渋谷らくご

渋谷らくごプレビュー&レビュー

2022年 8月12日(金)~17日(水)

開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。

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8月16日(火)19:00~21:00 春風亭昇市 林家きよ彦 柳家やなぎ 立川笑二 笑福亭福笑

創作らくごネタおろし「しゃべっちゃいなよ」

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プレビュー

春風亭昇市 しゅんぷうてい しょういち
林家きよ彦 はやしや きよひこ
柳家やなぎ やなぎや やなぎ
立川笑二 たてかわ しょうじ
笑福亭福笑 しょうふくてい ふくしょう レジェンド噺「憧れの甲子園」(予定)
 ◎トーク:林家彦いちプロデューサー×サンキュータツオ

 偶数月に行われる、団体/キャリア関係なしの創作らくごネタおろし会「しゃべっちゃいなよ」。
 今日この場ではじめて生まれる噺を創るのは、四名の若手とお客さんです。個性がゴロリとむき出しになる創作、それもネタおろしとなれば、聴く側のお客さんの力も半分くらい必要です。これはワークショップ。
 さあ、一緒に落語をこしらえて、心地よい疲れに浸りましょう。やなぎさんと彦いちPの弟子きよ彦さんは初登場。ファイナル常連の笑二さん、昇太一門からは昇市さんが今年も顔をそろえました。
 最後はなんと大阪から笑福亭福笑師匠がこの公演のために、東京に来てくださって、歴史に残るレジェンド噺を披露します!

▽春風亭昇市 しゅんぷうてい しょういち 落語芸術協会
2014年27歳で入門、芸歴9年目、2018年二つ目昇進。肉が好きで、毎日お肉を食べている。「なに食べたい?」と聞かれたときは、「焼肉」と答えるようにしている。30歳を過ぎてからすごく太りやすくなった。

▽林家きよ彦 はやしや きよひこ 落語協会
2016年28歳で林家彦いち師匠に入門、芸歴6年目。2021年3月二つ目昇進。実家の冷蔵庫には「ガラナ」が常備されている。この夏は豆乳ポーチガチャガチャにはまった。浅草演芸ホールの牛乳もなかの美味しさに気づく。

▽柳家やなぎ やなぎや やなぎ 落語協会
2010年20歳で入門。2015年5月二つ目昇進。芸歴12年目。ツイッターやインスタグラムなどSNSをやっておらず、日常生活などは発信しない。おしゃれなメガネを何種類か持っている。

▽立川笑二 たてかわ しょうじ 落語立川流
20歳で入門、芸歴11年目、2014年6月に二つ目昇進。2019年と2020年の「渋谷らくご大賞 おもしろい二つ目賞」受賞。20年以上、自分でバリカンを入れて頭を剃っている。先日、自宅の近くに業務スーパーができてテンションがあがった。

▽笑福亭福笑 しょうふくてい ふくしょう 上方落語協会
19歳で6代目笑福亭松鶴師匠に入門、芸歴54年目。高校を中退し、落語家になることを決意して入門する。東京の鈴本演芸場を訪れた際、円丈師匠の高座を目撃し、創作らくごの道も歩むことを決意した。コンビニでサンドウィッチを買うときは、ハムサンドを選ぶことが多い。

レビュー

文:木下真之/ライター Twitter:@ksitam

春風亭昇市(しゅんぷうてい しょういち)-大先生
林家きよ彦(はやしや きよひこ)-派遣ファミリー
柳家やなぎ(やなぎや やなぎ)-洋館の霊
立川笑二(たてかわ しょうじ)-ちむわさわさぁ
笑福亭福笑(しょうふくてい ふくしょう)-憧れの甲子園
プロデューサー: 林家彦いち

芸歴がほぼ一緒のやなぎさん(12年目)と笑二さん(11年目)。流派や芸風の違いもあり、絶対に交わりそうにない2人が、渋谷らくごでまさかの共演。奇しくも両者、怪談風のアプローチとなりましたが、コント風味のやなぎさんと、ホラー風味の笑二さんで、みごとなコントラストになりました。レジェンド噺は、福笑師匠の「憧れの甲子園」。夏の甲子園高校野球開催期間中で、まさにぴったりの演目でした。

春風亭昇市-大先生

  • 春風亭昇市さん

初登場の2019年2月の「しゃべっちゃいなよ」では、娘の影響でももいろクローバーZのファンになっていたお父さんが、ライブチケットの争奪戦に参加するという話「連番相手」で楽しませてくれた昇市さん。2年ぶりの今回は、“グラビアアイドル好きの刀鍛治職人”というユニークな設定で、笑いだくさんの創作落語を披露してくれました。
「余計な色を付けたくない(刀だけを純粋に見て欲しい)」から、自分に関するインタビュー取材は受けないという刀鍛治職人の大先生。困ったマスコミがダメもとで「Fカップのグラビアアイドル」との対談を提案すると、「エッジの効いた取材なら受けてもいい」とまさかのOK。立て続けに「Gカップの女子アナ」「Hカップのアイドル」との対談取材も決まっていく。さて取材本番はどうなるのか。という話です。
刀鍛治職人という、頑固で、神聖さをイメージさせる職業と、華やかなグラビアアイドルの対比はコンストラストが際立っていてイメージがしやすいですね。ただ、聞き手の私たちには刀鍛治職人に対して漠然とした情報しか持っていません。その中で、昇市さんは「70歳過ぎた頑固者」「L⇔Rのノッキン・オン・ユア・ドアを聞いている」「着物に羽織り袴で足元は裸足にレッドウィング、龍馬ぜよ」と、大先生のキャラクターをいろいろな色で染めていってくれました。巨乳好きという設定の中に、さまざまな味付けがあって、想像力が膨らんでいく。まさに演者と聞き手が一緒に落語を作っていく醍醐味が感じられる一席でした。

林家きよ彦-派遣ファミリー

  • 林家きよ彦さん

二つ目になって約1年。各所できよ彦さんの創作落語を聞く機会が増えていますが、どれもユニークで楽しい噺ばかりです。そして、シブラクで3年間前座を務めていたきよ彦さんが「しゃべっちゃいなよ」に帰還。おかえりなさいの感覚で、期待も膨らんでいました。
今回は、テレビCMやタクシーのモニターCMが気になるというきよ彦さんが、ビズリーチ(転職サイト)のCMを見ていて発想したというホームドラマ的な落語を披露してくれました。
安定した広告代理店を、家族に内緒で辞めてしまったお父さん。「実はお父さんは、お母さんになりたかったんだ」と白状する。聞いてみると、転職先は家事代行の派遣会社で、年俸800万。資格を50個近く取得していて、すでに売れっ子の“家政婦”になっていた。しかし、お母さんは、家でお母さんをしているお父さんを「仕事を家庭に持ち込まないで」と怒ってしまう。そして、娘のはるかの6年生最後の運動会。お父さんは「仕事」があって来ることができない。がっくりしているはるかちゃんファミリーに奇跡は訪れるのか。という話です。
しっかりしたストーリーの組み立てで、お父さんの予想も付かない転職によって生まれた変化を、ファミリーストーリーとして楽しく仕上げています。伏線もしっかり張っていて、このあたりはさすが彦いち師匠のお弟子さんという感じ。実際、家事代行は世の中で流行っていて、人気の家政婦さんは予約待の状況らしいです。男性(家政夫)が在籍しているサービスもあります。だからこそ、現代にぴったりなテーマで、リアリティを持って楽しく聞くことができました。
ネタおろしなので要素はたっぷりで情報満載。もう少し整理して、構成も見なおすともっともっと良くなりそうな伸び代を残した作品でした。きよ彦さん共々、このお話の成長にも期待しています。

柳家やなぎ-洋館の霊

  • 柳家やなぎさん

やなぎさんがまさか、しゃべっちゃいなよに出るなんて、という予想外のブッキング。さん喬一門からは、6月のさん花さんに続いての登場です。やなぎさんといえば、喬太郎師匠の独演会で開口一番を務める機会が多く、修学旅行の最終日の先生の総括を描いた「先生の話」など、何本かの創作落語を聞いてきました。ちょっとひねくれた話が得意で、クレバーな印象を持っています。今回も、怪談にお約束の笑いをまぶした笑いたっぷりの落語を披露してくれました。
町外れの古びた洋館。事故で巻き込まれて死んだ若い娘の幽霊が住み着いている。ある日、転がり込んだボールを取ろうと、洋館に侵入してきた小学生のたっくんを、「私を殺したのはお前か!」と脅かす幽霊。泣きながら退散したと思ったら、たっくんのお母さんが洋館に乗り込んできて、「謝れ!」とクレームをぶつけ始めた。若い娘の幽霊とモンスターマザーの対決はいかに。という話です。
古典落語にも、お菊の幽霊がアイドルになる「お菊の皿」や、人使いの荒い隠居が人を脅かす化け物をこき使う「化け物使い」があるように、人と幽霊(化け物)の逆転話、幽霊の擬人化は、本当に楽しいですね。やなぎさんのは、モンスターマザーが「子連れ」でやってくるというところがポイント。あんなに泣かされていた「たっくん」がお母さんを後ろ盾にすると、こまっしゃくれた子供に豹変するから面白い。2人によって徐々に追い詰められていく若い娘の幽霊を応援したくなってきます。
やなぎさんは、語り口もしっかりしていて、声もきれいなので、聞き心地もよかったですね。

立川笑二-ちむわさわさぁ

  • 立川笑二さん

この夏、沖縄から上京してきた20年来の親友と、東京スカイツリーに行き、その後、2人で浅草に行ってなぜかお絵かきをして、某所である人に遭遇したというマクラからスムーズに本編へ。
渋谷で喫茶店を営むヒロユキ。沖縄時代の友人フユキが店にやって来て、10数年ぶりに再会する。フユキは彼女と一緒に沖縄から東京に来たが、彼女のアヤカは大のやきもち焼きで、フユキが他の女と飲みに行っただけで、相手の女を襲ってしまうという。アヤカと別れたくても別れ話すらできないというフユキに、ヒロユキは「俺が別れさせてやる」。フユキは自分のiPhoneからアヤカに電話をかけ、ヒロユキが電話を代わるがアヤカの声は聞こえてこない。改めて、フユキとアヤカの関係やなれ初めを聞いてみると、意外な真実がわかってきて…。という話です。
笑二さんのしゃべっちゃいなよでおなじみのホラー噺。アヤカという女性が、親友の彼女という存在からどんどん変わってきて、物語の主役になってきます。電話が通じないところのホラー染みたやり取りや、アヤカとの何とも言えないなれ初め話が笑いにつながっていて、まさに恐怖と笑いは紙一重。聞き手を「ぞっ」とさせるオチの部分も、小説における叙述トリックで、これは落語でしかできません。
笑二さんのTwitterには「台本起こしの時に沖縄要素を足したのが神判断」と書いてありましたが、確かにとても効果的でした。「ちむわさわさぁ」は、朝ドラの「ちむどんどん」にあやかったもので、肝(心)が不安になる、胸騒ぎがするといった意味ですかね。落語の冒頭で突然何ごともなかったかのように「ニヘーデービル(ありがとうございます)」といったウチナーグチ(沖縄弁)が出てきた時は、この先どうなるのかという期待と不安でちむわさわさしました。

笑福亭福笑-憧れの甲子園

  • 笑福亭福笑師匠

甲子園初出場、大会初日の開幕戦。15対0で大敗した高校野球の監督が、試合後の宿舎で禁酒を解禁し、徐々に酔いが回って部員に愚痴り出す「憧れの甲子園」。私初めてが聞いたのは20年、30年も前で、その時から鉄板ネタ、得意ネタとして君臨していました。タツオさんがアフタートークで言ったように、現代の感覚からするとコンプライアンス的にやばいところは随所にありますが、フィクションとしての完成度は飛び抜けていて、普遍的といってもいい落語になっています。
私が初めてこのネタを聞いた時、ひとり語りで、カミシモも切らず、ほぼ正面を向いてしゃべり続けるこのスタイルに度肝を抜かれました。そして、落語は自由なんだということを認識させられたターニングポイントになる噺でした。同時に、福笑師匠は、大酒飲みで、怖い師匠だと思っていました。実際は酒飲みであることは確かなようですが、普段は非常に穏やかで、落語ファンやご贔屓を大切にし、芸に対しても勉強熱心であることがわかってきて、印象が大きく変わったことを覚えています。
改めて「憧れの甲子園」を聞いてみると、ひとり語りの中に、人間の喜怒哀楽がすべて盛り込まれて、感情の揺れが細かく表現されていますね。登場人物は1人だけですが、何人もの登場人物がいるみたいに多層的に聞くことができます。この落語を聞いた後、甲子園の監督インタビューを聞くと、宿舎ではどんなことしゃべっているのかなと勝手に想像してニヤニヤしてしまうんですよね。
写真:武藤奈緒美Twitter:@naomucyo
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