渋谷らくごプレビュー&レビュー
2020年 3月13日(金)~17日(火)
開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。
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プレビュー
創作落語の駒治師匠、擬古典の使い手 吉笑さん、浪曲界のジャンヌ・ダルク 奈々福さん、古典落語の馬石師匠。
これほどストイックにわが道を極めている人たちのそうそういません。常に負けられない戦いを勝ち続けてきている、第一線の演者たちによる爆笑落語会! このメンバーは、聴かなきゃ損です。
▽古今亭駒治 ここんてい こまじ
24歳で入門。芸歴17年目、東京都渋谷区出身。鉄道をこよなく愛し、鉄道に関するコラムを執筆するほど。先日の渋谷らくごの楽屋では、丸ノ内線について力説していた。2017年創作らくご「しゃべっちゃいなよ」で創作大賞を受賞。背の高さが目立つ。
▽立川吉笑 たてかわ きっしょう
26歳で入門、現在芸歴9年目、2012年4月二つ目昇進。もともとは酒豪だったが、酒断ちをしていまは炭酸水で過ごす。Voicyにて「立川吉笑の落語入門」を毎日配信中、フォロワーが着実に増えていっている。自炊に挑戦している、先日は餃子を焼いてみた。
▽玉川奈々福 たまがわ ななふく
1995年曲師(三味線)として入門、芸歴25年目。浪曲師としては2001年より活動。2012年日本浪曲協会理事に就任。出版社をやめて浪曲師になった。ご飯をつくると気持ちが落ち着くとのこと。先日は「カレイの煮つけ」や「フレンチトースト」とつくってみた。
▽隅田川馬石 すみだがわ ばせき
24歳で入門、芸歴26年目、2007年3月真打昇進。フルマラソンのベストタイムは、4時間を切るほどの速さ。寒くなると肉まんが恋しくなる。近所であれば自転車で行動する。隅田川を自転車で渡るときに感じる風が好き。
レビュー
3月16日(月)20:00~22:00 「渋谷らくご」
古今亭駒治(ここんてい こまじ)-ボタン/泣いた赤い電車
立川吉笑(たてかわ きっしょう)-桜の男の子〜立川春吾作〜
玉川奈々福(たまがわ ななふく)/沢村美舟(さわむら みふね)-ソメイヨシノ縁起
隅田川馬石(すみだがわ ばせき)-居残り佐平次
「嘘みたいな本当の話」という言い方をするが、「本当みたいな嘘の話」という言い方はあまり見られない。もともと嘘自体が本当のような姿で現れるため後者の言い方をしないのだろうが、前者の「嘘みたいな本当の話」は魅力のある話が数多く存在する。この「嘘みたいな本当の話」を集めた、『ナショナル・ストーリー・プロジェクト』という本がある。信じられないような偶然や、思いもかけないような再会、ありえないような奇跡、こうした劇的なことが実は私たちのすぐそばで起こっているのだと驚きながら夢中になって読んでしまう本だ。
開演の20分前くらいに会場に到着すると、普段とは異なりあちらこちらのドアが開いており、対策のための換気が十分に行われていた。チケット購入口の横に設置された次亜塩素酸水で手指の消毒を行ってから中へと入る。後方にある入場口に向かって歩き始めた時に、トイレから出てきた男性が会場内へと入っていく姿が視界に何となく入り、知り合いだと気付いて驚いた。
落語関係の知り合いであれば会場でバッタリ会っても驚きはないのだが、その男性は以前仕事で何度か顔を合わせたことがある落語とは全く関係ない相手だったからだ。その人とプライベートな会話をしたことはなかったので落語が好きだとは知らなかったが、まさかここで出会うとは。こういう時にキチンと挨拶ができる人は好感度が上がるのだろうが、特に親しい相手でもないのに迷惑ではという気持ちや、あまり良好な関係ではなかった記憶がよみがえり気付かなかったふりをする。どうやら相手は私に気付かなかった様子で、その人が前方の席に座っていることをちらっと確認してから、普段なら選ばない中央列の中ほどの端の席へと腰をおろした。
こんな偶然もあるのだなとニヤニヤしながら今日の会のプレビューを読んでいると、開演の5分前になっていた。当たりを見回すと、こんな世間の状況でも4割から5割くらいの席が埋まっていた。さて開演に備えて一度トイレに行こうかと席を立とうとした際に、後ろから「こちら中の席よろしいでしょうか?」と声をかけられた。ちょうど立とうとしていたので席を立ってから「どうぞ」と言ったところ、「あれひさしぶり!」との声が返ってきた。ひょいと顔を見て「マジか」と心の中で思いながら、ぎこちなく「あぁひさしぶりですね」と答える。「マジか」。
落語を観るのが趣味だと言うと、相手からかなりの確率で「どうして落語を観るようになったんですか?」と質問される。何かを好きになることに理由が必要なのかと思うのだが、確かに日常生活のなかで急に落語に興味を持つことはないかもしれない。例えば「『タイガー&ドラゴン』や『ちりとてちん』などのドラマを観たから」という答えや、「『昭和元禄落語心中』の漫画やアニメを観て」という答え、「親が好きだった・友人に誘われて」などもあるかもしれない。質問してくる相手もそんな答えを期待しているのだろうなと思うのだが、私の答えは「モテたいから」だ。この答えを言うと相手はだいたいポカンとするのだが、本当なのだから仕方ない。「えっ?」と訊き返された後に補足で「正確には、好きだった人が落語が好きだったからですね」と言うと、多くの場合「なるほどね」という表情を見せて納得する。
数年前になんとなく好きだった人がいた。一緒の空間にいても緊張することなく話せて楽しいのだが、今ひとつ会話が盛り上がらない。その原因は共通の話題の少なさにあった。興味の重なる部分がないと会話はなかなか続かない。もっと楽しく話をするためにはどうしたらいいのかと思っていた時に、その人が落語を好きだということを知った。それまで「落語=笑点的なもの」という認識しかなかったのだが、落語の話題が出た時にその人が見せるキラキラとした表情を見ていて、これは落語を観に行けば会話のネタになるなと思って寄席へと足を運んだ。早速その人に次に会った時「こないだ初めて落語を観に行ったんですよ」と話したところキャッキャッと会話が盛り上がり、それ以来会話のネタにと色々な会に足を運ぶようになった。
結局その相手とはそれ以上親しくなることもなく、何となく疎遠になってしまった。食事には何回か行ったのだが、結局一緒に落語会に行くことはなかった。どこにでもあるような他愛ない好意は遠くにいってしまい、私の手元には落語だけが残った。要するに落語を観るようになった理由はモテたいからだ、ということになる。不純の塊のような答えだが、これが本当なのだから仕方ない。
「マジか」と心の中で思ったのは、その相手が数年ぶりに突然私の前に現れたからだった。「こんなことならもう少しいい服を着てくればよかった」と遅すぎる後悔をしながらトイレへと向かう。もう開演直前なので話している時間もないな、えっこんなことってあるのか、どうしよう席変わろうかな、うわっまじかぁ、と思考回路が困惑と混線でぐちゃぐちゃっとなる。身も蓋もない言い方だが、落語どころじゃない状況だ。ほわほわした状態で席へと戻ると、私の席から一つ開けた場所にその人は座っていた。うわぁまじかと改めて動揺していると、「今日の会はね」と隣の席の同行者と思われる人と話をしている。「マジか、二人できているのか。えっ友達なのか、それとも会社の同僚の人か、いや恋人的な感じなのか」と訊きたいことは溢れてくるのだが、もう出囃子が聞こえている。会が終わってから訊けばいいのだ、だめだ、今は集中、集中。
古今亭駒治「ボタン」・「泣いた赤い電車」
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古今亭駒治師匠
定年退職して家事をするようになった男が、家にある「コーヒーメーカーのアロマ機能のボタン」や、「洗濯機のイオン殺菌ボタン」などの理不尽さを娘に話す。その意見に対して娘から、そういうところが原因で夫婦関係が上手くいっていないのではと諭されてしまう。心を入れ替えた父親はさっそく奥さんに対してあれこれするのだが、という物語。生活のなかに紛れ込んでいる矛盾にツッコミをいれるバカバカしさ、定年退職後の男性の身の置き場所のないかなしさや、夫婦間の微妙なすれ違いが描かれている優しい印象の後味が残る物語だった。
「今日は短い落語だったので、もう一つやりたいと思います」と言ってから、一度下がって持ってきたのは大きな紙。「次は紙芝居をやりたいと思います」と実にフリーダムな空気で始まったのが「泣いた赤い電車」。赤い電車にまつわる路線のあるあるや、他の路線とのヒエラルキーの問題、また車窓から見える風景の由来など。何年ぶりにちゃんと紙芝居を見ただろうか、面白かった。
立川吉笑「桜の男の子 ~立川春吾作~」
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立川吉笑さん
「大変だ、大変だ」と登場人物は言っているのだけれども、私だって今なかなかの大変な状況なのだと苦笑する。季節感のある落語は、その時期の到来を告げる瑞々しい魅力がある。この「桜の男の子」も、そんな春の訪れを感じさせる落語だ。満開の桜のなかで一本だけ咲いていない桜の木の奇妙さ、突然消える死体、パッと飛び去る白い鳩。私の頭のなかには様々な景色が浮かんでは、エッと思う間に消えていく。落語が終わった後の私の中にも、満開の桜の中で泣いている少年がもあもあと残っていた。もあもあ。
玉川奈々福・澤村美舟「ソメイヨシノ縁起」
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玉川奈々福さん・澤村美舟さん
「ソメイヨシノ」は、この時期になるとあちらこちらで咲き誇る桜の木だ。このソメイヨシノがどのようにして発見され、どのような人々の想いの中で世に送り出されていったのかが語られる。木の声を聴くことができる若い植木職人が、ソメイヨシノに魅入られて葛藤していく様子がたまらない。何かを好きになってしまうことはどうしようもないのだ。
もともとは松の木が専門の植木職人の弟子だった男が、ソメイヨシノの栽培に取り組むために他の職人の元に修行へと向かう師弟の葛藤の姿。様々な人の様々な想いの果てに咲く花の美しさ。何となく美しいなと感じるだけでない感受性が羨ましく、自分の信念のままに進んでいく姿も美しい物語だった。
隅田川馬石「居残り佐平次」
-
隅田川馬石師匠
「本当は私も『桜』の噺をしたいんですが、今日は準備していないので出来ません」と、桜にまつわる話が連続している流れで「もしや?」と考えているお客さんの気勢をそぐ馬石師匠。それじゃあいったい何なのかと思わせてから「居残り佐平次」へ。
こないだ池袋の新文芸坐で「幕末太陽傳」という映画が放映されると知り、これ幸いと観に行った。もともと内容が面白いらしいという噂と、「居残り佐平次」や「品川心中」、「三枚起請」などの遊郭を舞台にした落語がストーリに組み込まれていると聴いていたからだ。実際に始まると、これがめちゃくちゃ面白い。内容はもちろんなのだが、何より自分が頭の中でぼんやりと描いていた遊郭の画が、なるほどこういうものかと鮮明になったのが収穫だった。
お金持ちのふりをして豪遊するも、お勘定の際に「金持ってないよ」と開き直る佐平次。どう考えても悪い人間なのだが、利発な会話術や、相手への交渉力、どこか愛嬌があって憎めないキャラクターで居残り先の店で人気者になってしまう。複雑な魅力を持った佐平次という男の魅力が、馬石師匠を通して見えてくる。その見えてくる景色の彩度が、「幕末太陽傳」のおかげで上がっていた。色々なものを体験することで、見えてくる景色は変わってくるのだな。
最初のふわふわした状態が、楽しい二時間のおかげですっかりまったりしてしまった。今日はこの気分のまま帰るのではなく、もやもやを解消しなければならない。不思議なものだ、もともと他の会に行く予定だったのが中止になり、たまたまこの会のレビューを書くことになり、たまたま知り合いと顔を合わせたくないから普段とは違う席を選び、たまたまそこに私に落語を教えてくれた人が現れるなんて。「嘘みたいな本当の話」が起こる日が今日だったとは。
「すごい久しぶりですよね」と、ぎこちなく声をかける。
「ほんとにそうですよね、ビックリしました」
「えっと、そちらの人は?」と、この二時間訊きたくてたまらなかった言葉を口にする。
「あぁ、この人は、、、」
と、ここからこの話は波乱万丈、奇想天外、ますます面白くなっていったのですが、今回はここまで。
この続きはまたどこかで書きたいと思います。
今回は「嘘みたいな本当の話」が起こった奇跡の夜についての取り留めのない感想を書かせていただきました。
お読みいただきありがとうございました。
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