渋谷らくごプレビュー&レビュー
2019年 10月11日(金)~15日(火)
開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。
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プレビュー
若手真打、講談の神田鯉栄先生が、だれよりも男前でサービス精神あふれる高座で楽しませます。
歴史を題材とした創作もこなす二つ目の竹千代さん、おなじく二つ目の笑二さんは、古典ってこんなにも楽しいものかと輝かせてくれます。
そしてベテラン 桃太郎師匠が、渋谷らくごのカオスをもたらす!? なにが飛び出すかはお楽しみです。
▽桂竹千代 かつら たけちよ
24歳で入門、芸歴8年目。2015年9月二つ目昇進。ただいま幻冬社plusにて「落語DE古事記」を連載中、そしてこの冬書籍化することが決定した。お腹をくだすと痩せるタイプ。
▽昔昔亭桃太郎 せきせきてい ももたろう
20歳で入門、芸歴54年目、1980年10月真打ち昇進。落語界の破壊者ともいえるべき圧倒的な存在感。読書好きでもあり、知識量も豊富。高校二年生のことから煙草を吸い始め、警察に補導された。いまでは愛煙家として煙草についてのインタビューをうけている。
▽立川笑二 たてかわ しょうじ
20歳で入門、芸歴8年目、2014年6月に二つ目昇進。沖縄出身の落語家。飲み会に参加することが多いが、気付くと寝てしまっている。公園のベンチで落語の稽古をする。小学校5年生の時に書いた投書が新聞に掲載されるという経験をもつ。
▽神田鯉栄 かんだ りえい
平成13年入門、芸歴18年目、2016年5月真打ち昇進。講談師になる前までは、旅行会社の添乗員をやっていた。ちくわの磯辺揚げが好き。糖質ダイエットをしていて、ブログに朝食の写真をアップしていた。朝食では積極的にヨーグルトを食べる。
レビュー
2019.10.13(日)14-16「渋谷らくご」
桂竹千代(かつら たけちよ)-古事記
昔昔亭桃太郎(せきせきてい ももたろう)-結婚相談所
立川笑二(たてかわ しょうじ)-天狗裁き
神田鯉栄(かんだ りえい)-水戸黄門記(十三) 雲居禅師
「辛抱する木に花が咲く」
台風が通り過ぎても、江戸の風は吹き止むことなく吹いている。
10月の渋谷らくごは地球史上最大と呼ばれる台風19号『ハギビス』到来前夜に開催、到来した12日に休演、13日に再開催となった。 晴れ渡る空の下、肌を撫でる心地よい風を感じながら街を歩くことにした。台風の影響か、心なしか人通りの少ない渋谷の街は、いつもの喧騒に冷たい雫を落としたかのように静謐として、澄んだ空気に満ちていた。台風の被害に遭われた方へのお悔やみと一日にも早い回復を祈りながら一人、ユーロスペースに辿り着いた。
ロビーを見渡せば、台風前夜に行われた公演の感想が壁に掲示されていた。12日の感想は無い。披露されることの無かった公演を思うとき、当たり前に過ごしている日常がどれほど大きな苦難に満ちているかを知る。それらを乗り越えて辿り着いたユーロスペースで、笑顔で演芸に触れることの尊さを感じる。
どんな苦難に苛まれようと、『辛抱する木に花が咲く』ということわざのように、苦難の後こそ人は逞しく生きられるのではないだろうか。14時からの公演は、台風にも負けない、だれよりも男前な鯉栄先生の講談をトリに据え、何が起こるか予想の付かない三人を迎えて始まった。
桂竹千代 古事記
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桂竹千代さん
旭市で有名なものは、世界で初めて農業協同組合を創設した大原幽学と、2015年に開駅された『道の駅 季楽里あさひ』で、大原幽学記念館は地元の小学生が社会の授業で必ず訪れる有名な場所であり、道の駅は旭市の魅力が凝縮されている。
同郷の先輩である竹千代さんは、悪天候でも落語をした経験を語られた。台風、大雪、日没の野外であっても、決して怯むことなく落語をした竹千代さんの逞しさに驚く。
竹千代さんは温泉や船上でも落語をされている。いずれ、空中や宇宙、海中でも落語をするかも知れない。とてつもない生命力と順応性に満ちた松葉菊のような力強さが、竹千代さんにはある。芸協カデンツァというユニットに所属し、自ら古事記に纏わる書籍を出版し、独自の道を切り開く姿は同郷の出身としてとても嬉しい。
古事記は日本神話として有名な話で、冒頭、神様の名前が多すぎて飽きてしまい、本を閉じた過去があったのだが、竹千代さんの語りでは様々なエピソードが差し挟まれながら古事記が読み進められるため、興味を持って聞くことができた。古事記の内容を全く理解できなくても、表情豊かに心地よいリズムで語る竹千代さんの語りを聞いているだけで気持ちが良い。司馬遼太郎の『竜馬がゆく』のように、『閑話休題』として話される余談にも似た小噺が畳み掛けられ、本筋との相乗効果によって、とても面白い一席だった。
昔昔亭桃太郎 結婚相談所
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昔昔亭桃太郎師匠
渋谷に来るのは久しぶりとのことで、奥さんに付き添われてユーロスペースに向かったのだが、迷ってしまったという話や、電車が動いていてがっかりしたと話された。自分の思いを素直に話す桃太郎師匠のあっけらかんとした態度が不思議に面白い。
仏頂面で、ハキハキ喋ることなく、肩の力は抜け、色んなことを諦めて来世に全てを託しているように見えるのだが、それら全てが桃太郎師匠の魅力である。
まるでパンダを見ているような感覚である。動物園にいるパンダは、動いているだけで可愛らしい。同じように、寄席にいる桃太郎師匠は、何かを喋っているだけで面白い。次は一体何を話すのだろうというワクワク感、予想のつかない感じが好きだ。
最後は桃太郎師匠が大好きな石原裕次郎の話から、『嵐を呼ぶ男』をアカペラで歌われた。殆ど漫談だったが、気にならないほど笑った。
立川笑二 天狗裁き
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立川笑二さん
沖縄という場所が無意識に感じさせる和やかな雰囲気とは裏腹に、心の中では巨大な黒い水が渦巻いているような笑二さんが演目に入ったとき、裁かれているのは落語の中の男であり、客席にいる自分でもあるのではないかと思った。
『天狗裁き』という話は、夢の内容を問われた男が、ひたすら「夢を見ていない」と女将さん、長屋の隣人、大家さん、お奉行様、最後は天狗相手に言い続けて裁かれる話である。
不毛な口論の仲裁に入った者が漏らす「暇なのか?」という言葉が印象深い。行列のできたラーメン店を見ると、何時間も並んでしまう人に対して、私も同じ問いかけをしてしまうのだが、気が付くと自分も列に並んでいる。周囲の人間が興味を持つような事柄に出会うと、ついつい巻き込まれてしまうのが人間なのかも知れない。いざラーメンを食し「美味しくないな」と思っても、並んだことに価値があると自分を納得させている。
男が直面する女将さんの過敏さ、隣人の短気さ、大家さんの傲慢さ、お奉行様の権利濫用、天狗のツンデレまで、良くぞ夢の内容を語らずにいられるものだと感心する。私も男にどんな夢を見たか聞いてみたい。
神田鯉栄 水戸黄門記(十三) 雲居禅師
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神田鯉栄先生
平四郎の取った政宗への善意ある行動を、政宗が誤解したことによって物語は始まる。政宗の誤解によって傷つき、奮い立った平四郎は、苦しい修行に耐えて立派な僧侶になり伊達政宗と再会する。そこで初めて政宗は自らの誤解を認め、雲居禅師となった平四郎に謝罪する。かつては主従の関係であった二人が、最後には立場を変え、師弟の関係になるという感動のお話である。
『禍を転じて福と為す』ということわざにもあるように、政宗に誤解され傷ついた平四郎は、悔しさをバネに立派な僧侶を目指す。その志の力強さに胸を打たれた。どんな恥辱を受けても、めけずに成長する平四郎の姿は、辛く冷たい冬の時期を耐え忍び、春になって花を咲かせる木のような強い生命力に満ち溢れている。台風の被害に遭い、一日も早い回復を目指して行動する人々の思いに平四郎の志が重なった。
道端に咲く小栴檀草は、一度葉が傷つけられると、再び元の葉に成長した後でも傷の位置を覚えており、傷つけられた葉と反対の葉が勢い良く育つ。平四郎もまた、受けた傷を忘れず、政宗には無い才能を勢いよく育てたのだ。
心を鼓舞する張り扇の音と、だれよりも男前な表情の鯉栄先生の高座は、長く厳しい冬を辛抱した木が、美しい花を咲かせる様を見ているかのような、心奮い立つ極上の時間だった。
【この日のお客様の感想】
「渋谷らくご」10/13 公演 感想まとめ
写真:武藤奈緒美Twitter:@naomucyo
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