「ふたりらくご」 本格古典の世界へようこそ | 初心者でも楽しめる「渋谷らくご」

渋谷らくご

渋谷らくごプレビュー&レビュー

2018年 8月10日(金)~14日(火)

開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。

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8月10日(金)18:00~19:00 立川寸志 古今亭文菊

「ふたりらくご」本格古典の世界へようこそ

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プレビュー

 二つ目になって3年が経ち、自分らしい落語を確立しつつネタ数を増やしている寸志さん。毎月チャレンジの連続でここ渋谷らくごに全力を注いでくださっています。
 いまだ30代にしてすでに名人の領域、袖から登場した瞬間から文菊ワールドにしてしまう文菊師匠はいまだ上り坂、とどまるところを知らない。二人の演者による古典落語どっぷりの贅沢な1時間、来た甲斐があったと思っていただけるはずです。

▽立川寸志 たてかわ すんし
44歳で入門、芸歴8年目、2015年二つ目昇進。2017年渋谷らくごたのしみな二つ目賞受賞。緊張を楽しめる性格。渋谷らくごに出演するときは自分なりのテーマをツイッターで公開する、今回のテーマは「世間の皆さん、何やればいいと思います?」

▽古今亭文菊 ここんてい ぶんぎく
23歳で入門、芸歴16年目、2012年9月真打ち昇進。私服がおしゃれで、この時期は藍染めしたようなTシャツに小振りなスーツケースを持ち、ハットを被って楽屋入りされる。楽屋に入るとまず手を洗う。前座さんからスタッフにまで頭を下げてくださる。

レビュー

絵:池田裕子 Twitter:@ikedayuko タレント・女優 アンパンマンが好き
8月10日(金) 18時~19時 「ふたりらくご」
立川寸志(たてかわ すんし) 「たがや」
古今亭文菊(ここんてい ぶんぎく) 「甲府い」


  • 立川寸志さん・古今亭文菊師匠

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文:海樹 Twitter:@chiru_chir_chi (最近読んだ本は川口松太郎の『人情馬鹿物語』。「彼と小猿七之助」がとてもよかった。)

暑い8月、金曜の18時前の渋谷はまだ空が明るい。
この一時間は「本格古典の世界へようこそ」とのこと。古典と聞くだけで少し難しいような印象を感じる、私が勉強出来ない人間だからだろうか。すっと身構えてしまう。
でも大丈夫だろう、きっと、たぶん、おそらく。

立川寸志「たがや」

  • 立川寸志さん

「君子は豹変す」という言葉がある。
現在では「豹変」という言葉は「~の態度が豹変した」など、負の側面が顕著となる場合に使用されることが多い。しかしこの場合の豹変は、状況によって考えや態度をがらっと変えるという意味だ。つまり「君子は豹変す」とは、優れた人は時と場合によってそれまでの考えをすぐに改められるという意の言葉となる。

私は寸志さんを見ると、いつも「君子は豹変す」という言葉を思い出す。
寸志さんは実に若く見える。まさに「2017年渋谷らくごたのしみな二つ目賞受賞」という肩書きに相応しい風格である。この実年齢と高座での姿の差は、寸志さんが身を置いた環境に合わせて見事に変容しているからなのだろう。

「橋の上 玉屋玉屋の 声ばかり なぜか鍵屋と 言わぬじょうなし」

「たがや」という噺は面白いのだろうか。
滑稽で笑えるのが面白いという基準で考えれば、それほどでもない。物語の筋の中にけらけらと笑うポイントは少ない。
人情もので思わず泣いてしまうのが面白いという基準で考えれば、やはりそれほどでもない。確かに途中家で待っている親のことが話題に上がるが、それだけである。
では「たがや」という噺はつまらないのだろうか。いや、そんなことはない。むしろ面白い、それは心地よい面白さ。むしろ落語ってこういうものなのかな、と思える面白さ。

寸志さんの噺を聴いていると、常にリズムを感じる。初めはやや早口なのかなという風に感じるリズムは、しばらく聴いている内に実に心地よくなってくる。それは一つ一つの言葉がとても聞き取りやすいからかもしれない。もちゃもちゃとした言葉ではなく、パリッとした言葉なのだ。

そんな心地よい寸志さんのリズムは、「たがや」という噺のリズムと見事に調和していた。夏の夜、一人の男が権力に立ち向かい手柄を上げる。周囲の観衆たちの熱狂がからっと見えてくるようだった。あぁ好きだなぁ。


古今亭文菊「甲府い」

  • 古今亭文菊師匠

 すっと腰を落として、すすすっと座布団へと座る文菊師匠。しみじみとその表情や雰囲気を見ていると、年齢不詳である。老成した20代と言われても、若く見える60代と言われても納得してしまいそうだ。
開演前にサンキュータツオさんが話されていた「40年後もあんな雰囲気でしょうね」という言葉を受けて、「40年後も進歩が無いということですかね」と返される。ふふっと起こる笑い、とても不思議な品を感じさせる。

  「ひもじさと 寒さと恋を くらぶれば 恥ずかしながら ひもじさが先」

 「甲府い」はあったかい噺である。田舎から出てきた男が無一文から立身出世を果たすという物語なのだから、感動するのは間違いない。
では文菊師匠の「甲府い」はどんな噺になっているのか。
私が言えるのは、とにかく文菊師匠を一度見てもらいたいという言葉だけだ。

   とにかく女性の姿がとても美しい。豆腐屋の奥さんと娘さん、売り歩く先にいる近所の女性たち。一人一人がとても美しく見えてくる、それは文菊師匠の細かな表情の変化や所作の美しさなどから導かれているのだろう。

 そして全体的にべたべたっと濃い味付けではなく、からっとした楽しさがある。
願解きのために甲府へと旅立つ所などは思わずグッときてしまう場面だ。そこでも豆腐屋の主人と奥さんとのやり取りがあり、思わずフフッと笑ってしまう。あくまで泣かせにくるのではなく、軽やかに笑ってしまうそんな心地よさがとてもいい。とにかく一度味わってほしい、わかるはずだから。

外に出ると暑さは相変わらずだが、もう空は暗くなっていた。
落語は難しい、古典は難しい。
そんなことはない、ただぼんやりと楽しめる。それが最高なんだよ。

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「渋谷らくご」8/10 公演 感想まとめ

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