渋谷らくご

渋谷らくごプレビュー&レビュー

2018年 3月9日(金)~13日(火)

開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。

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3月12日(月)20:00~22:00 柳家わさび 春風亭百栄 玉川奈々福* 三遊亭粋歌

「渋谷らくご」 人間観察の名手:二つ目 三遊亭粋歌がトリをとる会

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プレビュー

 ディテールの細かい人物描写、リアルな情景、実際にありそうでなさそうなドラマ。
 緻密な人間観察をもとに「人間」を描く創作落語の名手 三遊亭粋歌さん。なかでもOL経験を活かした会社での日常会話や、女性ならでの視点で人間関係をシビアにみつめ笑いにすることに長けています。ぜひ多くの人に聴いていただきたい!
 現在売れかけている二つ目のわさびさん、そして不思議なオーラで客席を支配する百栄師匠。粋歌さんの前には、唸るおねえさん、玉川奈々福さん登場です。


▽柳家わさび やなぎや わさび
23歳で入門、芸歴14年目、2008年二つ目昇進。痩せ形で現在の体重は52kg。NHK-BSの「our SPORT!」にレギュラー出演中。いま歯並びの矯正をしているらしい。緊張するとかんでしまう。「純喫茶コレクション」というアカウントをフォローしている。

▽春風亭百栄 しゅんぷうてい ももえ
年を取らない妖精のような存在。静岡県静岡市出身、2008年9月真打ち昇進。
不思議な風貌で、危ないネタをかけつづている。落語協会の野球チームでは、名ピッチャーとして活躍する。
アメリカで寿司職人のバイトをしたことがある。猫が大変お好きという意外は日常生活の様子を見せない。

▽玉川奈々福 たまがわ ななふく
1995年曲師(三味線)として入門、芸歴23年目。浪曲師としては2001年より活動。2012年日本浪曲協会理事に就任。「シブラクの唸るおねえさん」。この冬はリトアニアのビリニュスでの公演に参加した。帰国後すぐに浪曲協会の決算資料をつくるほどタフ。

▽三遊亭粋歌 さんゆうてい すいか
2005年8月入門、現在13年目、2009年6月二つ目昇進。28歳で突如会社勤めをやめて、落語家になる。子育てのまっただ中。最近「41歳の男性が小学校にうまい棒を10000本送った」というニュースを読んで心ときめいた。

レビュー

文:海樹 Twitter:@chiru_chir_chi (最近嬉しかったことは、九千円分買った宝くじで一万円が当たったこと。)

3月12日(月)20時-22時「渋谷らくご」
柳家わさび(やなぎや わさび) 「風呂敷」
春風亭百栄(しゅんぷうてい ももえ) 「どら吉左衛門之丞勝家」
玉川奈々福(たまがわ ななふく)/沢村美舟(さわむら みふね) 「狸と鵺と偽甚五郎」
三遊亭粋歌(さんゆうてい すいか) 「落語の仮面−嵐の初天神」

「明るく楽しく元気良く」



日曜日のお昼、どんなふうに皆さんは過ごしていますか。
私にはこの時間にとても楽しみにしているテレビ番組がある、それは「のど自慢」だ。1946年にスタートしたこの番組、名前だけは知っているけれども実際には見たことがないという人もいるかもしれない。少し説明をすると、土曜日に行われる数百人の予選を通過した20組の出場者が、この日曜日のお昼の晴れ舞台に立つことが出来る。この20組がそれぞれ歌って、毎週1組のチャンピオンと、1組の特別賞の称号が生まれている。

今回は私が思うのど自慢の魅力について、渋谷らくごの感想と合わせながら伝えていきたい。


柳家わさび「風呂敷」

  • 柳家わさびさん

    柳家わさびさん

 のど自慢には中学生から80歳や90歳という高齢の方まで、老若男女様々な人々が出場する。自分が見たことも行ったこともない土地で、こんなにも個性的な人々がいるのだと思うとホッとした気持ちになる。
そのなかでも一組目に登場する人は、その日ののど自慢の雰囲気を決める存在である。ただ上手い人が出てくるのではなく、ワッと会場の雰囲気を盛り上げる役割でなければならない。

「今日は短い噺をやろうと思っているので」と、落語よりも長い時間たっぷりのまくらで会場の空気をあたためた柳家わさびさん。
 「風呂敷」という噺は、どうしようかと鳶頭の所に奥さんが相談に駆けつけた場面から始まる。鳶頭がどうしたのかと理由を訊くと、旦那が横浜に仕事で行っている間に間男を引き入れていちゃいちゃしていた奥さん。わさびさんの演じる奥さんは、いやらしくなくさばけた雰囲気で明るい気持ちになれる。

そこに突然旦那さんが帰ってきたから、さあ大変。いそいで押入れに男を隠すも、酔っ払った旦那さんがその前にどっかと座って動かない。なんとかして男を旦那に気づかれないようにして押入れから出さなくては、というところで鳶頭は風呂敷を使って逃がすことを思いつく。抜けたところがあるようで、決めるところは決めてくる頼れる鳶頭。

たっぷりのまくらで会場の空気をあたためて、さっと「風呂敷」の噺で笑いをとって高座を下りていったわさびさん。トップバッターとして見事合格の鐘が私のなかで鳴り響く。


春風亭百栄「どら吉左衛門之丞勝家」

  • 春風亭百栄師匠

    春風亭百栄師匠

 20組の出場者がいるなかで、全員がチャンピオンの候補者として選ばれているのではない。何故なら、ただ上手い人が続くだけでは単調な番組になってしまうからだ。そのためクセのある人物が一組か二組選ばれることによって、意表を衝かれる面白さが生まれることになる。まさに春風亭百栄師匠はこうしたクセのある人物である。

新作落語を創ることの難しさをまくらで話してから、噺のなかに登場するのは新作落語のアイディアに困った百栄師匠。すると机の引き出しの中から、未来の世界の猫型ロボット「どら吉左衛門之丞勝家」がやってくる。このどら吉左衛門之丞勝家、微妙にあのキャラクターと声色が似ているようで似ていない感じがたまらない。

どら吉左衛門之丞勝家に何か落語に関連するヒミツ道具を出してくれと頼むと、どんなダジャレでも照らした相手を笑わせる「パー子ライト」、誕生日を覚えられる機能に特化した「暗記ペー」、確定申告前に使用する「地下祝儀袋」など偏った一門に関連する道具を出してくれる。時事ネタもあり、なんとも言えないおかしさもあり、とんでもない噺。

完全に私を含めたお客さんの斜め上にバシッと決めてきた百栄師匠。今回の特別賞を差し上げたい。


玉川奈々福・沢村美舟「狸と鵺と偽甚五郎」

  • 玉川奈々福さん

    玉川奈々福さん・沢村美舟さん

 のど自慢では流行しているヒット曲から懐かしの名曲、種類はJ-POPから演歌までと幅広い曲を出場者は歌う。こうしたバリエーションのなかで、時々土地に伝わる民謡を歌う枠が設けられることがある。三味線や尺八の奏者を携えて、民謡を子どものときからやってきた出場者は実に上手い。

渋谷らくごにおける民謡枠といえるのは、浪曲の玉川奈々福さんではないだろうか。お仕事でリトアニアに行かれたという旅先での話から、信州にいる甚五郎に会って弟子入りを目指す江戸の大工の留五郎が登場する「狸と鵺と偽甚五郎」へ。

そんな留五郎の前に現れたのは罠にかかっている所を助けた狸、困ったときには必ず来ると約束して姿を消してしまう。この留五郎が近くの宿に泊まると、宿の離れに鵺を彫るために甚五郎が泊まっているという。
それなら弟子にと甚五郎に会いに行くと、娘を守るために金が必要で騙った偽物だと事情を話し始める。さらに困ったことに、大工なら自分の代わりに鵺を彫ってくれと頼まれて断ることもできずに引き受けてしまう。さあどうしようかと困っている留五郎の所に再び現れた狸、どうなるのかとどきどきしてくる物語。

   いつ聴いても奈々福さんの浪曲は、身体の中を通り抜けていくような心地よさがある。のど自慢における民謡枠のように、間違いのない合格の鐘。


三遊亭粋歌「落語の仮面−嵐の初天神−」

  • 三遊亭粋歌さん

    三遊亭粋歌さん

歌が上手いとはいったいなんだろう。

リズムが正確であることか。
音程の取り方が上手いことか。
歌声にメリハリがあることか。
声量が大きく滑舌が良いことか。
出せる音域が広いことか。
歌詞の意味をしっかりと理解していることか。
表現力に優れていることか。

 人それぞれ、どの部分を重視するのかで上手さの基準は変わってくる。そのなかで私が重視するのは、自分に合った歌を選ぶことが出来る客観性だ。どんなに上記に挙げた条件に当てはまっていても、自分に合った歌を選ぶ眼がなければ上手いとは言えない。自分のどこがいいのか、どこが悪いのかをしっかりと客観的に見られる力。ただ上手いだけでなく、その力があることによってチャンピオンに選ばれる。

  三遊亭粋歌さんがトリとして選んだ「落語の仮面−嵐の初天神−」は、まさに自分という存在を客観的に見て選んだ噺だと感じられた。

落語の才能を月影千草に見出された三遊亭花は、落語家を目指して厳しい修行に励む。ついに前座として寄席に出られることが決まった花、しかし理事会の指示によって出られなくなり上野公園で落語修行をすることに。少しずつお客さんが集まるようになったある日のこと、上野公園へ行くと落語界のサラブレッドで金髪の坊主頭の立川あゆみが落語をやっている。二人は上野公園の場所をかけて、広瀬和生主催の落語グランプリ前座大会で勝負をすることに。
私はこの「落語の仮面」シリーズの基になっている『ガラスの仮面』を読んだことがないのだけれど、粋歌さんが噺に入る前にしっかりと説明をしてくれたおかげでスッと楽しむことができた。

花がやるネタは「初天神」と聞き、あゆみも同じ「初天神」をぶつけてくる。ただの「初天神」では勝つことができない、そのため花は師である千草と修行を重ね「初天神」に出てくる金坊は甘味に飢えた子供であることを悟る。
本番、甘味に飢えた存在として表現される金坊は蟻が地面に集まっている部分の土を口に入れる。見たことがない、全く新しい「初天神」に会場がざわめく。「初天神」の一番の見せ場とされる金坊が「だんご~!!!!」と叫ぶところは、まるでヘレンケラーがウォーターと叫んだ場面のよう。
面白い、そしてとんでもない噺である。これから花はどのように成長していくのだろうか、おそろしい子!

トリとして何の噺をやるべきか、自分に合った噺とは何か。そのように客観性を持って「落語の仮面−嵐の初天神−」を選んだ粋歌さんは、合格の鐘を鳴らし、見事にこの日のチャンピオンに輝いていた。



【この日のお客様の感想】
「渋谷らくご」3/12 公演 感想まとめ

写真:武藤奈緒美Twitter:@naomucyo
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