渋谷らくご

渋谷らくごプレビュー&レビュー

2020年 3月13日(金)~17日(火)

開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。

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3月13日(金)20:00~22:00 柳家花いち 立川笑二 三遊亭遊雀 古今亭文菊

「渋谷らくご」爆笑落語会:くせもの揃い

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プレビュー

 花いちさんには、年下後輩キャラで安心していると知らない間に手玉に取られる。渋谷らくご大賞 笑二さんの癒しのキャラに安心していると知らない間にドキッとさせられる。茶飲み話みたいにニコニコして話している遊雀師匠に安心していると、しっかり聴かされている。文菊師匠には気を付けていても、眉毛ひとつの動きで簡単に笑わせられる。くせもの揃い!爆笑必至です。
 贅沢な金曜日をどうぞ。

▽柳家花いち やなぎや はないち
1982年9月24日、静岡県出身。2006年入門、2010年二つ目昇進。コンビニで売っている1個21円の「ボノボン」がお気に入りのお菓子。定期的に「ハナスポ」という読み物を執筆している。この冬はひれ酒を飲んで英気を養った。

▽立川笑二 たてかわ しょうじ
20歳で入門、芸歴9年目、2014年6月に二つ目昇進。沖縄出身の落語家。公園のベンチで落語の稽古をする。先日ウィッグとメイクに挑戦をして一門のライングループに投稿してみた、師匠のおかみさん以外からは無視された。

▽三遊亭遊雀 さんゆうてい ゆうじゃく
23歳で入門、芸歴31年目、2001年9月真打昇進。後輩の落語家さんのお兄さん的存在。酒豪。神田伯山先生のYoutubeチャンネルにて、伯山先生のネクタイをくわえタバコをしながら直す遊雀師匠が流れると、その様子がかっこいいとコメント欄で話題に。

▽古今亭文菊 ここんてい ぶんぎく
23歳で入門、芸歴17年目、2012年9月真打昇進。私服がおしゃれで、楽屋に入るとまず手を洗う。前座さんからスタッフにまで頭を下げて挨拶をする。まつげが長い。最近ダイエットに挑戦中。大学では漕艇部に所属、熱中していた。

レビュー

文:月夜乃うさぎTwitter:@tukiusagisann PSW系相談員 抹茶と猫が好き
2020.3.13(金)20-22「渋谷らくご」
柳家花いち(やなぎや はないち)-アニバーサリー
立川笑二(たてかわ しょうじ)-小言幸兵衛
三遊亭遊雀(さんゆうてい ゆうじゃく)-花見の敵討
古今亭文菊(ここんてい ぶんぎく)-猫の災難


3月は冬の寒さを残しつつ、これから迎える春の兆しが、混沌としている。椿は花を地へポトリと落とす時期であり、桜は春を知らせるように、河津桜から大島桜、染井吉野の順番で、花を咲かせ始める。311関係の避難所での一期一会や、左談次師匠の「はじめてのさよなら」など、私にとって、3月は忘れられない出会いと別れがある月だったが、今年の3月も忘れられない3月になりそうだ。
2月後半に、まずお茶のお稽古を3月はコロナ対策で中止にしますとお知らせが届いた。落語に「荒茶」という秀吉の死後、名だたる戦国武将が集まって濃茶を回し飲みする噺があるように、お茶は濃茶の場合、同じ茶碗でお茶を回し飲みする。「荒茶」のようにお茶でヒゲを洗う人や、飲んだものを戻す人はいないものの、一応は濃厚接触になるから危険だというのだ。和菓子も工場で作っている和菓子ではなく、手作業で作られているので、感染するかもしれず、お茶の稽古は危険が伴うという判断だった。仕事場でも、濃厚接触をする仕事なので、自宅でテレワークするわけにも行かず、仕事も休みがちになった。
落語会も中止が多い中、渋谷らくごは厳戒態勢で慎重に開催してくれた。
消毒に次亜塩素酸水(多分、次亜塩素酸ナトリウム入りの水のこと)を使用し、玄関から空気中へ何かの機械で拡散し、座席、ドアノブも1回終わるごとに消毒し、スタッフの方々はマスク着用、サンキュータツオさんまでマスク姿で登場し、万全のコロナ対策で3月の渋谷らくごが始まった。
今回の金曜日は「くせもの揃いの会」だという。花いちさんも、笑二さんも、遊雀さんも、文菊師匠もあたりの柔らかな「いい人」に見えるだけあって「くせもの」ぶりが楽しみだ。

柳家花いちさん

  • 柳家花いちさん

 優しい声と人好きのする眼差しの花いちさん、プレビューで年下後輩キャラと書かれているように、優しくて人当たりが良すぎる所を、年下でも生意気タイプに図に乗られてしまいそうではある。ただし「くせもの揃い」に名前を連ねているだけあって、優しいだけの落語家さんではない。以前にも落語友達から「花いちさんヤバイよ!」という情報が入っている。この日花いちさんは、手拭いや扇子をたくさん持って高座へ上がった。(もしかして)と思っていたら、新作落語『アニバーサリー」が始まった。噺の内容自体は、カップルが記念日をお祝いするというありがちな設定ではあるが、花いちさんの表現力に最初から最後まで、改めて驚かされる名作である。落語家は扇子と手拭いだけで演じられる職人であるが、しぐさや表現で、こんなに噺がおもしろくなるのだと改めて気づかせてくれる。しぐさも手拭いや扇子の扱いは実に見事で、噺に集中していると、だんだん扇子が貝に見えたり、蟹に見えたりしてくる。その内、渋谷らくごの高座が高級居酒屋に見えてくるかも知れない。手拭いは魔法にかかったように、自由変化であらゆるものに姿を変えていくのが楽しい。そして、食べ物は例え手拭いと扇子で出来ていても相思相愛の人との「アニバーサリー」は「幸せ」だと思うし、聴いている側も心あたたまる噺に幸せな気分になる。

立川笑二さん

  • 立川笑二さん

 暑い日も、寒い日も、暇さえあれば、近所の公園で稽古をしているという稽古熱心な笑二さん。茶道のお点前に野外でお茶を立てることを「野点(のだて」というが、公園の自然や知らない人と一期一会しながら稽古する笑二さんは、野点を得意とする茶人のようだ。
早口ではない安定した口調、20代後半でありながら、番頭さんや老後のご隠居さんも似合っている。落ち着いた態度は古典落語をかけるために生まれて来たかのように、笑二さんには江戸の古典楽語が似合う。そのせいか、上品なマダムが、笑二さんが良いと言っているのも、何度か耳にしたことがある。古典落語を好む人や国立演芸場で落語も歌舞伎もたしなむ客層向きなのかも知れない。高座へ上がると、明るいまくらから「小言幸兵衛」へ入る。笑二さんは、アレンジを強く入れても、けして古典落語クラッシャーにならない「腕の良さ」に感激する。笑二さんの幸兵衛はブラックすぎないので、聞いていて安心して笑えた。渋谷らくごで時々笑二さんの高座に出会うけれど、いつも必ず楽しい。

三遊亭遊雀師匠

  • 三遊亭遊雀師匠

 遊雀師匠の、3番手で軽妙に明るく盛り上げる高座は何度見ても感心する。先に出た後輩たちのエピソードをしっかり覚えていて、回収して会場を爆笑させるのだが、遊雀師匠のところで雰囲気が全く変わる上野の動物園をはじめ、上野の山での花見さえ「自粛」を要請されている今にぴったりの「花見の敵討ち」をかけてくれた。上野のお山をイメージする。
花見で考えた「敵討ち」のための特訓からして、本格的にやろうとする人とテキトウな人がいておもしろい。現在でも上野の山で、仇討のパフォーマンスが始まったら注目されるだろうが、花を見て飲み食いしたい人のほうが圧倒的多数かと思う。特に演じ分けていないように見えて、侍二人、巡礼兄弟という一度に4名が出てくる所も、遊弱師匠は4人を巧みに演じ分けて、4人でのトラブルに冷や冷やする。上野の山で巡礼兄弟を待って、待ちくたびれて今にも泣きだしそうな様子も、遊雀師匠の場合、微笑ましくて笑ってしまう。
遊雀師匠は、声を張っていないのに、しっかり聞こえるし、散々他の人をイジっても傷つけない。この遊雀師匠のマイルドな明るさと笑いにこの日もしっかり癒された。遊雀師匠の軽やかな落語が今の時期はありがたい。

古今亭文菊師匠

  • 古今亭文菊師匠

出囃子と共に文菊師匠がしなしなと登場すると「しなやか」という言葉を思い出す。文菊師匠の「酢豆腐」を1度も見たことがないのに「あたしがゲスか?」という「酢豆腐」の若旦那の、しなしなしたしぐさを思わせるような、上品な中に不思議な美しさを持つ師匠である。今回は「猫の皿」をかなり高度な酔っ払い演技でかけてくれた。文菊師匠のしぐさで大きな鯛をもらったようすが分かり、(美味しそうな鯛)だと思っていると、早とちりで勝手に鯛が丸ごとだと勘違いする人が現れる。別に主人公の熊さんはだますつもりはないが、鯛が頭と尻尾だけだといいそびれた感じも、勘違いして出て行ったけど(まあいいか)の感覚も伝わってくる。文菊師匠なので、酔っ払いでもどこか上品な熊さんなのが新鮮だ。
文菊師匠には噺だけではなく美しいしぐさも見応えあるので、是非、生で1回は観てほしい落語家さんだ。笑いあり、美しいしぐさに見惚れる場面もあり、可愛い猫も登場して、この時期に、楽しい気分転換が出来てうれしかった。

【この日のお客様の感想】
「渋谷らくご」3/13 公演 感想まとめ

写真:武藤奈緒美Twitter:@naomucyo
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