渋谷らくご

渋谷らくごプレビュー&レビュー

2020年 1月10日(金)~14日(火)

開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。

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1月13日(月)14:00~16:00 柳家緑太 入船亭扇里 桂春蝶 春風亭百栄

「渋谷らくご」春蝶×百栄 東西爆笑対決

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プレビュー

 滅多に揃うことのない桂春蝶師匠と春風亭百栄師匠の二人。引っ張りだこのこのふたりを後半に控え、二つ目緑太さんはいま渋谷らくごで毎月土曜の20時から「おしゃべり緑太の会」を続けている注目株。扇里師匠は、「語りこみ」にひたすら磨きをかける我が道をいく語り部です。聴きどころ盛りだくさん! はじめてという方にもオススメです。

▽柳家緑太 やなぎや ろくた
25歳で入門、芸歴10年目、2014年11月二つ目昇進。古典落語をラップにしている。Youtubeで公開されていて、おそるべき完成度。最近は、ボードゲームにはまっている、最近買ったボードゲームは「穴掘りもぐら」。

▽入船亭扇里 いりふねてい せんり
19歳で入門、芸歴23年目、2010年真打ち昇進。食べられない時期は競馬で稼いでいた。熱狂的なベイスターズファン。髪の毛を短くしても、寝癖がつく。クリスマスイブには親子丼を食べる。

▽桂春蝶 かつら しゅんちょう
19歳で入門、芸歴26年目、2009年8月、父の名「春蝶」を襲名する。女優の吉岡里帆さんが東京進出する前に、春蝶師匠は落語を教えていた。猫と暮らしていて、時間がある日は猫と一緒に映画を観る。最近は自家製ピクルスにはまっている。

▽春風亭百栄 しゅんぷうてい ももえ
年を取らない妖精のような存在。さくらももことおなじ静岡県清水市(現・静岡市)出身、2008年9月真打ち昇進。
落語協会の野球チームでは、名ピッチャー。アメリカで寿司職人のバイトをしていた。日常生活の様子はわからないが、猫好き。

レビュー

文:森野照葉Twitter:@MORINO7851992

柳家緑太(やなぎや ろくた)-やかん
入船亭扇里(いりふねてい せんり)-提灯屋
桂春蝶(かつら しゅんちょう)-死神
春風亭百栄(しゅんぷうてい ももえ)-弟子の強飯/露出さん

『ウチらランドで永遠のラフウェイ』


今年は子の年だそうで、まうすまうす未来への期待が高まる年になるであろうと思う。さラットこんなことを書いてしまうくらいに、浮足立っているからチュウ意したい。もっとも、冒頭にこんな文章を読んだら読者は寝耳に水であろうが、寝ずに鼠について考えたので、許して子(ね)。
 冗談はさておき、今回伺った会は、まるでテーマランドのようだった。落語というテーマに基づきながらも、客席にいる人々が迷子になってしまうくらい、前半と後半でアトラクションの激しさが見事に違っていた。
 というわけで、今回は東京ディ〇〇ーランドのアトラクションになぞらえて書く。

柳家緑太 やかん

  • 柳家緑太さん

 毎月土曜の20時に「おしゃべり緑太の会」をされている緑太さん。落語の演目に入る前の世間話(枕)に定評のある噺家さんで、学校寄席に出演することになったときのお話をされた。噺家さんだから面白い出来事に恵まれているのかと思いきや、ちょっと面白い人に出会った体験談をとても詳細に、愛のある目線で語る緑太さん。まるでディ〇〇ーのアトラクション、ジャングルクルーズで巧みに乗客の心を煽る船長(ナビゲーター)のように思えた。
作り物のカバがやってきたり、謎の民族に出くわしたりしたときなど、ここぞとばかりに「危ない!カバに食べられちゃう!」とか「槍だ!槍が飛んでくるよ!みんな伏せて~」という船長のように、日常の出来事を見逃さず、面白いところを拾い上げて緑太さんは語られているように思えた。
 演目の『やかん』は、物を知らない男が知ったかぶりの隠居に問いかける話である。隠居は様々なことを問われるのだが、さも物を知っているかのように何かと理由を付けて男の問いに答える。本当かどうかは分からないのだが、妙に説得力があるから不思議である。 思えば、ジャングルクルーズの船に乗ったとき、たとえ茂みから現れる象や民族や、海から顔を出すワニやらカバやらが『作り物』だと分かっても、さも本物であるかのように驚いていた両親の顔を思い出す。あの頃は『作り物』だなんて思わなかった。信じれば嘘も真とはよく言ったものだと思う。誰が言ったか知らないけれど。

入船亭扇里 提灯屋

  • 入船亭扇里師匠

扇里師匠の語りは、演目に入る前と後で日常と演目との境目が無い気がする。扇里師匠の日常と地続きに、落語の世界があるような気がして堪らなく胸が締め付けられる。
日常で不幸があったら、そのまま落語の世界に不幸な目に合う男が登場する感じである。日常の出来事そのものが、落語の世界の出来事に重なる感覚。だから、枕で扇里師匠が実際に哀しい出来事を体験すると、同じように落語の世界で哀しい出来事に出会う登場人物が出てくる。演目の『提灯屋』では、とある文章を書いた手紙を出してしまったがために、散々な目に合う提灯屋の主が出てくる。
ディ〇〇ーのアトラクションで言えば、『モンスターズ・インク”ライド&ゴーシーク!”』のようである。本来は怖がられるべき存在であるモンスターに光を向けて、観客の方からモンスターを探して楽しむアトラクションで、怖がる要素は一つも無い。
モンスターは子供を驚かせることが生業なのだが、このアトラクションでは子供を楽しませる存在になっているという矛盾が、良かれと思って手紙を出した提灯屋に重なる。本来は提灯を売って稼ぐことが生業なのだが、書けない紋があったら無料で提灯を出すと書いてしまう矛盾。書けない紋という隙を突いて、注文してきたお客の知恵に嵌り、提灯を無料で提供しているうちに、最後にやってきたお客の善意を疑ってしまうほどにまで心擦り切れる提灯屋の哀しさが染みる。
思えば、モンスターズ・インクに出てくる一つ目のモンスター、マイク・ワゾウスキは、立派なモンスターになって子供たちを驚かせることを夢見るのだが、「あなたには才能が無い」と言われ、驚かせようとした子供から「可愛い」と言われる始末。誰よりも努力家であるが、人を怖がらせる才能が無いマイクは、人を怖がらせる才能はあるが怠け者の毛むくじゃらのモンスター、サリーと組み、サリーの名サポーターとして怖がらせ屋になる。マイクの方向転換が哀しくもあり、また逞しいのである。やがてマイクは自分に『人を笑わせる才能』があることに気づき、人を笑わせ楽しませることで成功する。
 さて、一体どんな気持ちで「書けない紋があったら」と提灯屋は書いたのだろう。最後のオチは面白いのだけれど、なんだか哀しい。提灯屋はこれからどう生きて行くのだろうかと気になってしまう一席だった。

桂春蝶 死神

  • 桂春蝶師匠

ジャングルクルーズ、モンスターズ・インクと回って、いきなりホーンテッドマンションに来た感じのする春蝶師匠。人生に節目があったからと言って、そこから急激に環境が変化するかと言えば、そんなに単純ではないよね、というような枕から演目の死神へ。
 これが度肝を抜かれるほどの恐ろしさ。初めてホーンテッドマンションに行った初心な子供が「怖いから二度と行きたくない!」と思ってトラウマになること確実な凄まじい一席。
 登場する人物の性格が凄まじい。特に死神の恐ろしさは本家を越えているのではないかと思うほど、全力で寿命を縮めにきている。カッと見開かれた眼、虚ろな表情、けたたましい笑い声。見ちゃいけないものを見に来てしまったような、踏み入れてはいけない場所に足を踏み入れてしまったような、でも見たくて見たくて堪らなくなり、足を踏み入れたい欲求に抗えずに進んでしまうような、ド迫力かつ濃い目の死神に感情がぐあんぐあんと揺すぶられた。
 思いがけず、ホーンテッドマンション内で富士急ハイランドのド・ドドンパに乗った感覚と言えば良いのか、死神が登場し1.56秒後に時速180kmのフルパワーで感情が恐怖へと突き進んでいく。コースターに乗っている客が猛烈な風圧を受けて顔が歪もうがお構いなしに、春蝶師匠の語りは死神が乗り移ったかのような、否、死神そのものであるかのような圧巻の語り。
 また、死神に力を与えられた男の盛衰も面白い。愛する家族を捨て、遊びに興じ、金に目が眩んでよからぬ事を考える。そんな男が死神と訪れた場所で、時に憤り、時に不満をぶちまけ、時に懇願しながら迎える最期。そして、その後の死神の態度と言葉に全身が痺れる。
 怖い怖いと言いながら、怖いもの見たさで何度も入ってしまうホーンテッドマンションのような、抗えない興味が湧きおこる圧巻の一席。私の蝋燭も少し減ったと思う。

春風亭百栄 弟子の強飯 露出さん

  • 春風亭百栄師匠

 ホーンテッドマンションを出た後に、プーさんのハニーハントで締めくくるかのような、可愛らしい佇まいで登場の百栄師匠。百栄師匠と言えば、20代の頃から落語が大好きで、アメリカで寿司職人をしているとき、たまたま見た『落語のピン』という落語の番組に同い年の橘家文蔵師匠(当時、橘家文吾)が出ているのを見て、「寿司握ってる場合じゃねぇ!」と言って落語の世界に飛び込んだ異色の噺家さんである。
 醸し出される雰囲気は完全にクマのプーさんで、パンツを履いて無くても赤いTシャツだけ着て蜂蜜を舐めていれば、それだけでパンツの存在を忘れてしまくらいに可愛らしい。恐怖体験の後は、はちみつ探しでリハビリするかのような感覚である。
 プーさんのハニーハントは、乗り物に乗ってはちみつを探し、100エーカーの森の仲間たちのほのぼのとした世界を楽しむアトラクションである。百栄師匠から放たれる癒しの雰囲気に、先ほどのトラウマも薄れ、どんなファンタジーが待っていても、すんなりと受け入れられる態勢が整う。
 『弟子の強飯』というお話は、喩えるならば、プーさんがミッキーにそっくりなネズミに「僕の下で働かないか」と言うようなお話である。ミッキーにそっくりな喋り方をするネズミが面白く、それだけで笑ってしまう。たとえミッキーがどんな存在かを知らなくても面白い一席である。
 続く『露出さん』は、プーさんがパンツを履いていなくても、何の違和感も無い現実があるように、何も服を着ていないプーさんが街を歩いても違和感が無いよね、というようなお話である。街に馴染み過ぎた一人の変態が登場し、どことなくノスタルジックで、切なくも面白い一席で終演。
 何とも名残惜しい気持ちを抱えたまま、私は東京ディ〇〇ーランドのような落語会を終えた。正しい回り方だったのかは分からない。それでも、楽しかったという思いがあって、また行きたいなと思うのは、アトラクションが楽しかったからだろう。ランドでLaugh Wayを突き進んでいるような、とにかく回るだけ回るぞ!という勢いのある、素晴らしい会だった。

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「渋谷らくご」1/13 公演 感想まとめ

写真:渋谷らくごスタッフ
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