渋谷らくごプレビュー&レビュー
2021年 7月9日(金)~14日(水)
開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。
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プレビュー
描きだす世界が圧倒的な演者たち! トリの扇辰師匠の語りは、聴いているだけで異世界の空間と時間を感じられるほど圧倒的です。ぜひ一度体験していただきたい! ベテランの小里ん師匠は、江戸の世界の住人たちのリアルな息遣いが伝わってくるようで、ずっと聴いていられます。
このたび真打に昇進した昇々さん、渋谷らくごを代表する演者のひとりです。登場人物、全員昇々! 二つ目のあお馬さんは、人物の感情がお客さんにも伝わるように、勢いがありながら丁寧さが光る演者さんです。浸ってくださいませ。
▽柳家あお馬 やなぎや あおば」
25歳で入門、芸歴7年目、2019年2月二つ目昇進。ツイッターでは絵文字を多用している。銭湯巡りが趣味。学生時代は意外にも金髪だった。御徒町にあるお店の「馬肉ハンバーグ」が気になっている。引退する直前の勢のポストカードを買うことができた。
▽春風亭昇々 しゅんぷうてい しょうしょう
1984年11月26日、千葉県松戸市出身。2007年に入門、2021年5月真打昇進。「2020年渋谷らくご創作大賞」受賞。日々ずっとふざけている。先日、家の鍵とクレジットカードと免許証を無くしてしまったが、それでもふざけようと戦っている。
▽柳家小里ん やなぎや こりん
21歳で入門、芸歴52年目、1983年9月真打昇進。大の映画好き。浅草出身なのでお祭りがとにかく好き。前座修行中は、小さん師匠の家で住み込みをしていた。シブラクの楽屋で、はじめてタピオカミルクティーを飲んだ。
▽入船亭扇辰 いりふねてい せんたつ
25歳で入船亭扇橋師匠に入門、現在入門32年目、2002年3月真打昇進。iPadを使いこなし、気になったものはすべて写真におさめている。家で水耕栽培している植物にボウフラがわかないよう、メダカを泳がせている。一仕事終えるとハイボールを飲む。
レビュー
柳家あお馬(やなぎや あおば)-蒟蒻問答
春風亭昇々(しゅんぷうてい しょうしょう)-指定校推薦
柳家小里ん(やなぎや こりん)-お化け長屋
入船亭扇辰(いりふねてい せんたつ)-鰍沢
東京ではコロナの感染者数がじわじわと増加し、ついにと言うかやはりと言うか翌日から再び緊急事態宣言という日曜日。天候も不安定で気分も落ち込みそうな時に、まさに「気晴らし」になる落語は救いだ。
柳家あお馬さん「蒟蒻問答」
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柳家あお馬さん
しかし難しい言葉が滑稽に聞こえるほど、偽和尚たちがとても人間臭い。あお馬さんってこんなに芸達者だったかな(失礼)と思うほどに、突如仕立てられたにわか和尚のうさんくささ、代々の和尚に仕えてきたらしい、田舎下男の欲丸出しさ加減が激しい。この二人の人間臭さ具合と比べると、昔親分だったという蒟蒻屋がぐっとしっかり見えてくるのだから余計におかしい。いやこの親分も、そんな問答を仕掛けてくる僧なんか熱湯かけて追い払っちまえ、というのだからかなりの乱暴者ではある。彼らに生真面目を絵に描いたような僧が問答を仕掛ける。どう考えてもにわか和尚達が太刀打ちできるはずはないのだが、結局はこの僧の方が泡を食って逃げる。人生をかけて悟りを開こうとしている修行僧を負かしたような形で、自分の欲に忠実な人間たちが得をする、元々はきっとそこに嫌味があるのだろうけれどそれはさておき、人間らしさ万歳なおかしさをたっぷり楽しませていただいた一席だった。
春風亭昇々師匠「指定校推薦」
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春風亭昇々師匠
この日の本編は創作落語の「指定校推薦」。某有名私大W大学の文学部に指定校推薦枠を狙い、5段階評価のうち2をつけた科目の先生に、評点を上乗せしてくれるよう掛け合いにいく柴田くんのお話だ。実話を交えて作った噺と言われると、どこまで実話なのだろうかという疑問が湧いてくる。何せ、平均評点4.0への執着がすごい。評点が2だった音楽の教師に対しては、2の下にくるっと書いて3にしてください、とか、数学は試験が30点で本当は赤点、1評価のところすでに温情込みで2になっていたのに、それを3にしてほしいと言っていたりとか。 見ていて、あ、昇々師匠って俳優の堺雅人に似ているな、と思っていたのだが、某大学への志願理由も堺雅人になりたい、菅野美穂を奥さんにできるような俳優になりたい、ということだったので驚いた。そしてその落ちまでも。
しかし恥も外聞もない執着力、強調されているとはいえ、ただものではない。昇々師匠のこの強力な執着力は芸にとても生きていると思うので、ぜひこのまま突っ走っていただきたい。
柳家小里ん師匠「お化け長屋」
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柳家小里ん師匠
能面のような眼の座った無表情で、もちょっとこちらに、と手招きされると後退りしたくなる。その表情がすでにホラーなのだ(顔が怖いということでは決してない)。またその手招きも、幽霊のような下向きの手。はい、ここから先は向こう側に行く話ですね、と明らかにわかる。さらには「店賃は、、、払っても払わなくてもいいです」というくだりの、明らかに不自然な会話の間。表情としぐさと語りで、作り話(しかも落語の中の)とわかりきっている怖さを最高に楽しませてくれるエンターテインメントなのだった。
入船亭扇辰師匠「鰍沢」
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入船亭扇辰師匠
実はあるツイートで「鰍沢」を夏に聴いたと読んで、聴いてみたいと思っていた。どんなふうに寒さを実感できるか感じてみたかった。「鰍沢」を冬に聞くと凍える。東京の寒さでは実感できないかもしれないが、学校の行き帰りなどで寒さと雪に途方にくれた人間にとっては、寒い季節にあの寒い噺は結構こたえる(主に心の方に)。もちろんそれはそれでいいのだが、夏にどう感じるかは体験してみなければわからない。
雪降りしきる山道をゆく旅人が、心が折れそうになったときに一軒家を見つけて入れてもらい、囲炉裏の火にあたる場面がある。扇辰師匠はこの旅人が囲炉裏にあたる場面を丁寧に演じられていて、手を囲炉裏にかざす仕草から、痛みを伴いつつもじわじわと手が暖まる感覚がたまらないという表情をしていく。夏に、真冬の物語の中で、主人公が火にあたって暖をとっている、その非現実さを楽しんでいることに気づかされる。映画を見ているようで、ちょっと違う。むかし、カリフォルニア(?)の金持ちは真夏にクーラーを思い切りきかせて暖炉の火をたくと聞いて、呆れ驚いたが、例えるならそんな非現実さに近い。
物語はこのあと、旅人が女主人に痺れ薬(毒薬)を盛られたりだとか、断崖絶壁に追い詰められて飛び降りたら筏に乗っかっていたりだとか、さらに非現実的、荒唐無稽な展開が待っている。暑さという現実から切り離され、さらに熱を再発見するような非現実的な感覚、この感覚に浸った至極の一席だった。
写真:武藤奈緒美Twitter:@naomucyo
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