渋谷らくごプレビュー&レビュー
2020年 5月8日(金)~12日(火)
開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。
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プレビュー
コロナ禍に見舞われたこの5月、真打昇進のお披露目を開始するはずだった瀧川鯉八師匠。
しかし、披露目は秋に延期され、この5月1日、真打に昇進しました。
渋谷らくご大賞2015、2017、2018とこの会を象徴する人物です。ぜひみなさんで盛り立ててください。
どうか観てください。ほかでは見られない、柳家の若手からベテランまでが、なぜか鯉八さんの前に出るという番組です。
ただ、これだけのメンバーのあとに出ても、光り輝く鯉八師匠をご覧いただければと思います。
▽柳家花いち やなぎや はないち
1982年9月24日、静岡県出身。2006年入門、2010年二つ目昇進。コンビニで売っている1個21円の「ボノボン」がお気に入りのお菓子。定期的に「ハナスポ」という読み物を執筆している。いま期間限定で、オフィシャルサイトにて創作らくごを配信中。
▽柳家わさび やなぎや わさび
23歳で入門、芸歴16年目、2008年二つ目昇進。2019年9月に真打昇進。痩せ形で現在の体重は52kg。雨の日は長靴に合羽の完全防備。Youtube「わさびのチューブ」にて紙人形芝居や自作アニメーション、創作らくごの制作過程など配信中。
▽柳家小里ん やなぎや こりん
21歳で入門、芸歴50年目、1983年9月真打昇進。大の映画好き。浅草出身なのでお祭りがとにかく好き。
▽瀧川鯉八 たきがわ こいはち
24歳で入門、芸歴13年目、2020年5月真打昇進。鯉八さんの似顔絵のLINEスタンプが発売中、スタンプは2種類ある。WOWOWでのドラマ「有村架純の撮休」にはまっている。ムビコレで「落語家・瀧川鯉八の映画でもみるか」を連載中。
レビュー
柳家花いち(やなぎや はないち)-だくだく
柳家わさび(やなぎや わさび)-亀田鵬斎
柳家小里ん(やなぎや こりん)-笠碁
瀧川鯉八(たきがわ こいはち)-ぷかぷか
先月は新型コロナウイルスの影響で休演を余儀なくされてしまった渋谷らくご。今月はどうなるのだろうと気にしていたところに「オンライン生配信」のお知らせが! 自宅のパソコンからユーロライブの見慣れた舞台、サンキュータツオさんのお顔が見えると、なんだかホッとした気持ちになりました。知らず知らずのうちに、笑いと落語に飢えていたのかもしれません。スタッフの皆様、演者の皆様、ありがとうございます。
柳家花いちさん 「だくだく」
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柳家花いちさん
そんな気の抜けた人物が主人公の『だくだく』です。2年溜めた家賃返済のため家財道具を一式売ってしまった男。何もないのは寂しいからと、壁・床・天井一面に白い紙を貼り、近所に住む絵の上手な先生に家財道具の絵を描いてもらうことにしましたが…。
花いちさんは表情の豊かさが魅力です。家賃2年分も溜めるなんて大変なことですが、まったく気に病むことなくニコニコ。抜けているというか天真爛漫というか…。表情から男の人物像が伝わってくるようでした。また花いちさんの声が少し高いのも「先生、走って走って」と次々に描かせる調子の良さにマッチしています。後半の「~のつもり」合戦もスピード感があり、オンラインで見ているとは思えないほど引き込まれました。
柳家わさび師匠 「亀田鵬斎」
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柳家わさび師匠
下谷金杉の裏長屋に住む亀田鵬斎という書家。名人気質で気に入った仕事しか引き受けない人物です。あるとき鵬斎の孫が迷子になってしまったところ、送り届けたのが屋台でおでん・燗酒を商う平次という男。鵬斎はお礼にと、屋台の看板である小障子に「おでん 燗酒 平次」と書き、鵬斎の落款を押して渡します。受け取った平次がいつも通り商いをしていると、小障子が鵬斎の書だと気づいた客が1両置いてその小障子を持って行ってしまいます…。
この『亀田鵬斎』という噺、わさび師匠の師匠である柳家さん生師匠がつくった新作落語なのだそう。あまりのクオリティの高さに、古典落語と言われても何の違和感もありません。わさび師匠は眉の動きが特長的。目を見開きクっと上げる、眉間にしわを寄せ悩む、困り果て見事な八の字に…と、感情を眉で表しているように感じました。また声色も多彩。高低差、ハリとしわがれ感などで使い分けているため、多数の登場人物がいても姿をしっかりイメージできました。名人にも関わらず平次に言い負かされそうになる鵬斎など、笑いもしっかり盛り込まれた一席です。
柳家小里ん師匠 「笠碁」
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柳家小里ん師匠
幼馴染の男二人はどちらも碁が大好き。二人で言い合いをしながら碁を打つ毎日を過ごしていますが、ある日、勝負中の「待った」は有か無しかで揉めはじめます。待ってほしい側が「以前お前に金を貸したとき、返済が遅れても俺は何も言わずに待ってやった」と昔の話を持ち出したところ、争いはヒートアップ。喧嘩別れとなりますが…。
待ってほしい側も、待ったは駄目だと言う側も、結局2人とも碁が打ちたいのが本音。口では相手に文句をたれながらも、心寂しい様子が行動や表情によく表れています。特に目を引いたのはいつものように家を訪ねてこないかと待ちわびている男の煙草の吸い方。舐めるようにもったりと吸う様子が、暇を持て余しているようにも、喧嘩してしまった自分を責めているようにも見えます。冒頭の煙草の吸い方はかなりリズムが良かったので、そことの対比も見事でした。また印象深かったのは、笠をかぶり行ったり来たりする男を見つめる際の目です。小里ん師匠は比較的目が細いイメージがありましたが、そのときの目はかなり黒黒。いつこちらに向かってくるのかと前のめりな様子が伝わってきて、口元が緩んでしまいました。
瀧川鯉八師匠 「ぷかぷか」
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瀧川鯉八師匠
「なんかいいことないかな~」という言葉に、妙な節と振りを付け口にする万太郎。町では知られた存在のようです。ある日その姿を見た音楽関係者から「レコードを出そう」と声をかけられ、万太郎、芸名ナイフ万太郎は、あれよあれよとスターの階段を上りはじめます。分かりやすく天狗になる万太郎に世間は手のひら返し。世の中から忘れられていきますが…。
よく、話についていけないときに「置いていかれる」という表現をしますが、鯉八師匠の場合は「連れていかれる」のほうがしっくりきます。テーマパークのアトラクション、ゴンドラに乗って夢の世界に誘われるような、そんな印象を受けました。その夢の世界が、鯉八ワールドと呼ばれるものなのでしょう。目の前でどんどん繰り広げられる万太郎の栄枯盛衰の様子にポカンとしていたはずが、気づけば「なんかいいことないかな~」と口ずさんでいる自分がいる(しかも振り付きで)。すっかり鯉八ワールドにのめりこんでいたようです。噺のなかでは良い意味で鯉八師匠の感情が見えない印象でしたが、サゲの一言「今日はみんなの前で落語ができた」だけは、鯉八師匠の心の声のような気がして、うるっときてしまいました。鯉八師匠の落語が聴けて、今日はいいことあったよ~。
写真:渋谷らくごスタッフ
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