渋谷らくごプレビュー&レビュー
2020年 12月11日(金)~15日(火)
開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。
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プレビュー
大ベテランでありながら、いまだ創意工夫に熱心な鯉昇師匠。その瑞々しい感性に、若い三人は立ち向かえるのか!?
来春真打昇進の昇々さん、聴かせる古典落語の志ん五師匠、不思議な空気感が持ち味の談吉さん、いずれも将来が楽しみな個性的な面々。「無難」とはほど遠い組み合わせ、なにかが起こりそうな予感がする会です。どうぞお楽しみに!
▽春風亭昇々 しゅんぷうてい しょうしょう
1984年11月26日、千葉県松戸市出身。2007年に入門、2011年二つ目昇進。2021年5月、真打昇進が決定。毎朝とにかく走り続けることを習慣にしている。手元にポン酢があったら、つけてしまう。ツイッターでは不思議な動画をアップし続けている。
▽古今亭志ん五 ここんてい しんご
28歳で入門、芸歴17年目、2017年9月真打昇進。2020年、国立花形演芸会金賞受賞。去年あたりからスケボーをはじめ、スケボーの練習動画をYouTubeにアップしている。Zoomのバーチャール背景を、三宅島にキャンプに行ってきた写真にしている。
▽立川談吉 たてかわ だんきち
26歳で入門、芸歴13年目、2011年6月二つ目昇進。先日映画「脳天パラダイス」を堪能した。先日、アボカドを買ってダシをつけて食べた。ドラクエシリーズの戦闘BGM中で、「ドラクエⅣ」のBGMが一番かっこいいと思っている
▽瀧川鯉昇 たきがわ りしょう
22歳で入門、芸歴46年目、1990年5月真打ち昇進。農学部出身、入門して最初に師匠から習ったことは「食べられる雑草と食べられない雑草の見分け方」。お弟子さんは温かく見守りながら育てる。お弟子さんは、鯉昇師匠のことが好き。
レビュー
春風亭昇々(しゅんぷうてい しょうしょう)-心の中
古今亭志ん五(ここんてい しんご)-厩火事
立川談吉(たてかわ だんきち)-弥次郎
瀧川鯉昇(たきがわ りしょう)-二番煎じ
春風亭昇々さん「心の中」
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春風亭昇々さん
そんなまくらから、相手の言っている言葉の真意を考えすぎる上に、自分のプライドが相まってこじらせている会社員が主人公の「心の中」という本編に突入。嫌いな同期に、気になる女子も参加する同期飲み会に誘われたにしもとさん。行きたくないけれど、気になるあだちさんには会いたい、じゃあちょっと「できる自分」を気取って営業先との約束のせいにして、遅刻参加にしてしまう。
昇々さんを見ているとエクストリームユーザーという言葉が浮かぶ。平均的なユーザーの生活に対し、極端な行動(日々プロ並みの運動量をこなす人とか)、問題意識やこだわり、環境などを持つユーザーを指すらしいのだが、昇々さんはそんなエクストリームさ、極端に繊細な感情や思考を持っているように見える。各人が持つごく限られた範囲のエクストリームさを、昇々さんはもっと幅広に持っている、頻繁に感じている、とでもいうのだろうか。だからこそ、会社や家庭といったありふれた状況に置かれた、感情や思考の振れ幅が大きい登場人物に、凡人でも共感できる場面を作れるのではないか。
もちょっと楽に生きていいんじゃない、と思うけれど、昇々さんのそのエキストリームな繊細さが、「うわ、ちょっとそれあるかも」と感じられる落語を生んでいるのだから人生って難しい。
古今亭志ん五師匠「厩火事」
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古今亭志ん五師匠
「厩火事」の物語は、髪結のおかみさんが喧嘩をした、もう離縁すると言って仲人に駆け込んでくるところから始まる。ところが仲人にあいつはダメだから離縁しな、と言われるとおかみさん、今度は亭主ののろけ話を始める。どっちなんだと呆れる仲人、それじゃ亭主を試すといいと言って、相手を思いやる唐土(もろこし)の君子の話と、逆に妻を思いやらなかった麹町のさる旦那の話をしてやる。おかみさんの旦那に対しても、大事な瀬戸物を持ったままよろけて割ってみるといい、とおかみさんに吹っかける。さて家に帰って早速試したおかみさんに、亭主がかけた言葉は。
たぶん、この試される側の髪結の亭主は小賢しい。おかみさんに怪我がないかを気にしておかみさんを喜ばすが、結局はおかみさんが無事でなけりゃ日中遊んで暮らせない、と言ってのける。一方のおかみさんは人が良すぎだし亭主に惚れすぎている。おかみさんは亭主の最後の発言の真意はとらず(盲目だから)、麹町のさる旦那と違い、自分は大事にされていると思い込む。そう思い込むであろうことを見越して、この亭主は最後の一言を発しているのではないか。しかし、亭主自身、結構あっけらかんとしてそうだし(割られた大事な瀬戸物にも全く執着しない)、なんだか憎めない、まぁなんだかんだでこの夫婦はうまくやっていくんじゃないだろか?と思されるのが、志ん五師匠の「厩火事」の夫婦なのだった。
立川談吉さん「弥次郎」
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立川談吉さん
噺自体はめちゃくちゃ嘘つきの弥次郎が、北海道にいってきたという土産話で、それがとてつもなくくだらない。北海道は寒すぎて、朝の「おはよう」が凍る、それを拾い集めて鍋で温めると、「おはよう」「おはよう」「おはよう」「おはよう」と、おはようが弾けて聞こえてくる。うわばみに飲み込まれてみたら、畳敷きの部屋に行きついて、そこに小型のうわばみのおかみさんがとメトロン星人が出てきて、もてなしてくれる、云々。
弥次郎の嘘がめちゃくちゃすぎて、ニヤニヤぐらいの沸点を超えない。マスクの上には出ないくらいの、しかも一歩遅れてふっと漏れ出てくるような、沸点の低い笑いばかりがこみ上げてくる。そう、これが談吉さんの狙いなのだ。しかし客がそんな笑いができるのは、話し手の熱量が高いからだ、と気づいた。
燃え盛る炎より炭火の方が熱を伝えるのに向いているという。談吉さんが熾火のように熱いからこそ、こちらはいい温度の笑いに浸っていられる、そう全ては話し手談吉さんの圧倒的な熱量のおかげなのだった。
瀧川鯉昇師匠「二番煎じ」
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瀧川鯉昇師匠
まくらが次から次へとうつっていき、それぞれが完成している。客の反応を待つような間もとらず、淡々と軽々とまくらを繰り出していく、あぁそれでもあのまくらの間に、師匠は今日の客の様子を探っていたのかしら、と思うのは後の祭りだ。
ゆるゆるとしていそうで実は高速回転だったまくらののち、本編は「二番煎じ」。そう冬の物語で、江戸時代の寒さはどんなだっただろうと思いを馳せられるくらいの間合いを、師匠はとってくださる。とはいえ、この話は結構人間のえげつなさを笑う話でもある。火の用心を町内に呼びかけるために月番たちが夜回りをする、その番小屋での出来事が描かれている。鯉昇師匠の描く月番たちの人間臭さは念が入っていて、二つに分かれた夜回り組だが、外に出るのがいやだから、もう一方の組が番小屋に入れないように戸に棒をかけとけ、とまで言い出していた。そしてもちろん最高に人間臭いのは見回りの役の侍だ。寒いのは皆同じ、侍だってお酒飲みたいものね。さて番小屋の旦那たちは二番を煎じておくのか、それとも何とかうまく逃げおおせるのか?ゆるゆると想像が膨らむ。
それにしてもまくらから、力みなく、ゆったり笑わせてくださる、これが師匠の貫禄なのだと感じた、冬の一席だった。
【この日のお客様の感想】
「渋谷らくご」12/12 公演 感想まとめ
写真:武藤奈緒美Twitter:@naomucyo
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