渋谷らくご

渋谷らくごプレビュー&レビュー

2018年 3月9日(金)~13日(火)

開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。

イラスト

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3月9日(金)20:00~22:00 柳亭市童 立川談吉 三遊亭遊雀 神田松之丞**

「渋谷らくご」 講談 神田松之丞が普通にトリをとる会

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プレビュー

◎ニコニコ公式生放送「WOWOWぷらすと」中継あり(http://www.wowow.co.jp/plast/

 3年前には無名の若手だった講談師 神田松之丞さん。いまや渋谷らくごでも完売連発の中心的役割です。
 人間の可笑しさ哀しさ残酷さ。すべてが詰まった講談という素材の魅力をダイレクトに伝えてくれる存在。
 この回は、「この人を追いかけて、自分も一緒にお客さんとして成長する」ということが可能な、各団体のハブになっている方々です。若い市童さん、談吉さんのほか、ベテラン 遊雀師匠の仕事っぷりにも注目です。


▽柳亭市童 りゅうてい いちどう
18歳で入門、芸歴7年目、2015年5月二つ目昇進。悪い誘いをうけてラップをはじめたが、天才的な才能を発揮しているらしい。カラオケの3時間コースを利用して稽古をしているので、受付の店員さんに「3時間コースの人」と顔を覚えられてしまっている。

▽立川談吉 たてかわ だんきち
26歳で入門、芸歴11年目、2011年6月二つ目昇進。事務作業で家から出られない日は、土井善晴さんのレシピをもとに豚の角煮をつくりテンションをあげる。ファイナルファンタジーシリーズは6が一番好き。

▽三遊亭遊雀 さんゆうてい ゆうじゃく
23歳で入門、芸歴31年目、2001年9月真打ち昇進。文部科学省のYoutubeチャンネル「かがやく先輩からのメッセージ」に出演。私服がおしゃれ。この時期はダウンのベストとタートルネックを着こなす。メガネをおでこにかける癖がある。

▽神田松之丞 かんだ まつのじょう
24歳で入門、芸歴11年目、2012年5月二つ目昇進。プロレス好き。新潮社から『絶滅危惧職、講談師を生きる』が発売。TBSラジオにて「神田松之丞問わず語りの松之丞」が放送中。お菓子が大好きで、楽屋ではチョコを食べていることが多い。

レビュー

文:瀧美保 Twitter:@Takky_step 事務職 趣味:演劇・美術鑑賞、秩父に行くこと
3月9日(金)20時-22時「渋谷らくご」
柳亭市童(りゅうてい いちどう)「黄金の大黒」
立川談吉(たてかわ だんきち)「大工調べ」
三遊亭遊雀(さんゆうてい ゆうじゃく)「崇徳院」
神田松之丞(かんだ まつのじょう)「安兵衛婿入り」

柳亭市童さん

  • 柳亭市童さん

    柳亭市童さん

市童さんはまっすぐで素直、噺に正面から向き合っているイメージがあります。奇をてらわずに、その落語の面白さをそのまま届けてくれるお人。落語は面白いものだから、そのままやれば面白い。それは理屈ではわかっていても実際やるとなるとなかなかできるものじゃない。噺の持つ魅力を理解し、それをわかりやすく表現してくれるということ。たくさんの性格も顔も違う登場人物たちが、まるでそこにいるように観客に伝えてくれるということ。そこには落語への信頼と伝えるための技術があるのだろうと思うのです。だから市童さんの落語には安定感がある。一つ一つ丁寧に作られている感じ。さりげなく、こちらが構えずに聴けるーー安心できる心地よさがあります。柔らかな声とそのリズムがよりそう感じさせてくる気がしますね。

貧乏長屋のトクちゃんのうまい口上に、キンちゃんの失敗と次々出てくる人たちのそれぞれの性格の違いが楽しい。またそんなクセのある長屋の連中を迎える大家さんの対応がとても素敵で、人間の大きさを感じました。羽織のやりとりも面白いけれど、宴会のところの奔放な感じが好きです。豪華な料理が並び、浮かれている空気。お寿司が美味しそうだったなー、下に落ちてるけど(笑)。そんなの気にしない人たちがいい。出てきた料理で商売始めちゃうのも楽しい。安定感の中に咲く細やかな彩り。


立川談吉さん

  • 立川談吉さん

    立川談吉さん

さすがは立川流、いきなり世間で話題の時事ネタをサラリと振って。談吉さんはマクラからなかなかのテンポです。長いセリフのどこで呼吸しているんだろうって思うくらいにすらすら、すらすら。速い感じはするけれど、口舌の良さと気持ち高めの聴きやすい声ですっと入ってきます。独特の明るさと軽さ。ちょっととぼけた雰囲気もありますね。談志師匠ゆずりの仕草も随所にあって、なんかいいなと思いました。

テンポが良すぎるせいか最初サラサラと流れて行ってしまう気がしましたが、棟梁の見せ場、あの長い啖呵(たんか)がもうお見事です!凄い!もともとテンポの速い落語なのに、更に勢いがある。そして速いだけじゃなくて、その意味もちゃんと伝わってくるから、棟梁の啖呵の途中でお客様が笑っていたのが印象的でした。拍手もたくさん!後半になってアクセルを踏む感じがとてもいいですね。お客様をグイグイ引き付けて盛り上がっていく。大工調べの啖呵って、速くするだけでも難しいと思うんです。それであれだけ笑いをとれるっていうのが本当に凄い。啖呵をぜひもう一回聴きたい。そうそう、対する因業大家(いんごうおおや)の「(大工道具は)渡せませんよ」という顔も強烈でした。談吉さんの底力、まだまだ隠れていそうです。


三遊亭遊雀師匠

  • 三遊亭遊雀師匠

    三遊亭遊雀師匠

以前は、「落語好きは病んでいる、講談好きは狂っている」と言われたものだそうで、素直に落語が好きって言える今はいい時代なのかもしれないですね。少なくとも私はすぐに「落語が好き」って言っちゃいます。それからこちらは大きな声では言えませんが、正直、遊雀師匠の醸し出す迫力にすこーしびびってまして、声も低めだし怖い師匠だなあと思っていたのです。が、その分緩んだお顔のギャップが大きい(笑)。若旦那のもったいぶっているような、一人で世界に入ってしまっているような、笑いながら病名を言うときのお顔が絶妙です。なんかね、いいんですよ。微妙なニュアンスがあって。そこも含め、病で弱っている若旦那とそれを気にしていない熊さんのやりとりがとても好きです。大声だすなと注意されていたにもかかわらず熊さんがしっかり大声であいさつをし、若旦那がダメージをくらっている姿とか、しょっぱなから楽し過ぎます。思わず笑って、グッとつかまれる。熊さんの悪気のなさ鷹揚さが、遊雀師匠らしさなのかな?と思いました。文句を言いながらもそれを許している若旦那、気心の知れている間柄だからできるやりとりがいい。また病の理由を明かす時に自分で笑ってしまう若旦那の、弱っているけれどただただ思い詰めているだけの若さじゃなくて、自分をちょっと客観視できるあたりが現代に通じる気がします。

それから、きっとこれまで幾らかか落語を見てきたからこそ楽しかったと思えたのが、「若旦那の病気の理由は何か?」と考えながら聴いていた時間です。落語の中には同じような出だしで始まる噺というのがたくさんあって、今回の「崇徳院」のように、病気で弱っている人のところにその理由を尋ねにいく、というものが他にもあります。他の噺ではきっと登場人物の名前が違ったりもするのでしょうけれど、話の流れだけを覚えていた私は「崇徳院かな?千両みかん(夏の話だけど……)かな?」などと、どの噺をやるのかわくわくしながら待っていました。クイズの答えを待つような気持ちです。そしてまた、若旦那がすぐにワケを話さないのがいいんですよね。先を聴きたいのに小憎らしい(笑)。そうしてようやく若旦那が白状して、(崇徳院だ!)とわかったのも嬉しいし、「一回だけ笑わせて」といいながら熊さんが高く笑う姿も楽しい。目が三つや羊羹の話が、大旦那も同じ発想っていうところも好きです。熊さんがこの家に出入りしている訳が分かった気がしました。

そして、話を聞いた後の大旦那がまた一層楽しい。「せがれの仇(かたき)と思って」と言う大旦那の迫力の脅しに、名前もどこに住んでいるのかもわからないお嬢さんを探す羽目になる熊さん。その時の遊雀師匠の凄みたるや。想像はしていたけれど、そりゃあ熊さんやるしかないよね、という納得の押しです。絶対のルール。あれは断れません(笑)。熊さんのおかみさんの変り身の早さもいいなあ。こんなおかみさん間違いなくいる。崇徳院、たっぷり堪能させて頂きました。


神田松之丞さん

  • 神田松之丞さん

    神田松之丞さん

遊雀師匠の凄さについて語りまくるマクラから(笑)。寄席では最後のトリに向かって、その流れを考えて演じられるという。だから出番によってはウケ過ぎない事も大事。遊雀師匠はその時その時の役割をきちっと果たす方なのだとか。ある時松之丞さんの独演会で、ゲストとして出て頂いた遊雀師匠に「本気でお願いします」と頼んだら、しっかり本気で落語をやられ、お客様の感想が「遊雀師匠すごい」ばかりだったというのが面白かったです。遊雀師匠の初天神は何パターンかあって、ここぞという時に爆笑をさらっていたのを目撃したという話も気になります。その爆笑版の初天神が観たいなあ。松之丞さんが落語と講談の魅力の違いを語られていたのも面白かったですね。わかりやすい。

話は忠臣蔵で有名な堀部安兵衛が、まだ中山安兵衛だった頃の、高田馬場での戦い。松之丞さんのたたみかけるような言い回し、スピード感と躍動感があって、戦うシーンがカッコイイ。スパーンという張り扇の音と共に、物語が疾走する。その場のお客様がみんな引き寄せられて、一緒になって張り詰めた空気を楽しんでいる。たくさんの魅力をお持ちだけれど、その集中力が松之丞さんのなによりの武器なのかもしれないと思う瞬間。真剣での立ち回りを、まるでその場にいた町人たちと同じようにお客も一緒になって見守り、そして安兵衛の勝利に同じように興奮し、溜飲が下がる。松之丞さんの講談には人物の躍動感を強く感じます。卑怯坊主もいい味出してます。緩急の使い分けの妙。

最後に松之丞さんのマクラに応えて、遊雀師匠が出てきてくれたのが嬉しかったです。こういうやりとりが見られるシブラクに感謝!



【この日のお客様の感想】
「渋谷らくご」3/9 公演 感想まとめ

写真:武藤奈緒美Twitter:@naomucyo
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