渋谷らくご

渋谷らくごプレビュー&レビュー

2015年 12月11日(金)~15日(火)

開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。

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12月11日(金)20:00~22:00 立川吉笑、春風亭昇々、柳家ろべえ、隅田川馬石

「渋谷らくご」現在の落語を聴く

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プレビュー

 1965年、立川談志という落語家が『現代落語論』を発表。落語の定義を試みました。それから50年経った2015年、これからの落語にひとつの回答を出した落語家さんがいます。その方が今回のトップバッターの立川吉笑さん。今月吉笑さんが『現在落語論』が発売されます。吉笑さんの落語を聴くと、落語ってこんなに新しいんだ、と落語観がアップデートされます。

 会場が痺れたところで登場するのは、春風亭昇々さん。尋常ならざる目をしています。その目で会場をぐるりを見渡し、怒濤のごとく口から言葉が出てくる。滝の様に言葉が止めどなく流れてくるのにも関わらず、噛まずに、言い淀まない。だからこそまっすぐ一直線、ダイレクトに客席に言葉が届いてきます。実はものすごく緻密な計算と稽古量に裏付けられた話芸です。

 柳家ろべえさん、吉笑さんと昇々さんとは違った落語のアプローチをしている方です。そのアプローチは本寸法。古典落語に真正面から取り組み、何度も何度も戦いを挑む。落語ドM! でもいま落語から愛されてきて、色気がムンムンです。

 トリは、馬石師匠。継承されてきた落語に突飛な味付けをせず、そのままの形で提供をする。雑味が一切なく、するするっと言葉が耳に入り、気がついたら、情景が目の前に浮かんでいます。素材の味をそのまま活かす=落語を知り尽くしていないと出来ない名人技。シブラクで失敗しているところを見たことがありません。アプローチは違えども、落語の最前線の4人をお楽しみに。

レビュー

文:今野瑞恵 Twitter:@tsururaku 性別:女 年代:40代 職業:鶴川落語会席亭 落語歴:23年ほど 趣味:読書と飲酒
自己紹介コメント:町田市で2ヶ月に一度落語会を開催しております。高校生と中学生の母親です。

12月11日(金)20時〜22時「渋谷らくご」
立川吉笑(たてかわ きっしょう)/「何時材」(いつざい)
春風亭昇々(しゅんぷうてい しょうしょう)/「新聞記事」(しんぶんきじ)
柳家ろべえ(やなぎや ろべえ)/「替わり目」(かわりめ)
隅田川馬石(すみだかわ ばせき)/「松曳き」(まつひき)

「私的イケメンを楽しむ」

金曜夜の渋谷は若い人達でごった返しています。今月は特に忘年会シーズンということもあり、帰宅時は酔って盛り上がった若い人達で活気づいていました。この中のどのくらいの方が落語を知っていて、興味を持っているのか。きっかけになる出来事や人がいないとなかなか巡り会わないであろう落語という芸能に出会う場となり、興味を持ち、そして足繁く通う場所になりつつある「渋谷らくご」。最近の落語界の若手の台頭には目を見張るものがありますが、今回私が伺ったこの会も、そんな若手落語家さんが着実に力をつけてきていることを感じさせてくれる会でした。渋谷らくごのお客さん達は、自分たちと同じ時代を生きる落語家さん達との出会いとなり、今後その落語家さんの長い落語家人生を見守っていくという、とてつもなく長く深い楽しみを得ることになります。現在40代の私が落語と出会ったのは20歳の時、フジテレビで深夜に放送されていた「落語のピン」という番組がきっかけでした。その時前座や二ツ目だった方々のその後の活躍、成長を勝手に見守り、勝手に人生を二人三脚してきた気持ちで、今もその途中です。その間、出産や子育てで落語から離れた時期もありましたが、それでも落語の世界の住民は、変わることなく愛すべきキャラで居続けてくれました。時代が変わっても、演者やお客さんの世代が変わっても、落語の世界はいつも粗忽で暖かく、優しい。皆さんも末永く落語を愛し続けていただけたらと切に願います。

私は落語界や寄席に行くと、だいたい真ん中より後ろのちょっと下手寄りに座る事が多いのですが、今日はちょっと気分を変えて、前から4〜5列目の下手寄りに座ってみました。なぜ後方に座ることが多いのかと言うと、会場全体の雰囲気を感じたいこと、そして演者さんと「目が合わない」ことがその理由です。実際目は合っていないのでしょうが、どうも視線が合うような気がする・・・ってことないですか?私はそれが恥ずかしくて(自意識過剰なのは重々承知です)落語に集中できなくなるので、いつも後方をセレクトしていました。今回そんな私をそうさせたのは、今日の演者それぞれが「好みのタイプ」だったからに他なりません。たまには「目が合ってるんじゃない?」体験してもいいかなと。周りが見えない私と演者さん、一対一の世界。結果、4〜5列目だとほとんど「目が合ってるんじゃない?」体験にならなかったのですが・・・。(あと1〜2列後ろだったかも)オバサンにこんな事言われると気色悪いでしょうが、そう度々やることじゃないので、今回だけはお許しを・・・。

立川吉笑「何時材」

  • 立川吉笑さん

    立川吉笑さん

いよいよ待望の「現在落語論」が今月18日に発売されるとのことで、まくらでは本のことが多く語られました。私も購入する予定ですが、内容もさることながら、あとがきが楽しみでたまらなくなりました。あとがきの「白い吉笑」、本編より先に読んでしまいそうです。その「現在落語論」の編集者の九龍ジョーさんとの出会い、これは吉笑さんに本を出しなさいと神様が言っているんだなと思うような出会いで、Twitterで読んだ「本当に大切な人との出会いは全ての過去をひっくり返す力を持っている」という桂米朝の名言(だそうです)を思い出しました。人との出会いは宝ですね。マクラでも気にされてましたが、多くの印税が入ること、お祈り申し上げます。
「何時材」は「いつざい」と読むそうで、噺の内容を知ると合点がいきます。吉笑さんの新作落語は目の付け所がユニークで斬新なのですが、この噺でも「吉笑流」を感じさせてくれました。吉笑さんは頭の回転が速い!けど、決してお客さんを置いてきぼりにはしないんですよね。
思いつきそうで思いつかない、いや、それ?そうなっちゃう?!みたいな感じで、私の古く固まった脳も刺激を受けまくりました。私はめちゃくちゃ文系脳なのですが、日頃使わない理系の部分を回転せざるを得なくなり、またそれが快感と言いますか、心地よい疲労感と言いますか。若い方が吉笑さんを好きなのはわかりますが、目からウロコを体感したい中高年の方々にもオススメしたいです。落語の新たな扉を開けてくれること間違いなし。吉笑さんの落語が古典になる日も、そんな遠い先の話ではない気がします。

春風亭昇々「新聞記事」

  • 春風亭昇々さん

    春風亭昇々さん

昇々さんも吉笑さんとは違った意味で独特の世界感を持っている方ですが、今日も最初から思いっきり昇々ワールド全開でした。独特の間合いから出てくる「相対性理論」「COP21」「素粒子」・・・無理してないか?感が炸裂し過ぎてます。昇々さんならではの論理の破綻がおかしくてたまりませんでした。
昇々さんは落語界の中でもイケメン寄りです。でも彼の高座では普通ウリになるであろう「イケメン」はあまり意味を持たず、いや、逆に昇々さんが醸し出す「いかがわしさ」に拍車を掛ける感じで、どこからどこまでがホントの昇々さん?と勘ぐってしまいます。
今日の噺は「新聞記事」。そのいかがわしさとは裏腹にスタンダードな「新聞記事」を聞かせてくれました。「新聞記事」という噺は、前座さんも演じることがある噺なのですが、前半の部分(噺の仕込みの部分)を面白く演じるのは難しいのです。その仕込みの部分も昇々さん独特のキャラで、八五郎がいかがわしさ香る粗忽者となっていました。昇々さんは春風亭昇太師匠のお弟子さんですが、師匠譲りの自由さと、昇々さん自身で持っているいかがわしさが程よくブレンドされ、スタンダードなのに昇々さんの面白さが詰まった「新聞記事」に仕上がっていたと思います。マクラでNHK新人落語大賞のことに触れていましたが、そんなこと気にするなよ、吹き飛ばそうぜって思ってしまう独特の世界感を確立しつつあります。昇々さんは昇々さんのまま、この世界感を大切にしてほしいなあと思いました。

柳家ろべえ「替わり目」

  • 柳家ろべえさん

    柳家ろべえさん

前の昇々さんとの間に2分のインターバルがあったとは言え、昇々ワールドの余韻引きずる会場にスッと登場されたその佇まいに、二ツ目とは思えないオーラを感じました。
この会場にいた方(もしくはニコ生でご覧になった方)は全員同じ感想を持たれたと確信します。「喜多八師匠への愛があふれている!」もうこれに尽きるマクラだったのではないでしょうか。ろべえさんは、喜多八師匠のたったひとりのお弟子さん。だからこそのエピソードがぎっしり。「本気にしないで下さいね」なんて仰っていましたが、師匠への愛がにじみ出ていましたよ。そして、喜多八師匠が語るシーンの時、師匠に良く似ている!見た目は全く違う二人なのに、喜多八師匠が乗り移ったのではないかと思うほどでした。それは、今日の噺「替わり目」のところどころにも感じました。
それにしてもろべえさん、すっきりしているのに色気があって素敵になられたなあ・・・と感心してしまいました。酔っ払った亭主のおかしさ、酔った亭主をあしらう女房、おでんを買いに出かけた女房に実は感謝してるんだって手を合わせる亭主、そして出かけていたと思っていた女房が本当はまだ居て聞かれていたことがわかった時の亭主の照れっぷり、どこもとても愛らしく、いきいきと演じられていました。二ツ目とは思えない実力の持ち主、来月シブラクでトリをとる会があるそうですが、楽しみですね!もう真打ち昇進が近いことを、今日の高座で感じさせてくれました。

隅田川馬石「松曳き」

  • 隅田川馬石師匠

    隅田川馬石師匠

渋谷らくごのモニターになって半年、なぜか馬石さんご出演の会になかなか予定が合わなくて、今回やっと拝見することができました。シブラクという場で、馬石さんがどのように演じられているのか、この目で見たい!とずっと思っていたので、やっと念願叶いました。
マクラで馬石さんの出身高校が甲子園へ出場された話が出ました。馬石さんは野球部だったそうですが、その野球部仲間のエピソードを語る馬石さんに、人柄の良さを感じる事ができました。やっぱり素敵です。
馬石さんも女性に人気の落語家さんだと思いますが、それは佇まいや醸し出す雰囲気に表れています。穏やかで優しげな語り口調、そして漂う色気。男性も歳を重ねることで醸し出す色気がありますが、馬石さんはちょうどそのくらいの年齢にさしかかってきた感じがします。しかしながら、ちょっと頼りない感じがまた女心をくすぐるのではと思いますが、女性の皆さまいかがでしょう?
そんな馬石さん、今回は「松曳き」という噺でした。「松曳き」は侍の粗忽な噺。侍の威厳を保ちながらも、粗忽者を演じねばならないわけで、演じ手側にしてみれば難しい噺だと思います。馬鹿が過ぎてもいけないし、侍の威厳が立ちすぎてもつまらない。馬石さんの無駄を削ぎ落とした洗練された語り口にかかると、そのバランスが絶妙で、すっかりその世界に引き込まれてしまいました。
植木屋が「ソクトウを撲て(ぶて)」と殿様に言われるシーンでは、もうその後の展開は分かっている、何度も見て知っているわけだけど、笑ってしまうんですよね。同じ話を何度聴いても楽しませてくれる。ホント、落語って面白いと再確認しました。
渋谷という街の喧噪から逃れて、ここだけ異空間、特別な場所と思わせてくれる、そんな癒やしを馬石落語から感じて、また馬石さんに会いに来よう!そのためにも頑張って働こう!と次へのパワーをもらった金曜の夜でした。

  • トーク:池田裕子さんと

    トーク:池田裕子さんと

【この日のほかのお客様の感想】
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