渋谷らくごプレビュー&レビュー
2018年 2月9日(金)~13日(火)
開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。
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プレビュー
◎ニコニコ公式生放送「WOWOWぷらすと」中継あり(http://www.wowow.co.jp/plast/)
2010年に入門した青年が、落語会で真打のあとに出てトリをとる。しかも立川流の急先鋒、落語協会の看板、さらには創作らくごで絶大な人気をほこる各真打のあとに。
真打3人、二つ目ひとりという組み合わせでのトリ公演でなにを演じるのか。端正な緑太さんの落語からは、たまに緊張や稽古のあとがにじみ出てきますが、今日はどうなるのか。まったくわからないドキドキが楽しい会です。
▽立川こしら たてかわ こしら
21歳で入門、芸歴21年目、2012年12月真打昇進。フットワークがひたすらに軽く、日本のみならず海外でも独演会を開催している。着物から袴まで作れてしまうほど器用。仮想通貨に詳しく、オリジナルの仮想通貨をつくってしまおうとしている。
▽橘家文蔵 たちばなや ぶんぞう
24歳で入門、芸歴31年目、2001年真打昇進。ツイッターで、朝ご飯や酒の肴など、日々の料理をつぶやいている。最近つくった料理は「豚バラブロックがゴロゴロ入ったカレー」。たまに無性にたらこスパゲッティが食べたくなる。
▽春風亭百栄 しゅんぷうてい ももえ
年を取らない妖精のような存在。静岡県静岡市出身、2008年9月真打ち昇進。
不思議な風貌で、危ないネタをかけつづている。落語協会の野球チームでは、名ピッチャーとして活躍する。
アメリカで寿司職人のバイトをしたことがある。猫が大変お好きという意外は日常生活の様子を見せない。
▽柳家緑太 やなぎや ろくた
25歳で入門、芸歴8年目、2014年11月二つ目昇進。古典落語をラップにしている。Youtubeで公開されていて、おそるべき完成度。最新作は「初天神」。渋谷のセンター街でラップのPVを撮影している。ホリエモン万博に出演した。
レビュー
2月9日(金)20:00~22:00 「渋谷らくご」
立川こしら(たてかわ こしら) 「火焔太鼓」
橘家文蔵(たちばなや ぶんぞう) 「千早ふる」
春風亭百栄(しゅんぷうてい ももえ) 「バイオレンス・スコ」
柳家緑太(やなぎや ろくた) 「鰍沢」
「てふてふが一匹韃靼海峡を渡つて行つた」
安西冬衛の詩集『軍艦茉莉』に所載された詩。いくつかの教科書に掲載されているので有名な詩だと思います。シベリアとサハリンの間にある「韃靼海峡」という厳しく荒々しい環境のなかを、「てふてふ」というやわらかで儚げな存在が一匹だけで渡っていく姿が浮かんでくる。
この日の渋谷らくごは立川こしら師匠、橘家文蔵師匠、春風亭百栄師匠という三人の真打ちの後に、柳家緑太さんという二ツ目がトリをとる日。私には緑太さんという存在が、この詩のなかの「てふてふ」のように思えた。そんなことを考えていると出囃子の音。
立川こしら 「火焔太鼓」
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立川こしら師匠
私の知っている「火焔太鼓」とは全く違う「火焔太鼓」だった。太鼓に関連する話題はおまけ程度で、古道具屋さんの奥さんのキャラクターしか頭に残っていない。この奥さんはよくしゃべる、とにかくよくしゃべる。そして妄想の世界がとても激しい。
確かにお屋敷に汚い太鼓を持っていったら、お殿さまが怒ってしまうかもしれない。けれどもお殿さまがポンと膝を叩いても、畳の下に隠されていた地下室へと落とされることはないだろう。と、そんなことを思っていたら七人の隠密たちが現れて、力は強そうだけれどもそれほどでもない「シュラ」や、幼い頃に両親を亡くし道場で育てられて生きるために殺人を覚えたけれど根は優しい「シグレくん」が出てくる。
古道具屋さんの奥さんが捕まって殺されるというピンチになった際に、救ってくれたのはシグレくん。そこからは改心したシグレくんとお屋敷を逃げ出して、、、というやりとりがどこまでも続いていく。
「火焔太鼓」としては楽しめないかもしれないが、こしら師匠の「火焔太鼓」みたいな噺としてはとてもとても面白かった。
橘家文蔵 「千早ふる」
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橘家文蔵師匠
「千早ふる 神代もきかず 竜田川 からくれなゐに 水くくるとは」という歌の意味が分からず、疑いながらも兄いのことを頼る弟分。そんな弟分にいいところを見せようとして説明をしようとするも、自信のない部分になると丁寧な言葉遣いで同意を求める兄いがとても愛らしい。
噺のなかには相撲に関連する時事ネタが入ったり、寄席に登場する人々をいじるネタがあったり。「今日は三席目で疲れているんだよ」と言いながらも、文蔵師匠の気持ちとお客さんの気持ちの盛り上がりが重なっていくようでとてもよかった。
個人的には「南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏」と千早太夫を弔ってからの、「どじょう屋~!!」に笑った。あまり笑っている人がいなかったので伝わっていなかったのかもしれないが、私はすぐに「小言念仏」だなとわかった。だって『柳家小三治の落語 9』に収録されている「小言念仏」を読みながら渋谷へとやってきたから。こういう偶然って不思議で楽しい。
春風亭百栄 「バイオレンス・スコ」
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春風亭百栄師匠
「バイオレンス・スコ」は近未来の三ノ輪ブリッジを舞台に、スコティッシュ・フォールドの一家のエサ場と、アメリカン・カールの一家が持つエサ場を、土日だけ交換しないかと持ちかける噺。
私はこの噺に出てくる猫の品種も、缶詰やカリカリのエサの種類もわからなかった。いま画像を検索して「こんな猫たちだったのか、かわいい。こういうエサなのか、なるほどもしかしたら食通の人は食べているのではないか」と改めて楽しんでいる。わからなくても楽しい、わかったらなお楽しい。
猫の好きな百栄師匠らしい仕草が噺のあちこちで表現されており、ケラケラと楽しく笑った。地域猫にエサをあげる人々のどこかさみしげな部分や、噺の後半に登場するジャパニーズ・ボブテールの旦那が男(オス)らしさ、不思議な後味を反芻している。
柳家緑太 「鰍沢」
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柳家緑太さん
とても丁寧に噺のなかに出てくる事柄の宗教的な背景と、山梨県にある身延山という土地の景色を想像させていく説明によって「鰍沢」の世界へと入っていった。
丁寧に噺の舞台への道程を描き出しことによって、身延山を参詣する旅人が暗くなっていく雪道で難儀している姿がすっと浮かんできた。人家を見つけたときの喜び、寒さに震えながら指先・鼻・耳を火にあてる際の描写の細かさ、火の勢いを強めていくことで暗かった室内が徐々に明るさを増していき女の容姿がはっきりとしていく状況が見えてきた。
吉原で会ったことを思い出しつつ、女から勧められて玉子酒を呑むときの「まるっきしの下戸で、」と断ってからどんなものかと口に含んだときの表情。女と話をしながら、少しずつ少しずつ湯のみを傾けていく角度の変化。お酒がまわっていくと少しずつ饒舌になっていく男の口調。緑太さんの細かな描写への深さが感じられる。
男が布団へと入った後、女は新しい酒を買いに行く。そのわずかの間に帰ってきて、毒の入った玉子酒を一杯と半分ぐっと呑んで苦しむ夫。夫が縋るように「助けてくれ、助けてくれ」と言葉を絞り出しているのに対して、妻は「報いだと思って死んじまいな」と突き放す。いろんなことがありながらも山奥で二人仲睦まじく暮らしていたであろうに、この場面で発せられた女の言葉にふるえた。
今日は「てふてふ」というやわらかで儚げな存在に思えていた緑太さんが、三人の真打ちの後に上がるという厳しい環境を力強く羽ばたいていく姿が見られてとてもよかった。これからの緑太さんがどんなふうに羽ばたいていくのか、私はその姿を眺めていきたい。
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写真:武藤奈緒美Twitter:@naomucyo
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