渋谷らくごプレビュー&レビュー
2017年 5月12日(金)~16日(火)
開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。
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プレビュー
知らない間に引き込まれる。言葉をたくさん聴いたはずなのに、疲れてない。なのにズシンと心にその余韻と残像が残る。
軽いのに軽すぎず、聴いて笑って感情が揺さぶられるけど、帰りには晴れやかな気分になって、なにも覚えていない。
それくらいの極上体験をさせてくれることまちがいなし。純米大吟醸の会です。
▽立川寸志 たてかわ すんし
44歳で入門、芸歴6年目、2015年二つ目昇進。元編集マンなので、メールの返信が素早く丁寧。ツイッターの告知ひとつとっても、丁寧。渋谷らくごが誕生した2014年11月、楽屋で前座仕事をしていただいた。寸志さんの気配りで、楽屋の設備が充実している。
▽三遊亭遊雀 さんゆうてい ゆうじゃく
23歳で入門、芸歴29年目、2001年9月真打ち昇進
とてつもない乗り物マニア。飛行機に関しては、「オールフライトニッポン」という本を出版している。とても背が高いことがわかる。チワワを飼っていて、お名前は「大吉くん」とのこと。酔うと脱ぐとのうわさ。着物の色の組み合わせが独特でお洒落。
▽立川左談次 たてかわ さんだじ
17 歳で入門、芸歴50年、1973年真打ち昇進。読書好き。
談志師匠とおなじ病気にかかり、病院に出たり入ったり。その様子がツイッターにアップされており、痛々しいというよりは、ほほえましい。談志の弟子として、「立川」という亭号ではじめて真打になった人物。まもなく芸歴五十周年。多くの落語家からリスペクトされている、かもしれない酒豪。多くの昭和の名人に触れ、若き日の談志の空気感を知る数少ない人物でもある。ここでは書けない楽屋でのオフレコトークに歴史を感じる。
▽古今亭文菊 ここんてい ぶんぎく
23歳で入門、芸歴14年目、2012年9月真打ち昇進。落語協会若手ユニット「TEN」のメンバー。私服がおしゃれで、細身のジーンズに帽子を華麗に着こなされている。帰り際、舞台のスタッフまで全員に頭をさげてくださるほど、とても優しい。「落語を聴くと人に優しくできます」とのこと。落語界にとって特別な人です。
レビュー
5月15日(月)20時~22時「渋谷らくご」
立川寸志(たてかわ すんし)「たいこ腹」
三遊亭遊雀(さんゆうてい ゆうじゃく)「野ざらし」
立川左談次(たてかわ さんだじ)「厩火事」
古今亭文菊(ここんてい ぶんぎく)「死神」
カフェ・ソサエティ
立川寸志さん
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立川寸志さん
本作は「幇間(ほうかん)」という、今でいうところのDJみたいな盛り上げ屋が主人公で、彼が「俺はどんなフロアーでもアゲてやるぜ!」と、隙あらば道を歩いている猫にまで愛想を振りまきながら、次の現場に向かうのですが、そこにいたのは盛り上げるのがとても難しい、やっかいな金持ちのお客さんでした。それでも気前がいい客には違いないので、無理難題を押しつけれられても嫌とは言えず、頑張って最後までプレイし続けますが、当然DJはガタガタ。「ずっと針のむしろ状態で酷い目に合った」とため息をついて、この物語はおしまいになります。
ですが、曲調はお話とは正反対に、終始明るく楽しそうにマクラから本編まで演奏するという、ロックで例えると、RCサクセションの「雨上がりの夜空に」みたいな作品でした。
他に特徴的なのは、この方は声が「リップスライム」の「PES」みたいな、ハスキー・ボイスをしており、終始アップテンポな高音で、跳ねるように落語し続けるため、聞いているとリズム感があって、とても耳に心地良かったことです。
他にも音楽なら「スチャダラパー」、ゲームなら「パラッパラッパー」が好きな方にオススメです。
三遊亭遊雀さん
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三遊亭遊雀師匠
今作の主人公は、まるでLSDの幻覚作用でぶっ飛んでいるようなイカれた男で、そいつを他の登場人物と一緒に、すぐ側で観察しているような気分になりました。
この男は最初から最後まで、ひたすらアナーキーで、隣の家との壁にデカイ穴を空けるわ、美人なら幽霊でもいいと言って、墓場に嫁さんを探しに行くわと、終始やりたい放題で、己の妄想に酔いすぎるあまり、水たまりの上にへたり込んで、服がびしゃびしゃになるシーンがあり、他の釣り人たちがその様子をみて、「こいつヤッベー」と囁きあったりします。
その中でも、特に圧巻だったのは、死体に笑いながら酒をかけるシーンで、「骨に、うっすら赤みが差してきたぞ!」とか、ラリッたことを言って、ゲラゲラと笑い出す場面は最高でした。
こんな内容の物語を、落ち着いたテンポで、マクラもそこそこに一曲まるまる30分、延々とアカペラまじりに演奏するため、聞いているこっちもぼんやりとしてきて、次第に気持ちがよくなってきました。
他にも音楽なら「KULA SHAKER」、映画なら「ハングオーバー」が好きな方にオススメです。
立川左談次さん
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立川左談次師匠
開始早々、「若きカテーテルの悩み」など、心底くだらないギャグを飛ばすなど、病気の療養中であるにもかかわらず、相変わらずの「ユダヤ・ジョーク」で自虐ネタを披露し、一気にハードルを限界まで下げたため、本編が始まるころには、大変リラックスして聞いていました。
そして始まった本編は、都会の片隅に暮らす男と女のお話で、結婚生活に疲れた奥さんが、もう一度旦那さんへのときめきを取り戻すという、この監督の作品にしては珍しくハッピーエンドでしたが、やはりその語り口には、どこかしら笑いの端々に哀しみを滲ませるものがあり、アメリカンのスタンダップコメディーでも聞いているような、メランコックな愛らしい感じがしました。
この方は、それを表現するために、無理に話を引っ張らずに、淡々とゆっくりと語っているだけでしたが、不思議とすごいグルーヴ感を生み出していました。おそらくは、間の取り方というか、会場の空気の読み方というものが、大変にうまいからこそ、成せる業なのだと思います。
他にも映画なら「ゴダール」、絵画なら「ジョアン・ミロ」が好きな方にオススメです。
古今亭文菊さん
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古今亭文菊師匠
超リアルな3DCGに、主観視点でグリグリ入り込んでいくため、自分が本当にその場にいるとしか思えないほど臨場感たっぷりでした。後半の、地下の小部屋に連れて行かれて、死神にゲラゲラと笑われるシーンなど、ベイカー家の連中に捕らえれて、おぞましい晩餐会に参加させられるゲーム冒頭のシーンを、完璧に思い出させられました。
中でも全編を通して、暗闇に浮かび上がる物体の描写がものすごく、例えば闇に舞う桜の花びらや、地下室に灯される何百という蝋燭の明かりが、目に煌々として、とても眩しく感じられるほどでした。
またその地下室に連れて行かれた男が、死神に、「ここから出たければ、俺の作ったゲームに参加しろ!」と言われる場面など、長男ルーカスのデスゲームに参加させられ、蝋燭の炎を消さずにケーキに移せと言われる、「実験場」のシーンそっくりで、大変な緊張感があり、最高にスリリングでした。
怪談話なら「稲川淳二」、小説なら「スティーブン・キング」、アニメなら「笑うセールスマン」が好きな方にオススメです。
以上、一番手は「太鼓持ち」が出てくるお話で、「今日は純米大吟醸会だそうですが、私はとりあえずビールな感じでご覧下さい」と謙遜されている演者さんが、素人の鍼灸師に針を刺されるという、何とも痛そうな話を演じたのち、二番手は完全に目の焦点の合っていない表情で、死体を探して歩くという「スタンドバイミー」も真っ青なギャグホラーもので、三番手は、古典文学から言葉を引用して笑いを取るという教養の高い作風で、ジュリア・ロバーツが演じてるじゃないかというような、ラブロマンスものでした。そして最後が、純度の高い怪談話で、「エルム街の悪夢」のフレディみたいな化物に苦しめられるという、アメリカン・ホラーのIMAX作品でした。
今回の番組で特徴的だったのは、最初に出てきた「太鼓持ち」が、それぞれの方の作品全部に出てきて、「さっきの幇間、ここでまた登場だよ~」と、みなさんがアドリブでリレーを繋いで行くところで、メタ的で大変面白かったです。
全体を通しての感想は、ハリウッド大作ではない単館系映画を見ているような感じで、派手な演出のものに疲れている方にこそ、是非ともご覧いただきたい、上質なコメディー作品と言った感じでした。
どうもありがとうございました。
【この日のほかのお客様の感想】
「渋谷らくご」5/15 公演 感想まとめ
写真:渋谷らくごスタッフ