渋谷らくご

渋谷らくごプレビュー&レビュー

2023年 12月8日(金)~12日(火)

開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。

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12月9日(土)14:00~16:00 三遊亭好二郎 瀧川鯉八 柳家勧之助 田辺いちか

「渋谷らくご」いちかトリ公演:締めの講談

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プレビュー

  現在の「渋谷らくご大賞」の田辺いちかさんの講談がトリの会です。1年間、大賞を背負ってくれました。市井の人々が主役の落語と違って、講談は武将や偉人など歴史上の人物が登場し、話の展開もドラマチック。落語よりもずっと古くからあり、その歴史のなかでどんどんエモさを増してきた話芸です。そういう意味では、トリで聞くのにぴったり。軽さが魅力の二つ目・好二郎さん、渋谷らくごのマスコット・新作の鯉八師匠、若手実力派真打・勧之助師匠に続いて、いちかさんの登場です。
発声とリズム感に命をかけ、凛とした佇まいの高座を繰り広げるいちかさん、硬と軟のバランスを味わってくださいね。

▽三遊亭好二郎 さんゆうてい こうじろう 圓楽一門会
2016年25歳で三遊亭兼好師匠に入門、2020年2月二つ目昇進。竹下製菓のブラックモンブランというアイスがソウルフード。日常生活でも着物で行動することが多々ある。ずっとお世話になっていた近所のバーが閉店してしまった、そのバーに15時間居続けたことがあった。

▽瀧川鯉八 たきがわ こいはち 落語芸術協会
2006年24歳で瀧川鯉昇師匠に入門、2020年5月真打昇進。令和3年度国立演芸場花形演芸大賞金賞受賞、2年連続の受賞となった。続けようと思ってもストレッチをさぼってしまう。今年のクリスマスに、瀧川鯉八LPレコードが発売される。

▽柳家勧之助 やなぎや かんのすけ 落語協会
2003年21歳で柳家花緑師匠に入門、現在芸歴20年目、2018年9月真打昇進。ヤクルトスワローズファン。つば九郎がいると反射的にカメラを構えてしまう。先日イチロー選手の等身大マネキンとツーショットを撮った。

▽田辺いちか たなべ いちか 講談協会
2014年に入門、芸歴9年目、2019年3月に二つ目昇進。2020年渋谷らくご「楽しみな二つ目賞」受賞。2022年渋谷らくご大賞受賞。趣のある路地裏を見つけると写真を撮ってしまう。新幹線に乗って景色を眺めている時富士山が綺麗だと写真を撮ってしまう。

レビュー

文:高祐(こう・たすく) Twitter:@TskKoh

三遊亭好二郎-野晒し
瀧川鯉八-厚化粧
柳家勧之助-寝床
田辺いちか-玉川上水の由来

三遊亭好二郎さん 「野晒し」

好二郎さんの出囃子は華やかで格好いい。「鞘当て」という曲らしい。ご本人も元気と華があるのでなんだかピッタリなのだ。最近は私服も和服になっているとのこと、街中でお見かけしてみたいものだ。
まくらで語られたのが、この日の最後の一席、トリを務めるいちかさんとの思い出話。ある興行師に余興で大喜利をさせられたいちかさんが去り際におっしゃった「無礼者め!」の一言、もう一度聞きたいと好二郎さんがおっしゃる、それは確かに聞いてみたい。
さてこの日の一席は「野晒し」、長屋に住む八五郎、女嫌いで知られる隣人の家にどうやら女がいるらしい、翌朝隣人を問いただしてみると、女は実は釣りで釣ったどくろの主らしく要は人間ではない。八五郎はそれでも美人なら良いと二匹目のどじょうを狙って、どくろを釣りに行くのだが、というお話。お調子者の軽さと勢いが好二郎さんにあっていて心地よい一席だった。

瀧川鯉八師匠「厚化粧」

人の不幸は蜜の味、というのはよく言ったもので、落語家が話す学校寄席の話は鉄板だ。まず例外なく滑るから(滑らなかった話は逆に高座では面白くないからしないのだろうか?)。そしておそらく観客側の誰もが、その手の学校で行われる演芸を生徒として体験しているからであり、その場の白々しさ、というか笑わないで見てやろうと言った若者らしい冷酷さを身をもって知っているからではないだろうか。あぁ、当時もう少し笑ってあげても良かったのだ、と今更ながら思ってしまう。それでもこの上から目線は何なのか・・・。
母校からの周年記念の公演依頼を断るために鯉八師匠が取ったその作戦に、我々観客は息を飲みました。ひー。それでも断りきれなかった鯉八師匠、そして学校寄席で使える鉄板ネタの結末。。。弟弟子を裏切ってまでその鉄板ネタを使ったという背水の陣感に、めちゃくちゃドキドキさせられました。いやもう、ほんとこのまくらが十分落語なのでした。
本編は、所変わってプカリプカリと紫煙を燻らす女性の一人語りから始まる「厚化粧」の一席。地方の一都市と思しき街でスナックを経営するママ二人、二人に翻弄される新人、、いやこの新人に勝ち目はないでしょう。
本編は当然期待に違わずでしたが、今回はまくらで垣間見えた鯉八師匠の人間性に度肝を抜かれた回でございました。

柳家勧之助師匠 「寝床」

柳家花緑師匠一門の屋台骨(と勝手に思っている)、勧之助師匠。包容力のある佇まいが安心感をもたらしてくれる、と思っていたのですが、まくらでされていた桑田佳祐さんのモノマネで気づきました。声がなんだかとってもおおらかなのです。それでいて結構いろんなお声を持つのはこの日の本編で明かされます。この日は「寝床」。義太夫好きの大店の旦那、趣味でお稽古している分には問題ないが、これが人に聞かせたがるから困ったもの。この日はお酒、お膳付きで長屋連中を集めて聞かせてやろうという趣向だが、長屋連中も旦那の義太夫を恐れて何やかにやと理由をつけて行きたがらないという話。義太夫を唸る(下手な)旦那の声、これが結構いいお声でして、勧之助師匠が本気で歌ったら上手そうだなぁと思ってしまう。
この一席のあと、渋谷らくごのポッドキャストで同じ花緑師匠一門の弟弟子、緑太さんの「寝床」を聞いた。なんだかとっても懐かしい感じがした。

田辺いちかさん 「玉川上水の由来」

「無礼者め!」なんて言ったかしらとほおに手を当てながら訝しむいちかさん。「無礼者め!」を高座で本気で言った後の、その姿のたおやかなこと。高座から察せられるご気性からは想像できないからこそ、言っていたら面白い、言っていて欲しいという願望が膨らむのは致し方ないですね。
この日の一席は「玉川上水の由来」。徳川の世になり人口が急激に増えた結果、水不足に悩まされるようになった江戸に、神田川由来以外の、西の側からの水源を求めて多摩川から水を引くことをお上に申し出た兄弟の物語だ。だが物語は全く別の方向から始まる、金策に走る弟を待つ兄が呼んだ按摩の、しかも顔の火傷の描写から始まる。按摩の顔、兄弟の住む館、江戸の街、多摩川からの四ツ谷、雪の降る幡ヶ谷、近景と遠景が入り混じってイメージが頭の中で切り替わる。按摩や兄弟の苦労話を聞きながら、彼らの姿を江戸の街に想像しながら、物語を追っていく。
年の瀬に起こる、人が人を思いやることによって生まれる奇跡、「クリスマスキャロル」や「賢者の贈り物」のような話だった。いちかさん、素敵なクリスマスプレゼントをありがとうございました。