渋谷らくご

渋谷らくごプレビュー&レビュー

2022年 4月8日(金)~13日(水)

開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。

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4月9日(土)17:00~19:00 立川笑二 古今亭文菊 田辺いちか 林家正蔵

「渋谷らくご」 やさしさに包まれて:正蔵師匠、登場!

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プレビュー

 トリは大看板 林家正蔵師匠の登場です。どのような噺も、やさしさに包まれていて聴く人の心をあたためてくれる落語。虚飾も下心もなく、虚心坦懐に落語を語る師匠の魅力に触れていただきたいです。
 出演陣も超豪華! 19年&20年の「渋谷らくご大賞」笑二さん、堂々たる風格と気品で若き老境 文菊師匠、講談 いちかさんの気持ち良くって「やさしい」講談もご堪能ください。

▽立川笑二 たてかわ しょうじ 落語立川流
20歳で入門、芸歴11年目、2014年6月に二つ目昇進。「2020年渋谷らくご大賞 おもしろい二つ目賞」受賞。20年以上、自分でバリカンを入れて頭を剃っている。スヌーピーが描かれたキャップをかぶることがある。ワイシャツの一番上のボタンは留める派。

▽古今亭文菊 ここんてい ぶんぎく 落語協会
23歳で入門、芸歴20年目、2012年9月真打昇進。私服がおしゃれで、楽屋に入るとまず手を洗う。前座さんからスタッフにまで頭を下げて挨拶をする。まつげが長い。最近ダイエットに挑戦中。大学では漕艇部に所属、熱中していた。細身のジーンズを履きがち。

▽田辺いちか たなべ いちか 講談協会
2014年に入門、芸歴8年目、2019年3月に二つ目昇進。2020年渋谷らくご「楽しみな二つ目賞」受賞。いま講談師を描いた漫画「ひらばのひと」に夢中。先輩のことを「兄様」と敬う。最近のツイートではカラフルな妙な絵文字をつかうことを意識している。

▽林家正蔵 はやしや しょうぞう 落語協会
15歳で入門、芸歴44年目、1987年真打ち昇進、2014年落語協会副会長に就任。中学生の頃に聴いたマイルス・デイヴィスがきっかけでジャズが好き。子供のころ突然高座に上がるよう言われて、いきなり小噺を披露したことがある、会場は爆笑だった。

レビュー

文:高祐(こう・たすく) Twitter:@TskKoh

立川笑二(たてかわ しょうじ)-百川
古今亭文菊(ここんてい ぶんぎく)-千早振る
田辺いちか(たなべ いちか)-報恩出世俥
林家正蔵(はやしや しょうぞう)-雛鍔

立川笑二さん「百川」

  • 立川笑二さん

生来面白い人には面白い話が転がり込む。笑二さん宅にやってきたAmazon宅配便にまつわるこばなしは信じがたいほど面白すぎる。寝不足なのは可哀想だけれど。
まくらとは全く関係ないが、と言って始まった「百川」。笑二さんの手にかかると本筋は古典通りでも、現代的な要素が含まれてもっとおかしくなる。青森出身の百兵衛の使う「シェシェ」という挨拶は、中国語にしか聞こえない。なるほど方言や訛りは外国語並みにわからないから、今だと外国語にしてくれた方がスッキリする。
百兵衛を相手する江戸っ子もおかしさの度合いを増している。話が噛み合わないと思っても、自分の都合のいいように捉える江戸っ子たち。自分の非を極力認めたがらない、江戸っ子がどこまで自分に都合よく百兵衛の話を汲み取るか、自分の誤りをどこで訂正するか、その加減、タイミングが絶妙だ。まともな返事をする百兵衛が、面白さで根負けしたかのようなオチがおかしかった。

古今亭文菊師匠 「千早振る」

  • 古今亭文菊師匠

持って生まれたのが、品の良さということもある。ご自身が述べているように、佇まいもお着物も完璧で美しい。それを公言するところに嫌味じみたおかしさがあるが、本当だからしょうがない。だが落語本編に入ると、チャキチャキの江戸っ子の職人にも、浪花節を唸る旦那にもなり、なんら違和感がない。あの品の良さの塊だったようなお姿はどこに?でも決して品がないわけではなく、絶妙な加減があまりにも自然だ。
そして文菊師匠は笑二さんの百川を引き継いだように、知ったかぶりを押し通す「千早振る」の噺に入った。百人一首の一句「千早振る」の意味を聞きにきた金さんに、物知りで通っている(ただし句の意味は分かっていない)旦那が意味をでっちあげる物語だ。しかしここまで都合よく面白く語られてしまうと、もはやこの旦那の説明通りにこの一句を捉えてしまいそうになる。平安時代の句に江戸時代の相撲取りや遊廓の花魁が出てくるのはおかしいと分かっていても、だ。本来表す秋の情景やそこに込められた激しい恋情、それはそれとして、このおかしい噺をセットにこの句を知らないのはもったいない、そう思わせられた文菊師匠の一席だった。

田辺いちかさん 「報恩出世俥」

  • 田辺いちかさん

清楚な花のようないちかさん。この日は芽吹きを思わせる明るい黄緑色のお着物で登場された。きっとこれまで真面目に一途に生きてこられたのだろうなぁ、といちかさんを見ると感じられる。そんないちかさんは、こちらの思い込みもあって今日も真面目に話しておられる、やはり清楚だなぁと思っていると、あれ、今冗談いった?というようなタイミングでユーモアを効かせてくる。肩透かしを食らうようで油断がならない。
そしていちかさんにもまた、本編での豹変ぶりにいつもやられる。まくらでの穏やかな語り口から一変、低めに声を落としつつ切れ味のいい語り口をベースに、声も顔も、表情をころころ変えてくる。真っ直ぐな気性の持ち主である車夫、警官、事業家の3人が互いを慈しみ合う話を語られると、不器用な真っ直ぐさも、硬さをほぐすようなユーモアも、すっと観客の心に届く。いちかさんの語りはいつ聞いても良い心持ちになる。

林家正蔵師匠 「雛鍔」

  • 林家正蔵師匠

グレイヘアに、鍛えられているのか日焼けされ頬も引き締まった姿の正蔵師匠、おじさま、とお声をかけたくなる。師匠が生まれ持ったのは噺家の血筋である。落語界は血筋で師匠になれる訳ではないし、むしろその血筋ゆえの苦しさもあったのではないかと邪推してしまう。観客のそんな邪推を逆手に取るように、師匠にしか語り得ない、有名な噺家のエピソードや容姿を、まくらに本編に差し込んで楽しませてくれる。そして何より、子供の天衣無縫さを描かせたら天下一品、端正より、無邪気さが際立つから不思議だ。お屋敷の若様と植木屋の倅、性格は違うがそれぞれの子供らしさが際立って正蔵師匠の魅力が全開だった。
この「雛鍔」では植木屋の職人とそこを訪れる大旦那が語り合う場面があるが、今回の噺では、庭師を入れるような大旦那が、なぜわざわざ職人の長屋を訪れたのかが丁寧に描かれていた。大旦那が職人に詫びを入れるその場面が入れられることで、植木屋の倅に感心する背景もよくわかった。まくらもそこそこに、たっぷり本編を語っていただいたことで、この噺がぐっと深く感じられた一席だった。