渋谷らくごプレビュー&レビュー
2022年 6月10日(金)~15日(水)
開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。
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プレビュー
3ヶ月に一度の登場の菊之丞師匠、梅雨時期の菊之丞師匠が放つ、流麗な音楽のような高座は必聴です。
さらに今回は上方の桂春蝶師匠、サービス精神満点の高座で客席を沸かせ続ける、春團治一門の白眉。独自のリズムで刻む落語のビートがくせになります。
二つ目の注目株の遊子さんは古典を愛する丁寧な演出が聴きどころ、笑二さんは聴きなれた古典にも常に発見的な要素を盛り込むファンタジスタです。素晴らしい演者さんたちが揃った公演です。
▽三遊亭遊子 さんゆうてい ゆうこ 落語芸術協会
23歳で入門、芸歴10年目、2016年6月二つ目昇進。おしゃれなスニーカーを履いている。10kmを38分台で走るほど俊足、鼻呼吸をするとゾーンに入れるとのこと。先日iPhoneの写真フォルダの中に、自撮り画像があったが、撮った記憶がない。
▽桂春蝶 かつら しゅんちょう
19歳で入門、芸歴29年目、2009年8月、父の名「春蝶」を襲名する。先日、話題になっているプロ野球の白井審判に顔が似ているとネットに投稿されているのを見つけた。最近はインスタライブを積極的に行っている。頭を使った後に食べる甘いものが好き。
▽立川笑二 たてかわ しょうじ 落語立川流
20歳で入門、芸歴11年目、2014年6月に二つ目昇進。2019年と2020年の「渋谷らくご大賞 おもしろい二つ目賞」受賞。20年以上、自分でバリカンを入れて頭を剃っている。牢屋で泣いている夢を頻繁に見ていた。
▽古今亭菊之丞 ここんてい きくのじょう 落語協会
18歳で入門、芸歴32年目、2003年9月真打昇進。家の電球を取り換える時だけ、おかみさんから「師匠」と呼ばれる。旅先ではラーメンやお蕎麦など麺類を食べがち。「孤独のグルメ」で取り上げられたお店にもふらっと訪ねてみたりするほどフットワークが軽い。
レビュー
三遊亭遊子(さんゆうてい ゆうこ)-七段目
桂春蝶(かつら しゅんちょう)-中村仲蔵
立川笑二(たてかわ しょうじ)-青菜
古今亭菊之丞(ここんてい きくのじょう)-鰻の幇間
三遊亭遊子さん 「七段目」
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三遊亭遊子さん
本編は芝居好きの若旦那に大旦那から小僧まで振り回される「七段目」。芝居好きが高じて日常生活も芝居っけのある若旦那、大旦那へのお詫びも芝居がかっている。番頭も口上風に話し出すかと思えば、大旦那に言われて宥めに入った小僧も芝居好きらしい。この小僧が女形を演じる時の、遊子さんの表情がやたらと楽しそうで、色っぽい。遊子さんが演じる江戸の小僧が演じる女形が色っぽいって…結構難しそうなのにニヤニヤさせられる一席だった。
桂春蝶師匠 「中村仲蔵」
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桂春蝶師匠
大部屋の役者から名題(師匠と呼ばれる立場)まで上り詰めた歌舞伎役者の中村仲蔵が、名題になって初めての舞台。しかし名題には似つかわしくない役を与えられ、その役をどう演じるのか、が聴きどころのこの噺。春蝶師匠のこの噺を聞くと、歌舞伎の一幕を見たかのような後味が残る。例えば仲蔵が参考にしたという、浪人が蕎麦屋に入ってくる場面。傘をびゅっびゅっと降る仕草や、伸びた月代から丁髷にかけてぐっと水を搾り出す動作だけでも、見ているのはもう春蝶師匠ではない。
舞台に向かう仲蔵が役柄の通例に反して体を白く塗りたくり、髭を青々とさせ、水も滴るなんとやらで実際水をかぶって舞台に上がる。渋茶の番傘に着物と帯、刀の鞘の色がコントラストが効いていて舞台に映える。クライマックスでは口から赤い血が、白い肌を伝って落ちる。
舞台の場面は視覚的でドラマチックだけれど、一方で人情ある師匠とのやりとり、心底信頼しあった夫婦の会話は、とても内面的で、仲蔵の心の機微もよく感じられる。
この一席で観たものは果たして歌舞伎だったのか、それとも人情ドラマだったのか、いやそれこそ春蝶師匠の落語なのだ。
立川笑二さん 「青菜」
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立川笑二さん
芝居の噺は持ちネタにないので、とおっしゃって始まったのが暑い日のある植木屋の職人とその庭を預ける旦那の噺である「青菜」。サボりまくっている植木屋さんにかける「精が出ますな」と言う旦那の皮肉がきつい。しかし旦那は意地悪ではなく、植木屋さんを縁側での一杯に誘う。
前半と打って変わって滑稽なのが、家に帰ってからの植木屋とその奥さん、そしてその植木屋の友達のやりとりだ。旦那とその奥様の粋なやりとりに感動した植木屋さんが自分の奥さんを巻き込み、そのやりとりを真似て友人をもてなしてやろうと言う趣向なのだが、これが茶番になることは目に見えている。奥さんが次の間代わりの押し入れ(!)から転がり出てくるところは抱腹絶倒。こんなくだらない真似事に付き合ってくれる奥さんを持った植木屋さんは幸せ者、そして夫婦っておかしい。
で、振り返ってみてみると、これも立派な芝居の一席だった。「芝居の噺はできない」と言われた笑二さんにしてやられた。
古今亭菊之丞師匠 「鰻の幇間」
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古今亭菊之丞師匠
しかし菊之丞師匠のお顔は福々とされていた。この日は渋谷らくごの前にも一席あり、「いろんなところでおしゃべりができるようになって嬉しい」とのこと。もうほんとに何よりでございます。
中村仲蔵に代わって始まったのが、幇間、太鼓持ちのお噺「鰻の幇間」。今ではあまり聞かないお仕事、太鼓持ち。お座敷を俯瞰して、お財布を預かりしてうまく遊ばせるお仕事だそうな。バブル時代はともかく今は富裕層向けの旅行業者以外になかなか思いつかない。ちなみに売れっ子の太鼓持ちは頭を下げないそうです。
それにしても太鼓持ちはマメじゃないと務まらない。美味しくないはずのお酒も美味しそうに飲むなぁい!手酌して、食べて、手酌して、食べて、そしてしゃべりつづける。
まぁ、落語に出てくる太鼓持ちに器用な輩はいない。ミイラ取りがミイラになったごとく、太鼓持ちが太鼓を持たれたとでもいおうか、「旦那」と見込んだ男に、二人分以上の鰻代を払わされることになる。騙されたと知ったその瞬間からタバコを吸い出し、その手がブルブル震える。そう言う心の狭い、狭量なキャラが不思議ととても魅力的なのだ。菊之丞師匠の雰囲気とは真逆なのだが、このギャップ感も含めて堪らなくおかしい。
買ったばかりの下駄まで持っていかれて、憐れみさえ感じさせるこの太鼓持ち。ずたずたにされた太鼓持ちのプライドと懐の具合が、痛々しくておかしかった。
写真:武藤奈緒美Twitter:@naomucyo
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