渋谷らくご

渋谷らくごプレビュー&レビュー

2018年 3月9日(金)~13日(火)

開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。

イラスト

イラスト

3月11日(日)14:00~16:00 柳家小八 橘家文蔵 立川左談次 立川寸志

「渋谷らくご」 中年の星:二つ目 立川寸志がトリをとる会

ツイート

今月の見どころを表示

プレビュー

 いろいろあったけど、一歩ずつ着実に落語に向き合ってきた人たち。落語には人が出るので、そういう人の落語は、聴いていて楽しいです。気持ちいいです。
 今日の四人はそういう人たち。トリの寸志さんは「渋谷らくご たのしみな二つ目賞」を受賞した、現在最高齢の二つ目さんです。すごいよ! 寸志さん、渋谷らくごでトリをとります! 出番の前には、立川流の大先輩、左談次師匠!


▽柳家小八 やなぎや こはち
25歳で柳家喜多八に入門、芸歴15年目、2017年3月真打ち昇進。最近IQOSからプルームテックに変えた。ワイヤレスイヤホンでなにかを聴きながら、煙草をくゆらせている姿が楽屋で観察できる。高座前はモンスターを飲んで集中する。

▽橘家文蔵 たちばなや ぶんぞう
24歳で入門、芸歴30年目、2001年真打昇進。ツイッターで、朝ご飯や酒の肴など、日々の料理をつぶやいている。最近つくった料理は「鶏トマトマカロニグラタン」。最近変な時間に目が覚めてしまいラジオを聞いて二度寝している。弟子を「番犬」と呼ぶ。

▽立川左談次 たてかわ さだんじ
17 歳で入門、芸歴50年目、1982年12月真打ち昇進。談志師匠とおなじ病気にかかり、病院に出たり入ったり。その様子がツイッターにアップされており、痛々しいというよりは、ほほえましい。退院後のツイートは「今日は休養して又新たな挑戦を始めるよ、先ずは寸志に試練を乗り越えてもらおう、っと。」 最近、身体の調子が悪い。

▽立川寸志 たてかわ すんし
44歳で入門、芸歴7年目、2015年二つ目昇進。2017年渋谷らくご賞「たのしみな二つ目賞」受賞。家で突然歌いだす癖がある。先日、念願だった銀座ニューキャッスルの復刻カレーを食べてテンションが上がった。

レビュー

文:月夜乃うさぎTwitter:@tukiusagisann 趣味:茶道 猫のいるカフェ巡り

2018年3月11日(日)14時~16時「渋谷らくご」
柳家小八(やなぎや こはち)「出来心」
橘家文蔵(たちばなや ぶんぞう)「寄合酒」
立川左談次(たてかわ さだんじ)「初めてのさよなら」
立川寸志(たてかわ すんし)「死神」

「初めてのさよなら」

3月11日、今年も去年と同様、渋谷らくごさんへ伺わせていただきました。季節は春とはいえ、まだ寒く、咲いている桜の花たちも戸惑っているのでは。  

柳家小八師匠「出来心」

  • 柳家小八師匠

    柳家小八師匠

 小八師匠は、あまり修正しない本格派の古典落語で挑んでくる、落語家さんです。浅草演芸ホールへ行きはじめの頃に驚いたのはダジャレ多さです。
少し前なら軽蔑のまなざしを受けるような古いダジャレを落語家さんが言って、お客様が笑っているなんて、ダジャレでサムくなるのが日常の私には理解できない感覚でした。八師匠も若手です。ダジャレへの世間の冷たい対応を味わっているはずなのですが。それなのに、あえて古典の小咄とダジャレをお使いになっています。
ダジャレ愛好家なのかもしれません。伝統芸能を守る使命というより、古典落語の笑いのセンスも好きだったりする派なのでしょうか。何が起ころうとも「どこ吹く風で」でけだるそうに落語に入りますので
そして噺に入れば、小八師匠ご自身の存在を消すかのように役になりきって、古典落語の世界へ、聞き手を連れて行ってくださるのです。
小八師匠がまだろべえさんだった頃の喜多八師匠とのエピソードを拝聴していた頃もおもしろかったですが、小咄とダジャレも「出来心」と合っていて、心地良く拝聴できました。

 

橘家文蔵師匠「寄合酒」

  • 橘家文蔵師匠

    橘家文蔵師匠

 文蔵師匠のツイッターには美味しそうなお料理や楽しい話が日々載っています。任侠映画「仁義なき戦い」の、血で血を洗う日本最大の暴力団の闘争の菅原文太さんを想像してしまう「闘う男」風の文蔵師匠。闘う男にも色々なタイプがいますが「アウトレイジ」でも「文豪スト○」でもましてや、洋画でもなく文蔵師匠はやはり「仁義なき戦い」の親分のイメージです。
家では「おうちごはん」を作って、時には弟子を送り出す世話好きな一面も垣間見られるギャップも魅力的です。今回の「寄合酒」も文蔵師匠ならではの美味しそうな描写があって、みんなでワイワイしながら持ち寄るところは、たのしそうでした。
とりの寸志さんや左談次師匠へのイジリにも、親分が手加減して怪我をさせないようにじゃれているような優しい文蔵師匠でした。

立川左談次師匠「初めてのさよなら」

  • 立川左談次師匠

    立川左談次師匠

前座さんが講釈台やお茶の支度をした後、高座にあがられた左談次師匠。ささやくような声がまるで、「ここだけの内緒話」でもしているかのようです。
左談次師匠、この日はバツ印のマスクもなく、大きな画用紙で紙芝居風「サイレント落語」をすることもありませんでした。
「ぼくみたいな者の後にあがるのは」と、トリの寸志さんを気遣いながらも、寸志さんの演目については「しかも死神でしょ」と会場へ教えちゃうという「いたずら」で、笑ってしまいました。
「今日はこんなこというと、なお、変になっていくんですけど、さよならのご挨拶にやってまいりました。今、放射線を当てた後の副作用がきついんですよ。本当はうちで休んでないと、(中略)挨拶があるもんでやって来(中略)、 なんか寂しくて、お客さんに会いたくて」(聞き取れない所が度々ありましたが、今思えば、ここが左談次師匠のご挨拶らしき箇所だった気がしております)
 その後は流れるように、談誌師匠の思い出や時事ネタ、漫談で客席を笑わせて、ささやき声のまま寸志さんの「死神」の聞き処まで示して高座を降りられました。とても明るくてたのしい、そして思いやりに満ちた高座でした。

立川寸志さん「死神」

  • 立川寸志さん

    立川寸志さん

 ベテラン師匠が3人あがった後にトリを取る寸志さん。 しかも急遽、「死神」の中へ左談次師匠を登場させなければならなくなったようです。
「こんなフリってありますか!」
と客席へ問いかけても、ただ笑いが起こるばかりで、客席はこの状況をたのしんでいる空気に満ちています。 ところが、寸志さんは、古典落語「死神」を修正する派だったようで、出世欲に満ちた新たな死神キャラに会場も更に盛り上がります。
生死を扱った演目なのに笑いが起こるって新鮮です。
 どちらもおもしろいけれど、古典をほぼ忠実にという小八師匠と寸志さんは対照的に感じました。

 その後、レビューを書いている途中で、左談次師匠のニュースが入ってまいりました。
最初に左談次師匠の高座を拝聴したのは、2016年でした。「真田小僧」ステキでした。お声が出にくくなってもサイレント落語を作って精力的にご出演され、ブラック師匠の落語会では撮影までさせて頂きました。なんと申し上げたら良いのか正直、分かりません。
【この日のお客様の感想】
「渋谷らくご」3/11 公演 感想まとめ

写真:渋谷らくごスタッフ
写真の無断転載・無断利用を禁じます。