渋谷らくご

渋谷らくごプレビュー&レビュー

2018年 6月8日(金)~12日(火)

開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。

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6月12日(火)20:00~22:00 柳家花いち 春風亭昇羊 立川こしら 桂竹千代 林家彦いち

創作らくごネタおろし「しゃべっちゃいなよ」

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プレビュー

 2018年3回目の 林家彦いちプレゼンツ ネタおろし会「しゃべっちゃいなよ」はフレッシュな面々が揃いました!
 落語家にとっては、もしかしたら需要がないかもしれない「創作落語」。落語といえば、古典ばかりを求められ、日本全国どこにいっても邪道扱い。でも、古典だってだれかが作った創作じゃないか!
 というわけで、100年後には古典になるかもしれない名作誕生の瞬間を見届けませんか?
 普段は自分の勉強会などでこっそりネタおろしをする人たちも、大勢のお客さんの前で受けたネタなら自信をもてます。
 落語はお客さんの想像と一緒に作るもの。ですので、初登場の人も、そうでない人も、はじめて披露する落語をやることには変わりなし! 緊張感を味わえるのも、ライブの魅力です。
 しゃべっちゃいなよファンも増殖中。業界大注目の会、どうぞお立合いください。

▽柳家花いち やなぎや はないち
1982年9月24日、静岡県出身。2006年入門、2010年二つ目昇進。コンビニで売っている1個21円の「ボノボン」がお気に入りのお菓子。定期的にバレーボールの観戦に行くが、いまいちバレーボールの戦略がわかっていない。今年のR-1グランプリ三回戦に進出した。

▽春風亭昇羊 しゅんぷうてい しょうよう
1991年1月17日、神奈川県横浜市出身、2012年入門、2016年二つ目昇進。お母様からツイッターをフォローされている。石田衣良の「娼年」に没入した。飲み会ではペースメーカーとなり、一番盛り上がった時にしっかりと散会させる技術を持つとのこと。

▽立川こしら たてかわ こしら
21歳で入門、芸歴21年目、2012年12月真打昇進。フットワークが軽く、日本のみならず海外でも独演会を開催。仮想通貨に詳しく、最近は仮想通貨研究家という肩書きでマスコミに出演。今回の「しゃべっちゃいなよ」は、オーストラリアから凱旋出演。

▽桂竹千代 かつら たけちよ
24歳で入門、芸歴7年目。2015年9月二つ目昇進。先日人生で初の胃カメラを経験した。宮崎に売っている「戸村本店の焼肉のたれ」を定期的に買っている。お腹をくだすと痩せるタイプ。

▽林家彦いち はやしや ひこいち
1969年7月3日、鹿児島県日置郡出身、1989年12月入門、2002年3月真打昇進。創作らくごの鬼。キャンプや登山・釣りを趣味とするアウトドア派な一面を持つ。いまはバイクに熱中している。「彦いち袖形かばん」をプロデュースした。

レビュー

文:木下真之/ライター Twitter:@ksitam
6月12日 20:00~22:00 創作らくごネタおろし「しゃべっちゃいなよ」
柳家花いち(やなぎや はないち) 「おまじない」
春風亭昇羊(しゅんぷうてい しょうよう) 「吉原の祖」
立川こしら(たてかわ こしら) 「アレフガルド浜」
桂竹千代(かつら たけちよ) 「聖徳太子」
林家彦いち(はやしや ひこいち) 「ぶつけ族」

ここのところずっと「しゃべっちゃいなよ」が大入り満員を続けていてうれしいですね。「楽しまなきゃソン!」みたいな勢いでお客さんが前向き。サッカーのサポーターのように「6人目の演者」として重要な役割を果たしています。客席には落研らしき若者の集団もいて、一之輔師匠に「お前ら落研かー!?」(一之輔Twitterより)と声かけられるくらいで目立っていました。

柳家花いち-おまじない

  • 柳家花いちさん

    柳家花いちさん

何ごとにも一生懸命。だけど、どこかずれている主人公が騒動を起こす。そんな魅力あるキャラクターを次々と生み出している花いちさん。今回の主人公は、サッカー部のケンジ君に恋するミキさんが暴走するコメディです。
ミキはケンジが大好きなのに、付き合いたくない。なぜなら、ケンジ君の「思い出」になりたいから。だから、ケンジ君が嫌がることをわざとして怒らせて「ケンジ君の記憶と共に生きていく」と言い張ります。そんなある日、友だちから好きな男の子と両思いになれるおまじないを教えてもらったミキは、ケンジの出身地、滋賀県の「出身地おまじない」を実行するべく琵琶湖に向かい、ケンジの髪の毛が入った笹舟を湖に流します。さて、願いは叶うのか。
女子学生同士の恋愛トークを描くのが上手いですね。花いちさんのやさしい口調がなじみます。恋愛成就のおまじないも、「消しゴムに好きな人の名前を書いて使い切ったら両思い」から始まり、いつのまにか「出身県別おまじない」というオリジナルへ。静岡、栃木、山形、京都、愛媛、沖縄、滋賀。ありえなさそうだけど、ありそうにも思えるから笑ってしまいます。おまじないの結果を、10年後のミキを見せることでわからせるオチの付け方もすっきりしていて、余韻が残りました。

春風亭昇羊-吉原の祖

  • 春風亭昇羊さん

    春風亭昇羊さん

しゃべっちゃいなよの初登場が、二ツ目になりたての昨年2月。その時は、江戸時代に歯を抜くことを生業とする「抜歯屋」さんがいたらという擬古典でした。今回も擬古典なのですが、「抜歯屋」が現代を古典風に味付けしたものに対して、「吉原の祖」は古典落語の登場人物をベースに、古典落語の発想で作った“本物”の“擬”古典です。何かすごいです。二ツ目2年目でこんな完成度の高い落語が作れるなんて。
物語は、まさかの童貞喪失もの。三味線の稽古に通っている師匠から借りた三味線に誤って傷を付けてしまったおぼっちゃん。知人に相談すると「謝りに行ったほうがいい」と言われるが、行ったら「襲われる」と脅される。何でも相手は「吉原の祖」と言われる伝説の遊女で年齢は60歳。女性経験のないぼっちゃんは戦々恐々として出かけていく。さて、ぼっちゃんの運命は。
登場人物は、ぼっちゃん、知人の男、三味線の師匠の3人。表面上は普通のいい人に見えて、3人とも裏では何を企んでいるかわからない。どれが真実で、どれが嘘なのか。短い時間に、あれだけの心理戦を見せてくれるなんて。三味線を壊してびくびくしていたぼっちゃんが、どう変化していくかがこの作品の見どころです。今後、磨きをかけることで、さらに面白くなっていきそう。そんな予感がする作品でした。

立川こしら-アレフガルド浜

  • 立川こしら師匠

    立川こしら師匠

すみません。自分はゲームをやらないので、今回の落語に出てくる単語はわかりませんでした。昔、ドラクエ発売日に先輩の命令でヨドバシに行列させられて以来、ドラクエはトラウマなのです。なので今回は「置いてかれ組」だったのですが、だからといって面白くなかったわけではなく、芝浜の改作としてどう料理するんだろうと思いながら楽しみました。
立川流の異端児と言われるこしら師匠。でも、立川流自体が落語界の異端児。それなら逆の逆、裏の裏で創作落語の会で「古典をやります」と宣言し、客席から喝采を受けて始めたのが「芝浜」ならぬ「アレフガルド浜」でした。
魚を取りに行く→竜王を倒しに行く、皮財布→トルネコの財布、42両→42万ゴールド、大家さん→教会の神父さん。その他にもバブルスライム、天空の盾、ルイーダの墓場、爆弾岩、ベホマ、ライアン、マーサ、サマルトリア、オルテガ、ハジャの剣など私が聞いたことのない単語がいっぱい出てきました。
千葉の浜で落語家がテポドンを拾う「千葉浜」(三遊亭白鳥)、覚醒剤中毒のトラックドライバーの葛藤を描いた「シャブ浜」(立川談笑)など、芝浜改作の名作がある中、「アレフガルド浜」は爪跡を残したのか。ドラクエファンの人の感想も聞いてみたいです。

桂竹千代-聖徳太子

  • 桂竹千代さん

    桂竹千代さん

明治大学文学部・史学地理学科卒業。同大学院文学研究科・古代日本文学専攻修士課程修了。修士と博士、明治と早稲田の違いはあれ、学者芸人の肩書きを持つサンキュータツオ氏を脅かす存在と言ってもいい竹千代さん。シブラク初登場とは思えないくらい堂々とした舞台でした。黒紋付きという落語家の正装で登場し、並々ならぬ意気込みを感じます。
ネタは、謎に包まれた聖徳太子の人生を語る「聖徳太子」。人物の会話でなく、漫談のように演者が客席に語りかけるように話す「地噺」というスタイルで演じました。地噺はシブラクでも出ていますが、しゃべちゃいなよでは初めてです。竹千代さんの師匠、竹丸師匠が得意とするのも戦国武将などを題材にした創作地噺で、まさに一門芸。自信作で初登場のシブラクに打って出た竹千代さんの戦略勝ちです。
竹千代さんの豊富な知識をもとに、ギャグをまぶして語られる聖徳太子の人生は、学校の授業で習うよりも数百倍も面白い。有名な「十七条の憲法」を「ブスの十七条」に置きかえてみたり、10人の訴えを一度に聞いて理解した話を、話がかみあわないおばちゃんと話した竹千代さんの体験談を交えて語ったりと、歴史上の人物を身近な存在に近づけてくれます。最後は聖徳太子の不在説、暗殺説、怨霊説と都市伝説の世界にまで踏み込み、私たちが思い描く聖徳太子に新しいイメージを加えてくれました。
持ち時間の25分をしっかり使い切って見事な着地。ためになるだけでなくて面白い。知的好奇心をくすぐられる創作落語でした。竹千代さんがライフワークとして定期的に開催している「かんたん日本神話の落語会」。ゲストの二ツ目さんを生徒に見立てて完全講義形式で話すガチンコの会ですが、こちらも面白いですよ。

林家彦いち-ぶつけ族

  • 林家彦いち師匠

    林家彦いち師匠

彦いち師匠自身が歩いていると、よく頭をぶつけるからという理由で作った落語なんだそうです。居酒屋で飲んでいる先輩と後輩のサラリーマン。頭をよくぶつけるという後輩に対して、先輩は足の指をぶつけるという。居酒屋のバイトのベトナム人はすねをぶつけるといって議論になる。後輩の男がトイレに行くといって外に出ると、知らない男に招かれて東京の地下に連れて行かれる。そこは何と「頭ぶつけ族」の世界。その男は地上で頭をぶつけることで、頭ぶつけ族の役に立っていた。その謎とは何だったのか。男は意外な事実を知るという古典の「死神」テイストのファンタジーです。
実体験からここまで話を膨らませていく彦いち師匠がすご過ぎますね。「頭をぶつける」というごく日常的な出来事が、落語を聞いた後には別の世界に見えてくる。大したことじゃないけど、普通に生きているだけでも人の役に立っている、意味がある。そう思わせてくれる優しさにあふれた落語でした。

  • 林家彦いち師匠とアフタートーク

    林家彦いち師匠とアフタートーク

ただ、後説で話題をさらったのは、某師匠のきゅうりの話でした。新宿末廣亭、浅草演芸ホールの楽屋で彦いち師匠に起こった事件がとんでもない方向に拡がり、シブラクの楽屋の「源氏パイ」に飛躍していく。ドキュメンタリーの「彦いち噺」。滅茶苦茶、面白かったです。
【この日のほかのお客様の感想】
「渋谷らくご」6/12 公演 感想まとめ

写真:武藤奈緒美Twitter:@naomucyo
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