渋谷らくご

渋谷らくごプレビュー&レビュー

2016年 8月12日(金)~16日(火)

開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。

イラスト

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8月16日(火)20:00~22:00 立川こしら、神田松之丞、桂三木男、入船亭扇辰

「渋谷らくご」 予測不能の落語会

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プレビュー

予測不能。
至高のトップバッターこしら師匠が笑わせ、松之丞さんが笑わせるのか、聴かせるのか。
トリの扇辰師匠は、濃密な時空間を展開する古典です。その前で、二つ目さんの三木男さんが奮闘必至。
なにをやるかはわからない。しかし至高の演者が集うことだけはわかっています。
8月公演を締めくくるにふさわしいラインナップ、お盆の思い出にどうぞ。


▽立川こしら たてかわ こしら
21歳で入門、芸歴20年目、2012年12月真打昇進。
自称イケメン落語家。HPで写真素材をダウンロードできる。いま47都道府県で落語会を開くプロジェクトをクラウドファウンディング中。このキャンペーンで沖縄で落語会が開かれる模様! 弟子をとって一年が経った。

▽神田松之丞 かんだ まつのじょう
24歳で入門、芸歴9年目、2012年5月二つ目昇進。現在の姿から昔美人であっただろう人に当時の写真を見せてもらう「過去美人評論家」を自称。マッサージ店や床屋では「観光課の公務員」とウソをついている。講談師を説明するのは難しい。

▽桂三木男 かつら みきお
19歳で入門、芸歴14年目、2006年11月二つ目昇進。最近、アップルパイづくりに熱心。シブラクの楽屋でもいただきましたが、おいしかったです。隔月の金曜夜に、新宿末廣亭で「六人の深夜」という会を行っている。いい会!

▽入船亭扇辰 いりふねてい せんたつ
25歳で入船亭扇橋師匠に入門、現在入門28年目、2002年3月真打昇進。
橘家文左衛門師匠と、柳家小せん師匠で「3K辰文舎(さんけいしんぶしゃ)」というバンド活動をしている。大の読書家として知られる。最近読んで面白かった本は、北大路公子「ぐうたら旅日記 恐山・知床をゆく」PHP文芸文庫だそう。
先日、新幹線で、欧州公演に行く前日の一之輔師匠と、偶然席が前後になった。

レビュー

文:さかうえ かおり Twitter:@Caoleen1022 趣味:ピアノとお箏の演奏、史跡巡り

8月16日(火)20時~22時「渋谷らくご」
立川こしら(たてかわ こしら)-「粗忽長屋」
神田松之丞(かんだ まつのじょう)-「吉原百人斬り〜お紺殺し」
桂三木男(かつら みきお)-「崇徳院」
入船亭扇辰(いりふねてい せんたつ)-「団子坂奇談」

オリンピック5つの魅力

きっとこのレビューが公開されてる頃には閉幕しているリオ五輪。日本代表の快進撃が見逃せず、ほんと今寝不足最高潮です。寄席や落語会もオリンピックと同じ魅力なんです。次のオリンピックは2020年。それまで落語を見ながら随所随所のオリンピック感味わいましょうよ。

立川こしら師匠「粗忽長屋」

・オリンピックの魅力 その1「馴染みのない国を知れる」

  • 立川こしら師匠

    立川こしら師匠

アゼルバイジャン、首都はバクー。中央アジアに位置するカスピ海に面した旧ソ連の国。主な産業は天然資源。普通に生活していてアゼルバイジャンに触れる機会って滅多になく、アゼルバイジャンの予備知識と言えばこのくらい。だから、柔道でアゼルバイジャンが強いのをみて急に親近感が湧きました。柔道やレスリングは中央アジアの普通馴染みの無い国を知れるので、ついつい日本人以外の試合も見たくなる。
談志師匠の落語を聴いてこなかったので、立川流の落語ってあまり馴染みがなかったんです。定席の寄席にも出ないので、孤高の存在って漠然としたイメージがあるだけです。が、このシブラクに来るようになり、観る機会がぐっと増えました。食わず嫌いだったわけでもなく、ただ単に機会がなかっただけなのですが、今までなんて勿体無いことをしてたんだ…って後悔するくらい、立川流には面白い噺家さんが揃ってるし、こしら師匠は特に今まで聴いたことのないテイスト。
立川流は何か違う…と私が言うのは完璧なニワカ発言になりますが、こしら師匠は違う。普通、「粗忽長屋」は粗忽者が1人でワァワァし、周りが翻弄されるのですが、こしら師匠の「粗忽長屋」に出てくる粗忽者の人数が多い。お前もかっ‼︎と怒鳴りたくなるくらい。と同時に、疲れるのを承知でこの「粗忽長屋」の中で3日ほど過ごしてもみたい魅力的な世界だったりもする。マクラが毒っ気たっぷりなわりに、落語の中の世界は優しい。粗忽な登場人物たちが全員本気なあたり、こしら師匠の江戸の世界は平和です。

神田松之丞さん「吉原百人斬り お紺殺し」

・オリンピックの魅力 その2「普段見ない競技が観られる」

  • 神田松之丞さん

    神田松之丞さん

今回、男子カヌーで羽根田選手が初めて日本にメダルをもたらしました。予選を観てたんですが、なんで今まで観てこなかったのかと後悔するくらいに面白い競技なんです。激流を下っていくので冬季五輪のアルペン競技のような迫力。カヌーって、穏やかな湖をのんびり漕ぐアウトドアアクティビティってイメージだったので、競技もそんな感じかと勝手に想像してました。やはり、何でも観てみないとわからない。
松之丞さんを観るようになって、ようやく講談がほんのちょび〜っとだけ分かってきましたが、それまでは真面目で難しそうってイメージでした。歴史の噺ばっかりかと思って、興味すら持ってなかったんです。でも松之丞さんの語り口は迫力満点で、「真面目で難しそう」な歴史の噺も知識が無くても理解できたし、歌舞伎の噺やヤクザ噺、ゲラゲラ笑える新作まであって難しそうなイメージは綺麗に無くなりました。ほんと、何でも観てみないとわからない。
で、この日は夏にぴったりの怪談。あっちからこっちからオバケがじゃんじゃん出てきて脅かしまわるようなジャパニーズホラー映画調ではなく、オバケは出てくるものの人間ドラマが怖すぎるので、余計に怖い。余韻で残るんです。また松之丞さんの話し方がネットリしたり斬れ味鋭かったり、怖さに拍車をかける。
この「お紺殺し」はお紺さんが不憫でたまらない。そりゃね、呪うくらいしたってバチ当たらないよ。お紺さんは今じゃ醜くみすぼらしい姿だけど、元は人気の芸者さん。松之丞さんが演じるととても艶っぽく、今がどうであれ美人で器量良しが伝わってきます。呪う姿ですら美しい。(…と言ってますが、ビビりなので会場では泣きそうなほどでした。時間が経ってようやく「怖かった」以外の感想が出るくらい、怖かった…。)

桂三木男さん「崇徳院」

・オリンピックの魅力 その3「過去の偉大な選手にも触れられる」

  • 桂三木男さん

    桂三木男さん

過去の名場面を見ても、その選手の現役時代を見ていないとただ歴史上の凄い出来事と感じ、現在とは点と点のままで線としては結びつかない。ただ、その偉業はコーチや親となり後世へと伝わっていくんです。ウエイトリフティングの三宅親子はそのいい例。三宅宏実選手は我らが世代のスター。三宅義行コーチは、その名と偉業は聞いたことがあるものの、東京五輪は伝説上の出来事のような感覚。凄すぎるが故にどう凄いのか分からない、本末転倒だったんです。でも、三宅選手の活躍で、コーチの偉業も同時に伝説ではなく事実だって気付かされる。
三木男さんは落語名門のお生まれ。おじい様は三代目桂三木助師匠。落語を知らずともその名は聞いたことがありました。落語初心者あるあるだと思うんですが、有名な師匠のエピソードや批評を聞いてもいまいちピンとこないんです。あぁ凄かったんだな…って、伝説上の出来事なんです。じゃあどうやってその偉業を事実として捉えるか。三宅宏実選手の勇姿を見て三宅義行コーチの偉業を感じるように、三木男さんの噺に引き込まれると、おのずと感じます。
「崇徳院」は、純愛ドラマを江戸の町人がドタバタとかき回す面白噺。江戸っ子の馬鹿っぽさが好き。純愛をぶち壊すくらいにお馬鹿な愛くるしい町人が腹筋崩壊させますが、見終わって時間が経つと感想変わってきます。じわじわと純愛のいい噺が残ります。ウィキペディアには滑稽噺とありましたが、私の中ではおもしろ人情噺です。平成を生きる現代っ子なツーブロックな外見なのに、馬鹿丸出しな江戸っ子を演じ、その余韻は人情噺。可愛い顔で100キロ近いバーベル持ち上げちゃう三宅宏実選手の魅力盛りだくさん感とも通ずる。凄いとの噂の三木助師匠の伝説と現在がうっすら線で結ばれた気がしました。誰の身内だからって、その人への先入観がどうにかなるってことはないし、生まれつき面白い落語ができるわけでなく稽古の賜物ってのもわかる。だからこそ、点と点が線になるんです。それにしても三木男さん、平成なマクラから急に(なのに違和感なく)江戸時代に引きずりこんでくるので、タイムワープ体験できます。タイムマシン要らずです。

入船亭扇辰師匠「団子坂奇談」

・オリンピックの魅力 その4「なんたって一流が観られる」

  • 入船亭扇辰師匠

    入船亭扇辰師匠

絶対王者。陸上短距離のボルト選手、柔道100キロ超級リネール選手、体操の内村選手。女子ハンマー投げのヴォタルチク選手は今大会で自身が持つ世界記録を2度も塗り替えた。まだまだ競技はあるしワクワクが止まらない。あらゆる種類の一流選手を一度に見れるのはオリンピックの醍醐味です。
そんな扇辰師匠、出てきてすぐに素敵な落語が聴けそうな雰囲気が漂ってました。まさにボルト選手や内村選手が出てくる時と同じワクワク感。今回の噺は怪談。私、ビビりなんです。でも、ついホラー映画を見てしまう。怖い噺好きなんです。怖くなってトイレにも風呂にも行けなくなって、臭い身体でトイレを我慢しながら毛布に包まって朝を迎えるまでが、ホラーや怪談です。扇辰師匠の怪談はまさにこの醍醐味。サゲがクスっとくるので救われますが、とにかく怖い。しかも、寝苦しくて寝付けない夜に事件が起こってしまう噺。しかもこの夜は台風のせいでお家は物音し放題。やばい物音もドサクサに紛れてんじゃないかと疑心暗鬼。いつまで怖がらせるつもりだ‼︎素敵に凄い師匠をこんなに朝まで余韻を楽しめるなんて、贅沢です。
扇辰師匠、足首を怪我されてたそうで正座ができず釈台を置いて足を隠してました。普段と違うことってちょっとは気になるものですが、釈台を前にする姿がこれまた格好良く、噺に夢中になるので釈台の存在自体忘れてしまう。内村選手も競技中に腰を痛めたそうですが、痛みを微塵も見せない。一流って、そうゆうことなんですね。


おまけに…
・オリンピックの魅力 その5「選びきれない幸せが味わえる」
オリンピックって、チャンネル回せば同時間帯であらゆる競技を放送してます。アッチ観たりコッチ観たり楽しいんですよね。寄席もそんな感じです。都内だけでも毎日色々な寄席や落語会があるので、毎日がオリンピック。寄席や落語会に行ってるうちに、東京五輪なんてあっとゆう間なんだろうなぁ…

【この日のほかのお客様の感想】
「渋谷らくご」8/16 公演 感想まとめ

写真:渋谷らくごスタッフ