渋谷らくご

渋谷らくごプレビュー&レビュー

2018年 6月8日(金)~12日(火)

開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。

イラスト

イラスト

6月9日(土)17:00~19:00 三遊亭鳳笑 柳亭小痴楽 立川吉笑 桂春蝶

「渋谷らくご」桂春蝶に3名の若手!

ツイート

今月の見どころを表示

プレビュー

 この公演のトリは桂春蝶師匠、上方落語のなかでもひときわ活躍が目覚ましい注目株です。春蝶師匠は年齢としては若手ですが、すでにベテランの風格、引き出しの多さも同世代では群を抜いています。
 そしてこの春蝶師匠に挑む三名の東京の若手二つ目。圓楽一門会からは鳳笑さん、一度見たら忘れない個性。聴いて疲れない「軽さ」が魅力の、小痴楽さん(落語芸術協会)。ほかにない「擬古典」を創作し続ける才気あふれる吉笑さん(立川流)。それぞれ普段はちがう団体で活動していますが、今日は一同に介する貴重な機会となります!

▽三遊亭鳳笑 さんゆうてい ほうしょう
28歳で入門、芸歴12年目、2010年10月二つ目昇進。石川啄木からアポリネールまで詩集を読む。最近左手の中指が上手く曲げられなくなってしまった。焼き魚の骨をうまく取ることができず、全部噛み砕いて飲み込んでいた。

▽柳亭小痴楽 りゅうてい こちらく
16歳で入門、芸歴13年目、2009年11月二つ目昇進。オンライン視聴者討論番組「激論ザムライ!」のファシリテーター。先日はじめて「5W1H」を知る。ディスクユニオンのビニール袋に荷物をいれて、小中高と通学していた。

▽立川吉笑 たてかわ きっしょう
26歳で入門、現在入門7年目、2012年4月二つ目昇進。酒豪。オンラインサロン「立川吉笑GROUP」を立ち上げ、新しい活動を試みている。先日転んでしまい、骨折してしまったので、いまはお酒を控えているとのこと。

▽桂春蝶 かつら しゅんちょう
19歳で入門、芸歴24年目、2009年8月、父の名「春蝶」を襲名する。積極的にツイートをしている。上方落語協会のファンイベント彦八まつりの実行委員長に選ばれる。心を落ち着けるときは、ゆっくりとコーヒーをいれて、お気に入りのマグカップで飲む。

レビュー

文:月夜乃うさぎTwitter:@tukiusagisann 趣味:茶道 猫のいるカフェ巡り

6月9日(土)17時-19時「渋谷らくご」
三遊亭鳳笑(さんゆうてい ほうしょう)「八九升」
柳亭小痴楽(りゅうてい こちらく)「磯の鮑」
立川吉笑(たてかわ きっしょう)「歩馬灯」
桂春蝶(かつら しゅんちょう)「やかん」
6月は梅雨の季節。紫陽花の花が綺麗な季節です。落語家さんたちの着物が、単衣(ひとえ)や呂へ変化して行くのが見られて新鮮です。
サンキュータツオさんの演者さん紹介の後、二番太鼓が会場で鳴り響き、本日の演者さんが登場します。今回は、円楽党、落語芸術協会、立川流、上方落語の愉しく個性的で華やかな皆様です。お噺だけではなくマクラがたいへん凝っている皆さまの回です。

三遊亭鳳笑さん「八九升」

  • 三遊亭鳳笑さん

    三遊亭鳳笑さん

 見る人にインパクトを与える瞳の鳳笑さん。一度お会いしたら、誰もがその瞳を忘れることはないでしょう。何度か拝聴していて分かるのは、鳳笑さんはマクラに関してはとても研究熱心だということです。今回も、物騒で疑惑にあふれた事件や地元時事ネタをとても丁寧なマクラにして爆笑させ、稀有な才能を発揮してくださいました。
 鳳笑さんは社会派時事ネタをユーモラスに時には自虐しながら語るので、時事ネタをよく知らない方でも笑ってしまうでしょう。
 地元「綾瀬」の某施設へのマクラは、近所のお婆さんが、「昔は池袋に巣鴨プリズンがあって、駅前には塀があったの」「しばらく片脚のない兵隊さんがいてね」「西武線は西の」と語らうのにも似ていて、小説より現実に起きていることが実に興味深いと思いました。
 日本の怖い民話を短編小説にした近代小説家小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)のようになるのか、もっと軽い時事ネタにしていくのかマクラも楽しみです。
今回の演目「八九升」は、三遊亭の師匠によっては、前座さんに一番に教えることにしている三遊亭らしいお噺でもあるようです。落語協会と円楽一門と別れても、師匠から弟子へ受け継がれる噺に、円楽党の歴史が血筋のように受け継がれているのを味わいました。

 

柳亭小痴楽さん「磯の鮑」

  • 柳亭小痴楽さん

    柳亭小痴楽さん

 落語芸術協会のほこる若手ユニット「成金」のリーダーで江戸落語の若手男子小痴楽さん。リズミカルで軽快な早口で、江戸落語をかける小気味の良さ。
小痴楽さんは東京出身の中でも、「江戸っ子」というより「東京人」にカテゴライズされる地域出身ですが、そのすなおで飾り気のない気質が江戸っ子風なのです。女性ファンも多いです。この日は小痴楽さんが弟子入りされている柳亭一門での旅行話のマクラが最高でした。「千と千尋の神隠し」で使われたような旅館での一門の師匠や弟弟子の皆さんと旅館の人たちとのやり取りのほのぼのした掛け合いに笑いが起きました。実は読書家でアガサ・クリスティを愛読し、多くの着物を渋く着こなすオシャレさんでもあります。
 今回の「磯の鮑」は、小痴漢さんの軽快で早口の口調に合っていて、楽しく明るい気分になれました。小痴楽さんの若くして江戸の風をユーモラスに吹かせる古典落語、今後も色々な演目で拝聴してみたいです。

立川吉笑さん「歩馬灯」

  • 台所おさん師匠

    立川吉笑さん立川吉笑さん

 立川流であり、上方落語家ではないかとも思われる、関西弁の吉笑さん。独特の落語でありながら、新しさと昔の古典の世界をほうふつとさせる「偽古典」という不思議な落語は、オリジナリティ満載です。吉笑さんも吉笑さんの落語も、本当におもしろい存在です。
 立川流という組織が、吉笑さんの才能を育て、開花させたかと思うと、感慨深いです。立川流設立は、宇宙でビックバーンが起こって新しい星や生命が生まれるような現象で、実は起こるべきして起こった落語界のビックバーンだったのかも知れません。
 今回吉笑さんは、足を骨折していらっしゃいましたが、その骨折さえもマクラに使い、 爆笑に次ぐ爆笑で客席を笑わせてくださいました。今回の「歩馬灯」が「走馬灯」ではないのも、死に至るまでのスピードが関係しているタイトルで、吉笑さん作のクオリティの高さを感じます。「死」という昔から怖れられているテーマを映画のスクリーンのように表現する斬新、奇妙な展開を笑いにした素晴らしい作品でした。

桂春蝶師匠「やかん」

  • 桂春蝶師匠

    桂春蝶師匠

東京でも上方落語のおもしろさを教えて下さる春蝶師匠。
それに加えて春蝶師匠は、創作落語で、沖縄の島に想いを馳せたりする機会を落語を使って考えさせる機会を与えて下さったり、また古典落語では、一晩中、本妻と二号さんの間を行ったり来たりする旦那を、大爆笑に次ぐ大爆笑にしたりで、春蝶さんを拝聴してハズれたなと思った日はありません。
今回は、名前をつける時の想いを、楽しく熱くマクラでお話ししてくださって、こんなに春蝶さんに考えて名前を付けられたお弟子さんは、幸せだったのではと思いました。

常に熱い気持ちで物事に当たられる春蝶さんに共感して、多くの「蝶になりたい」お弟子さん志願の方が今後もいらっしゃることでしょう。
インドのヨガや哲学、宗教などでも、弟子入り修行が当たり前で、弟子になると、師匠から名前を授かり、師匠と行動を共にすると聞いたことがあります。
映画「ベストキット」に出てきた、移民でひとり親家庭(差別用語でいう母子家庭)のために転校先で集団暴行に合っていた子供が、通りすがりのカンフウ(?)の師匠に助けられて、最初は部屋に帰ってすぐ、洋服かけに上着をかけるのも出来ない怠け者でだらしない子供が、どんどん成長して行き、集団イジメのリーダーの子と正式試合で勝ち握手をかわすストーリーを思い出しました。集団イジメをした子供にも師匠の教えを受け継いで非情になろうといていた理由もあったり。人種、母子家庭、転校、弱い者への差別も乗り越えて行く試合でフェアに闘おうとする精神など。春蝶さんの創作落語はそれに近いものを感じます。
落語家さんの言葉は刃物にもあたたかい毛布にもなり、私たちはその噺や落語家さんの高座に感激して、通うようになるわけで。
春蝶師匠に感激しに、また伺いたいと思うこの頃です。


【この日のお客様の感想】
「渋谷らくご」6/9 公演 感想まとめ

写真:武藤奈緒美Twitter:@naomucyo
写真の無断転載・無断利用を禁じます。