渋谷らくごプレビュー&レビュー
2020年 1月10日(金)~14日(火)
開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。
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プレビュー
若手真打競演の会です。トップの小はぜさんは二つ目ですが、風格だけは真打級!
「若いと言われた時代はもう終わった、クラス的には若手の人」という人はたくさんいると思います。落語家のなかではその人たちがたくさんいます。
ですが、この時代こそ頑張り時、踏ん張り時。しかも、お客さんからしたら一番聴きどきなのです。
生涯賃金が決する40代、この落語家たちを見てほしい!
▽柳家小はぜ やなぎや こはぜ
29歳で入門、芸歴7年目、2016年11月二つ目昇進。サラリーマンだったが、29歳の時に思い立って落語家になった経歴をもつ。写真に撮られるときは前歯を出して笑うタイプ。物事に動じないタイプ。黒い帽子をかぶる。かわいい靴下を履いている。
▽古今亭文菊 ここんてい ぶんぎく
23歳で入門、芸歴17年目、2012年9月真打昇進。私服がおしゃれで、楽屋に入るとまず手を洗う。前座さんからスタッフにまで頭を下げて挨拶をする。まつげが長い。最近ダイエットに挑戦中。大学では漕艇部に所属、熱中していた。
▽神田鯉栄 かんだ りえい
平成13年入門、芸歴18年目、2016年5月真打ち昇進。講談師になる前までは、旅行会社の添乗員をやっていた。ちくわの磯辺揚げが好き。糖質ダイエットをしていて、ブログに朝食の写真をアップしていた。今年は人間ドックに行きたいと思っている。
▽柳家小八 やなぎや こはち
25歳で柳家喜多八に入門、芸歴17年目、2017年3月真打昇進。ファッションにこだわっていて、冬は裏地が真っ赤なコートを着る。最近はちょっとずつツイッターを活用している。楽屋ではモンスターを飲んでいることが多い。
レビュー
1月12日(日)17:00~19:00 「渋谷らくご」
柳家小はぜ(やなぎや こはぜ) 「人形買い」
古今亭文菊(ここんてい ぶんぎく) 「小言幸兵衛」
神田鯉栄(かんだ りえい) 「寛永三馬術 誉れの梅花」
柳家小八(やなぎや こはち) 「紺屋高尾」
「去年今年貫く棒の如きもの」
何となく年が明けて、何となく日々を過ごしている間に、気付けば1月も半ばになっていた。特に新年らしいこともしていないし、する予定もない。ずるずると昨年の延長で今年を生きている。そんなふうに茫漠とした考えが浮かぶ頭で、会場へ向かうため渋谷駅のホームに降りると晴れ着の集団がいた。そうか今日は世間では成人式が行われているのかと気付き、煌々と輝く雰囲気に呑まれる。
寄席に行くと、ほとんどの出演者が着物で出てくる。私の暮らす世界では寄席でしか着物を見ることがないためか、街中で見かけると何だか不思議な感覚になる。考えてみると私は着物を身に着けたことがない。七五三も、成人式も、行きたくないからという理由で行かなかった。なんだか世間の晴れやかさに気圧されるためか、会場に向かう道中でどんどん心が淀むことばかりが思い起こされる。
ぼんやりと開演まで椅子に深く座りながら時間を過ごす。こういうぼんやりとした時間が私は好きなのだなと思っていると、出囃子が聞こえてきたのでシャンと座りなおす。よし、楽しもう。
柳家小はぜ「人形買い」
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柳家小はぜさん
「人形買い」という落語は、そんな小はぜさんの雰囲気にあった噺だと思う。お礼のために人形を買いに行って小僧さんと話しながら帰るという、あらすじだけだと何にも面白くない。しかしそんな何てことない日常の一コマが、落語だと非常に楽しい。最近気付いたのだが、私はこういう何にもないような物語が好きだ。劇的なことは起こらない、ただただ他愛もない日常が愛おしい。そんな日常の風景が「人形買い」の物語のなかでは描かれている。だからこそ、一人一人の登場人物のあれこれをふんわりと楽しませてくれる小はぜさんの語り口に合っているのかなと思った。
古今亭文菊「小言幸兵衛」
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古今亭文菊師匠
町内を一回りして家に帰ってきた幸兵衛さんがタバコに火をつける仕草から「文菊師匠うまいなぁ~」と、物語のなかでどんな部屋に座っているのか見えてくる。自分の脳内で描かれる世界が鮮やかに広がっていくような感覚。
最初に訪れた威勢のいい豆腐屋さん相手には、礼儀作法にうるさい幸兵衛さんの小言が全開。次に訪れた物腰や態度が丁寧な仕立て屋さん相手には、幸兵衛さんの中の妄想がどんどんどんどん膨らんでいく。
幸兵衛さんはいい人なのだろうが、付き合い辛いだろうな。でもきっと周囲の人には愛されているのだろうな、と感じる文菊師匠の「小言幸兵衛」だった。
神田鯉栄「寛永三馬術 誉れの梅花」
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神田鯉栄先生
「誉れの梅花」は古典の美しく練られた言葉のリズムが心地よく、また鯉栄先生の爽やかな声が身体のなかを通り抜けるような感覚。バカバカしい掛け合いの展開も、きりっとした武士の気質が表現された部分も、トントンと紡がれていく一つ一つの言葉のリズムも、どれも逐一心地よい。「名人は上手の坂を一登り」、愛宕山の石段をよろよろとした馬で見事に駆け上がった曲垣平九郎。お正月に相応しい晴れやかな目出度さが、私のなかを心地よく駆け抜けていった。
柳家小八「紺屋高尾」
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柳家小八師匠
仲間に誘われて花魁道中を見に行った際に、そこで目にした高尾太夫に心奪われたという紺屋の職人の久蔵さん。高尾太夫の見た目の美しさだけでなく、その眼を見て「この人は本当にいい人だ」と語るところに、こちらも思わずキュンとする。こういう人間の見方をする久蔵さんは、きっと周囲の人に愛されているのだろうなと伝わってくる。だからこそ三年間一心にお金を貯めて高尾太夫の所へ行く際には、周囲の人間も率先して協力してくれる。
夢が叶って高尾太夫に逢い、そして別れを迎える朝。自分が本当は紺屋の職人であることを告げ「もしこの先、万が一街で合った時には『久さん、元気』と言ってくれませんか」と気持ちを伝える場面で、再び久蔵さんの誠実さが見えてくる。この人は本当に本物の誠実な人だからこそ夢が叶い幸せになることができたのだろうと、しみじみとあたたかさを感じた。
楽しい二時間が終わり、新年もこうして普段通りの楽しい演芸ライフが続いていくといいなと思えた。私のなかを貫いている「棒」は、こういうものかなと感じた帰り道でした。
【この日のお客様の感想】
「渋谷らくご」1/12 公演 感想まとめ
写真:渋谷らくごスタッフ
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