渋谷らくご

渋谷らくごプレビュー&レビュー

2022年 6月10日(金)~15日(水)

開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。

イラスト

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6月14日(火)19:00~21:00 柳家花ごめ 桂伸べえ 春風一刀 春風亭昇々 柳家喬太郎  *開演前と開演後 林家彦いち×サンキュータツオ によるトーク有

創作らくごネタおろし「しゃべっちゃいなよ」22年第3回大会

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プレビュー

柳家花ごめ やなぎや かごめ
桂伸べえ かつら しんべえ
春風一刀 はるかぜ いっとう
春風亭昇々 しゅんぷうてい しょうしょう
柳家喬太郎 やなぎや きょうたろう レジェンド噺
◎トーク:林家彦いちプロデューサー

 偶数月に行われる、団体/キャリア関係なしの創作らくごネタおろし会「しゃべっちゃいなよ」。
 今日この場ではじめて生まれる噺を創るのは、四名の若手とお客さんです。個性がゴロリとむき出しになる創作、それもネタおろしとなれば、聴く側のお客さんの力も半分くらい必要です。これはワークショップ。
 さあ、一緒に落語をこしらえて、心地よい疲れに浸りましょう。今回は昨年の12月大会に進んだ一刀さん、そして歴代チャンピオンがエントリーするのも初となる昇々師匠、初挑戦の伸べえさんに、花緑一門の異才 花ごめさん登場です。
 最後は最高の贅沢です。なんと喬太郎師匠が本公演で、喬太郎師匠の名前を歴史に刻むレジェンド噺を披露してくださいます。

▽柳家花ごめ やなぎや かごめ 落語協会
2009年入門、2014年6月二つ目昇進。「ドクター・ストレンジ」をみて大興奮した。暑くなってくるとスイカバーを食べる。6月になっても暑い日があまりないので、驚いている。

▽桂伸べえ かつら しんべえ 落語芸術協会
23歳で入門、2017年6月二つ目昇進。折り畳み傘を持つタイプ。落語を覚えながら寝る。1番好きな飲み物はほうじ茶で、2番目に好きな飲み物が黒豆茶。

▽春風一刀 はるかぜ いっとう 落語協会
25歳で入門、芸歴10年目、2017年11月二つ目昇進。ラインの送信取り消しをあまりよくわかっていなかった。先日、紅生姜の串揚げに感動した。親知らずがまだ1本抜けていない。

▽春風亭昇々 しゅんぷうてい しょうしょう 落語芸術協会
1984年11月26日、千葉県松戸市出身。2007年に入門、2021年5月真打昇進。「2016年渋谷らくご大賞」受賞、「2020年渋谷らくご創作大賞」受賞。先日、千葉県の富里のスイカを1玉もらったが、あまりの美味しさに食べきってしまった。

▽柳家喬太郎 やなぎや きょうたろう 落語協会
25歳で入門、芸歴33年目、2000年3月真打昇進。落語家になる前は書店員だった。ずっとガラケーを使い続けていた。幼少期からウルトラマンに夢中。円谷プロの近くで育った。

レビュー

文:木下真之/ライター Twitter:@ksitam

柳家花ごめ(やなぎや かごめ)-人の恩返し
桂伸べえ(かつら しんべえ)-広末写真集
春風一刀(はるかぜ いっとう)-聖職者
春風亭昇々(しゅんぷうてい しょうしょう)-真夜中商店街
柳家喬太郎(やなぎや きょうたろう)-カマ手本忠臣蔵
プロデューサー:林家彦いち(はやしや ひこいち)

今回の彦いち師匠推薦のレジェンド枠は喬太郎師匠。「俺はレジェンドじゃねえ」と言いながらも、喬太郎作品の中でもかなりクセの強い「カマ手本忠臣蔵」を見せてくれました。彦いち師匠、ありがとうございます。

柳家花ごめ-人の恩返し

  • 柳家花ごめさん

2020年9月の「しゃべっちゃいなよ」では、24時間テレビのチャリティマラソンをパロった「24時間マラソン」で、6時間も早くゴールしてしまった女性アイドルの話を披露してくれた花ごめさん。その時は、ストーリーが作れる人という印象があり、今年5月に配信で再演を聞いた時もそのイメージは変わりませんでした。今回の「人の恩返し」でも、伏線や展開がしっかりしたストーリーを見せてくれました。
残業続きで疲れ切っている若い男。癒しを求めて猫を飼ってみたいと思うが、家はペット禁止。そんな男が、車にひかれそうな子猫を助けた。それから1週間後、「恩返しがしたい」と若い女性が訪ねてきて、「身の回りの世話をさせて欲しい」と申し出る。という話です。
ストーリーの中にいくつもの「サプライズ」が仕掛けられていて、それをトリガーに男と謎の女性との関係が変化していきます。大きな波や小さな波が波状攻撃のようにやってきて、「どうなるのだろう」とドキドキしながら聞くことができました。コロコロ変わっていく女性の気持ち。それは猫なのか人なのか。最後まで楽しめる作品です。

桂伸べえ-広末写真集

  • 桂伸べえさん

伸べえさん、彦いち師匠は初見とのことですが、私も初見でした。桂伸治師匠のお弟子さんで、伸べえさんの上は宮治さんですが、キャラクターは正反対。落語口調というより、ゆるふわが芸風のお笑い芸人さんみたいな口調。最初は違和感だらけも、慣れてくるとクセになっていきます。落語芸術協会には、個性豊かな落語家さんがいっぱいいるんですね。
そんな伸べえさん、「私の作り方は、記憶や思い出を頼りに最後まで書き起こす方式です」といって始めたのが広末写真集の話。そのとおり、写真集に対する妄想一直線でした。
書店で広末写真集を買おうとした山田クン。それを同じクラスの斎藤クンに見つかってしまい、「数学の参考書を買う」と言い訳をするが、写真集が目当てであることがバレバレ。何とか参考書と写真集の2冊を抱えて家路に着くと、帰り道でクラスのマドンナ・さとみちゃんに見つかってドギマギ。家に帰れば、母親にも見つかり、父親にもバレて広末写真集をめぐって大騒ぎ。という話です。
思春期の男のコあるあるですが、写真集ネタだけで駆け抜ける強引さ、勢いにやられてしまいました。参考書をカモフラージュに写真集を買った息子に「世も末だ」「近所も歩けない」「そんな子供に育てたことはない」というお父さん、最高。
伸べえさん本人の写真集の思い出は、広末でなくて後藤真希だそうです。Twitterでは広末の写真集は見たことないと書いていますが、確かに広末全盛期に伸べえさんは小学生ですからね。でも、当時の広末のかわいさは異常。2019年2月のしゃべっちゃいなよでは羽光さんが「宮沢りえの写真集が世界を救う噺」というネタで、1991年のヨシオクンが写真集に熱中する話を創作しています。男子にとって写真集は永遠のテーマですね。

春風一刀-聖職者

  • 春風一刀さん

昨年、しゃべっちゃいなよ初登場で12月の決勝戦にも進出した一刀さん。その時の「存在感」は、今も寄席でもかけられていて、順調に育っているようです。早くも2回目の登場で期待が高まります。
本日ゲストの喬太郎師匠の思い出をひととおりしゃべった後、おもむろに本編にはいりました。花ごめさんもそうでしたが、今の二つ目さんにとって喬太郎師匠は、なかなか会えない伝説的な存在なんですね。
36歳、学年主任の先生と、2000年生まれの22歳、社会人1年目の新任教師。職員室かどこかで、世代間ギャップの話で盛り上がっていると、ホームルームの時間がやってきた。主任先生がホームルールにやってくるも、クラスには問題が山積み。その中で、教師生活歴代1位の事件が起きていた。人望のあるアサミのリコーダーが何者かに使われ、吹き口にニンニク臭が漂っていたという。犯人は誰なのか。という話です。
前半の主任先生と、後輩先生の軽口の会話が楽しいです。「ケビンコスナー知らないの?」「エンダーは?」「成城石井はまだ早い、サミット行っとけ」「マミーとピルクルでは池袋と沼袋くらいの違いがある」など、ツッコミのセリフが秀逸です。リズム感のある会話は、「存在感」のジミクンとサトウクンの会話のように、ずっと聞いていても飽きません。
部室での会話みたいな軽妙トークの設定がなぜ学校の先生なのか? と思っていると、つながっていくのが後半のリコーダー事件。こちらは打って変わってエロ漫画テイストです。ただ、前半と後半はまったく違う話になっています。個人的には後半なくてもいいかなとも思うのですが、恐らく昨年の「存在感」は会話だけの1シーンだったので、今回は成長した姿を見せたいと、展開を付けてくれたのだと想像します。今回は遠心力が強すぎた感はありますが、前半の他愛のない会話はめちゃくちゃ面白いし、繰り返しのパターンがクセになるので、もっと聞いてみたいです。

春風亭昇々-真夜中商店街

  • 春風亭昇々師匠

昇々さんの地方移住計画は、寄席や落語会に出るたびにマクラで話していたり、Twitterにもあげていたりするので、半ばドキュメントのように追いかけていました。そして今回、それを象徴するような作品が生まれました。昇々さんの実体験ではないでしょうが、私たちが地方に抱いているイメージがデフォルメされていて、ユニークな創作落語に仕上がっていました。
東京から離れて地方に引っ越してきた若夫婦。早速、町内会長から町内会に入って欲しいと頼まれるが、入会金5万、年会費3万を払う必要があるという。さらに毎週のように草むしりや運動会などの町内行事に参加しなければならない。町内会に入らないと、町内のゴミステーションも使えない。さて、どうする。という話です。
昇々さんの真価が発揮されるのは、ゴミを捨てようと夫婦が悪戦苦闘する後半のシーン。夫婦のトリッキーな行動は、聞き手である私たちの想像をはるかに上回っていきます。本当に、危機に追い込まれた人間は面白い。ほとんど自爆のような行動を取る若夫婦に、思い込みの怖さと面白さを感じました。彦いち師匠がアフタートークで発した「大人の落語家になっている。安心感が出てきた」といったコメントも印象的でした。

柳家喬太郎-カマ手本忠臣蔵

  • 柳家喬太郎師匠

喬太郎師匠は、前説トークの時から楽屋入りしていて、トップバッターの花ごめさんから、伸べえさん、一刀さん、昇々さんまで全部聞いているんですね。登場するなり、一刀さんのマクラに反応したり、伸べえさんの口調は後輩の○○さんに似ている、昇々さんは昇太師匠に似てきたといったり、後輩に気をかけている様子が伝わってきます。そして、最後の演目に選んだのはカマ手本忠臣蔵。聞く人を選ぶので、年に数回くらいしか高座にかけない貴重なネタです。
浅野内匠頭と吉良上野介は同性愛関係にあり、ある日、内匠頭の嫉妬が原因で刃傷に。赤穂の四十七士は、吉良邸に討ち入るが、吉良邸の用人たちによって返り討ちに遭い、全滅してしまう。命拾いした吉良の運命は。そして、吉良をあの世で待っている内匠頭はどうする。という話です。 斬新な発想で新解釈したシン忠臣蔵。普通の人は思い付きません。作ったとしても、人前でしゃべるのはかなり勇気のいる作品です。それを喬太郎師匠は、独特の演出で見せてくれます。まさに快演。発想力、創作力、演技力、演出力がすべて揃った芸術的作品です。生で見たお客さん、配信で見られた視聴者の方、みなさんお得な時間を過ごせたのではないでしょうか。
喬太郎師匠が「俺はレジェンドじゃない」というように、若手と同じようにネタ作りをしていますし、高座にも出ているはずです。シブラクには、スケジュール等の関係で出演の機会が限られていますが、シブラクでこそいろいろな人に聞いて欲しい師匠ですね。

喬太郎さんが終わって、時計を見るとちょうど21時。アフタートークでタツオさんもいっていましたが、密度の濃い2時間でした。創作落語のネタおろしを聞く時の集中度は、普通の落語会と異なるので本当に疲れます。それでも、面白いネタばかりが続いたので、余韻にひたり、心地のよい疲れを感じながら家路に就くことができました。

写真:武藤奈緒美Twitter:@naomucyo
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