅に勝手に闖入し、ただで酒を飲ませろと強要した罪でチャボとサスペンダーというあだ名の2人組刑事に捕まる。という夢を見た八五郎は、隠居との会話で2度とぼけないことを誓う。いつもと違う八五郎にペースを乱された隠居も、次第にツッコミをしない優しい人になり、2人のコミュニケーションはおかしくなっていく。というお話です。
過去、「小林」「助詞次第」と言葉遊びを駆使してユニークな創作を手がけてきた寸志さん。今回は古典落語の世界で言葉遊びを仕掛けてきました。笑いを起こすための言葉を奪われた古典落語の人物たちはどうなっていくのか。興味深くて、楽しいシミュレーションでした。

林家きく麿-スナックヒヤシンス

  • 林家きく麿師匠

今回のレジェンド枠はきく麿師匠。場末のスナック「ヒヤシンス」の高齢ママ・ジュンコさんと、古株ホステス・アキコさん、若いホステス・ヒロコさんの3人が、店の暇に任せて、常連客・山田さんの悪口を言い合っていくお話です。ストーリーらしきものはありますが、基本はママとチーママの意味のない会話が中心。山田さんの悪口も耳の裏がクサイとか、財布がぬるっとするとかどうでもいいことばかり。
コロナ禍にあって、今は大都市の飲食店が時短営業または営業自粛になり、お客が来なくて暇なスナックは至るところにあるはずです。当たり前にある日常がなくなってしまっている今、スナックヒヤシンスでの他愛もないおしゃべりを聞いているだけで、現実を忘れてほっとした気持ちになります。
どんな世界になっても、スナックヒヤシンスの中だけは、「ビビクリマンボ」の声が響いているし、「恋のオーライ坂道発進」をホステスとデュエットで歌う山田さんがいる。くだらないことで笑っていられる時間を提供してくれるきく麿師匠は本当にレジェンドです。



写真:武藤奈緒美Twitter:@naomucyo
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