渋谷らくご

渋谷らくごプレビュー&レビュー

2021年 1月8日(金)~12日(火)

開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。

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1月8日(金)20:00~22:00 三遊亭兼太郎 立川笑二 桂春蝶 蜃気楼龍玉

「渋谷らくご」配信落語シアターへようこそ ~龍玉劇場~

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プレビュー

●無観客配信のみ

 緊急事態宣言を受けて急遽無観客配信になりました。が、考えてみれば、家でこんなに贅沢な配信向きの会もないです。
 トリの蜃気楼龍玉師匠は、ぜひ家の電気を少し暗くして集中して聴いてもらいたい、単館上映映画のような濃密な心理描写が魅力。そこに上方落語の春蝶師匠が組み合わさって、観たこともない落語会になるはずです。
二年連続の渋谷らくご大賞の立川笑二さん、軽くて楽しい兼太郎さんと、注目の二つ目も登場です。

▽三遊亭兼太郎 さんゆうてい けんたろう
23歳で入門、芸歴8年目、2017年二ツ目昇進。RIZINで話題となった弥益ドミネーター聡志選手とは一緒に練習をしていた仲だった。インスタグラムでも近況を報告している。今年の手帳は、えんじ色。

▽立川笑二 たてかわ しょうじ
20歳で入門、芸歴10年目、2014年6月に二つ目昇進。この年末年始は弟弟子の立川談洲さんとカラオケボックスでネタ合わせし続けている。昨年は1日50キロ自転車を漕いでダイエットに成功した。

▽桂春蝶 かつら しゅんちょう
19歳で入門、芸歴27年目、2009年8月、父の名「春蝶」を襲名する。最近は早寝早起き生活になっている。先日娘さんと「STAND BY ME ドラえもん 2」を観に行った。お正月にお雑煮を直感で作ってみた。

▽蜃気楼龍玉 しんきろう りゅうぎょく
24歳で入門、芸歴24年目、2010年9月真打ち昇進。身長が181cmと背が高い。ツイッターではプライベートの様子をツイートすることがなく、いまどのように過ごしているか知ることができない。ものを食べずにひたすら呑むとの噂。

レビュー

文:高祐(こう・たすく) Twitter:@TskKoh(旅行本がたまる今日この頃。今年の目標は「仕事が楽しくなるようにがんばる」。)

三遊亭兼太郎(さんゆうてい けんたろう)-黄金の大黒
立川笑二(たてかわ しょうじ)-鉄拐
桂春蝶(かつら しゅんちょう)-松曳き
蜃気楼龍玉(しんきろう りゅうぎょく)-大仏餅

緊急事態宣言のおかげで急遽無観客、オンライン配信のみとなった平日20時の回。演者の方々はそれぞれ、やりづらさを感じておられるのだろうが、オンライン向けに視線を飛ばしてくれるのは嬉しい。東京の乾いた寒い夜、ぬくぬくとオンラインで視聴した。

三遊亭兼太郎さん「黄金の大黒」

  • 三遊亭兼太郎さん

年初めの一席が無観客配信になってしまった兼太郎さん。それでも会があるのはありがたいとおっしゃって始められた。
聞けば、なんと年末の格闘技イベントに出ていた格闘家と昔一緒に練習していたという。個人的に偶然その試合を見ていたので、兼太郎さんの格闘家の経歴に驚いた。落語家の方々が落語家になる前の人生を本編の前のまくらで話してくださることがあるが、それが今の落語にもどこかしら生きているのではないかと思ってしまう。何より人として身近に感じられる。
この日の本編は「黄金の大黒」、長屋の大家さんの息子が金の大黒様をみつけてきてめでたいから店子たちを招くが、その対応に右往左往する店子たちの話だ。
落語には時々不思議な設定がある。店子たちに紋付きの羽織りを着てこい、と大家さんは言うが、大半が着たきり雀の店子たちのこと、大家さんは彼らが紋付きの羽織りなど持っていないことを知らないのだろうか?言っても同じ町内、というか同じ一画に住んでいる風であるのに、だ。これは嫌味なのか?紋付きすら着て来られないやつに、鯛がのった御膳の味などわかるまい、ということなのか?しかし、無事に店子たちが御膳にありつけたところを見ると、そこまで嫌な大家でもなさそうである。
とはいえ、太っ腹な大家といい、ご馳走にありついてハメを外す店子たち、そして最後に楽しいから恵比須を呼びに行くと言ってなんと走り出した大黒様、めでたく楽しい噺は、年初めにぴったりで楽しませていただいた。

立川笑二さん「鉄拐」

  • 立川笑二さん

2020年の渋谷らくご大賞受賞、おめでとうございます!2年連続の受賞とのことで、いやほんとにまったく一ファンとしても嬉しい限りだ。今回の一席でも所作にキレが増したように見受けられ、一席一席進化していてかつ進化のスピードが止まらない。
本編は中国が舞台の「鉄拐」という噺で、笑二さんご自身も「珍しい」と言っていたと思う。ところがパソコンの変換で「てっかい」と打つと、2つか3つ目の候補ですぐに「鉄拐」に変換される。ググってみると絵にも描かれている、中国でも有名な仙人だそうな。そんな仙人になるまで修行を務めたのに、堕落していく鉄拐仙人をめぐる物語だ。
昨今の笑二さんは、底意地の悪さを描いたら天下一品だ。鉄拐を下界に連れてこようとたぶらかす商人も、堕落していく鉄拐も、鉄拐の弟弟子の仙人も、少しずつ底意地が悪い。しかもそういう底意地の悪さを自分のあり方として彼ら自身受け入れているようでもある。そんな人物たちが、観ている者に問いかけてくるのだ、あなたも同類でしょう、と。そして彼らがどこか憎めず共感してしまうためにこちらとしても否定できない。
聴いた後で、後味の悪さがないと言ったら嘘になる。が、確かにそういう部分ありますね、でどうしたらいいですかね、と太々しく自分に問い返してみたくなる。どうやら一種のカタルシスのようなのだが、それがあまりに不思議な感覚で慣れない、だから不快に近い「後味」もある。飲み終わった後のコーヒーの苦味のように、その慣れない不快ささえ楽しませてくれるのが笑二さんの落語なんだな、と思った一席だった。

桂春蝶師匠「松曳き」

  • 桂春蝶師匠

春蝶師匠が無観客配信にのぞむのは2度目、しかもいずれも渋らくでとのこと。ということは常にお客さんがいる席に声がかかる売れっ子師匠なのだ。公式HPをみると、東京を拠点に移したとあるが、元々は関西の方であるから、東と西、どちらでも出演機会があるというのはやはり強いのだろう。
いや、機会があったからと言って皆が皆、声がかかるわけではあるまい、声がかかるのはやはり師匠が安定して笑いを提供してくださるからだ。まくらからしてハズレ無し。春団治師匠との思い出を語る今回のまくらでも、弟子としての心理戦と賭けにでた弟子に対する師匠の反応に爆笑させられた。いつも観客の反応を伺いながらまくらをふる師匠のこと、今回はその配慮なし(?)に弾けたテンションのまま本編「松曳き」へ。
すっとぼけた殿様と、その家来田中三太夫が、互いに言い間違い、早とちり合戦を繰り広げ、そこに少し真っ当な植木屋一家が巻き込まれる噺なのだが、このすっとぼけた殿様から植木屋までの振れ幅が激しい。甲高い声でとぼけた殿様を演じる時には、顔をすっと表にあげ、何なら膝立ちになり、師匠の顔が白塗りされたように見える(バ○殿様が浮かぶのは世代的なものか)。一方で、ちょっとまともな植木屋の際は声が低くなり、姿勢も低くなる。そして、虎の威を借りる三太夫はバカ真面目に背筋を伸ばしているが、あほには変わりない。それぞれの個性が立ちまくっていた。
最初は観客がいなくてやりにくそうだった師匠だが、最終的にはいないなりの面白さを見出されたように、ふり切れた演技がまたおかしかった。

蜃気楼龍玉師匠 「大仏餅」

  • 蜃気楼龍玉師匠

個人的に今、この師匠から目が離せない。独演会などにはまだ伺えていないから、ファンというのもおこがましいが、なんというか自分との相性が良い(と勘違いさせてくれる)師匠なのだ。
「今回は珍しい噺をやります、珍しいというのはつまり、演じ手が少ない、面白くない(?)」と言った説明があったのだが、加えて時代的に少しわかりにくい、というのもあるのだろう。しかし、師匠のこと、さらりとまくらで説明した上で聴かせてくれるのだ。
本編の「大仏餅」は、元々は大仏餅、袴着の祝い、にわかの盲乞食、その三つのお題を使って即興で噺を作る三題噺だったととのことだが、袴着の祝いはギリギリ許せるとして、成り立ての盲乞食という設定は無茶すぎると思うのは私だけだろうか。それはさておき、話は雪の吹き荒ぶ夜に、裸足の子供が、怪我をした盲乞食の父親の薬を求めて商家にやってくるところから始まる。寒い、痛い、貧しい、これだけでもうそこは龍玉ワールドなのだ。しかし今回は商家の旦那のおかげで、少しずつ温かさが増し、痛みが和らぎ、貧しさももしかしたら、という期待に変わっていく。
朝鮮さはりの面桶(←これで「めんつう」と読む)が示す意味とか、着袴の儀とか、特に音だけ聞くと馴染みがない言葉もある。でも聞いていけば、それが高級茶碗を乞食がご飯をもらう器として使っていることとか、子供の成長を祝う場だとわかるし、それで噺を聞くには十分なのだ。そんな風に師匠は耳馴染みのない言葉を使っても、それが何なのかちゃんとわかるように話しているし、そういうスピード感なのだ。頭の中のイメージを、豊かに膨らませてくれる語彙とスピード感、これが自分とぴったりするような印象を、師匠は抱かせてくれる。

それにしても後半の春蝶師匠と龍玉師匠、コントラストの差が激しすぎて、おかしすぎた。この流れを作ったのはほっこりとした兼太郎さんと底意地の悪さを見せつける笑二さんであり、この4人がコントラストの幅を見せ合いながら楽しませてくれた会だった。
写真:渋谷らくごスタッフ
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