渋谷らくご

渋谷らくごプレビュー&レビュー

2020年 12月11日(金)~15日(火)

開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。

イラスト

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12月15日(火)20:00~22:00 立川談洲 三遊亭粋歌 立川吉笑 春風亭昇也 春風亭昇々 林家彦いち

「しゃべっちゃいなよ」創作大賞2020

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プレビュー

◎審査員:彦いち、タツオ、木下真之(ライター)、長嶋有(大江賞/芥川賞作)、アズマリム(Vtuber)
◎開演前に「渋谷らくご大賞」の発表あり

 隔月開催の創作らくごネタおろし会「しゃべっちゃいなよ」、いろいろあった2020年の大賞決定戦です。
 4月公演は9月に延期され、開催された「しゃべっちゃいなよ」。世相を反映した噺からバカバカしい噺までたくさんの噺が誕生しました。優劣をつけるわけではありません。今年の収穫を祝う会です。
 芥川賞作家、新作落語ウォッチャー、そしてバーチャルYoutuberまでもが審査をつとめる本年、大賞に輝くのはどの方でしょうか。乞うご期待。ちなみに「アズマリム」さんは以前にも渋谷らくごにプライベートでご来場経験がある、落語に興味のある方です。

▽立川談洲 たてかわ だんす
2017年1月入門、現在4年目、2019年12月二つ目昇進。ヒップホップ基本技能指導資格を取得している。先日、「相席スタート」の山崎ケイさんとの結婚を発表された。マッサージを受けに行くときなどに「落語家です」と言わないように心がけている。

▽三遊亭粋歌 さんゆうてい すいか
2005年8月入門、現在16年目、2009年6月二つ目昇進。「2016年創作大賞」受賞者。28歳で突如会社を辞めて落語家になった。落語を知るきっかけは、大江千里さん。よくいくスーパーは、SEIYUやLIFE。

▽立川吉笑 たてかわ きっしょう
26歳で入門、現在芸歴11年目、2012年4月二つ目昇進。もともとは酒豪だったが、酒断ちをしていまは炭酸水で過ごす。メールの返信から、画像編集などを次々とこなすスキルを持つ。先日、ハーレーダビッドソンの新車お披露目のイベントで、落語をやった。

▽春風亭昇也 しゅんぷうてい しょうや
千葉県野田市出身。2013年1月二つ目昇進。御朱印を集めている。楽屋風景をカメラにおさめる。先日キャリーバッグのタイヤが壊れた。久々に崎陽軒のシウマイ弁当を食べることができた。

▽春風亭昇々 しゅんぷうてい しょうしょう
1984年11月26日、千葉県松戸市出身。2007年に入門、2011年二つ目昇進。2021年5月、真打昇進が決定。毎朝とにかく走り続けることを習慣にしている。手元にポン酢があったら、つけてしまう。ツイッターでは不思議な動画をアップし続けている。

▽林家彦いち はやしや ひこいち
1969年7月3日、鹿児島県日置郡出身、1989年12月入門、2002年3月真打昇進。創作らくごの鬼。キャンプや登山・釣りを趣味とするアウトドア派な一面を持つ。今年の夏に、キャンプ場にて焚き火の横で落語をやった。

レビュー

文:木下真之/ライター Twitter:@ksitam

12月15日 20:00~23:00
「しゃべっちゃいなよ」創作大賞2020
立川談洲(たてかわ だんす)-やおよろず
三遊亭粋歌(さんゆうてい すいか)-新しい生活
立川吉笑(たてかわ きっしょう)-乙の中の甲
春風亭昇也(しゅんぷうてい しょうや)-うらめしや松次郎
春風亭昇々(しゅんぷうてい しょうしょう)-安心教
林家彦いち(はやしや ひこいち)-あゆむ

渋谷らくご創作大賞:春風亭昇々「安心教」
審査員:林家彦いち、長嶋有、アズマリム(Vtuber)、木下真之、サンキュータツオ

新型コロナウイルス感染症の感染症対策により、入場制限あり、配信ありで開催された2020年の創作大賞。審査員にはVtuberのアズマリムさんが加わるという、斬新なブッキングが実現しました。Vtuberの「人」がいらっしゃると思っていたら、バーチャルでの登場。考えてみればVtuberなのだからそれが当たり前。無知ぶりが恥ずかしい。

春風亭昇々さん

  • 春風亭昇々さん

審査員1人持ち点10点の投票(配分自由)と合議により、大賞に選ばれたのは春風亭昇々さんの「安心教」でした。日々の仕事にストレスの貯まっていたニシモト君が、本音を話すことしか許されない「安心会」に参加することで、会社でも本音をさらけ出すようになる。すると、次第に出世して、女子社員からもモテ出して……。というお話です。
初演時から比べると、かなり力が抜けていて、初演以上に面白おかしい昇々落語に進化していました。安心教の教祖と、ニシモト君のやり取りはテンポがよく、ギャグにも緩急があって飽きません。毒っ気はあるものの、現代世界に通じるテーマで、ニシモト君や教祖のキャラクターがそれを笑えるものに昇華させていました。思わぬ成功によってニシモト君が「本音」を言えなくなり、教祖たちに責められながら、オチに向かっていく構成もスキがない。総合的に見ても創作大賞にふさわしい一席でした。アズマリムさんが「ネットでもバズりやすい」と評価されていたのが印象的で、配信でもかなり受けていたようです。
2017年の渋谷らくご大賞を受賞している昇々さんですが、前年の2016年にはNHK新人落語大賞に自作の「最終試験」で出演し、トップの点を獲得したものの同点決勝で涙を飲んでいます。当時、テレビで見ていて、私自身も残念だったことを覚えているので、今回の激戦を勝ち抜いて優勝を飾ったことは嬉しく思います。題材的にリスクもありそうな「安心教」ですが、これから磨きをかけて育てていって欲しいです。

立川吉笑さん

  • 立川吉笑さん

審査員の1人として参加した中で、私の一番の推しは、立川吉笑さんの「乙の中の甲」でした。幼なじみのクマから「貸した金返せ」と言われたハチが、「“俺の中のお前(クマ)”はそんなこと言わない」「俺が“俺の中のクマ”に聞いてくる」といって自分の意識の中に潜っていくハチ。負けずにクマも、“自分の中のハチ”に会いに行く。現実と想像世界の2つの階層を行き来しながら、借金問題はどう決着が付くのかというお話です。
何度か、しゃべっちゃいなよで聴いた吉笑さんの創作落語の中でも、完成度は抜けていたように思います。芥川賞作家の平野啓一郎さんは対人関係ごとに見せる複数の顔が、すべて「本当の自分」である。環境によって自分のキャラは変わり、そのキャラを「分人」と表現しています。ハチの中のクマも分人の1人であり、本当のクマなんです。だから想像の中のキャラでも、会話が成立しています。ただ、想像の世界は完全に同一でなくて、クマの頭の中の世界には隠居さんがいて、番頭さんまでも出てくるし、会いに行ったハチは常に不在。その違いが何ともいえず楽しいし、お笑いとしても高度です。
今回それだけでなく、ハチとクマが幼なじみで、幼いころの約束のくだりを後半部に入れてドラマチックな展開に。「何だろう」と思わせて結果的に大きな意味はない。変化の入れ方もえげつない。演じ方の工夫も随所にあって、マクラから本編への入り方、現実世界から頭の世界へのアクセス、饅頭を使って俺の中のお前を説明するくだりなど、ゾクッとさせられました。
コンテストなので、1位と2位が出るのは避けられないものの、「推し」として推し切れなかった申し訳なさは残っています。入門10年でここまで到達した吉笑さん。次作以降も楽しみにしています。

三遊亭粋歌さん

  • 三遊亭粋歌さん

粋歌さんの「新しい生活」は、6月の初演が印象に残っています。日本中が緊張感にあふれている中で、テレワークによって終日自宅に居るようになった夫のせいで、日常を奪われた専業主婦の心の叫びを、粋歌さんならでは切り口で聞かせてくれました。
決勝でも粋歌さんが有利になるかもしれないと予想していましたが、観客の共感を呼ぶ演目だけに、会場のお客さんの数が限定されていたことは不利だったかもしれません。
前半は、無神経な夫の言動を仕込む伏線の部分なので、どうしても笑いは少なめになります。その代わり、無神経な夫の「ステイホームで俺は整った」のセリフきっかけで徐々に妻が切れていき、最後に「無理、無理、無理、無理、ムリー!!」と叫ぶシーンで爆発する仕掛けです。満員のお客さんの前だったらもっと盛り上がって、もっと笑いが増えていたかもと思うと残念ですが、これも「新しい生活」なんでしょうね。

立川談洲さん

  • 立川談洲さん

トップバッターの談洲さんの「やおよろず」。ロンドン行きの機内で子供の急病人が発生し、CAが「お客様の中にお医者様はいらっしゃいますか?」と問いかける中、「神の○○を持つ達人」たちが現れて命を救おうとする話です。次々とギャグの連射でたたみかけてきて、休む暇も与えてくれません。演じ分けも自然なので、違和感なく談洲さんの描く世界に入っていくことができました。
落語を知らない人にもなじみやすいし、基本がしっかりしているので、落語を聞き慣れた人でも笑いのセンスに共感できる。今年は9月のシブラクで見た「蜜の味」「むかつく」も面白かったですし、配信で聞いた「イン東京」というネタも面白かった。入門4年、二ツ目1年でここまで高いポテンシャルを発揮できるのは驚異的なので、これからも面白い創作落語が聞けることを楽しみにしています。

春風亭昇也さん

  • 春風亭昇也さん

前説でタツオさんが言っていましたが、今年のしゃべっちゃいなよの創作大賞は、決勝エントリーを決めるまでも、激戦だったようです。その中で堂々と決勝に進んだ昇也さんの「うらめしや松次郎」はダークホース的存在。期待どおり無欲で戦って堂々とした高座を見せてくれました。
物語は、豆腐屋の松次郎と恋人に振られて死んだ男の幽霊との交流話。幽霊と松次郎の会話が軽やかで、極端に幽霊を恐れていた松次郎が、徐々に幽霊に慣れていき「明るい驚かせ方」を指南していくくだりが最高でした。幽霊に遭遇時に「殺さないで!」と訴えて舞台をのたうちまわる。手のひらを上にして現れる幽霊の仕草に対して「お前はすしざんまいか」というツッコミのセリフ。随所に昇也さんの工夫が見られて楽しかった。今年は4年ぶりの登場でしたが、次の参戦にも期待が膨らんできました。

林家彦いち師匠

  • 林家彦いち師匠

最後の彦いち師匠の「あゆむ」は見ることがでいませんでした。トップバッターの談洲さんが、マクラで振った旅先での彦いち師匠似の人との遭遇話の真偽はどうだったのか。とても気になります。
2020年のしゃべっちゃいなよは、4月が中止になり、8月、9月、10月と3カ月連続の開催となりました。落語家さんも開催かわからない不安定な状況の中、渾身の作品を披露してくれて本当に楽しませてもらいました。皆さんには敬意しかありません。2021年も新しい落語に出会えることを楽しみにしています。

渋谷らくご大賞 「おもしろい二つ目賞」

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    立川笑二さん

「楽しみな二つ目賞」

  • 田辺いちかさん

渋谷らくご「創作大賞」

  • 春風亭昇々さん

授賞式の様子



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「しゃべっちゃいなよ」12/15 公演 感想まとめ

写真:武藤奈緒美Twitter:@naomucyo
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