渋谷らくご

渋谷らくごプレビュー&レビュー

2021年 12月10日(金)~15日(水)

開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。

イラスト

イラスト

12月10日(金)19:00~21:00 柳家勧之助 入船亭扇里 田辺いちか** 立川談笑

「渋谷らくご」立川談笑、登場!

ツイート

今月の見どころを表示

プレビュー

 年に一度、「渋谷らくご」に出演してくださっている立川談笑師匠。今年も12月の初日に登場です!
 落語立川流にあって一際輝きを増している師匠です。とにかくお忙しい師匠が皆様のために、一夜を頂戴しちゃいました! 最終日の創作らくご「しゃべっちゃいなよ」には、お弟子さん三人ともがエントリー。その弟子をも育てた談笑師匠、常に落語をもっと面白く、そして聴きごたえのあるものにできないかと進化し続ける大真打です。
 そんなスペシャルな公演には、若手随一の出演者が顔をそろえました。真打としての人気も実力も若手のなかではピカ一の勧之助師匠も、古典落語を現代の方にも楽しめるように工夫を続ける人物。一方で扇里師匠は逆張りの男、ヴィンテージの語り口で古典の味をそのままに。講談の新星 いちかさんは12月にどのような演目を選ぶのか⁉ とにかくすごいメンバーです!
 もちろん、初心者の方にも超オススメ!

▽柳家勧之助 やなぎや かんのすけ 落語協会
2003年21歳で柳家花緑師匠に入門、現在芸歴19年目、2018年9月真打昇進。ヤクルトスワローズファンなので、今年は大興奮の1年だった。たまにツイッターにアップする写真のモザイクが荒い。

▽入船亭扇里 いりふねてい せんり 落語協会
19歳で入門、芸歴26年目、2010年真打ち昇進。食べられない時期は競馬で稼いでいた。熱狂的なベイスターズファン。いま「ソーイング・ビー」にはまっていて、将来オーバーオールを着ようと思っている。頑なにガラケーをつかっているが、最近調子が悪い。

▽田辺いちか たなべ いちか 講談協会
2014年に入門、芸歴8年目、2019年3月に二つ目昇進。2020年渋谷らくご「楽しみな二つ目賞」受賞。いま講談師を描いた漫画「ひらばのひと」に夢中。ツイッターでは「キラキラ」や「クラッカー」の絵文字を多用する、最近は「ビックリマーク」も多用する。

▽立川談笑 たてかわ だんしょう 落語立川流
27歳で入門。芸歴29年目。2003年真打昇進。早稲田大学法学部を卒業後、司法試験勉強中に落語に出会い落語家になる。司法試験の暗記法を駆使して、入門してすぐに落語50席を戦略的にマスターする。最近は、イヌとネコとの偶然の出会いを求めて散歩をし続けている。

レビュー

文:高祐(こう・たすく) Twitter:@TskKoh

柳家勧之助(やなぎや かんのすけ)-天災
入船亭扇里(いりふねてい せんり)-叩き蟹
田辺いちか(たなべ いちか)-黒雲お辰
立川談笑(たてかわ だんしょう)-富久

柳家勧之助師匠 「天災」

  • 柳家勧之助師匠

どの業種でもそうだと思うが同じ業種につく二世三世がいる。特に芸事の世界ではそのアドバンテージは大きそうだ。幼少時から蓄積された圧倒的アドバンテージを備えた二世三世に、地方出身者は経済的にも経験的にも遠く及びない。そう、勧之助師匠の師匠である花緑師匠も祖父に大名人柳家小さん師匠を持つ。
しかし少なくとも落語では二世三世以外の人気実力派の落語家もたくさんいるのが不思議なところだ。勧之助さんは地方出身者の、特に経済面での不利を嘆いておられた。二つ目が一般的に過ごす10年間で最低1,000万は都内出身者と地方出身者では経済的な差があるとおっしゃる。言いたい気持ちはわかる。でもしっかり真打になられて活躍される勧之助さんが嘆くことはないじゃないですかと思っていると、生まれ持った環境で全然扱いが違う、という話から、突然読み書きができず喧嘩っ早い江戸っ子八五郎が主人公の「天災」の一席に突入した。
個人的には勧之助師匠の貫禄が好きで、「堪忍袋の心得」を説くおじいちゃん心学者の表現力に期待したのだが、それ以上に威勢のいい八五郎がカッコ良かった。八五郎にかかると「天災」が「てんせー」になり、それが奥さんには「天せいろ」と聞こえているところもおかしい。しかし八五郎が「天災」を本当に理解したのかは怪しい。結局これも話のネタ、そしていずれは喧嘩のネタになるんだろうな、と思わせるような勢いで面白がっている八五郎の「天災」の一席だった。
生まれた環境にかかわらず、人生は面白くできるのだ。

入船亭扇里師匠 「叩き蟹」

  • 入船亭扇里師匠

2年ぶりに静岡県の学校で公演をしてきたとおっしゃる扇里師匠。密を避けるために全校生徒を分けて行なったので3公演演じられたとのこと。じゃあギャラ3倍かと期待したら、「すみません」と言われたという。朝5時前に起きて1時間×3公演、穏やかな語り口の師匠からは、そのアクティブさぶりが想像できずに逆におかしかった。
その公演の夜に、生徒と思われる方から「今日は面白かったです、ありがとうございました」というTwitterのDMがきたという。それを読んで若いファンを増やしたいと思ったそう。しかし若い人を開拓するには芸風がなぁとおっしゃっていた扇里師匠、いえいえ、なかなかな引き込み型の語りなので、少なくとも一定数の若者に受け入れてもらえるんじゃないでしょうか。
そこで今回の本編は子供を救う噺、売り物の黄金餅に手を出して折檻されそうになっている子供を救う名大工の「叩き蟹」の一席。扇里師匠の演じる左甚五郎の噺はどれも最高だ。日光東照宮にある左甚五郎の作ったと言われる眠り猫は有名だが、それを見たときに私はまず扇里師匠の「ねずみ」の噺を思い出した。
この「叩き蟹」の噺に季節感はあまり感じられないのだけれど、心がほっこりする物語で気持ちが温まる上に、最後の師匠のカニのポーズがかわいくてたまらない。年末に聞けて大満足の一席だった。

田辺いちかさん 「黒雲お辰」

  • 田辺いちかさん

「あらたまの春」の「あらたま」が新しい玉あるいは荒々しい玉で、これから磨いて輝く玉、古い一年が終わってキラキラした1年が始まるよ、という意味で好きな枕詞だとおっしゃるいちかさん。2020年末の渋谷らくご「楽しみな二つ目賞」受賞から早一年、その期待に違わず、毎回違う魅力的な表情を見せてくれるいちかさんの2022年の活躍が楽しみでならない。
今回の一席は「黒雲お辰」。田舎の領民が、領主の苦境を救うために集めた75両、これを江戸にいる領主に届けた正直な爺さん新兵衛さん、しかし生馬の目を抜くと言われる江戸の街を歩いて届ける間にすられてしまう。これを救うのがスリの胴元「黒雲のお辰」という女性だ。
いちかさんの演じる、黒雲のお辰の円熟さと色気が目に浮かび、梅や桜の花に例えられてお辰の持つ香りが漂ってくるようだった。威厳を持ったお侍とも違う、プライドと強い精神力を感じさせるいちかさん演じる黒雲のお辰に惚れない者がいるだろうか。
新兵衛爺さんを救った黒雲のお辰だが最後には新兵衛爺さんの信心に助けられる。情けは人のためならず、前の扇里師匠の一席でもでてきたが、それが聴く者の心を温めてくれた一席だった。

立川談笑師匠 「富久」

  • 立川談笑師匠

談笑師匠のまくらの時事ネタが好きだ。そのネタは最新、かつぼんやり感じていたことをはっきりおっしゃっていただいて(某私大理事長の人相の悪さとか)ニヤニヤが止まらない。しかも話を次々展開していく。神社によく立ち寄られるという師匠によれば、今神社に必ずあるという自動手洗い装置、あれを売り込んだ業者がいるはずだ、とか、複数の場所でフルネーム入りの恋愛成就の絵馬を発見した衝撃とか。ぜひ、師匠にもその手の絵馬を書いていただきたいと期待してしまう。
そんなまくらを振りながら、今日は何の噺がいいかを頭をフル回転で考えているという師匠、決まりましたと言って始まったのは古典「富久」の一席。
太鼓持ち、いわゆる御座敷に呼ばれて、何の芸でもして旦那のご機嫌をとる芸人だが、ある太鼓持ちの最高の悲劇と喜劇が約24時間内の物語として語られる。通っていた旦那から食らっていた出禁が解けた太鼓持ち、しかし即再度出禁を喰らう。さらになけなしのお金で買ったくじで1000両当たったと言われたけれど、盗まれたと白状したらそれは権利がないと言われて白目を剥いてお天道様を恨む。談笑師匠の表情が狂気すぎる。
しかしこの太鼓持ちは根っからの芸人で、1,000両当たってもやりたいことはお座敷芸を披露してお客に笑ってもらうこと、何というプロ意識、かっこいいじゃないですか、お天道様、どうぞ1,000両当ててやってくださいまし、と観客も思ってしまう。
公演の後、丁寧に頭を下げて、「去年今年は大変な年でしたね。来年はいい年になりますよう」とおっしゃってくださった談笑師匠。談笑師匠にとってもいい年になりますように!!!