渋谷らくご

渋谷らくごプレビュー&レビュー

2017年 5月12日(金)~16日(火)

開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。

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5月14日(日)17:00~19:00 瀧川鯉斗 柳家わさび 入船亭扇辰 神田松之丞**

「渋谷らくご」二つ目 神田松之丞、トリをとる会

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プレビュー

 「え、松之丞さんって二つ目だったの?」とか「二つ目ってなあに?」「講談ってなあに?」という人にこそ来てもらいたい。
 まずはホンモノを見よう。神田松之丞、すでに演芸界では不動の地位と築きつつある講談界の麒麟児。
 世界はこの才能を待っていた、そしてようやく世間が気づきはじめた。松之丞をここで見られる幸せを噛みしめて!
 今回は空間と時間の支配者 入船亭扇辰師匠のあとに、集中力の高い状態で松之丞さんを聴いてくださいね。

▽瀧川鯉斗 たきがわ こいと
21歳で入門、芸歴12年目、2009年4月二つ目昇進。
元・名古屋の暴走族総長。バイト先の居酒屋で鯉昇師匠に衝撃を受けて、入門。インスタグラムをやっている。「暴走族の元総長が、落語に落ちた日」という特集記事がウェブで公開中。松之丞さんのことを「ジョー」と呼ぶ。

▽柳家わさび やなぎや わさび
23歳で入門、芸歴14年目、2008年二つ目昇進。古典落語だけでなく、創作落語という隠し刀をもつ実力派。イラストが可愛い。NHKBSの「our SPORTS!」にご出演中、ライフル射撃からアーチェリー、ボッチャの基礎知識を解説している。笑点の若手大喜利のメンバーに選ばれ、先日優勝した。意外に意地の悪い一面や、ちょっと天然な一面も。芸人らしくてかわいい。

▽入船亭扇辰 いりふねてい せんたつ
25歳で入船亭扇橋師匠に入門、現在入門28年目、2002年3月真打昇進。
最近、iPadを駆使している。帰りの新幹線では、ハイボールとチーザを嗜まれるとのこと。酔っ払われると近くの日本酒の瓶や、紹興酒の瓶を抱えられるとのこと。煙草のくわえ方が色っぽい。そして読書量がすごい。

▽神田松之丞 かんだ まつのじょう
24歳で入門、芸歴11年目、2012年5月二つ目昇進。プロレス好き。iPadを使いこなす。この4月からTBSラジオで冠番組「神田松之丞問わず語りの松之丞」が放送開始。女性フッション雑誌「an・an」から「プレイボーイ」にまでインタビューが掲載される。講談を知らない層にも響き、話題になっている。このままテッペンとっちゃえ、松之丞!

レビュー

文:月夜乃うさぎTwitter:@tukiusagisann 趣味:茶道、映画鑑賞 特技:東京都内を古地図で歩くこと

5月14日(日)17時~19時「渋谷らくご」
瀧川鯉斗 (たきがわ こいと)「紙入れ」
柳家わさび (やなぎや わさび)「メイドinクイズ」
入船亭扇辰 (いりふねてい せんだつ)「悋気の独楽」
神田松之丞 (かんだ まつのじょう)「真景累ヶ淵 宗悦殺し」



悪女と悪徳の栄えた夜~(艶笑落語と怪談)


 5月も半ば、初夏にみられる藤の花、バラの花が彩り鮮やかに咲き誇る季節となりました。日曜日は晴れやかな天候に恵まれ、お子様から初めて落語を聞きに来てくださったかた、落語や講談が大好きで、長年通っていらっしゃるかたまで、大勢のお客様でほぼ満員な渋谷らくごでした。時々お子さんの無邪気な笑い声が聞こえたのが休日らしく幸せな空間で、みんなで演芸の楽しさ、一体感が味わえた気がしました。
 開演前にキュレーターのサンキュー・タツオさんが、渋谷らくごオリジナルグッズの紹介をしてくださいました。渋谷らくごへご来場された良い記念品になりそうです。

瀧川鯉斗さん「紙入れ」
  • 瀧川鯉斗さん

    瀧川鯉斗さん


 元暴走族の総長だった経歴を持つ瀧川鯉斗さんは、明るく温厚な声色の癒しボイスで
開口一番らしい軽快なまくらからの、色っぽい「紙入れ」でした。

偶然先々月のシブラクで、ある師匠からのブラックユーモアを聞いてしまったのですが、下手と言われようが、暗くひねくれた対応を高座ですることのない素直な鯉斗さんのお人柄は、まるで、鯉斗さんの師匠である鯉昇師匠や弟弟子の鯉八さんを思わせます。
鯉昇師匠や鯉八さんをお好きな方には、鯉斗さんもおすすめしてみたい!聴いているとその癒しボイスと温厚な芸に、なんだかほっとするのです。

そして、どなたから引き継いだのか、鯉斗さんのオリジナルなのか、今回の「紙入れ」も素晴らしかった!
「紙が貴重で本が高価だった頃」から始まり、なまめかしい大人のオンナの女将さんの描写の、ひとつ、ひとつの、仕草に、女っぷりの良さを感じます。「燃えるような緋縮緬(ひじりめん)の長襦袢」から見える真っ白い雪のような脚の表現、鯉斗さんの紅をひくような仕草、お酒のおつまみに旬の鰻を用意して、良心の呵責でおびえている新吉へ自然にお酒をすすめて、頑なな心を開いてしまいます。
女将さんと新吉の関係は男女の恋仲ではあるものの脅し脅される者の関係性でもあり、女将さんの手のひらで転がされている新吉と旦那の未来が、笑いながらも、少しだけ心配になるのでした。
はじめて落語を聴くような気分で、先入観なしで鯉斗さんの「紙入れ」を聴いてみて下さい。抵抗しがたい魅力の悪女と二人の男性の三角関係がとても愉しく堪能できることでしょう。


柳家わさびさん「メイドinクイズ」
  • 柳家わさびさん

    柳家わさびさん

 カフェやファミレス、喫茶店には、給仕や接客のために働いている方がいらっしゃいます。その方々の呼び方は、時代によって変化して行きました。(女給、ウエイトレスさん、店員さん、おねえさん)一見、それらと似ている職務なのに、異なる発展をして来たのが、「メイド」という職業なのだと思います。
メイドさんは、カフェやファミレスが生息地ではなく、個人宅で家事労働を行っていました。しかしここ10年位日本では、家庭内で家事労働をしているメイドさんの給仕を味わえるカフェとして、メイドカフェ、メイド喫茶、メイドバー、妹カフェ、ツンデレ喫茶、執事カフェなどが誕生したと、私は勝手に認識しています。
メイドさんが「ご主人様おかえりなさい」と挨拶して下さるのも、自宅という設定だから。

 今回のわさびさんのお噺は、最近のメイドカフェが舞台です。メイドさんに、ダメ出しばかりするクレーム客マウスさんをクイズでこらしめることを思いついたストーリーです。
まくらでわさびさんがインターネットでやたら酷評を書かれてしまって監視社会のようだとの前振りは、ダメ出し客マウスさん登場の伏線だったのです。
面白おかしくメイドカフェ風にしたので、会場は何度も笑いでいっぱいになりました。わさびさんの新作ははじめて聴きましたが、シュールなのに爆笑できておもしろいですね。
古典落語も素晴らしいですし、新作落語も作れる、BS笑点では大喜利までも絶賛の切り返しで爆笑させる天才!この才能の豊かさはなんなのでしょう。
爆笑系のわさびさん、また拝聴できたら嬉しいです。


入船亭扇辰師匠「悋気の独楽」
  • 入船亭扇辰師匠

    入船亭扇辰師匠

 まくらをお話しながら、会場を見渡すだけで、お客様がどんな噺を求めているかが分かるとおっしゃる扇辰師匠。実はこのように神がかった落語家さんのカンが、私は好きだったりします。どんな落語が選ばれるかドキドキしていると、扇辰師匠が「今日のお客様へ」と選ばれた演目は「悋気の独楽」でした。
扇辰師匠からご覧になられて、いったい今日の私たちはどのように映ったのか興味深いです。そういえば、開口一番も「紙入れ」でしたね。セクシーな艶笑落語の類です。
扇辰師匠の「悋気の独楽」ははじめて聴きました。
小僧定吉はとても可愛いく動きもあるので、落語に入るとグイグイ引き込まれます。座布団の上で動くしぐさをしているだけなのに、町内を歩き回っているようにみえる不思議さ。それに、女将さんのやきもち、口惜しさも伝わって来ますが、修羅場の深刻さは特になく、「それで今夜は帰って来るのか」を、定吉に駒で2回も占わせていたのは、とにかく帰って来てほしい女心ですね。
登場人物全員が違う立場ですが、愛憎劇の渦中を生きるのは、旦那、女将さん、お妾さんの三人です。その三人の気も知らず、お小遣い目当てに、無邪気に駒を回す定吉の子供らしさがとても可愛い扇辰師匠でした。


神田松之丞さん「真景累ヶ淵 宗悦殺し」
  • 神田松之丞さん

    神田松之丞さん

 3ヶ月限定とはいえ、毎週土曜日TBSラジオで絶賛本音トークを発信していらっしゃる松之丞さん。それと並行して本業の講談もペースを落とさないままご出演です。
講談朝の練習会やミュージックテイトの成金も続行中で、売れても努力を惜しまない松之丞さんに、ますます人気が集中していらっしゃるのでしょう。「松之丞さんがご出演の時は早めに予約」が、お客様の間で広がっているほど、松之丞さんのお名前が入っている会は、ほぼ満員御礼かそれに近い状態です。演目もバラエティに富んでいらっしゃるので、講談がお好きで、毎日のように拝聴したいお客様にこそ松之丞さんはおすすめしたいです。
今回は会場にお子さんがいらっしゃるのを気にかけながらも、圓朝師匠の作られた怪談「真景累ヶ淵の宗悦殺し」を選ばれました。若くして才能も人気もあった圓朝師匠が嫌がらせを受けた故に、自分で創作落語を作り上げたと説明して下さいました。若くして才能も人気もあった圓朝師匠が、自分で創作落語を作り上げたら創作の才能まであったということを知ると、演芸の神様というのは本当にいらっしゃって、人情噺や怪談を作らせるよう仕向けたのではないかと考えてしまいます。
そして、松之丞さんもきっと圓朝師匠のように演芸の神様に愛されていて、いずれは講談界の歴史に残る方となるのでしょう。 「真景累ヶ淵」の「宗悦殺し」は、ロシアの文豪ドストエフスキーの「罪と罰」のようなお噺です。貧しさ故にお金を借りたものの、金貸し相手のことは見下している主人公が殺さなくてもよい殺人をしてしまいます。
けれど殺人によって周りを不幸にしている良心の呵責はあって、クライマックスの狂気の幽霊の幻想と殺人はなんだか切なかったです。松之丞さんの読む幽霊と狂気の場面で、ようやく人間新左衛門の心が語られたような気がして、この因縁噺の続きが、楽しみになって来てしまいました。また松之丞さんで続きが聴ける日が楽しみです。


【この日のほかのお客様の感想】
「渋谷らくご」5/14 公演 感想まとめ

写真:渋谷らくごスタッフ