渋谷らくごプレビュー&レビュー
2022年 7月8日(金)~13日(水)
開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。
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プレビュー
「他人はどうあれ自分はこの道」という覚悟を決めた人たちの表現というのは、心地の良いものです。
聴く人を疲れさせずに楽しませる名手 兼太郎さん、二つ目とは思えない力量で、でも「すごい」ということすら気付かせないさりげなさもあって素敵です。
柳家小里ん師匠、芸歴50年を超える大真打、私の落語の基準はこの小里ん師匠です。これが「良い落語」だと思っているのです。淡々と、押しつけがましくなく、おもねらず、ただおもてなしに精一杯の高座を務める。想像の世界だけに浮遊させてくれる。解釈からも意味からも離れて、ただその世界にいることの幸せを届けてくださる存在です。
市童さんはそんな小里ん師匠のあとにあがる若手でやりにくいかと思いきや、いたってマイペースにこちらも淡々と古典の世界へ誘う名手。無駄がなく、でも全編無駄な噺というかっこよさ。
そこまできて最後に鯉八師匠なのです。ゼロから自分の世界を創り上げる才人。渋谷らくごの象徴。新しい落語の現在地。落語は確実に「鯉八前、鯉八後」で変化すると思います。
▽三遊亭兼太郎 さんゆうてい けんたろう 圓楽一門会
23歳で入門、芸歴7年目、2017年二つ目昇進。ツイッターでは、人のツイートにいいね!つけがち。知らない街でも街中の定食屋さんに挑戦する。新幹線に乗ったらゆっくりお弁当を食べようと意識する。朝早く移動するとき、通勤ラッシュに怖気ずく。
▽柳家小里ん やなぎや こりん 落語協会
21歳で入門、芸歴53年目、1983年9月真打昇進。大の映画好き。浅草出身なのでお祭りがとにかく好き。前座修行中は、小さん師匠の家で住み込みをしていた。シブラクの楽屋で、はじめてタピオカミルクティーを飲んだ。
▽柳亭市童 りゅうてい いちどう 落語協会
18歳で入門、芸歴12年目、2015年5月二つ目昇進。インスタグラムにラーメンの写真を積極的にアップする。先日スマホの住所録を整理した、10年以上連絡を取ってない中高の知り合いの連絡先を削除してみた。ストレスがたまったときは辛いものを食べる。
▽瀧川鯉八 たきがわ こいはち 落語芸術協会
2006年24歳で瀧川鯉昇師匠に入門、2020年5月真打昇進。令和3年度国立演芸場花形演芸大賞金賞受賞、2年連続の受賞となった。街中に描かれている動物のキャラクターの写真を撮りがち。先日10連休で英気を養った。
レビュー
三遊亭兼太郎(さんゆうてい けんたろう)-雛鍔
柳家小里ん(やなぎや こりん)-青菜
柳亭市童(りゅうてい いちどう)-居残り佐平次
瀧川鯉八(たきがわ こいはち)-寮母はつらいよ/寝るまで踊らせて
三遊亭兼太郎さん 「雛鍔」
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三遊亭兼太郎さん
話は変わって最近学校での公演が多いとのこと。若手の噺家さんからは学校公演の苦労話をよく聞くが、兼太郎さんは得意とのこと!舐められやすいキャラで、耳が外に開いているため猿だ!と言われるとのこと。それを得意と言ってしまう兼太郎さんがすごい!
この子供のまくらから入ったのが、こまっしゃくれた子供がかわいい「雛鍔」の一席。お金を知らない若様を見て、いたく感銘を受けたお屋敷に出入りの植木屋さん。それに引き換え植木屋さんの息子の金坊は若様と同い年なのに、親の顔を見れば「おあしをおくれ」という。お屋敷の若様と自分の息子との差に植木屋さんはがっかりしている。
そこにご隠居さんがやってくる。お客様にお菓子が出ることを見越して帰ってきた金坊、そこで一役買ってでる。なんと若様の真似をして、お金を知らないふりをしたのだ!それに乗っかったのが親である植木屋さん。ご隠居さんに八歳でお金を知らないなんて、といたく感激される。
落語なのでしっかりおちはあるのだが、「小児は白き糸の如し」の言葉通り、金坊もまた親の色にしっかり染まっている。でもそれはそれでいいんじゃなかろうか。若様も金坊も、そして植木屋さんもそれぞれに素直でいい。そんなほっこりした気分になった兼太郎さんの「雛鍔」だった。
柳家小里ん師匠 「青菜」
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柳家小里ん師匠
本編はそんな暑い夏の日を描いた「青菜」。仕事の合間に木陰で休憩中の植木屋さん、庭の主である旦那から美味しい冷酒をご馳走になることに。その間に旦那夫婦の洗練されたやりとりを聞いて、それを自分のおかみさんともやってみようとなれば、おかしいことになるに決まっている。奥の間と称して押し入れに奥さんを隠した植木屋さん、長屋の前を通りかかった友人を呼んで、旦那とのやりとりをひとしきりやってみようとする。
夫婦って面白い。旦那夫婦も植木屋夫婦も、こういうルールでやってみようとなったらお互い付き合ってやる。旦那夫婦も洗練されているとはいえ、「菜がございません」で済むところを「鞍馬から牛若丸が出でまして〜」なんてやるのは考えようでは滑稽でもある。ま、それでも付き合ってやろう、というのが夫婦なのだ。洗練さも滑稽さも互いに似合っていればよし、と感じられた素敵な小里ん師匠の一席だった。
柳亭市童さん 「居残り左平次」
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柳亭市童さん
夫婦ものから打って変わって、お気軽が独り身の男たちが遊郭でどんちゃん遊ぶお噺「居残り左平次」。軽いが肝の座った左平次が、もとよりお勘定を払うつもりなどなく遊郭で遊んだ上に居残り、つまり遊郭に居続け、そのうちお客の面倒見の良さからお座敷に呼ばれる、しかも遊郭にいる本業の人々を差し置いて売れっ子になっていく。
この左平次の肝の座り加減、というか図々しさが半端ない。とはいえ売れっ子になるほどだから、心理を読みきって相手と対峙する。お客、遊郭の本業の方々、遊郭の旦那が、次々と手玉に取られていく。最後にはちゃっかり新しい着物と200円まで頂戴する。
市童さんの今の若さと落ち着きがここに生きる。左平次の軽さと肝の座りっぷり、それと大店の旦那の落ち着きが同居していて無理がない。今この時にこの噺を市童さんから聴ける喜びを味合わせてくれる。また2年後くらいにも同じ噺を市童さんから聴きたい、そう思わせられた。
瀧川鯉八師匠 「寮母はつらいよ」「寝るまで踊らせて」
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瀧川鯉八師匠
「寮母はつらいよ」
とある学校の肝っ玉な寮母さん。部活動に励む真面目そうな学生も、学校に行かないろくでなしもいるが、あんたは私の誇りだよと言ってそれぞれの生徒を励ます。が、その寮母さんが生徒会長のお金をとった。。
めくるめく鯉八師匠の話芸に引き込まれ、正直寮母さんの衝撃の告白で記憶が飛んでいる。なぜ、どうして…と頭がぐるぐるする鯉八沼にはまって終わった。
「寝るまで踊らせて」
下着泥棒から押収したパンティを並べている、おそらくはある警察署の一室。新人の警察官にはその並べる意義がわからない。しかしおやっさんと呼ばれている古株の警察官によれば、盗まれたパンティにも物語がある、と。そして何より、フグ差しを箸でがっーと取ったときに、パンティをかき寄せる感触と似ていると気づき、片付けるために並べていたのだとわかった、、と。
鯉八師匠の落語を聞くと、どういうタイミングで師匠がこの落語の筋書きを思い付いたかを考えてしまう。押収したパンティが並べられた光景は知らない。並ぶのをニュースで見ているのは覚醒剤の袋ぐらいだが、鯉八師匠はあの並べるという行為になんらかの執着、粘着性を見出したのだろうか。そしてそれを片付ける行為まで想像したのだろう、か。
鯉八師匠の頭の中をのぞきたい、そんな鯉八沼に足を取られた高座だった。
写真:武藤奈緒美Twitter:@naomucyo
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