渋谷らくご

渋谷らくごプレビュー&レビュー

2019年 10月11日(金)~15日(火)

開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。

イラスト

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9月13日(金)17:00~19:00 立川談吉 春風亭百栄 桂春蝶 古今亭文菊

「渋谷らくご」 文菊(ぶんぎく)がトリをとる会

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プレビュー

 落語に流れるゆったりとし贅沢な時間を、楽しく優雅に表現する文菊師匠。40歳になったばかりの若手なのですが、すでに歴史的な名人たちと肩を並べるほどの表現力です。この後40年は一緒に過ごせる名人候補、ぜひこの機会にご堪能あれ!
 落語立川流の希望の星 談吉さん、上方落語からは爆笑王 春蝶師匠。中毒者続出の落語を完成させつつある百栄師匠と、見所盛りだくさんの会です。

▽立川談吉 たてかわ だんきち
26歳で入門、芸歴12年目、2011年6月二つ目昇進。電車につかわれているネジや道に落ちているネジまでを写真に収めてツイッターにアップしている。先日、そのようなマニアが集まる「マニアフェスタ」に行ってみた。

▽春風亭百栄 しゅんぷうてい ももえ
年を取らない妖精のような存在。さくらももことおなじ静岡県清水市(現・静岡市)出身、2008年9月真打ち昇進。
落語協会の野球チームでは、名ピッチャー。アメリカで寿司職人のバイトをしていた。日常生活の様子はわからないが、猫好き。

▽桂春蝶 かつら しゅんちょう
19歳で入門、芸歴26年目、2009年8月、父の名「春蝶」を襲名する。猫と暮らしていて、時間がある日は猫と一緒に映画を観る。先日八丈島にて20年ぶりの海水浴をしてきた。

▽古今亭文菊 ここんてい ぶんぎく
23歳で入門、芸歴17年目、2012年9月真打昇進。私服がおしゃれで、楽屋に入るとまず手を洗う。前座さんからスタッフにまで頭を下げて挨拶をする。まつげが長い。最近ダイエットに挑戦中。大学では漕艇部に所属、熱中していた。

レビュー

文:月夜乃うさぎTwitter:@tukiusagisann 月夜乃うさぎ 消費税の増加に伴うキャッシュレス化に翻弄されています。

立川談吉(たてかわ だんきち)-牛ほめ
春風亭百栄(しゅんぷうてい ももえ)-女子アナインタビュー/リアクションの家元
桂春蝶(かつら しゅんちょう)-七段目
古今亭文菊(ここんてい ぶんぎく)-包丁

10月の渋谷らくごは、台風の警戒態勢の金曜日から始まった。台風19号は上陸した地域に水害の爪痕を残した。私が予約していた12日の「東京アディオス」という舞台挨拶付きの映画の地下芸人および映画監督の舞台挨拶は延期どころか中止になった。渋谷らくごも中止、今回は東京都内の寄席も休館していた。
台風一過の後、14日の夕方では、夜の涼しげな風に秋を感じる。

立川談吉「牛ほめ」

  • 立川談吉さん

 今回の台風は全国に災害をもたらしたが、台風のように激しく波乱万丈の人生を歩む落語家さんがいた。今回開口一番に高座へ上がった立川談吉さんの最初の師匠、立川談志師匠である。激しい気性と人生を歩んだ立川談志師匠というと私は高校生の頃友人と何度も観た「風と共に去りぬ」の主人公スカーレット・オハラを思い出す。しかし、談吉さんは談志師匠とは違う意味で、数奇な人生を歩んでいるのではないかと時々感じる。落語会のカリスマである談志師匠の弟子となり、次の師匠の左談次師匠の弟子にもなったのだから。客席かあの期待値は、師匠の名前だけでも高くなる。談吉さんは「どこ吹く風」の、とぼけた雰囲気ながら、明るい声の楽しい雰囲気を持つ落語家さんである。「自分以降は奇麗な人たちが出てくる」と自分以外を強調して他の師匠たちを気遣い「牛ほめ」をかける。渋谷らくごはだいたい一人30分で平等に時間を依頼されているはず。その30分という長いようで短い高座に「牛ほめ」をかける談吉さんは可愛いが、何を表現しようとして「牛ほめ」を選ぶのかが気になった。高座の時間も、たのしい時間も有限で、あっという間に過ぎ去って行く。

春風亭百栄「女子アナ&リアクションの家元」

  • 春風亭百栄師匠

 「はるかぜ亭と書いて春風亭」などの自己紹介から、テレビの女子アナと春風亭百栄との凸凹のやり取りで徐々に笑いを起こして行く百栄師匠。台風が百栄師匠の故郷、静岡県から上陸したことから台風のことを気にされていたようすも伺って、故郷を大切にしていらっしゃるのを感じる。私の斜め後ろのお客様はやたら大笑いしていて、ふんわりした百栄師匠の口調にすっかり緊張感をほぐされていた。やがて百栄師匠は京都弁っぽい話し方になる。今回は「リアクションの家元」をかけることにしたと分かる。家元というのは私の所属する茶道では京都を拠点として世界中にお弟子さんを持つ、最上級の血縁と腕前の方である。どんな「お点前」を見せてくださるのか楽しみにしていると、飛び道具や熱いものが出てきた。破天荒な無茶ぶりがたのしい。どんな気に取った役を演じていてもユルく可愛くみえる百栄師匠は、プレビューで永遠の妖精と例えられている。言い得て妙である。

桂春蝶「七段目」

  • 桂春蝶師匠

 斜めの姿勢で高座に上がられたかと思うと、美しい響きの関西弁でまくらに入る春蝶師匠。右側の客席を眺めた後に、左側に視線を移した際の「流し目」に色気が漂う。口元には不敵な微笑。「色悪」という言葉が頭の中に浮かぶ。春蝶師匠が、悪魔のような性根を心の内に宿していたとしてもかまわない…と、思う人もいるであろう。そのような魅力的な師匠だ。昔、スーパー歌舞伎「四谷怪談」を渋谷の文化村で鑑賞したとき、悪い伊右衛門の「色悪ぶり」に客席が黙って魅せられた時のような時間が、春蝶師匠の「七段目」に入ってから流れ出す。パワフルで力強いのに華やかに舞う春蝶師匠。こんな本格的な「七段目」が世の中に存在するとは。芝居好きが高じて芝居口調で遊んでいる若旦那と春蝶師匠が重なって見える箇所は、生れながらの若旦那である春蝶師匠だからこそ、完成度が高いのかも知れない。

古今亭文菊「包丁」

  • 古今亭文菊師匠

 楚々として、たおやかなお姿で高座に上がられた文菊師匠。その辺の女子より女子力が高そうなしぐさ。「包丁」という噺に入られる。女将さんの時の艶やかな女っぷりの良さ。騙そうとする相手さえも味方にしてしまう役どころに文菊師匠はよく似合う。それに、何度も同じ演目を繰り返さない客席への気遣いも文菊師匠の優しさで、今、文菊師匠が人気者で追いかけている人が増えているのもうなづける。文菊師匠は別に江戸の噺だとか、前もって説明するわけではない。ところが噺に入ると、長屋が頭に浮かんで来たりする表現力がある。未来の名人文菊師匠の高座を今のうち内にたくさん聞いて置きたい。

【この日のお客様の感想】
「渋谷らくご」10/14 公演 感想まとめ

写真:武藤奈緒美Twitter:@naomucyo
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