渋谷らくごプレビュー&レビュー
2017年 9月8日(金)~12日(火)
開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。
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プレビュー
「華がある」とはなにか。岩波国語辞典第七版には「美しく、盛りであること」と書かれています。しかし芸においては、出てきた瞬間に雰囲気がパッとなることも含みます。存在だけで人の心を楽しくさせ、気持ちを盛り上げてくれる存在。
たとえどんなに努力をしても、手に入れられないかもしれないもの。それが「華」。
この会には、私の思う「華」のある人たちに集結してもらいました。幸せの空間にどうぞ。
▽瀧川鯉八 たきがわ こいはち
24歳で入門、芸歴11年目、2010年二つ目昇進。2015年第一回渋谷らくご大賞受賞。子供の頃右手と左手が同じ長さかどうかずっと確認していたらしい。後輩には辛い思いをさせないとのことで、後輩をとにかく守るような優しい先輩でもある。先月の渋谷らくごは、雨の中を傘をささずに帰られた。スタッフが傘を持って追いかけても追いつけないほど早歩きで帰られた。
▽玉川奈々福 たまがわ ななふく
1995年曲師(三味線)として入門、芸歴22年目。浪曲師としては2001年より活動。2012年日本浪曲協会理事に就任。
「シブラクの唸るおねえさん」。日本全国に熱烈なファンも多く、浪曲の裾野拡大に大いなる野心を注ぐ。先月は、韓国で3日間浪曲をおこなう。現在、「語り芸パースペクティブ」という、日本の語り芸を網羅する一大プロジェクト進行中。
▽桂春蝶 かつら しゅんちょう
19歳で入門、芸歴23年目、2009年8月、父の名「春蝶」を襲名する。
関東と関西を行き来される生活をする。先日の渋谷らくごに、江の電のTシャツで楽屋入りされた。そのTシャツは息子さんとペアルックとのこと。猫を飼っていて、お名前は「千代」。来月10月18日(水)「渋谷らくご特別興行 桂春蝶上映上演の会」が開催されます。前売りは9月8日12時発売開始です。
▽隅田川馬石 すみだがわ ばせき
24歳で入門、芸歴24年目、2007年3月真打昇進。高校球児で、二つ目時代は、落語協会の草野球チームのピッチャーでエース。いまでも毎日5キロ、荒川沿いを走っているため、新陳代謝がとてもよい。1年に1度は市民マラソンに参加するときめている。フルマラソンのベストタイムは、4時間を切るほどの速さ。
レビュー
9月10日(日)17:00~19:00 「渋谷らくご」
瀧川鯉八 「科学の子」/「一本釣り」
玉川奈々福/沢村美舟 「天保水滸伝 平手の駆けつけ」
桂春蝶 「時うどん」
隅田川馬石 「井戸の茶碗」
「虹を見て思ひ思ひに美しき」
私の好きな高浜虚子の句です。雨上がりの空に架かった虹を見ると美しいと思うのは、私たちに共通する感覚だと思います。けれども、その「美しさ」とはいったい何だろうか。虹そのものの美しさなのか、虹の架かった風景の美しさなのか、色合いなのか、光なのか。この句の優れたところは虹の「どこがどのように美しいのか」を言葉にするのではなく、「思ひ思ひに」とあるように人の数だけ異なる美しさを感じていることを発見した点だと思います。
「渋谷らくご」も同じように、その日のお客さんの数だけ「思ひ思ひ」の感想があると思います。その中の一人であった私の感想を読んでいただければ幸いです。
瀧川鯉八「科学の子」/「一本釣り」
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瀧川鯉八さん
まくらでAIやロボットの技術開発が進む現状について話してから「科学の子」。ロボット開発に人生を懸けた博士の生み出した、心優しい科学の子「ロボ八」。そんなロボ八と博士との間で、女心についての話題が交わされます。博士は女性に関する知識を得るため開発した「ロボヨーコ」情報を基に「女性は相談を聞いてほしいらしい」、「でも悩みの答えは求めてないらしい」、「相談を話している時にはもう答えは出ているらしい」「それでもただ話を聞いてうんうんと頷いてほしいらしい」と、ロボ八に最先端の科学をもってしても理解不能な女心に関する知識を与えます。
男性にとって女性の気持ちとは永遠の謎なのかもしれません。博士を通してしか語られないロボヨーコは、きっと遠くで「フッ、2人とも子どもね」と笑っていることでしょう。
もう一席の「一本釣り」は、のどかな漁村で船乗りたちの帰りを待つ女たちの集まる場が舞台。どうやら最近男たちは、この漁村に流れ着いた「ヨーコ」の開いた店に頻繁に通っているらしい。そんなやきもきした気持ちを抱える女たちのいる漁村に、一人の旅の男が現れる。抜け駆けは許さない同調圧力、女たちの絶妙な駆け引き。一人ひとりが悶々とする様子がなんともいえない。どちらの噺でも伝聞でしか登場しない「ヨーコ」の存在が気になります。
玉川奈々福/沢村美舟 「天保水滸伝 平手の駆けつけ」
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玉川奈々福さん・沢村美舟さん
長い長い物語、天保水滸伝のなかの一部である「平手の駆けつけ」。どうしても連続物の一部なので、この前はどうなっていたのか、この先はどうなるのか、と浪曲を初めて聴いたころは気になっていました。ですがある時、物語にとって大切なのはあらすじではなく描写ではないか、と気付いてから連続物の良さが少しずつわかってきました。この演者はこの物語でこういう描写をするのかという掘り下げ方が面白いからこそ、同じ物語を複数の人がやる意味があるのだと思います。
私が今回の奈々福さんの「平手の駆けつけ」のなかで一番ぐっと来た描写は、体調を崩して養生していた平手造酒がふっと二十三夜の月を眺める場面です。変わるものと変わらないもの、不思議と漂ってきた濃密な死の匂いとかっこよさ。奈々福さんの声と美舟さんの三味線に乗って、そんな感覚が私の身体に入ってきました。
桂春蝶「時うどん」
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桂春蝶師匠
まくらでは日常に潜むちょっとした狂気を抱える人物の話をしてから、私にとっては初めての「時うどん」。噺に入ったときは「時そば」と似ているのかと思いましたが、全然違いました。一番大きな違いはうどん屋さんがお客さんに恐怖を感じている点だと思います。時そばは代金を一文ごまかすのを見ていた男が真似をして失敗する話ですが、時うどんは二人でやって一文ごまかした経験を一人で再現しようとして失敗する話です。
しかもこの時うどんに出てくる男はあくまで完璧な再現を求めて、一人なのに二人のふりをします。その結果誰にも見えない相手に向かって話しかけたり、引っ張られるふりをしたりと、うどん屋さんは関わりたくないお客さんが来たと思って恐怖を感じます。
ただここまでではないですが、この男のように完璧さを求めるが故の融通が利かない感じって私にもあるように思いました。
隅田川馬石「井戸の茶碗」
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隅田川馬石師匠
「井戸の茶碗」は最初から最後まで、いい人尽くしのいい話。浪人に必要なお金はいくらですかと訊いてから仏像を買うくず屋の清兵衛さん。侍だからと値段をふっかけずに「むにゃむにゃ文」と言ってごまかしながら仏像を売る清兵衛さん。仏像の中から五十両が出てきても、自分のものではないと譲り合う侍と浪人。
噺の途中で仏像を買ったくず屋さんを探すために侍が面体改めをするのですが、通りがかったくず屋さんの顔を見て「おもしろい顔だな」や「黒くてどっちが正面だかわからん」と言うのですが、身分の違う相手をバカにしている感じは全くしません。本当に思っていることを正直に言ってしまう、真面目な侍なのだろうなぁという印象を受けました。くず屋の清兵衛さんがいい人だからこそ、周囲にもいい人ばかりが集まってくるのかもしれないと思えてきます。
馬石師匠のほっこりとしたやわらかな雰囲気と、噺に出てくる人々のおかげで、あったかい気持ちになった帰り道でした。
【この日のほかのお客様の感想】
「渋谷らくご」9/10 公演 感想まとめ