渋谷らくご

渋谷らくごプレビュー&レビュー

2016年 8月12日(金)~16日(火)

開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。

イラスト

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8月13日(土)14:00~16:00 桂伸三、神田松之丞、昔昔亭桃太郎、春風亭柳朝

「渋谷らくご」リズムを感じる落語会

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プレビュー

人が話に聴き入ることのできる、心地よいリズム。
それぞれの演者が独自のリズムをもっている個性的な演者さんです。
「語り」の芸のリズムを体験していただける落語会となります。


▽桂伸三 かつら しんざ
23歳で入門、芸歴11年目、2010年二つ目昇進。前座時代は太鼓が上手くて、孔雀のように優雅に叩いていたと松之丞さん談。

▽神田松之丞 かんだ まつのじょう
24歳で入門、芸歴9年目、2012年5月二つ目昇進。プロレス好き。ランニングをしながら、稽古をしている様子がツイッターで確認できる。前座時代は、伸三さんに可愛がられる。7月、銀座博品館劇場での独演会は、満員御礼で大成功をおさめた。

▽昔昔亭桃太郎 せきせきてい ももたろう
20歳で入門、芸歴52年目、1980年10月真打ち昇進。落語界の破壊者ともいえるべき圧倒的な存在感。読書好きでもあり、知識量も豊富。最近日焼けしている様子も素敵。年に一回、「桃太郎ファミリーコンサート」を、奥様と娘さんとで開催している。

▽春風亭柳朝 しゅんぷうてい りゅうちょう
23歳で入門、芸歴23年目、2007年真打ち昇進。ここ10年以上にわたり、浜松町駅のホームに佇んでいる小便小僧の写真を撮り続けブログにアップしている。銭湯巡りが趣味。

レビュー

文:井手雄一 男 34歳 会社員 趣味:水墨画、海外旅行

8月13日(土)14時~16時「渋谷らくご」

桂伸三(かつら しんざ)「連歌の家」
神田松之丞(かんだ まつのじょう)「-天保水滸伝 ボロ忠売り出し」
昔昔亭桃太郎(せきせきてい ももたろう)「春雨宿」
春風亭柳朝(しゅんぷうてい りゅうちょう)「唖の釣り」

この素晴らしい世界に祝福を

桂伸三さん

  • 桂伸三さん

    桂伸三さん

「名物ガイドが案内する、長距離バスで行く熊本の旅(1泊2日)」でした。
 関東出身なのに熊本が地元だと言い張るガイドさんは、のっけから名調子が全開で、「まあ産地偽装となると、私の出身地も両親の新婚旅行先のハワイになりますがね」などと、昼間っから下ネタも辞さない覚悟でした。
 そして最近は「連歌(れんが)」を習っているとのことで、実際にちょっとやってみましょうと、一番前のシートに座っている子どもからもらった「今熊本に住んでいる父親と、半年別居していて悲しい」という、いきなり超ヘビーな「お題」にうまく返答すると、他のツアー参加者にも職業を聞いて回り、「え、自転車屋さんなんですかー。じゃあチェーン展開してますか?」などという、うまくも下手でもない中級の返しをどんどんとお見舞いし、最後はおそらく仕込みであろう、「バスの運転手さんのご実家は?え、刀鍛冶!?人間、切っても切れないのが縁の切れ目です」などと言う頃には、自分が座っている映画館のソファーが、長距離バスのシートに思えてきて、クーラーのきいた車内で、バスガイドさんの話に聞き入っていました。
 高速に入ってしばらくすると一旦休憩になり、前方のテレビがついたので何気なく見ていると、いきなり女をはべらせてた「松田優作」が出てきたので、びっくりしましたが、「蘇る金狼」だったようで、熊本のインターを下りて、製糸工場が見えたあたりになると、再開されたガイドの中で、「先ほどテレビで『狼』が出てきましたけど、連歌の名手である、西山宗因(にしやまそういん)の地元、ここ熊本のホテルは『煉瓦(れんが)』で出来ているので、もう追い出されたりしませんよ」と、最初にお題をくれた子どもに笑顔で話しかける姿がとても素敵でした。
 映画「男はつらいよ!」や、漫画の「それでも町は廻っている」が好きな方にオススメです。

神田松之丞さん

  • 神田松之丞さん

    神田松之丞さん

 映画「オーシャンズ11」のパロディのような、純度100パーセントのアメリカンコメディーでした。
 主人公のマット・デイモンが、駄目な方のマット・デイモンで、仲間から「ボロ忠」と呼ばれている典型的な「ナード」なのですが、「カジノ」に連れていってもらいたくて、ジョージ・クルーニーのところにやってくると、「この羽織いいですね。アルマーニ?」などと、勝手に室内を物色しはじめて、奥さんにまでうざがられていると、この「親分」たちがちょっと留守にしたのをいいことに、その「錦の羽織」を実際に着てみるといった出過ぎたことをやりはじめ、しまいには勝手に親分のお金に手を付けて、一人で博打に行ってしまうという、「バッドエンド・コース」を歩き始めたので、こいつは面白くなってきたな!とテンションが上がりました。
 そして「賭場」につくと、テーブルの順番待ちの席に割り込むわ、他人の賭け方に口を出すわ、挙げ句はこの賭博場の「胴元」であるロバート・デニーロのところへ行き、金を貸してくれと直談判して目を付けられるわと、「死亡フラグ」を乱立しはじめ、これは壮絶な死に方をするに違いない!と、ドキドキしながら見守っていると、ついに人生を賭けた「丁半賭博」が始まるのですが、みんなが自分と反対の目に賭けるもんだから、掛け金が足りず、「その辺のじいさんに、その場でさらに借金をする」という、まるで「パチンコ編のカイジ」のような駄目押しまでして、緊張感ゼロのまま「運命のダイス」が降られます。ですが、出目がまさかの大当たりで、このネズミ野郎があろう事か「勝ってしまう!」という超展開は本当にびびりました。
 しかし、そこで話が終わるわけがなく、やっぱりデニーロが出てきて、なるほど、ここは仲間が助けにくるんだなと思っていると、なんと助けに来たのは、金を貸してくれた先ほどのじいさんで、実はこれがよく見るとジャック・ニコルソンが演じており、この人がジョージ・クルーニーと昔からの知り合いだったことがわかって、事なきを得るという、まさかのラット野郎「マット・デイモンの一人勝ち」という予想外の結末は、ある意味で「現代のアメリカン・ニューシネマ」なのかもしれないと思いました。
 他にも映画なら「スティング」や「バッファロー’66」、あるいは「ウルフ・オブ・ウォールストリート」が好きな方にオススメです。

昔昔亭桃太郎さん

  • 昔昔亭桃太郎師匠

    昔昔亭桃太郎師匠

映画「ショーン・オブ・ザ・デッド」のような、馬鹿は死んでも治らないがテーマの素晴らしい人間賛歌でした。
 まず今作は、出だしの「モノローグ」がやたらに長く、「関西方面より、那須塩原に行くといつも調子が良い」とか、「自分が学生のころ軽井沢でバイトしてたときの、ショートパンツの女の子がエロかった。でもこの間再会したら、年取っててがっかりした」などという、史上最高にくだらない話を延々「15分」に渡って話し続けたかと思うと、そこから唐突に本編が始まるという驚天動地の「アバンタイトル」で、あまりに急速なギアチェンジに、体がつんのめってそのままフロントガラスを突き破りそうになりました。
 そしてようやく、サイモン・ペッグとニック・フロストが登場して、「温泉」に到着するのですが、今作は過去最高のうだつのあがらなさで、せっかくここまでやって来たのに急にめんどくさくなって、近場の民宿に泊まることにし、「なんか汚くてやだなー」などと失礼極まりないことを言いながら暖簾をくぐると、出迎えてくれた現地の方が「ネイティブ」すぎて、何を言っているのか全然わからず、適当に相づちを打ちながら部屋に行き、温泉に行こうと裸になるも、「この民宿に風呂は無い」と言われ、そのまま「目的であるはずの温泉を省略」して、食事をするシーンになるのですが、これがまた「特に話もせず、うまくもまずくもなさそうに、ただ飯を食っているだけのシーン」を長回しで写すだけという、駄目な小津安二郎のような演出が最高すぎて、私は座席の上で笑い転げて、この時点でもう泣いていました。
 その後も民宿の人と一応宴会のようなことをして、うまくもなんともないオブジェのような「浪花節」を一曲まるごと歌うシーンもフィルムの無駄じゃないかというほどに長く、今度は地元の民謡を現地の人に歌ってもらうも、例によって訛りがキツすぎるため、歌詞の中に出てくる「先生」が落としたのが「こんにゃく」なのか「金玉」なのかわからない、という馬鹿馬鹿しすぎるやり取りがこれでもかと続き、もう正直腹が痛いので早く終わってくれ!と身もだえしながら見ていました。なんというデトックス効果でしょうか。有り難すぎます!
 仏教でいうところの「悪人正機説」というのは、あるいはこういうことではないかと私は本気で考えています。
 テレビだと蛭子さんの「ローカル路線バスの旅」、音楽なら「電気グルーヴ」、アニメなら「ギャグマンガ日和」や「シスタープリンセス」が好きな方にオススメです。

春風亭柳朝さん

  • 春風亭柳朝師匠

    春風亭柳朝師匠

 アニメ「この素晴らしい世界に祝福を!」のような、馬鹿な仲間たちとあーだこーだ言いつつも毎日を楽しく生きているという、素敵な「残念系ファンタジー作品」でした。
 「釣りが好きだ」という主人公のもとに、メグミンという「魔法使い」がやってきて、自分もパーティーに加えて欲しいというのですが、どこからどう見ても「戦力外」なので、最初は仲間にするのを渋ります。ですが、そういう自分も実は「ニート」で、釣りが好きだという以前に、本当は釣りしかやることがありません。
 しかし釣りについてあれこれと講釈を垂れていると、相手があまりに素直に聞いてくれるもんだから、だんだんと気持ちよくなってきて、「俺は他の連中とは違うんだよ!絶対釣れるとこでしか釣らねーんだよ!」と、普段の欲求不満にも引火して爆発し、うっかり自分から「違法の釣り」をしていることまで、聞いてもいないのにペラペラ白状してしまいます。
 「秘密を知られたからには、仕方がない。一緒に密漁やるか!」と、こうして成功率0パーセントの「ミッション」が、この新しい「バディ」とともに開始されるのですが、作戦内容というのが、「見つかったら、親のためにやったと嘘をついて、お巡りさんの情けにすがろう」という、ソリッド・スネークも真っ青の「完全なるノープラン」で、案の定、開始わずか「0.5秒」で、まずメグミンが逮捕されます。
 ですが、ここがこの世界の素晴らしいところなのですが、お巡りさんが「ああ、なんだ。頭のおかしいコか」と、すぐに無罪放免してくれるのです!まさかの「ミッション・クリア」。この魚も持って帰らせてあげるあたり、胸が熱くなるシーンです。
 その後、柳の木に擬態していた主人公も速効で逮捕され、しかもショックで口が利けなくなるという、ジョニー・アキバなみのヘタレっぷりを発揮しますが、まるでディズニーアニメのような全力のボディランゲージを、サイコ・マンティスなみの読心術を持つ警察の人がこれまた瞬時に解読し、「じゃあ、いいや」と許してくれる場面で、イントロが流れてこの作品は終わります。
 このどうしようもない、馬鹿しかいないけど、「まあ、いっか!」といろいろと諦めてくれる善人しかいない世界観は、落語やアニメなどのフィクションでしか味わえない、最高に贅沢な娯楽だと私は思います。
 他にもアニメなら「ルパンⅢ世」、漫画なら「ドラえもん」、映画なら「ポリスアカデミー」が好きな方にオススメです。

 以上、お盆に実家に帰ってテレビを付けると、渥美清が出ており、「寅さん」だと思ってみていたら、「寅さんの舞台を訪ねて」という旅番組で、「熊本城の復旧はどうなんだろう」とか話しながら、なんとなく最後まで見ていると、「水戸黄門」が始まり、父親が見るというので、そのまま素麺を食べながら、賭博場での大立ち回りを見ていると、次の夏休み特別ロードショーが「キャビン」だったので、みんながパチンコとか買い物に行ったなか、一人で真剣に見ていると、夕方にアニメの再放送が始まったので、帰ってきた兄と一緒に見終えると、もう晩ご飯になっていたというような、全く何もしないで一日を過ごしてしまった、限りなくゆるい夏の休日でした。
 後はお中元に貰った「羊かん」でも食べて、「皇室特番」と「オリンピック」のハイライトを見て、寝るくらいでしょうか。この夏が通り過ぎる白昼夢のような一日、これぞ日本のお盆だと思います。大変のんびりできました。
 どうもありがとうございました。

【この日のほかのお客様の感想】
「渋谷らくご」8/13 公演 感想まとめ

写真:渋谷らくごスタッフ