渋谷らくご

渋谷らくごプレビュー&レビュー

2023年 6月9日(金)~13日(火)

開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。

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6月10日(土)17:00~19:00 立川志ら乃 柳家小せん 三遊亭丈二 橘家文蔵

「渋谷らくご」文蔵に気をつけろ落語会

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プレビュー

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本公演はオンライン配信視聴を行いません。是非劇場へ足をお運びください。

  みなさん、橘家文蔵師匠はもうご覧になりましたか? インターネットで「橘家文蔵」と検索すれば、強面の見た目、自他ともに認める乱暴者の称号などの情報が出てくると思いますが、実際の高座を見ないと分からない文蔵師匠の最大の魅力は、その「かわいらしさ」。日常のやり取りの中で、ふと垣間見える人間の愛らしさを表現させたら、いまこの人の右に出る人はいないと思います。
 そんな文蔵師匠とともにご出演いただくのは、豪華な3人の師匠方。期せずして、3人ともそれぞれ独自のかわいらしさを持った方です。志ら乃師匠、小せん師匠、丈二師匠、あえて見どころを申し上げません、ご自分のお好きな「かわいい」はどれか、見つけにきて下さい。
 
▽立川志ら乃 たてかわ しらの 落語立川流
24歳で入門、芸歴25年目、2012年12月真打昇進。スーパーマーケットが大好き、先日スーパーマーケットの「紀ノ国屋」で惣菜パンを大量購入した。かえるのピクルスのぬいぐるみを集めている、晴れている日は洗濯をする。

▽柳家小せん やなぎや こせん 落語協会
22歳で入門、芸歴26年目、2010年9月真打昇進。橘家文蔵師匠と入船亭扇辰師匠と音楽ユニット「三K辰文舎」としても活動中。先日、数年ぶりにプライベートの旅行に行ってみた。漫才トーナメント「THE SECOND」をみて感動した。

▽三遊亭丈二 さんゆうてい じょうじ 落語協会
19歳で入門、現在芸歴33年目、2005年9月真打昇進。落語協会のアウトドア好きな芸人さんたちの集まり「マンタ倶楽部」の一員。資格マニアで、珠算1級やカラーコーディネーター2級など様々な資格をもつ。

▽橘家文蔵 たちばなや ぶんぞう 落語協会
24歳で入門、芸歴37年目、2001年真打昇進。ツイッターで、朝ご飯や酒の肴など、日々の料理をつぶやいている。先日は、「鮪漬け丼」を作った、キハダマグロをワサビ醤油と味醂に漬け込んだ。お休みの日は昼間から発泡酒を飲む。

レビュー

文:高祐(こう・たすく) Twitter:@TskKoh

立川志ら乃-鰻の幇間
 柳家小せん-お血脈
 三遊亭丈二-口入屋
 橘家文蔵-化け物使い

立川志ら乃師匠「鰻の幇間」

志ら乃師匠は冒頭の小話(まくら)も楽しい師匠、今日はどんなところから入られるのかなと思ったら、まくらなしでさっと本編に突入。どうやら「鰻の幇間」らしい。そうか、日によっては歩くと汗をかくくらい暑くなってきましたものね。
しかし「鰻の幇間」は、ごく個人的にはこの噺ですか、、とちょっと残念に思ってしまう噺でもある。これは演者の技量に関係ない、だってお抱えの旦那がいない、売れない太鼓持ちが長々話す噺なんだから、(極端にいえば)面白いはずがない。この太鼓持ちの部分が間延びする印象があってあまり好きになれなかった。
ところが志ら乃師匠の今回の鰻の幇間、その辺りをバッサリ切ってあった。代わりに差し込まれたのが鰻屋一家の哀れな事情の一コマ。この事情を思うと鰻を10人分お買い上げになった旦那風の男の心根の優しさよ、って払うのは太鼓持ちですけどね。
換骨奪胎された「鰻の幇間」、30分たっぷり楽しませていただきました。志ら乃師匠のこういう創作力が好きだし、次回も楽しみで仕方ない。

柳家小せん師匠 「お血脈」

志ら乃師匠とうってかわってたっぷりまくらを聞かせてくださったのが、小せん師匠。マスクのしたの顔をうかがうのもきっとお手ものになっているに違いない。観客一人ひとりの顔色、ご機嫌、反応をうかがうように丁寧に視線を送ってくださる。
そして始まったのが「お血脈」。この噺、最後は1500年代の設定のようですが、始まりはなんとお釈迦さまの誕生からなのですね。お釈迦さまのお話から始まったので、なんていう噺だろうなぁ、それにしても小せん師匠て、ほとけ様系のお話がなんだかしっくりくるなぁと思っていたところ、人不足に陥った地獄の閻魔大王が石川五右衛門に命じて、長野の善光寺にあるお血脈を奪ってこい、というところまであっという間に物語が展開していった。お血脈とは、キリスト教でいう免罪符的なもののようで、手に入れられたら極楽行きが約束される、というものですね。
お釈迦さまから石川五右衛門まで、ジェットコースターのように時代も物語も流れていった。小せん師匠、いつの間にそんなに語られたんだろう?!、あっという間に石川五右衛門も成仏してしまい、不思議な感覚だった。

三遊亭丈二師匠 「口入屋」

水色の花柄色のお着物が、ちょっと無造作な髪型と好対照をなしていた丈二師匠。それにしてもお着物素敵だったなー、と今し方ご所属の落語協会のサイトを見てみたら「落語界では自他共に認めるファッションリーダー」とのこと。さもありなん。
まくらで文蔵師匠との宴会ネタを披露してくださった。文蔵師匠が北のあるお国の指導者を、丈二師匠がその通訳を務めるという設定で、このまくらでは文蔵師匠の演技も丈二師匠が真似をされているのだからお腹がよじれた。お二人のネタを高座で聞けないのが残念すぎるが、丈二師匠の再現ぶりがすごい。
さて丈二師匠の本編は「口入屋」。男所帯の大店(商店)に、美人の女中さんがやってきた!お店でもだいぶ偉い番頭さんからして、早々に口説こうとしている。帳面をどがぢゃが(誤魔化)して、帯を買ってあげよう、着物を買ってあげよう、なんて大店の番頭さんとは思えないが、丈二師匠の番頭さん、あまりいやらしさがなくて逆にサラリと言って見せて、番頭さんのこれまでの経験値が透けて見えた。とはいえ、最後は台所の吊り戸棚を抱えながら、寝たふりをしなければいけないなんて情けなすぎる。

橘家文蔵師匠 「化け物使い」

真っ青な着物に真っ赤な羽織、ものすごいコントラストなのだが、文蔵師匠が負けるはずもなくきまっている。
渋谷らくごのプレビュー曰く、「文蔵師匠の最大の魅力は、その『かわいらしさ』」。然り。文蔵師匠は色々な顔を使い分けられる。この日の魅力的なコントラストは「強面」と「情の脆さ」だった。
この日の本編は「化け物使い」。人使いの荒い主人のところにようやく杢助という使用人が居着いたが、主人が化け物屋敷に引っ越すと聞いてこの杢助もお暇をもらうことに。ご主人は杢助の代わりに、出てくる化け物、幽霊に事細かに仕事を教えて、明日も来いよと言い残していく。
とはいえ、一つ目小僧が、主人の人使いの荒さに涙を流せば、オロオロする主人、いや文蔵師匠である。偉そうな主人はもちろんだが、ハラハラと涙をこぼす小僧にも、そしてその涙に狼狽する主人にも入れ替わって違和感がない。くるくる表情の変わる文蔵師匠を見られるのが最高に楽しい会だった。

写真:武藤奈緒美Twitter:@naomucyo
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