渋谷らくご

渋谷らくごプレビュー&レビュー

2018年 2月9日(金)~13日(火)

開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。

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2月10日(土)17:00~19:00 台所おさん 三笑亭夢丸 立川志ら乃 入船亭扇里

「渋谷らくご」ジミしん公演 ~地味だけどすごい真打~

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プレビュー

若手だと二つ目ばかりが脚光を浴びる落語界ですが、真打昇進がゴールなわけではありません。
真打になってからが本当の勝負。ゴールのない真打の世界で、自分が登る山を決めた人たちによる、奮闘の公演。
まだまだ落語会にはいろんな才能がいるのです。地味だけどすごい真打、これからは彼らの時代!

▽台所おさん だいどころ おさん
31歳で入門、芸歴16年目、2016年3月真打ち昇進。最近まで、お財布とスイカをもっていなかった。小銭はポケットに押し込んでいたため、ポケットがパンパンに膨らんでいた。新幹線に乗った時に食べるアイスクリームが大好きで、冬でも食べて震える。

▽三笑亭夢丸 さんしょうてい ゆめまる
18歳で入門、芸歴17年目、2005年5月真打昇進。最近携帯電話を無くしてしまった。毎日アメブロを更新しているが、毎日内容が盛りだくさん。絵を描くがひとつひとつが味わい深い。

▽立川志ら乃 たてかわ しらの
24歳で入門、芸歴20年目、2012年12月真打昇進。ツイッターのアカウント名が斬新。カエルのぬいぐるみを集めている。最近ブタのぬいぐるみを手に入れた。落語の裾野を広げるために、現在は落語家から声優まで26人同時に稽古をつけている。

▽入船亭扇里 いりふねてい せんり
19歳で入門、芸歴22年目、2010年真打ち昇進。食べられない時期は競馬で稼いでいた。渋谷らくごのポッドキャストから「扇里ファン」が急増中。水族館でクジラと握手をしたり、ラクダに載ったりとアクティブにすごしている。CDを制作したという噂。

レビュー

文:瀧美保 Twitter:@Takky_step 事務職 趣味:演劇・美術鑑賞、秩父に行くこと

2月10日(土)17時~19時「渋谷らくご」

台所おさん(だいどころ おさん)「芋俵」
三笑亭夢丸(さんしょうてい ゆめまる)「将棋の殿様」
立川志ら乃(たてかわ しらの)「花筏」
入船亭扇里(いりふねてい せんり)「ざこ八」


台所おさん師匠

  • 台所おさん師匠

    台所おさん師匠

”ジミしん(地味だけどすごい真打)”と銘打たれたこの回のお一人目は、お名前も面白い台所おさん師匠。子供が多い会に呼ばれると名前が「おさん」だけに「おっさん」と呼ばれるそうで、茶化してもらえて嬉しいと話す人の良さげな師匠です。くしゃっと笑った顔がかわいい。おさん師匠の師匠である、花緑師匠とのエピソードの微妙な感じが好きです(笑)。ダンスやピアノもやられる多趣味な花緑師匠らしい弟子へのアプローチ、それに対するおさん師匠のなんとも言えないズレ具合といいますか……。おさん師匠のどこかとらえどころのない雰囲気が可笑しくて、無邪気で楽しい。花緑師匠とおさん師匠、年齢の近い師匠と弟子、性格はきっと全然違うのでしょう。なんだか不思議な間柄のお二人で、他にはどんな話をされてきたのでしょうか。色々なマクラをしゃべりながら、言い忘れたことがあったと話題が行ったり来たりのスットコドッコイ(本人談)なところも、いい味出してます。

そんなおさん師匠のとぼけた感じが、噺に出てくるまぬけな泥棒によく似あう。愛嬌あるキャラクターにほんわか。登場する愛すべき人たちに、こちらも見守るような気持ちで見てしまいます。小僧さんのいたずらっこらしいクルクル変わる表情やしぐさも楽しい。泥棒ものの噺や、ふてぶてしい子や弱気な子、いろんな子供の出てくる噺をおさん師匠でもっと聴いてみたいですね。


三笑亭夢丸師匠

  • 三笑亭夢丸師匠

    三笑亭夢丸師匠

2015年5月に真打昇進し、師匠の名前も継いだ夢丸師匠。師匠の落語は聴いていて明るく楽しいのに、派手な感じがしないのは何故かしら。ちょっと控えめな雰囲気があります。そして”ジミしん”というコトバにどの師匠も思うところがあるようで、夢丸師匠もこぼれる言葉に想いがあれこれ(笑)。

噺は「将棋の殿様」。殿様のどこまでも甘えたな性格とそのご威光のため、家来たちはわがままに振り回されもう大変。そんないかにもダメな殿様だけれど、久しぶりに登城した田中三太夫を素直に迎えるところとか、困ったお人でも悪い奴ではないのがやっぱり落語のいいところ。夢丸師匠の殿様は良くも悪くも自分にとっても素直です。そんな殿様のわがままが、将棋の特別ルールで済んでいる内は良かったけれども……将棋に負けると鉄扇でたたかれるペナルティがつき、結果たんこぶだらけの頭になった家来たちの姿を想像するとあまりにも痛々しい……。そこへ颯爽と登場した三太夫の、殿様に一矢報いる姿にはスカッとします。良くやった!面には出さないものの家来たちの状況をよくわかっていて、殿様を決して貶めることなく、筋を通してやりこめてしまうのがとても気持ちいい。時折見せる三太夫の強さ、殿様に迫る時の迫力のシーンがまた楽しい。これまで自分の分の将棋の駒を家来に並べさせていた殿様に、「ご自身でお並べを」と言いながら指を鳴らす三太夫が特に好きです。夢丸師匠のメヂカラが凄い。殿様のダメな感じも楽しいけれど、夢丸師匠のできる侍の凛々しさが素敵です。


立川志ら乃師匠

  • 立川志ら乃師匠

    立川志ら乃師匠

志ら乃師匠は黒紋付のお着物で登場。”ジミしん”の回に合わせてかしら。そういうのを想像するもの観る楽しみの一つですね。志ら乃師匠はしょっぱなからジミしんについて語りまくり。確かに派手とは思わないけれど、志ら乃師匠の落語は音量の幅の大きさ、またスピード感があり、時にもの凄くエネルギッシュ。熱量が半端ない。中でも特に熱いのがやっぱりトークじゃないでしょうか(笑)。今回、このジミしんの回の出演者プロフィールを読み上げたのが特に面白かったです。おひとりおひとりに志ら乃師匠の独自コメント付き。志ら乃師匠のおっしゃる通り、ほんとに扇里師匠の自己PR文、可笑しいし(笑)。ついつい落語協会のホームページも確認してしまいました。

本編の「花筏」もあれだけマクラでしゃべっておきながらよく最後までやったなぁと思う位の熱量でした。長めのマクラでかなり盛り上がっていたのもあり、途中「落語やらないよ?」とか言うから本当にやらないのかと思ったら……お見事です。お好きだという相撲の中継の話と合わせて楽しませてもらいました。花筏の中にさらりと”ジミしん”が出てきたのもニクイですね。地味に生きていればこんな目には合わなかったのに、という切なる叫び。

落語の楽しさはもちろんですが、志ら乃師匠のトークの勢いに、話したいことがたくさんあるんだなーっていうのが強く伝わってきます。ジミしんについてのご意見もなるほどですし、自己プロデュースの難しさ、わかる気がします。他の人の事はよくわかっても、自分の事は本当にわからない。だから人を生かすことを考えて動いて、結果自分も生かす志ら乃師匠。先日「立川流あたらしい会」にお伺いしたのですが、あの会もそういう考えの表し方なのかもしれませんね。志ら乃師匠の人の生かし方っていいなって思います。


入船亭扇里師匠

  • 入船亭扇里師匠

    入船亭扇里師匠

ジミしんのトリに相応しく、黒紋付の扇里師匠。というか、シブラクで見る師匠はいつも黒のイメージです。何故かしら。扇里師匠のことだから、今回は特に狙っていらっしゃると思われますが、それがより素敵。自分の仕事をきちんとわかって、きっちりやられる。楽屋で師匠方が「ジミしん」について色々話していらっしゃったらしいその中(「地味」という言葉にみんな少しずつ傷ついている……とか)、一番高座でジミしんについて語っていた志ら乃師匠が誰より一番気にしてるって、一刀両断。うーん。流石です。どかんと持っていきました。そしてサラリと本編へ。

「ざこ八」は初めて聴きました。前半はおじさんの過去話、後半はつるさんの活躍のお話。 つい意地をはってしまいボタンを掛け違ってしまうのはよくあること。それを取り戻せるなんて……救われる気がします。いいなあ。お話だから都合のいい部分もあるかもしれないけれど、失敗はよくある人間だから、ねえ。扇里師匠のまっすぐで奇をてらわない落語だからこそ、噺の良さがそのまま伝わってくる。誇張されたりしたら、そんな都合よく……と聴く方も邪推してしまいそうだけれども、ただ素直に聴かせてくれる。物語にたゆたう時間を楽しませてくれる。噺のチョイスがもういいですよね。くうう。ジミしんを生かすお人です。



【この日のお客様の感想】
「渋谷らくご」2/10 公演 感想まとめ

写真:武藤奈緒美Twitter:@naomucyo
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