渋谷らくご

渋谷らくごプレビュー&レビュー

2019年 10月11日(金)~15日(火)

開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。

イラスト

イラスト

9月13日(金)17:00~19:00 立川寸志 柳亭市童 瀧川鯉八 玉川太福*

「渋谷らくご」浪曲 太福(だいふく)さんが、トリをとる!

ツイート

今月の見どころを表示

プレビュー

 昨今、浪曲にも注目が集まっていますが、まずは太福さんをご覧ください。新風を巻き起こし各所で大評判の太福さんの浪曲は、古典も創作もいい味だしてます! 普段は爆笑創作ですが、トリではなにが飛び出すか。
 立川流の中年の星 寸志さん、渋谷らくご大賞の市童さん、おなじく渋谷らくご大賞の鯉八さんと、大注目の二つ目勢ぞろいの意欲的な会です! 若いエネルギーの胎動を体感してくださいね。

▽立川寸志 たてかわ すんし
44歳で入門、芸歴8年目、2015年二つ目昇進。編集マンをやめて、落語家になった。チラシの構成から、文章まで編集マンの能力を遺憾なく発揮する。先日べろべろに酔っ払ってしまい携帯電話を紛失してしまう、大変な自己嫌悪に陥っている。

▽柳亭市童 りゅうてい いちどう
18歳で入門、芸歴9年目、2015年5月二つ目昇進。2018年渋谷らくご大賞「おもしろい二つ目賞」を受賞。この夏、欧州ツアーを終えて凱旋帰国をはたす。ポーランドのお土産を買ってくるが、どれも東京のスーパーで売っているものだった。

▽瀧川鯉八 たきがわ こいはち
24歳で入門、芸歴13年目、2010年二つ目昇進。2020年5月に真打に昇進することが決定。寒くなってくるとモンベルのウィンドブレーカーを着る。指原莉乃さんが出演している「からだすこやか茶w」のCM、鯉八さんがナレーションをしている。

▽玉川太福 たまがわ だいふく
1979年8月2日、新潟県新潟市出身、2007年3月入門。JFN系列にて放送中の「ON THE PLANET」のパーソナリティとして、毎週火曜日25時から出演中。昇々さん・吉笑さん・鯉八さんとユニットをつくって全国をまわっている。シダックス雷門店でお稽古をする。

レビュー

文:高祐(こう・たすく) Twitter:@TskKoh 温かい飲み物が美味しく感じられる秋が嬉しい。

立川寸志(たてかわ すんし)-がまの油
柳亭市童(りゅうてい いちどう)-ろくろ首
瀧川鯉八(たきがわ こいはち)-やぶのなか
玉川太福(たまがわ だいふく)/伊丹明(いたみ あきら)-ラグビーW杯観戦記

渋谷らくごに向かうのに、汗をかかなくなって、秋を感じる。10月13日は台風一過で気温が上がったが、それでも夕方に少し急ぎ足で渋谷の坂を登ってもほとんど汗をかかなかった。そうだ、秋は芸術の秋であり、スポーツの秋なのだ。

立川寸志さん

  • 立川寸志さん

44歳で入門し、渋谷らくごでは「中年の星」と呼ばれる立川寸志さん。まくらで台風に振り回された前日の一日を語った。テレビと窓の往復だったというご自身の話から、テレビで流れた渋谷でのインタビューの話、そして我々落語家は屋内での仕事だからまだいいけれど、屋外のお仕事の方々は大変です、とするりと「がまの油」の噺に入った。 「がまの油」は、難しい。古い言葉が多くて、具体的にどのようなものかを知らない(であろう)噺家が語ると、単なる言葉の羅列になり、聴き手の頭に全く入ってこないのだ。当然聴き手の知識も問われるのだが、そこは寸志さん、聴き手の度量を問うなんて野暮なことはしない。解る人には解るように、解らない人にもそれなりに解るように話してくださる。最初にがまの油をオロナインH軟膏に例えておいた上で、がまの油売りの口上の、言葉のリズムを存分に活かして語っていく。聴いていて気持ちよく、口上の終わりには拍手が起こった。拍手の受け止め方もリズムを壊さない。ごく自然に見えて、何度もこういう場で拍手を受け止めてきた余裕があるのだ。 「中年の星」は、一朝一夕には生まれない。若い頃からの膨大な知識と経験の蓄積があり、それを咀嚼し、さらにその蓄積を生かす機会を捉える目を持って、初めて「星」になれる。自分もそうなれると勘違いしてはいけない、これは1人の努力の賜物であり、我々はその努力の恩恵に預かっているのだ。

柳亭市童さん

  • 柳亭市童さん

からかわれ、馬鹿にされ、舌打ちされる、でも柳亭市童さんも言うように、ふとした時に相手の痛いところをつくのが与太郎やまっつぁんたちだ。落語だと与太郎、まっつぁんと名のつくことが多い道化は、演じ手の素の部分がかなり出るのではないだろうか。 お嫁さんが欲しいとおじさんにかけあったまっつぁん、首が伸びること以外は、申し分のないお嬢さんをお嫁にもらうという「ろくろ首」の一席。お嫁さんが欲しいというときも、お嬢さんを遠目から見つめる時も、いつも自分の気持ちに正直で、恥じらいはあっても裏表はない。そしていつも今を生きている。道化が全てそうかというとそうではなくて、恥じらいを卑屈に隠したり、先を読む道化たる演者ももちろんいる。むしろその方が多いと思う。どう演じるかによるとはいえ、市童さんがひねくれて演じることが想像ができない、それほど真っ直ぐな道化だった。だから、伸びた首に恐れおののいて家を飛び出したまっつぁんが憎めない。さっきまでお嫁さんに鼻の下伸ばしてたくせにと突っ込んで笑うのが普通だろう。でも、そうだそうだ、帰っていい、仕方ないね、と市童さんの演じるまっつぁんには思えるのだ。 ひねくれた道化の多い世の中、真っ直ぐな道化を、市童さんには演じつつけて欲しい。

瀧川鯉八さん

  • 瀧川鯉八さん

小痴楽師匠(真打昇進おめでとうございます!)がいかに愛されているかをひとしきり語り、この回が終わったらぜひ真打昇進披露興行@池袋演芸場へ!という丁寧なご案内をまくらでしてくだった瀧川鯉八さん。ラグビーのラの字も言わない世間離れ感が鯉八さんの魅力でもある。ちなみにこの回は19時までであり、その後の19時45分から、ラグビーワールドカップのトーナメント戦に進めるか否かが決まる日本対スコットランド戦があった。 では鯉八さんの落語が世間離れしているかというと決してそうでなく、むしろとても人間臭い。今回の「やぶのなか」も、ある新婚の夫婦の家に妻の弟が訪ねてきた、その訪問について夫と妻と、その弟の三者が独白するという、恐ろしく人間臭い噺。お互いの気遣いが、全く噛み合っていないところが生々しい。このくらいの「気遣い」は当然、とされる「このくらい」の基準はとても曖昧だ。家族の場合はさらに、「気遣いの基準は共有されているはず」という思い込みと期待が、また事態と当事者たちの感情をややこしくする。独白というスタイルが取られているからこそ衝突せず、3人は思い切り語りたいように語れる、だから観客は彼らの語りを笑える。後から思い出すと、彼らの関係の希薄さ、信頼感の無さに笑えなくなるほどだった。独白で笑いをとる、こういう落語もあるのだ。

玉川太福さん・伊丹明先生

  • _DSC0995

    玉川太福さん

鯉八さんがラグビーの話をしなかったのは、トリが元ラガーマンで今も心は熱血ラガーマンである玉川太福さんだったから、かもしれない。太福さんは、台風の被害者への気遣いを述べたのち、自分にできることは今を精一杯生きること、それはラグビーを応援すること!と熱く熱く語り出した。帰るのに45〜50分はかかるので、必ず19時には終わります、と初めに宣言して。 ラグビーが大好きとはいえ(ラガーマンの魅力を語った浪曲も忘れられない)、仕事柄、ワールドカップのチケットは怖くて取れずにいた、でもお客様からご招待いただいて、ついに決勝並みの好カード、ニュージーランド対南アフリカ戦を観に行けることに!という浪曲。18時45分からの試合に向けて、18時までのお仕事を終えると、お客様にカウントダウンされて見送られて、横浜国際総合競技場に向かう、その過程がこの浪曲のほとんどだが、それが試合にも似たスリリングを感じさせてくれた。 私もちょうど1週間前に別の試合を観戦していたので、その興奮が思い出された。私の場合は早くにチケットを購入できて、スタジアムにも1時間前には着いてビールと雰囲気を楽しんだが、やはり諸々の心配事や不安はあった。でもそんな心配や不安も含めて、最高の観戦体験だった。落語を生で観て聴く体験は、録音・録画された落語を観て聴く体験とは別のもの、とサンキュータツオさんはよくいうけれど、まさにそれだ。あの広々としたスタジアムに観客が入ってくる、それとともに盛り上がっていく雰囲気・・・と、おっとここはラグビー観戦記を書くところではなかった、でもあの気持ちの高ぶりを、浪曲で思い出させてくれた太福さんに感謝した。とても満ち足りた気分と、これから日本戦だ!という興奮とともにユーロスペースを出た。そして19時45分からの試合は、国歌に涙するラガーマンに始まり、試合のスコアまで、太福さんの言ったとおりに進んだのだった。 かくいう私は、その日本対スコットランドの試合を、ネットカフェの個室で観戦した。(小痴楽師匠、ごめんなさい!)今はテレビやインターネットの他にも、スポーツカフェやバーもある。観戦・鑑賞の仕方は多様化した。でもやはりライブは全く別の体験だ。そのことを落語とラグビーで改めて実感した日曜の夕方だった。 【この日のお客様の感想】
「渋谷らくご」10/13 公演 感想まとめ

写真:武藤奈緒美Twitter:@naomucyo
写真の無断転載・無断利用を禁じます。