渋谷らくご

渋谷らくごプレビュー&レビュー

2017年 9月8日(金)~12日(火)

開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。

イラスト

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9月10日(日)14:00~16:00 立川吉笑 立川寸志 立川左談次 柳家小里ん

「渋谷らくご」立川左談次五十周年③ ~先輩後輩の会~

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プレビュー

◎トークゲスト:木村万里

立川左談次落語家生活五十周年特別記念興行、3日目。柳家の後輩、小里ん師匠が出演です。
柳家小さんの弟子に入門した先輩。柳家小さんに入門した後輩。孫弟子が先輩で、直弟子が後輩という関係ですが、寄席での前座修行を一緒にした仲間です。お互い若いころのシクジリも知った仲。鹿芝居に、寄席に、ともに出た先輩と後輩。
数年前に電車のなかでバッタリ出会って以来の顔合わせ。
談志の孫弟子からは、吉笑さん、寸志さんという好対照の二人が登場。トークゲストには木村万里さんをお迎えし、近くから左談次師匠を見守りつづけた歴史をうかがいます。


▽立川吉笑 たてかわ きっしょう
26歳で入門、現在入門7年目、2012年4月二つ目昇進。2015年『現在落語論』を出版。念願の作業場を借りたとのことで、いま吉笑さんのツイッターでは、その作業場の設備を充実させていく様子が公開。作業場で作業をされている様子を、Youtube上でリアルタイムに配信している。先日開催された「パワポカラオケ選手権」では、圧倒的な強さで優勝した。

▽立川寸志 たてかわ すんし
44歳で入門、芸歴6年目、2015年二つ目昇進。元編集マンなので、メールの返信が素早く丁寧。ツイッターの告知ひとつとっても、丁寧。長野県松本市を走るアルピコ交通上高地線で出会った車両に大興奮されている様子がツイッターにあげられている。渋谷らくごが誕生した2014年11月、楽屋で前座仕事をしていただき、寸志さんの気配りで、シブラクの楽屋がとても充実している。

▽立川左談次 たてかわ さだんじ
17 歳で入門、芸歴50年目、1982年12月真打ち昇進。読書好き。
談志師匠とおなじ病気にかかり、病院に出たり入ったり。その様子がツイッターにアップされており、痛々しいというよりは、ほほえましい。今月の渋谷らくごは左談次祭り。公演期間中毎日左談次師匠が登場します。会場では、左談次師匠のグッズが発売中。

▽柳家小里ん やなぎや こりん
21歳で入門、芸歴49年目、1983年9月真打ち昇進。左談次師匠と同じ時期に前座で、共に楽屋仕事をされる。浅草のパチンコ屋に出没する。浅草演芸ホールに出演する落語家さんが突然来られなくなり興行が滞りそうな時は、前座さんはパチンコ屋に走り、小里ん師匠に出演依頼。小里ん師匠が「よし、わかった!」と行って、興行を救うという伝説が何度も繰り広げられているとのこと。

レビュー

文:瀧美保 Twitter:@Takky_step 事務職 趣味:演劇・美術鑑賞、秩父に行くこと

立川吉笑-くじ悲喜
立川寸志-庭蟹
立川左談次-短命
柳家小里ん-試し酒


立川吉笑-くじ悲喜

  • 立川吉笑さん

    立川吉笑さん

開演少し前に、シブラクのキュレーター:サンキュータツオさんと渦産業の木村万里さんが登場し、アレコレ思い出話など。昔の左談次師匠のこと、いろんな知らない話が聞けたのが嬉しい。そんなお二人の会話があったのを受けてか、吉笑さんはマクラは全くなし。突然始まってちょっとびっくりです。お話好きなイメージがあったので面食らったけれど、すぐにぐいぐい引き込まれ、会場全体が集中して耳を傾けているのを感じました。その勢いの良さのまま軽快なテンポで話が進んでいきます。

1人の男がくじを引く。狙った通り、1等ワールドカップ・ロシア、ペアチケットをゲット!次に場面が変わり、3人の男が会話してると思ったら……なんとくじ引きの箱の中、残った3枚のくじが会話をしていた。くじは語る。1等が出てしまったからには、残った自分たち3枚の景品はみんなティッシュであろうと。もうどうせわかっているのだから、先に自分たちのくじの中身をめくって見てしまおうかと話は進み……。

吉笑さんの鋭い視点を感じます。人間のいいところも悪いところも、くじの姿を借りてあぶりだされるよう。くじの自覚を標準語と関西弁で分けるところが楽しい。無理して見栄を張って標準語をしゃべろうとしたりと、いちいち人間くさいくじたち。言葉のセンスもいいなあ。”ポストイットの優しさ”とか、身近な分スッと入ってくる。簡単にはがせるあの感じ。優しい。”ポストイットの優しさ”って私も言ってみたいけど、使う場面が思いつかない……。それから”最悪のティファニー”も好き。悔しさと、ティファニーなのに残念な感じが伝わって面白い。お互いをけん制しあってるところの駆け引きとか、強気な事を言っていても実はびびってたりとか、会話してるのはくじだけど、こんなのあるあるっていうのがたくさん散りばめられていて、吉笑さんは日頃から周りをよく見ているんだろうなと思います。くじの個性、それぞれのしょうもないところが愛嬌と言いましょうか。だから出オチとか、くじなのにーって思いながら笑ってしまうのです。

後半の「ステイします」というくだりも好きですね。言い方は冷たくないのに、それとこれとは別、と相手をしっかり突き離すような感じ。そしてそれがあの結果を招いたという面白さ。無茶苦茶だけど、あのオチはいいなぁ。最初から最後まで笑っているうちにたどり着いてしまったような軽快さ。これから吉笑さんがどう変わっていくのか、ますます楽しみです。


立川寸志-庭蟹

  • 立川寸志さん

    立川寸志さん

吉笑さんとはまた違い、落ち着いた雰囲気はあるのに、テンポがいい寸志さん。番頭さんの腰の低さが社会人経験者を感じさせます(笑)。上司の無茶にきちんと応えてみせるところ、大人ですね。本心はもちろんわからないけれども。番頭:佐平がシャレの名人という噂を聞きつけ、わざわざ呼びつけて「シャレてもらおうかな」という旦那の無茶ぶりも、真面目そうな旦那だからこそ嫌味なく見ていて楽しい。小僧さんは旦那に怒られてもへこたれない、主人であろうと言いたいことを言ってしまえる無邪気な可愛らしさがある。シャレの上手い番頭さんと楽しいことが大好きな小僧さんがいるお店は、きっと自由な空気があって、明るくて雰囲気のいいお店じゃないかしら。それにしても旦那は「シャレというものは油断も隙もないな」とどこまでもわかっていない、困ったお人。でもなんか素直にそう言える旦那に笑ってしまいます。実際にこういう上司を持つと大変なんだろうなぁ。悪い人じゃないだけに余計にどうしたらいいのかわからなくなりそう。寸志さんの番頭さんはその辺、困った様子はあるけど怒りを表に出したりせず、スマートな対応がさすがです。

また旦那が番頭にからかわれていると思って怒った後、小僧に言われ、改めて番頭を呼ぶところ。「後で(シャレを)一つ一つをかみしめてみた」という言い訳が楽しい。自分はわかっていなかったのではなく、その面白さが後から来たんだよという、こずるい人間らしさ。番頭といい旦那といい、このあたりの処し方が寸志さんらしさなのかなと思う。寸志さんも落語家になる前は、そういう対応したりしていたのでしょうか。上手いこと世の中渡ってそうなイメージです(笑)。

テンポよくさらりと聴かせてくれる寸志さん、だけど実は裏ではまた違う番頭の顔があるのかもしれません。さらりと楽しんでもよし、もしかしたらここのシーン実は裏ではこんなこと考えてるのかも?と推測しながら見るのも楽しいかもしれないなんて思います。


立川左談次-短命

  • 立川左談次師匠

    立川左談次師匠

「今日のところはまだ生きてます」、にこやかに生存報告から始める左談次師匠。左談次師匠の落語家生活50周年特別興行の5日間の内、この日は3日目。折り返しです。5日間連続して通うというのは、三十数年前の寄席以来とか。「5日間通おうと思った気持ちだけでもくんでください」と冗談めかして言うけれど、いやあ、本当にありがたい。会いたくてもなかなかスケジュールが合わなかったお客様も、この9月はきっと会えたはず。会場で感じるこのお祭りのような、でもちょっと優しい空気は左談次師匠を想うお客様の心かなと思います。

「キザだけど」と言いながら使った”勇気”という言葉は、最後にはご本人が嘘にごまかして笑いを誘っていたけれど。けれども、何より嬉しい言葉でした。師匠を応援しているファンはもちろん、師匠の噺を聴きに来たお客として嬉しいなと思う。偉ぶらず、さりげなく、しかも小出しなのがなんだかズルいけど、その軽さも師匠らしいといいますか。40日間も入院してからの、初めてシブラクに出た時のお話も楽しい。ここ数か月に何度か左談次師匠の高座を観て、羽毛のような軽さをずっと感じていました。軽やかに軽やかに、いたずらっこのような笑顔で遊んでいる左談次師匠。でも、この日感じたのは”力強さ”。軽やかさと共に、50年を越えて歩んできたその落語家としての何か。そんなパワーを感じました。それがあの言葉に表れていたのかな?

いつものダジャレで、江戸の風を壊しつつ(笑)、八五郎とご隠居とのやりとり、奥さんとのやりとりが進んでいく。ご隠居が八五郎に説明するところ、伝わったかなー?というニヤッとした顔とそれを絶妙に外す、さじ加減がいい。たたみかけるようないかにもじれている感じじゃなくて、な?というあの具合。ご隠居のあきれ具合も二人の仲の良さを感じます。女体を蹂躙するあの指つき、最高です!いやらしい(笑)。それから八五郎とおかみさんとのやりとりが好きだなぁ。何年か連れ添って、図々しさもガラの悪さも出てきたおかみさん。今更だからこそ、そんなこと言われて恥ずかしいというの、なんかわかる気がする。あれ?そういえば、八五郎は全くおかみさんの悪口言ってなかった気がするような……?左談次師匠の”愛”、かしら。「おいで。おいでおいで」というおかみさんを呼ぶ声とか。おかみさんの方も、ご飯の盛り方・戻し方、八五郎のいじり方に、遊び心と愛がある。

”愛”とか言っちゃうとキザだけど……愛ある高座を観られてとても幸せです。


柳家小里ん-試し酒

  • 柳家小里ん師匠

    柳家小里ん師匠

これまでの3人の軽妙さとは変わって、どっしりとした貫禄。これが流派の違いなのか、全く違うゆったりとした会話の流れです。旦那たちと下男:久蔵が織りなすお酒の遊び。旦那同士の会話と、ぞんざいな口をきく久蔵とのやりとりとの違いが楽しい。

大酒飲みだという久蔵が、5升の酒を一時に飲み干せるかどうかの勝負。1升入るという大きな盃で飲む久蔵の姿、その飲み方が1杯ごと徐々に変わっていくのが面白い。会場内が小里ん師匠の飲む姿に静かに注目している。1杯目は一気にぐーっと飲みこむ。喉を鳴らすことなく静かなのが逆にリアルな感じがする。2杯目はいいお酒をしっかり味わって。酒好きらしく、久蔵が旦那たちに酒の講釈をする。調子に乗っているのがなんとも楽しい。オラみてえに控えめに飲むとか言って、既に2升飲んでるし。3杯目で更に乗ってきたのか、都々逸(どどいつ)も出てくる。飲んでいるかと思ったら急に講釈が出たり、また飲んだり。酒の合間に飛び出す久蔵の言葉、そのリズムにほんろうされる旦那。観ているこちらも一緒になって、ほんろうされているのが楽しくなってくる。次はいつ何を言い出すのか、飲んでいる姿から目が離せない。4杯目をさらりとこなして、5杯目。できあがった久蔵の姿が見事。目はとろーん、しきりにふう、ふうと息を吐く。うんうんうんうん言いながら、なんとか少しずつ飲み込む久蔵の姿はもうめいいっぱい。首を大きく振り回したり、なんとか残りの酒を飲み干そうと頑張っている。お客様もみんな一生懸命、久蔵の姿を見守っている。

ただ素直に会話を楽しみ、酒を飲む姿を楽しむ。シンプルだからこそ伝わってくるもの。久蔵の姿と、見守る旦那たちを包む穏やかな時間の流れ。立川流の3人とはまた違う心地よさのある落語。気持ちの良いテンポの落語とどっしりとした落語と味わう時間。最初から最後まで楽しく満たされる時間に今日も感謝です。


【この日のほかのお客様の感想】
「渋谷らくご」9/10 公演 感想まとめ

写真:渋谷らくごスタッフ