ユーロライブ

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2019年の主催・協力公演

2019年6月22日(土)~6月26日(水)

浪曲映画──情念の美学 Rokyoku Movie─The Aesthetics of Pathos

太宰治が翌朝も思い出して号泣したと書き残した、元祖・浪曲映画「新佐渡情話」など浪曲映画15本と、浪曲8口演で、日本映画と日本人のルーツをたどる!

*浪曲映画=浪曲が全編または要所で流れて物語を回す形式の映画、およびヒットした浪曲演目を原作とする映画。

1929年、映画は無声からトーキーになったことで、演出の大転換を迫られる。
多くの時代劇は人形浄瑠璃や歌舞伎のように、義太夫が節と語りで物語を回す日本の伝統的な演劇形式を踏襲、義太夫に代わる役割を浪曲や琵琶語りに託した映画─浪曲トーキー、琵琶トーキーなるものが登場する。

 1928年のラジオの全国放送化、SPレコードの本格普及で大ブレイクした、寿々木米若の浪曲「佐渡情話」に目を付けた日活が、浪曲「佐渡情話」(1934年)を映画化して大成功を収める。
そのヒットを契機に各社は、あたかも今日の映画界がベストセラー小説やマンガを映画化するように、浪曲口演付きや、浪曲・講談演目を脚本とした映画を次々と製作、山中貞雄、成瀬巳喜男、中川信夫、森一生、斎藤寅次郎、三隅研次、加藤泰らも含め、マキノ雅弘の『次郎長三国志』を頂点として、その傾向は浪曲人気が衰える1950年代まで続いた。

 浪曲は大衆芸能の王者として終戦後まで君臨するが、浪曲の物語に通底する義理人情、通俗的で情緒的な価値観は、近代的自我を目指した知識人、夏目漱石、芥川龍之介、永井荷風らに忌み嫌われ、文芸の世界では「浪花節」という言葉が否定的なレッテルとして最近まで頻繁に使われていた。
しかし従軍画家を務めたことで戦争協力を問い詰められ、フランスから終生帰国することのなかった藤田嗣治が、テープレコーダーに声で残した遺言のなかで、しばしば浪曲の節に乗せて語るほどに、浪曲は日本人に浸み込んでいた。

 ラジオによって隆盛を極めた浪曲人気はTVの登場で急速に衰退する。だが浪曲師・国友忠は「二葉百合子、三波春夫、村田英雄という人たちは、浪曲の自在性を生かし、それぞれ見事に独自の節調を作り上げて成功した、現代の浪曲家だ」と書いているように、浪曲は変容しつつも日本人のDNAを受け継いできた。
 この特集企画は、いわば私たちのDNAを探り当てる旅でもある。

Fシネマ・ツアー「浪曲でたどる日本映画の再発見」 主催:Fシネマ・ツアー実行委員会
企画=ユーロスペース+シネマ5 企画監修:玉川奈々福 協力=山根貞男 
映画提供=KADOKAWA日活 東宝 東映 国際放映 田島空 ヤマムラアニメーション 国立映画アーカイブ 
芸術文化振興基金助成事業 www.eurospace.co.jp
6月22日(土)Aプロ:浪曲映画の誕生と隆盛              会場=ユーロライブ
12:30 EuroLive 『新佐渡情話』1936年 清瀬英次郎監督 黒川弥太郎主演
    +浪曲「からかさ櫻」澤孝子 曲師=佐藤貴美江
15:00 鼎談「浪曲映画」周防正行x玉川奈々福x山根貞男
16:10 『赤穂義士』1954年 荒井良平監督 黒川弥太郎主演
    +浪曲「義士銘々伝ー俵星玄蕃」玉川奈々福 曲師=佐藤貴美江
19:00 『母千草』1954年 鈴木重吉監督 三益愛子主演
6月23日(日)Bプロ:伝説の浪曲師・国友忠(生誕100年)と曲師・沢村豊子  会場=ユーロライブ(最終回ユーロスペース)
13:00 EuroLive 『呼子星』1952年 吉村廉監督 三益愛子 松島トモ子主演
+浪曲「義士銘々伝─赤垣源蔵徳利の別れ」玉川奈々福 曲師=沢村豊子
15:15 対談「国友忠と沢村豊子」沢村豊子x玉川奈々福 聞き手:田井肇
16:15 『銭形平次捕物控 地獄の門』1952年 森一生監督 長谷川一夫主演
+浪曲「銭形平次 雪の精」玉川奈々福 曲師=沢村豊子
19:00 (Eurospace) 『どぶ鼠作戦』1962年 岡本喜八監督 加山雄三 佐藤允主演
6月24日(月)Cプロ:マキノ正博(雅弘)と広沢虎造           会場=ユーロスペース
12:40 Eurospace 『新佐渡情話』1936年 清瀬英次郎監督 黒川弥太郎主演
14:20 『次郎長三国志第四部 勢揃い清水港』1953年 マキノ雅弘監督 小堀明男主演
16:00 対談「マキノと虎造」中島貞夫x山根貞男
17:00 『世紀は笑ふ』1941年 マキノ正博監督 杉狂児 広沢虎造主演
19:00 『續清水港』1940年 マキノ正博監督 片岡千恵蔵 広沢虎造主演
+浪曲「清水次郎長伝ー石松三十石船」玉川太福 曲師=玉川みね子
6月25日(火)Dプロ:浪曲演目録─「天保水滸伝」              会場=ユーロスペース
12:20 Eurospace 『座頭市物語』1962年 三隅研次監督 勝新太郎 天知茂主演
14:20 『瞼の母』1962年 加藤泰監督 中村錦之助 木暮実千代主演
16:00 対談「天保水滸伝と浪曲演目」玉川太福x坂本頼光
17:00 『番場の忠太郎』1955年 中川信夫監督 若山富三郎 山田五十鈴主演
18:50 『血斗水滸伝怒涛の対決』1959年 佐々木康監督 市川右太衛門主演
+浪曲「天保水滸伝ー平手造酒の駆けつけ」玉川奈々福 曲師=沢村豊子
6月26日(水)Eプロ:再映、そして浪曲の現在              会場=ユーロライブ
11:20 EuroLive 『赤穂義士』1954年 荒井良平監督 黒川弥太郎主演
13:20 『銭形平次捕物控 地獄の門』1952年 森一生監督 長谷川一夫主演
15:20 『呼子星』1952年 吉村廉監督 三益愛子 松島トモ子主演
17:10 『新佐渡情話』1936年 清瀬英次郎監督 黒川弥太郎主演
18:50 『噂の玉川奈々福 キネマ更紗』2018年 田島空監督
+浪曲「地べたの二人」玉川太福 曲師=玉川みね子
+浪曲「金魚夢幻」玉川奈々福 曲師=沢村豊子
  • 浪曲師 澤孝子(さわ・たかこ) 写真=森幸一
    千葉県銚子市出身。昭和29年、二代目広沢菊春に入門して菊奴を名乗る。昭和36年、澤孝子と改名。昭和48年NHK浪曲コンクール第一回最優秀賞、昭和57年芸術祭優秀賞受賞。(一社)日本浪曲協会会長を務め、現在相談役。師匠・菊春から受け継いだ作品に「徂徠豆腐」「竹の水仙」「猫餅の由来」「からかさ桜」などがあるほか、「春日局」「女人平家」「滝の白糸」「お富与三郎」などの新作浪曲も手掛ける。
  • 浪曲師 玉川奈々福(たまがわ・ななふく) 写真=森幸一
    神奈川県横浜市出身。1995年二代目玉川福太郎に曲師(浪曲三味線)として入門。2001年より浪曲師としても活動。2006年奈々福で名披露目。さまざまな浪曲イベントをプロデュースする他、自作の新作や長編浪曲も手掛け、他ジャンルとの交流も多岐にわたって行う。(一社)日本浪曲協会理事。平成30年度文化庁文化交流使として、中欧、中央アジア七か国で公演を行った。第11回伊丹十三賞受賞。
  • 浪曲師 玉川太福(たまがわ・だいふく) 写真=bozzo
    新潟県新潟市出身。2007年、二代目玉川福太郎に入門して太福を名乗る。同年11月、浅草木馬亭にて初舞台。2013年、浅草木馬亭にて名披露目。2015年 第一回渋谷らくご創作大賞、2017年 第72回文化庁芸術祭 大衆芸能部門 新人賞受賞。年間50公演を超える独演会を開催し、浪曲定席木馬亭をはじめ、落語の定席にも出演。古典の名作を継承する一方、さまざまな自作新作も手掛ける。
  • 曲師 沢村豊子(さわむら・とよこ) 写真=森幸一
    福岡県大牟田市出身。曲師(浪曲三味線)。1948年、11歳で佃雪舟に三味線の筋のよさを見込まれ浪曲界入り。山本艶子に師事し、佃雪舟の曲師として全国巡業。17歳で国友忠主催の「浪曲教室」に参加。以来、国友忠の相三味線となり、主に放送浪曲で活躍。三波春夫、村田英雄、二葉百合子などの曲師も務めた。近年は、ベテランから若手まで隔てなく曲師を務め多くの舞台や放送に出演。主に玉川奈々福の三味線をつとめる。
  • 太宰治が、「新佐渡情話」で翌朝にも号泣と書き残した短編「弱者の糧」
    映画を好む人には、弱虫が多い。私にしても、心の弱っている時に、ふらと映画館に吸い込まれる。心の猛(たけ)っている時には、映画なぞ見向きもしない。時間が惜しい。□何をしても不安でならぬ時には、映画館へ飛び込むと、少しホッとする。真暗いので、どんなに助かるかわからない。誰も自分に注意しない。映画館の一隅に坐っている数刻だけは、全く世間と離れている。あんな、いいところは無い。□私は、たいていの映画に泣かされる。必ず泣く、といっても過言では無い。愚作だの、傑作だのと、そんな批判の余裕を持った事が無い。観衆と共に、げらげら笑い、観衆と共に泣くのである。五年前、千葉県船橋の映画館で「新佐渡情話」という時代劇を見たが、ひどく泣いた。翌(あく)る朝、目がさめて、その映画を思い出したら、嗚咽(おえつ)が出た。黒川弥太郎、酒井米子、花井蘭子などの芝居であった。翌る朝、思い出して、また泣いたというのは、流石(さすが)に、この映画一つだけである。どうせ、批評家に言わせると、大愚作なのだろうが、私は前後不覚に泣いたのである。あれは、よかった。なんという監督の作品だか、一切わからないけれども、あの作品の監督には、今でもお礼を言いたい気持がある。□私は、映画を、ばかにしているのかも知れない。芸術だとは思っていない。おしるこだと思っている。けれども人は、芸術よりも、おしるこに感謝したい時がある。そんな時は、ずいぶん多い。

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