渋谷らくごプレビュー&レビュー
2016年 8月12日(金)~16日(火)
開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。
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プレビュー
林家彦いち師匠プレゼンツの創作らくごネタおろしの会。
毎回緊張感と高揚感が、演者と客席に広がっていく不思議な盛り上がりをみせる会です。
今回も、立川流、落語芸術協会、落語協会と、会派を超えて気鋭の演者が集結しました。
宇宙初公開の落語を、演者とお客様で作っていきます。
▽立川談吉 たてかわ だんきち
26歳で入門、芸歴9年目、2011年6月二つ目昇進。趣味は、ガンダムのプラモデル。落語を聴きながらガンプラを制作している。
▽昔昔亭A太郎 せきせきてい えーたろう
1978年6月8日、京都府京都市出身、2006年入門、2006年2月二つ目昇進。
2015年12月渋谷らくご特別賞・「奇妙な二つ目賞」を受賞。A太郎さんのクリアファイルや卓上カレンダーなどグッズも豊富。
▽笑福亭羽光 しょうふくてい うこう
34歳で入門、芸歴10年目、2011年5月二つ目昇進。落語芸術協会の二つ目からなる人気ユニット「成金」メンバー。羽光さんの携帯ストラップといった可愛らしいグッズがある。前回は「お尻からZARDの曲が流れてしまう男」のネタを演じた。
▽瀧川鯉八 たきがわ こいはち
24歳で入門、芸歴10年目、2010年二つ目昇進。落語芸術協会の二つ目からなる人気ユニット「成金」メンバー、水曜日のカンパネラのコムアイさんが鯉八さんがファンだと言っている。創作落語家だが、「しゃべっちゃなよ」初参戦。
▽林家彦いち はやしや ひこいち
1969年7月3日、鹿児島県日置郡出身、1989年12月入門、2002年3月真打昇進。
創作らくごの鬼。キャンプや登山を趣味とするアウトドア派な一面を持つ。集中する朝は、土鍋でご飯を炊く。創作から生まれた絵本「ながしまのまんげつ」(絵 加藤休ミ 小学館)が発売中!
レビュー
文:木下真之/ライター Twitter:@ksitam
▼8月13日 17:00-19:00
林家彦いちプレゼンツ 創作らくごネタおろし会「しゃべっちゃいなよ」
立川談吉-シロサイ
春風亭昇々-寝坊もの
笑福亭羽光-
私小説落語 青春編パート2
瀧川鯉八-長崎
林家彦いち-長屋革命前夜
出演予定のA太郎さんが体調不良(本物)で休演。前日のピンチヒッター依頼にも関わらず、ネタおろしで出演する昇々さん。お盆休みだから余裕で入れると思って会場に行ったら満員御礼状態。お盆休みまっただ中、予想外続きの「しゃべっちゃいなよ」でした。
立川談吉-シロサイ
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立川談吉さん
シブラクのトップバッターは大変だなあ。フェス感満載で、みんな笑う準備万端に備えて前向きに見てくれる。心優しいチョーいいお客さんなのに、期待度が高い分アウェーな気分になるところ。古典がメインの談吉さんが、しゃべっちゃいなよ2回目のリングに上がるのですから、緊張感は伝わってきます。
そんな談吉さんは、昨年8月の前回に続き昔話、民話を土台にした創作落語でした。家の庭に鳥の巣箱を作ったおじいさん。朝起きてみたら、白いサイが巣箱の穴にツノを突っ込んでいたから大騒ぎ。みんなでツノを穴から抜こうとしますが抜けません。奥の手で使ったのが「生卵」。ぬるぬるを利用して助けてあげるお話。
「大きなカブ」のような「うんとこしょ、どっこいしょ」が展開されると思ったら、とんでもない結末が待っていました。物語に出てくるアイテムを使って助け出して「○○由来の一席でした」で煙に巻かれてしまいました。
ストーリーもシンプルでとても聞きやすい。時折出てくる「野生のクサイ匂い」「サイのエサはキムチでいいですか」「おじいさんの気がおかしくなって桜の木をバッサバッサと切ってしまう」といった、突然放り込まれるギャグが虚を突いていて面白かったです。緊張感から解放された談吉さん。さぞホッとしたことでしょう。
春風亭昇々-寝坊もの
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春風亭昇々さん
落語には「与太郎もの」「根問もの」「長屋もの」みたいな「~もの」と付くものがありますが、初めて聞いた「寝坊もの」。しかも演題になっちゃってる。確かに昇々さんの意欲作は、誰にでもある寝坊を描いた「あるあるもの」。寝坊をしてしまった男の子が寝坊は夢だったことにしたいと思いながら、現実を前にして言い訳を必死に考えるお話しです。
とにかく勢いがすごい。枕やプーさんのぬいぐるみには話しかけ、「リオの馬鹿野郎」と叫びます。寝坊の言い訳でぼけて、ぼけて、ぼけて、さらに1人ツッコミでぼけて。「メガネ、帽子、マスク、ヒゲ」「変質者かーい」。昇々さんの特徴でもあり、コミカルな表情が生きるパニック描写が秀逸でした。たった半日程度で作ったという心意気と、それにも関わらず勢いで突っ走り、見事に着地まで決めてくれた昇々さん。シブラクでの貢献度は半端ないですね。
笑福亭羽光-私小説落語 青春編パート2
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笑福亭羽光さん
最近私がお気に入りの「トロピカル落語」の羽光さん。「下ネタです」「実話ほぼ100%の私小説落語です」といって入ったドキュメント落語は最高でした。
テーマはみうらじゅん的な、思春期の男の子のおかずと自家発電のお話し。高校英語教師の父と中学数学教師の母を持つ羽光さんこと中村好夫君の家庭が描かれます。わりと裕福そうな家庭環境で、生の英語を身に付けさせたいという両親の願いから外国人をホームステイさせているのがミソ。英語のネイティブな発音にうるさいお父さんの教育方針が、爆笑のラストにつながっていきます。羽光さんの浮世離れした一面は、家庭環境からも来てるのかもと思ってしまいます。
私小説落語ということで、ほぼ100%事実をしゃべったわけですが、「下ネタは引く」ということを計算したうえで、緻密な構成がなされています。マクラでは「好きな女芸人ベスト3」という軽いネタから巨乳落語家を紹介して地ならしをし、そこからエロ路線でなくあくまでも青春路線の話で進めていく。直接的な表現は使わず、あくまでもソフトに。そしてサゲのインパクトあるセリフだけを繰り返し。ほぼ完璧なストーリー展開は創作の名にふさわしいものだと思います。言うほど下ネタじゅないし、シブラクの客層にもぴったりのネタ。大好きな一作になりそうです。
瀧川鯉八-長崎
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瀧川鯉八さん
2015年「渋谷らくご大賞 おもしろい二つ目賞」を受賞した鯉八さんが、いよいよ「創作落語大賞」を狙って殴り込み。
注目の新作は「お盆」「お墓参り」「セミの声」の3題で作ったようなお盆にふさわしいしっとりしたお話しでした。九州出身の鯉八さん(マクラではあえて触れてない)の案内で長崎の街をブラ散歩している気になるロードムービー的な落語です。物語は、恋人だった男の墓参りに来た女性が、2人で旅した長崎の街を思い出しながら語る回想シーンで構成されています。そのことが鯉八さんの特徴でもある「一人称落語」を強調しているんですね。一人称とは小説のように、主人公の視点を中心に進むこと。なので、落語でも小説のような「地の文」での表現が可能になって、そこに叙情的なセリフが乗っかることで、鯉八さんの落語には文学的なにおいが漂うのです。女性のセリフや言葉の選び方が、本当にうまくて、何だか春日八郎先生の「長崎の女」を聴いている気分にもなります。落語としては、空気を読まない男の言動とわがまま女のやり取りが笑いになり、それが2人の関係性を表しているのが面白いです。何度も言われていますが本当に鯉八恐るべしですね。
最後に手元のメモでデートコースを残しておきましょう。お腹が減った2人が最初に行ったのが長崎新地中華街の江山楼。チャンポンを食べ損ね。思案橋から長崎・丸山。創業90年の純喫茶「ツル茶ん」。トルコライスを食べ損ね。さらに創業70年の「珈琲冨士男」。長崎名物ミルクセーキ。暗くなってから喫茶「南蛮茶屋」で一休み。古時計の高速巻き戻し。1000万ドルの夜景は稲佐山。鍋冠山が絶景スポット。長崎に行ったら聖地巡礼は必至です。
林家彦いち-長屋革命前夜
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林家彦いち師匠
2015年「渋谷らくご大賞 おもしろい二つ目賞」を受賞した鯉八さんが、いよいよ「創作落語大賞」を狙って殴り込み。
「面白い」と思うポイントが常人と全く違う彦いち師匠の落語にはいつもびっくりします。だって今回は、「選挙フェス」でおなじみのM宅Y平さんが落語登場人物の与太郎役ですよ。与太郎さんがラップを歌いながら「長屋にログイン」を連呼。「お前にチェックイン」以来の衝撃的なフレーズです。
長屋で開かれた大家さん総選挙。立候補した粗忽長屋の八五郎、女性初の大家を狙い、尻ぺったんの廃止と待機児童ゼロを訴える長屋のおみつ、高尾を嫁に取り、九蔵の会を作りたい飯炊き権助、それに与太郎を加えた演説合戦。安定感があって、それでいてばかばかしい。今だから、ネタおろしだからこそ楽しめる最高の一席でした。
【この日のほかのお客様の感想】
「渋谷らくご」8/13 公演 感想まとめ
写真:渋谷らくごスタッフ