渋谷らくご

渋谷らくごプレビュー&レビュー

2023年 6月9日(金)~13日(火)

開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。

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6月11日(日)17:00~19:00 立川志ら鈴 春風亭昇羊 柳家花ごめ 桂伸べえ 柳家小ゑん

創作らくごネタおろし「しゃべっちゃいなよ」 23年第3回 ★配信あり

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プレビュー

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  渋谷らくごの偶数月は、団体・キャリア関係なしの創作らくごネタおろし会「しゃべっちゃいなよ」。2023年の第3回です。できたてほやほやの創作らくごを、みなさんも一緒に楽しみ、そしてつくりあげましょう。ひりひりすること間違いなし。
 今月は、渋谷らくご初登場の志ら鈴さん、昨年末の創作らくご決勝まで進むも惜しくも大賞を逃した昇羊さん、怪噺(実話怪談)にも挑戦中の花ごめさん、そして昨年の創作らくご大賞を見事もぎ取った伸べえさん、4名の二つ目さんの登場です。そしてトリは、いまや新作落語界には絶対に欠かせない柳家小ゑん師匠にレジェンド噺をご披露いただきます。
 配信でもご覧いただける公演です。


▽立川志ら鈴 たてかわ しらりん 落語立川流
2013年4月入門、2020年1月二つ目昇進。「鈴さん」というオリジナルキャラクターグッズを公式ウェブサイトで発売している。iPhoneXRをいまだに使用していている。猫を買っていて、お稽古していると猫が見つめてくるようになった。

▽春風亭昇羊 しゅんぷうてい しょうよう 落語芸術協会
1991 年 1 月 17 日神奈川県横浜市出身、2012 年入門、2016 年二つ目昇進。おしぼりやお手拭きはしっかりとたたむタイプ。お酒が弱いが、横浜で呑み歩きをして記録をしている。長い時間電車に乗る時は、本屋さんに行って文庫本を買い込む。

▽柳家花ごめ やなぎや かごめ 落語協会
2009年入門、2014年6月二つ目昇進。最近、ツイキャスの使い方を勉強している。ハッシュタグをたくさんつけたツイートをすると、凍結されると聞いてから、ツイートするのが怖くなっている。歌舞伎にはまりかけている。すゑひろがりずのゲーム実況がお気に入り。

▽桂伸べえ かつら しんべえ 落語芸術協会
23歳で入門、2017年6月二つ目昇進。「2022年渋谷らくご創作大賞」受賞。落語を覚えながら寝る。1番好きな飲み物はほうじ茶で、2番目に好きな飲み物が黒豆茶。写真に写りたがらない。

▽柳家小ゑん やなぎや こえん 落語協会
1975年に入門、芸歴48年目、1985年9月真打昇進。天体観測が好きで小惑星を発見した、発見した小惑星は「koen」と名付けられた。お風呂の水回りのパッキンの修理から、落語協会の二階の設備の改修工事までこなす。

レビュー

文:木下真之/ライター Twitter:@ksitam

立川志ら鈴-雨男雨女
春風亭昇羊-ウラムラサキ(樋口一葉 作)
柳家花ごめ-インタビューウィズマーメイド
桂伸べえ-机にラケットおかれたい
柳家小ゑん-ぐつぐつ
プロデューサー: 林家彦いち

創作落語を手がける女性の落語家さんは、落語協会を中心に増えてはいるものの、まだまだ少ないのが現状です。そんな中、立川流の志らく一門から、創作落語で頭角を現してきたのが今回シブラク初登場の志ら鈴さん。トップバッターという難しいポジションながら、持ち味をフルに発揮して高座で暴れまわっていました。「しゃべっちゃいなよ」へは3回目の登場となる花ごめさんとあわせて、出演者4名のうち2名が女性落語家というバランスもいいですね。常連の昇羊さん、2022年チャンピオンの伸べえさんも、ストロングポイントを活かした高座。「この一席!」は、小ゑん師匠の代表作「ぐつぐつ」のフルバージョンと、今回も見どころ盛りだくさんの充実したしゃべっちゃいなよでした。

立川志ら鈴-雨男雨女

  • 立川志ら鈴さん

初登場でトップバッターだと、開口一番からお客さんの反応を探りたくなるものですが、志ら鈴さんは冒頭から臆することなく少しすべり気味のあいさつをカマして度胸の良さを感じます。お笑いの賞レースが好きといった自己紹介をしながら客席の空気になじんでいくところも自然で、期待が高まります。
本編は、梅雨シーズンに寄り添った作品。コウジとレイコのデートはいつも雨。ウェザーニュースをどれだけ追っても、目覚ましテレビの天気予報が「晴れ」だったとしても容赦なく雨が降り続けます。ウキウキする初めてのペアルックは、NASAが開発した雨合羽(エンデバージャケット)。しびれを切らしたレイコは、デートが100%雨になるのは、コウジが前世で悪いことをしたに違いない、コウジの前世はカタツムリだと言い出します。負けじとコウジも、レイコの前世はカエルと言い出す始末。2人のデートはどうなってしまうのか。という話です。
高座中、羽織を雨合羽に見立てて、二人羽織のように頭からすっぽりかぶってカミシモを切っている姿が印象的でした。羽織をかぶりながらの、コウジとレイコのディープキス。何か見てはいけないものを見てしまったような罪悪感を覚えます。
コウジとレイコは、付き合って何年目でしょうか。お互いのことはある程度知っているし、ケンカするだけの距離感の近さはあるものの、付き合い立てのような新鮮さやドキドキもある。揺れ動く2人のカップルの会話を、ずっと聞いていたい気持ちになりました。

春風亭昇羊-ウラムラサキ(樋口一葉 作)

  • 春風亭昇羊さん

「しゃべっちゃいなよ」では初の原作モノ。事前に昇羊さんから彦いち師匠に連絡があり、「自分でやりたいものをやればいい」と承諾したそうです(後説で彦いち師匠が説明していました)。
原作の「うらむらさき」は、不倫をテーマにした未完の作品で、小説の導入部分しかありません。あらすじとしては、小間物の小松原東二郎の女房、お律のところに、姉が心配事があるからと来て欲しいという手紙が届いた。旦那は「行ってやりなさい」と優しく送り出してくれたが、実は姉の手紙はお律が不倫相手に会いに行くための方便だった。家を飛び出たお律だったが、道筋であんなにいい旦那をだましていいのか、愛人に会いに行くのはやめようかと逡巡する。しかし最後は迷いを吹っ切って、愛人との待ち合わせ場所に向かって歩き出す--。という話です。青空文庫で原作を読んでみましたが、文字数は3000文字程度です。
昇羊さんは、原作の骨格はそのままに、お律が愛人に会いに行くか、やめようかという逡巡の場面を膨らませていました。道すがら、お律はある老婆から「待ちなさいよ」と声をかけられます。それはもう1人のお律(幻覚? 異世界からの使者?)でした。「愛人との密会を旦那に知られたら不幸になる」と弱気のお律に対して、老婆のお律は「弱気になるな、知られなければいい」とけしかけます。天使と悪魔、2人のお律のやり取りが極めて落語的で、旦那のことを「ふとっちょでB型で明太子食い」と表現するようなギャグもふんだんに盛りこまれていました。
結末は原作同様、不倫相手に会いに行くことを決心するお律の力強いセリフで終わりました。原作を知らないと「なぜここで終わるのか」と疑問だらけになるのですが、未完の作品であるという事情を知ると「そうなのね」と納得できました。読書好きで文学にも詳しい昇羊さんの才能が活かされた創作落語。新しい鉱脈の発掘に挑戦を続ける姿勢は素晴らしいと思います。後説で彦いち師匠がおっしゃっていましたが、私も未完の作品の続きを昇羊さんバージョンで聞きたくなりました。時は広末涼子の不倫ラブレター問題が発覚したてほやほやの時期。タイムリー過ぎて生々過ぎましたね。

柳家花ごめ-インタビューウィズマーメイド

  • 柳家花ごめさん

過去、しゃべっちゃいなよでは「24時間マラソン」「人の恩返し」というユニークな作品を発表してきた花ごめさん。今回は人魚に対する人間の固定観念からヒントを得た創作落語でした。「リトル・マーメイド」の映画が公開中の今なので、時期的にもタイムリーです。最近の花ごめさんは、怪談に取り組んでいるということもあり、ホラーテイストも入ってユニークな作品に仕上がっています。
人魚が人間の前に堂々と現れるようになってからはや1年。発見当時の大騒動も落ち着き、ついにマスコミのインタビューに応じることになった。人魚に対する人間のイメージが一人歩きしているので、実態を知って欲しいというのがその理由とのこと。インタビュアーの質問に答えていくうちに、人魚の知られざる生態が明らかになってきて……。という話です。
人間の抱いている人魚のイメージから、どれだけギャップが作れるか。創作者としてはストーリーより、面白いことどれだけ大量に考えつくか、大喜利的な発想が必要になってきます。そのあたり、花ごめさんは人魚も人間と同じ生活を送るという生活・環境面と、生物学的には魚の成分が多めという動物として側面から、次々とユニークなエピソードをひねり出してきます。特に、人魚が食物連鎖の中に組み込まれ、熊や鮫に食べられる、時には人にも食べられるという話はホラー味が強く、日曜夜のお茶の間に動物の補食シーンを流す「ダーウィンが来た!」のようです。
ワンシチュエーションで、場面転換もないので、単調な構成になりがちなところですが、飽きることなく聞けたのは、花ごめさんの話の運び方のうまさがあったからではないかと思います。タツオさんが後説で言っていましたが、最初は人魚が海中にいて、インタビュアーが陸にいるという上下の設定で会話をしてきて、途中から人魚がテトラポットから陸に上がって対面で会話を始める(左右に上下を切る)といった細かい設定も考えられていて、古典落語の素養が生きています。真打昇進が間近に迫っている花ごめさんの中で、確実に成長を感じることができた一席でした。

桂伸べえ-机にラケットおかれたい

  • 桂伸べえさん

昨年の「広末写真集」にしろ、今回の「机にラケットおかれたい」にしろ、タイトルがストレートです。モノに対して、妄想が炸裂していくのが伸べえさんの真骨頂ですね。今回は、就職経験のない伸べえさんの中にある、アフターファイブに対する漠然とした憧れから作った作品だそうです。ちなみに「アフターファイブ」は死語になって久しく、なじみのあるのはバブル世代くらい。平成生まれの伸べえさんに実感はないと思いますが、90年代の雰囲気を自然と伸べえさんがまとっているところが面白いです。
営業の山田クンが外回りを終えて会社に帰ってくると、自分の机の上にテニスラケットがおかれていた。それは会社一の美人で高嶺の花の青山さんのラケットだった。アフターファイブに青山さんは代々木公園でテニスをしているらしい。届けてあげよう思った山田クンだが、それにストップをかける部長が現れた。女性社員が男性社員の机にラケットをおくのは、一緒にテニスをしましょうという誘いと断言する部長は、山田クンをうらやましく思いながら自分の妄想を炸裂させていく。という話です。
話としてはかなりキモイ部類に入りますが、伸べえさんの不安定要素の大きい活舌とソフトな語り口でマイルドに仕立てられていて、思ったほど気持ち悪さは感じません。伸べえさんが古典の「湯屋番」をやると、たぶんこんな感じなんだろうなあというイメージです。
「広末写真集」の時に発揮されていたフレーズ力は今回も健在で、「金曜ロードショー」「ハムナプトラ」「魔女タク」「部長@Gmail」「朝ドラヒロインもしない」「青山さんの青春を握りすぎ」などが話を面白くする効果を生んでいて天性の才能を感じます。
昨年、初参加でチャンピオン大会を制した伸べえさん。今年はどうなるか、期待と不安で見ていましたが、チャンピオンらしい創作落語を見せてくれました。

柳家小ゑん-ぐつぐつ

  • 柳家小ゑん師匠

ネタおろし4本を聞いた後に、創作時から40年以上にわたって磨き上げられてきた小ゑん師匠の「ぐつぐつ」。創業以来、タレを長年にわたり継ぎ足してきた老舗のうなぎ屋で食べるうな重のような、極上の一席でした。
緑色の三両編成の電車がホームに入ってきた。ここは目蒲線の西小山。人々は左右に分かれた出口から家路を急ぐ。西小山の商店街、ニコニコ通りの手前、魚屋のシャッター前に屋台の明かりが見える。看板には「おでん」の文字。お店は繁盛しているようだ。鍋の中で煮立っているおでんたちの声に耳を傾けてみると、こんにゃく、はんぺん、タコの足、大根、いもたちが楽しく会話をしている。という話です。
おでんが煮える「ぐっつ、ぐっつ」がブリッジとなって場面が転換していく構造で、1~2分の間に1回は必ず笑いがやってきます。頭の中におでんのイメージが無限に広がり、子供から大人まで誰でも楽しめます。おでんのネタも定番だけでなく、ウィンナーやロールキャベツも入っている。屋台のおでん屋さんですが、レベルは高く、侮れません。
銭湯帰りのカップル(神田川の世界)がおでんを食べながら、夜空を見上げる場面は、小ゑん師匠しかできない名場面。オリオン座、獅子座、プレアデス星団、スバル星。それらと絡めただじゃれの数々。すがすがしいくらいバカバカしさを感じます。おでんを買いに来たOLが発する「ラッキー、ポッキー、ケンタッキー」が聞けるのも小ゑん師匠の落語だけです。
ほとんどの具材が引き上げられ(お客に食べられ)、残ったのは2日前から鍋の中にいるイカまきのみ。唐突なラストに哀愁が漂います。
小ゑん師匠のインタビューによると、実験落語の時代、ネタおろしの前日になってもネタができず、近所の商店街に出ている屋台のおでん屋に行っておでんが煮えているのを見てアイデアが沸き、2時間で書き上げた作品だとか。そんなエピソードも含めて、先人たちが切り開き、育ててきた創作落語の道は、しゃべっちゃいなよに出演の若手のみなさんの刺激になったのではないでしょうか。

写真:武藤奈緒美Twitter:@naomucyo
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