渋谷らくごプレビュー&レビュー
2015年 12月11日(金)~15日(火)
開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。
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プレビュー
イケメン、爽やか。ゆるくウェーブのかかった髪型。落語家とは思えない恵まれた風体の鯉斗さん。カッコいいというのは「おもしろい」と相性が悪かったりするものにですが、もっと恵まれているのが、鯉斗さんの経歴。なんと元名古屋の暴走族総長。いろいろな修羅場をくぐり抜けても、いまは落語に真面目。だから、嫌みがなく上品で聴いていてニッコリしてしまいます。そこに生まれる愛嬌で、カッコよさが鼻につかない可愛さとおもしろさがこの人にはあります。
やせ形、おしゃれ坊主。わさびさんは、母性をくすぐるなにかをもっています。おどおどしていて、自信がないような立ち振る舞いにかわいげのある笑顔。と思ったら、わさびさんの手の中で踊らされています。自分の落語をちゃんと知っている策士なのです。
獲物を狙う目。おでこからしたたる汗。講談に革命の予兆が聴こえるのであれば、それは松之丞さんの雄叫びです。いま松之丞さんが出る会は、ほぼ満員が続いています。これはホントにすごいこと! 客席は松之丞さんに対してハードルをあげまくります。けれども松之丞さんは、このハードルを毎回軽々と超えていく。見えない努力とずば抜けた稽古量に担保されている熱血的な講談。いますぐに体感を!
最後に登場するのが、文左衛門師匠。コワモテ。客席を睨みつけるような目。一見して、客席の背筋が伸びるような緊張感。なのに毎日twitterには、文左衛門師匠の手料理のお写真がアップされている隙のような可愛さが溢れている。この緊張感と可愛さが文左衛門師匠の落語から溢れています。だから引き込まれてしまって、感情を揺さぶられてしまうのでしょう。
レビュー
文:えり Twitter:@eritasu 20代女性 フラメンコ発表会目前で慌ただしいOL
12月13日(日)17時~19時「渋谷らくご」
瀧川鯉斗(たきがわ こいと) 「紺屋高尾(こうやたかお)」
柳家わさび(やなぎや わさび) 「浮世床 ~将棋・本~(うきよどこ)」
神田松之丞(かんだ まつのじょう) 「大高源吾(おおたかげんご)」
橘家文左衛門(たちばなや ぶんざえもん) 「寝床(ねどこ)」
飛びかかる三人をよけるおじさまに平伏したい私
鯉斗さんの引力
-
瀧川鯉斗さん
鯉斗さんの久蔵がヘンなのです。
何がどうヘンなのかと言いますと、トボけていて妙に愛嬌があるのです。
訛りともちょっと違う、不思議なイントネーションで喋ります。
「~なんですヨ?」「~そうなんですヨ?」「~と思ったんスー!」という語尾強めな感じ。
この不思議な久蔵に動揺しているうちに「紺屋高尾」の物語がどんどん進んでいきます。
久蔵の親方も「俺は吉原なんて知らねぇし…」と堅そうなことを言いますが、(いやいや、本当は知っているのではー?)と思ってしまいます。 快活そうで、情に厚く、チャーミング。鯉斗さんのイメージそのままみたいな親方なのです。
鯉斗さんには人を惹きつける引力があります。
もちろん爽やかなルックスや落ち着いた低めの声、おおらかそうな笑顔も魅力的なのですが、たぶんもっと芯の部分で、女性のみならず年上の男性をも惹きつけているんだと思います。
鯉斗さんの独演会では落語を聴いたことがなさそうなお客さんをたくさん見かけました。
鯉斗さんの引力で、新たなファン層が落語と出会うのです!なんて素敵なんでしょう!
完璧なリズム感
-
柳家わさびさん
わさびさんおもしろいよ!と噂は聞いていたものの、拝見するのは初めてでワクワク。
それで、すごく個人的な感想なんですが、衝撃を受けたんです。
というのも「冗談言っちゃいけねぇ」っていうサゲで、ザッと高座を下りる姿がすごくかっこよかったのです。
正直、このサゲがかっこいいと思ったのは初めてです!
小ばなしを次から次へと、短編小説をペラペラめくっていくように。
わさびさんの喋る心地よいリズムにトントンと乗せられて笑わされ続けて、そのままのリズムでサッと終わる。
これがなんとも音楽的でキマってました。
「太閤記」を朗読する場面で、手ぬぐいを本に見立てる所作。
手ぬぐいの右半分が真っ白、左半分が紫、という感じに色が真ん中で分かれていて本当にページがあるように見えました。偶然そういう柄なのかもしれませんが。ふふ
もっと聴いていたい。ふかふかの椅子で、ただただ笑っていたい!顏も体も緩む、気持ちの良い時間でした。
伝説を創る人
-
神田松之丞さん
今や、飛ぶ鳥を一万羽くらい余裕で落とす勢いの松之丞さん。
もはや、なんて書いたらいいのかわかりません。
うー・・・
・・・・
尊い・・・
・・・・
でも、せっかくなので書かせていただきます。
12/13は赤穂浪士討ち入りの前日。
大石 内蔵助(おおいしくらのすけ)の幼名は「松之丞」 特別な思い入れもあるのだと思います。
以前「淀五郎」や「中村仲蔵」で「忠臣蔵を演じる役者の苦悩」を語る松之丞さんを拝見しましたが、 今度はその忠臣蔵の登場人物の一人である「大高源吾」の物語です。
「子葉」(しよう)という名前で俳句を詠むという一面を持つ大高源吾。
今こうして冷静に考えてみると「あした待たるるその宝船」という句で(そうか!明日は討ち入りか!)ってなりま…す…??よくわかったなぁなんて、今さら妙に感心したりして。
そういう暗喩的な表現は昔からたくさんあるわけで(例えば短歌で忍ぶ恋を詠っていたり、とか)あなたにだけわかってもらえればいい、というしっとりした感じが切なくて素敵だなぁと思います。今も昔もその感覚は変わらないのですね。
松之丞さんの語りの凄みと、空気を裂く張り扇の音。熱気溢れるその渦に飲み込まれるように息苦しく、目がそらせなくなり、まばたきも惜しんでジッと見つめ、微かな音も聴き漏らさないようにと耳をそばだてます。
目の前のたった一人の声に、浪士の潔い決意とさまざまな登場人物の想いが混ざり合い、じんわりと重く胸に響きます。
眠れず、夜な夜な赤穂義士について調べ始めたらなんだか盛り上がってしまい「吉良義央は静かに暮らしたい」という懇親の忠臣蔵ギャグをツイートしたりしました。(みんなにスルーされました)
お察しの通り、とても、こじらせております。
長襦袢をも切り裂くパンクな師匠
-
橘家文左衛門師匠
歌の上手な噺家さんは多いと聞きますが、考えてみればそれもそのはず。
どちらも「喉の声帯を使って空気を震わせる」というシンプルな共通点があるのです。
そのシンプルな動作を「抑揚」「音の高さ」「音量」「リズム」などとても細かく的確に使い分けて、聴いている人の心を動かします。でも、それって簡単そうに思えて、じつはものすごい技術だよなぁと改めて思います。
声は目に見えず、一瞬で消えてしまいます。儚いけど、たしかにそこにあったもの。だからこそ虜になってしまうのかもしれません。
今日のシブラクは「文左衛門おじさんに飛びかかる鯉斗、わさび、松之丞!」なんていうあおり文がついていました!
(シブラク公式ツイッターのあおり文は、堅い感じがせず、派手で目を引くので好きです。)
トリの文左衛門師匠は3人に対し、どっしり構えて正面から受け止める感じかなぁーうんうん楽しみー。と思っておりました。
が!
なんとなんと斬新で遊びごころたっぷり!受け止めるどころか、ひらりと体をかわして誰よりも楽しそうに大暴れ!
「寝床」で、怒って拗ねている旦那に「聴ーかっせろ!聴ーかっせろ!」と手拍子にコールが始まり、「みなさんもご一緒に!」という文左衛門師匠の一声で、客席も手拍子とコールの嵐に。
まさにバンドのライブさながらの参加型高座です。(実際にパンクバンドで活動し歌や演奏を披露されていらっしゃるようですし)
盛り上がったそのままの勢いで物語は進み、ついには足を後ろに投げ出して腹這いになり、長襦袢が破けるほどのほふく前進!パンクすぎます!
文左衛門師匠のように貫禄のある方がおやりになると、なんか特別なもの見ちゃったという嬉しさがあります。
独演会に行ったら、どこかで今日みたいな特別感のある高座を拝見できるかもしれないと思い、今から楽しみです。
とっても満腹な、心躍る高座でした。
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