渋谷らくご

渋谷らくごプレビュー&レビュー

2020年 3月13日(金)~17日(火)

開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。

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3月15日(日)14:00~16:00 柳亭市童 古今亭志ん五 柳亭小痴楽 橘家文蔵

「渋谷らくご」古典落語 聴きたい!古典どっぷり

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プレビュー

 最初に落語に触れるとき、まずは古典落語を聴いてみたいと思う方はおおいはず。この公演はそんな人のために企画しました。いずれも古典落語の名手です。
 しかし、古典落語と一口に言っても、演者の個性や解釈によってまるで表情が違います。じっくりやる人、お客さんの負担にならないように軽くやる人、歌うように気持ちよくやる人、緻密にやる人。さて、今日はどんな人たちでしょうか。
 
▽柳亭市童 りゅうてい いちどう
18歳で入門、芸歴9年目、2015年5月二つ目昇進。先日柳家緑太さんとパラグライダーをしてきた。先日、ウェブサービスのパスワードを忘れてしまったため、再設定をしようとしたが「秘密の質問」に答えられずにログインできずにいる。

▽古今亭志ん五 ここんてい しんご
28歳で入門、芸歴16年目、2017年9月真打昇進。平成30年度国立演芸場「花形演芸大賞」で銀賞。渋谷らくごの公式読み物どがちゃがでは、志ん五師匠の似顔絵コラムが掲載中。先日、ドローンと共演しながら落語をした。

▽柳亭小痴楽 りゅうてい こちらく
16歳で入門、芸歴13年目、2009年11月二つ目昇進。2019年9月に真打昇進。初のエッセイ集「まくらばな」が発売された。ヘビースモーカーで常に喫煙所を探している。先日、引越しをしたが、オートロックの解除の仕方がわからない。新しい炊飯器を買った。

▽橘家文蔵 たちばなや ぶんぞう
24歳で入門、芸歴33年目、2001年真打昇進。晴れている日は積極的にお布団を干す。歩きながら稽古をする。ツイッターで、朝ご飯や酒の肴など、日々の料理をつぶやいている。最近つくった料理は「おろした大和芋に麺つゆと卵を素焼きしたもの」、ベビースターラーメンが隠し味。

レビュー

文:あさみTwitter:@asm177 ライター。落語初心者。在宅勤務が増えたので、家に仕事用デスクが欲しい。

柳亭市童(りゅうてい いちどう)-竹の水仙
古今亭志ん五(ここんてい しんご)-啞の釣り
柳亭小痴楽(りゅうてい こちらく)-道灌
橘家文蔵(たちばなや ぶんぞう)-鼠穴

街は普段よりずっとひっそりしていましたが、渋谷らくごは満員御礼! 入り口にアルコール、換気のため見知らぬドアが開いていたりと、普段と少し異なる雰囲気はありつつも「落語を楽しみたい」という皆の気持ちはいつもと変わらずです。

柳亭市童さん「竹の水仙」

  • 柳亭市童さん

トトンと小気味よく高座に上がる軽快さとは裏腹に「ご来場いただき心より御礼申し上げます」という挨拶を噛んでしまった市童さん。コロナの影響でお仕事が減ってしまったようで「口も回らなくなってしまいました…」と切ない表情です。しかし一方で、同じく出演者であった古今亭志ん五師匠は「休みが多くて楽しいね!」と話されていたそう。受け止め方は人それぞれですね。
名人、左甚五郎が主人公の「竹の水仙」。登場人物は宿屋の主人、その妻、大名、家来、そして左甚五郎です。表情豊かにキャラクターを演じる手法は、声色、目や眉の動き、体の動きと、いくつもありますが、市童さんは特に「口」の表現が素晴らしい。瞳や口調は比較的穏やかな一方、引く、結ぶ、尖らせる、ポカンと開ける…と口がクルクルリズミカルに動き、見ていてどんどん楽しくなっていきます。日本人は目で、欧米では口で感情を表現すると言われているのを思い出し(携帯の絵文字とかそうですよね)、市童さんの落語もワールドワイドに受け入れられるのでは、という想いが頭を巡りました。

古今亭志ん五師匠「唖の釣り」

  • 古今亭志ん五師匠

多趣味の志ん五師匠。オリンピック競技では「競歩」がお好きだそうです。その理由は「ルールが曖昧だから」。詳しくはここに書けそうにない内容だったのですが(笑)、「自分も曖昧な仕事をしているから他人事だとは思えなくて」とのこと。さて、競歩の何が曖昧なのか…ぜひ探してみてください。
志ん五師匠の趣味の1つである釣りが題材の「唖の釣り」。登場人物の与太郎の可愛らしさは「あはは」「えへへ」といった力の抜けた笑い方だという印象がありましたが、志ん五師匠の与太郎の見どころは「神妙な顔」! 七兵衛の話を聞いているときや、叱られているときの、口を結んだ表情が実にコミカル。与太郎ならではの緩さが口には表れていないのに、どうしてあんなに可愛らしく頼りなく面白く見えるのか…。舌がもつれて話せなくなってしまった七兵衛のジェスチャーには、動きごとに「あ!」「お!」という合いの手のような発声が。リズムの良いその声に合わせるように客席の笑いも大きく盛り上がっていました。

柳亭小痴楽師匠「道灌」

  • 柳亭小痴楽師匠

つい先日引っ越しをされた小痴楽師匠。引っ越しを手伝ってくれた弟弟子の明楽さんが新居で早速ベビースターをばら撒いてしまったそう。でもそれには動じない小痴楽師匠です。その理由はお掃除ロボット「ルーロ」があるから! ルーロが可愛くて仕方ないと、ベビースターを掃除するルーロの様子をその場で再現。膝立ちになって熱心に演じてくれるものだから「え、これ本編なの!?」と思ってしまうほど、大盛り上がりのマクラでした。
小痴楽師匠の落語は本当に華やか。八五郎の身振り手振りの多さがコミカルだったり、ゆったり話すご隠居とパパッと話す八五郎の声の緩急でキャラクターが立っていたり、一番後ろの客席までしっかり届くほど表情が豊かだったり…。会場も小痴楽師匠もどんどん盛り上がりを増して、聴いていて本当に元気になる。最近、何かと暗いニュースが多いですが「笑うって幸せなことだよな」と落語の楽しさを改めて感じました。

橘家文蔵師匠「鼠穴」

  • 橘家文蔵師匠

マクラはほぼなし。即、「鼠穴」の世界に入ります。
サンキュータツオさん曰く「顔が一番怖い落語家」の文蔵師匠。しかし、冒頭、兄に奉公させてほしいと頼む場面や、後半の蔵が燃えてしまって以降の竹次郎の場面では、まるで別人のような文蔵師匠がそこにいます。細かく何度も言葉がつかえたり、声が震えたり。まるで体が本当に小さくなってしまったと勘違いするほど、心細い姿。力強いイメージの文蔵師匠とは思えません。一方で兄を演じるときは姿大きく、声にも張りがある。兄弟を演じるうえでの強弱が素晴らしく、体のサイズを自在に変えているような印象でした。
シリアスな場面が多い「鼠穴」ですが、最後目覚めた竹次郎の「鬼―!」という叫びに対し「鬼じゃない、お兄さん」と返す兄の台詞で笑いもしっかり。緊張と緩和、という言葉がぴったりの一席でした。

【この日のお客様の感想】
「渋谷らくご」3/15 公演 感想まとめ

写真:渋谷らくごスタッフ
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