渋谷らくご

渋谷らくごプレビュー&レビュー

2017年 9月8日(金)~12日(火)

開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。

イラスト

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9月8日(金)18:00~19:00 立川志ら乃 古今亭文菊

「ふたりらくご」若い40代、練達の30代

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プレビュー

 立川流のなかでも、聴くものにストレスを与えない軽妙さにおいて、左談次的にもいえる志ら乃師匠。サービス精神が全面に出た若々しい落語は、その実、幹がしっかりとした木のようでどこか骨太な印象も与えます。
 文菊師匠は30代にしてはやくも熟練の域に到達しているといっていい堂々たる威風。大胆かつ緻密、こういった演者とともに年を重ねる「客としての楽しみ」を教えてくれる方でもあります。
 気持ちよく、心地よく。金曜の18時からの1時間、贅沢に過ごせたと実感できる公演になると思います。


▽立川志ら乃 たてかわ しらの
24歳で入門、芸歴20年目、2012年12月真打昇進。スーパーマーケットが好きすぎるため日々考察をおこない、その様子が朝日新聞で取り上げられたりした。頑張った日には、寝る前にハーゲンダッツを食べる。最近は、「こだわり極杏仁プリン」にハマっているとのこと。この夏もコミックマーケットに出展。この冬にも出展する。

▽ 古今亭文菊 ここんてい ぶんぎく
23歳で入門、芸歴15年目、2012年9月真打ち昇進。床屋に週1で通うとのこと。私服では、細身のジーンズに帽子を華麗に着こなされている。カラオケが好きで、このときばかりは無礼講になる。カラオケに熱が入ってくると、足を組んで身を乗り出して歌う。当日の前座さんからスタッフまで全員の方々に頭をさげてくださるほどに全員に優しい。

レビュー

文:さとーちずる Twitter:@chinnensadak 年代:30代、趣味:ビュッフェに行く。水泳。吉本新喜劇のすち子シリーズを見る。

9月8日(金)18時-19時「ふたりらくご」
立川志ら乃(たてかわ しらの)「強情灸」
古今亭文菊(ここんてい ぶんぎく)「藪入り」


この日は立川志ら乃師匠と古今亭文菊師匠のふたりらくご。年齢、芸歴は違うものの、同じ2012年に真打に昇進されたお二人。
志ら乃師匠のコミカルで豪快な落語と文菊師匠のしっとりとした落語。そのコントラストが実に絶妙な回でした。

立川志ら乃師匠

  • 立川志ら乃師匠

    立川志ら乃師匠

まくらで最近体験された歯医者の話を力説。客席が充分過ぎるほど温められ、気付けば持ち時間の半分程が過ぎたところで本編「強情灸」に。
ある男が久々に会った友にお灸をすえに行った時のエピソードを話す。
大勢の客が順番待ちをする中、かなり待たされて自分の順番に。周囲の客からこの客はお灸の熱さに我慢できないだろうとひそひそ話をされ頭に血が上り、店主に大見得を切って左右合計32ものお灸に火をつけさせ、最後までじっと我慢してやり過ごしたという自慢話。
更に、順番待ちの途中、番号札を譲ってくれた女性がそんな自分の姿にすっかり熱を上げたという妄想話まで加わっては、聞かされた方はたまらない。
なにを自分もそれくらいはと、両手で真ん丸に握ったソフトボール大ほどのもぐさを左腕に乗せて火をつける。友から腕に穴が開くからと制止されても、やめようとしない。
かつて油の煮えたぎった釜の中へ飛び込み歌を詠んだという石川五右衛門や、火あぶりに遭ったという八百屋お七の名を叫びながら、ひたすら熱さを堪える。
とうとう我慢ならなくなって、もぐさを払い落とすものの「冷たかった」「(自分ではなく)石川五右衛門も熱かったろう」と最後まで強情を張り通すという話。
志ら乃師匠はリズミカルな調子が心地良い。順番を譲ってくれた女性や32ものお灸を一気に据えることにワクワクする店主と、個性の強い登場人物。まるで実写化されたギャグ漫画を見ているよう。更に終盤、もぐさを左腕に乗せた男が強情に我慢する顔がどんどん壊れていくのがおかしくて、おかしくて。小気味よい口調と物凄い顔芸(失礼…笑)とで大爆笑の一席でした。


古今亭文菊師匠

  • 古今亭文菊師匠

    古今亭文菊師匠

演目は「藪入り」。奉公人が年に2度、1月と7月の16日にだけ奉公先から休暇をもらって親元に帰ることを藪入りというのだそう。
明日は、3年前に奉公に出した息子、亀の初めての藪入り。父である熊は、そわそわして寝付けず、おっかあに今何時だと何度も尋ねる。3年ぶりにやっと会える息子への想いが募り、あれも食べさせたい、これも食べさせたい。そこにも連れて行きたい、あそこにも連れて行きたい。と次第に想いが暴走する。それを冷静に諭すおっかあ。
やがて夜が明け、まだ来ないかと待ち遠しくばたばたしていると、ついに息子亀の声が!
いよいよ対面の時。父は照れくささから息子のことをまともに見られない。亀が奉公先で教え込まれたのかかしこまった面持ちで形式的な挨拶を終えると、「おっとう、ただいま」とあどけない子供の表情へと一変する。涙でなかなか亀の顔を見られない熊が、おっかあに促されてやっと我が子の姿を眺めた時、こちらも「父親」の顔になる。そして、以前風邪を引いた時に亀が送ってよこした手紙を読んだら元気になったという熊のせりふ。
このシーンで一気に涙腺が緩んでしまいました。涙の場面にも笑いが織り交ぜられ、頬を伝う涙をそのままに文菊師匠に笑わされます。たまたま視線に入った他のお客さんも何人か涙を拭っているようでした。
終盤、亀が湯に行っている間に、お小遣いを足しておいてあげようと、おっかあが亀の財布を開けると、十五円もの大金が小さく折りたたんで入っている。熊とおっかあは早合点し、亀が奉公先で盗んだのだと勘違いする。そして亀が湯から帰ってくると、熊は亀を殴ってしまう。よくよく聞いてみると、ネズミ捕りをして懸賞に当たったのだということが分かり一件落着。
先程まで何となく気恥ずかしくて、よそよそしく見えた親子が、この騒動でやっと元の親子に戻れたような気がしました。
離れていても変わらない親の愛、子の愛。古き良き親子の絆。この分かりやすい親子の関係が羨ましくも感じました。文菊師匠のおかげでこの日、「藪入り」が私のお気に入りの一席に加わりました。

今回のふたりらくごは「辛抱」繋がり。志ら乃師匠の渾身の一席から、文菊師匠の涙あり笑いありの感動の一席まで、ハートウォーミングな1時間を過ごしたのでした。

【この日のほかのお客様の感想】
「渋谷らくご」9/8 公演 感想まとめ

写真:渋谷らくごスタッフ