渋谷らくご

渋谷らくごプレビュー&レビュー

2015年 12月11日(金)~15日(火)

開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。

イラスト

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12月13日(日)14:00~16:00 柳亭小痴楽、春風亭百栄、春風亭正太郎、隅田川馬

「渋谷らくご」球種のちがう4人が揃う落語会

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プレビュー

 ピッチャーは、変化球とストレートのバランス。ストレートを見せておいて、変化球を挟むことで、変化球に驚き、またストレートが栄える。この回の4人は、絶妙なピッチング配球とも言うべき絶妙なキャラクター具合です。

 まずは1球目は、小痴楽さん。初球から勢いがストレート。12月13日、この日が小痴楽さんの27歳の誕生日です。まだ27歳という驚愕の若さでTHE若者。なのにおじいちゃんのように、テクノノロジーに置いていかれている親しみやすさがあります。記念すべきバースデー高座をぜひ!

 次は百栄師匠。おもいっきり曲がるスローカーブといったところ。百栄師匠は創作らくごの使い手です。登場して座布団に座り、一言目に発せられる挨拶と息づかい。どんな客席の空気であっても百栄モードに一変させてしまう究極的な切れ味を持っています。「あっ、この人に心奪われちゃってる!」と感じてしまうほどのキュートさ。シブラクで百栄女子を生み出し続けていますよ。

 そして3球目は正太郎さん、若手落語家でまっすぐのストレートとも言うべきでしょうか。若手落語家に贈られる賞を総なめしているど真ん中直球のストレートを味わってみてください。

 最後に馬石師匠。例えるとするならば魔球「スプリット」。ど真ん中直球なのに不思議な回転をしているからいままで味わったことがない感覚になってしまう。次世代の名人確定です。今月シブラク3回出演、ぜひ今月の馬石師匠をコンプリートして欲しい。

レビュー

文:佐藤紫衣那 性別:女 年代:20代 職業:会社員 落語歴:細々と10年 趣味:映画鑑賞、クラシックバレエ

12月13日(日)14時から16時「渋谷らくご」
柳亭小痴楽(りゅうてい こちらく)「両泥(りょうどろ)」
春風亭百栄(しゅんぷうてい ももえ)「ジャム浜〜芝浜・酔っ払い・財布〜」
春風亭正太郎(しゅんぷうてい しょうたろう)「星野屋(ほしのや)」
隅田川馬石(すみだがわ ばせき)「安兵衛狐(やすべえぎつね)」

柳亭小痴楽 両泥

  • 柳亭小痴楽さん

    柳亭小痴楽さん

 トップで出てきた小痴楽さんは新種の”年齢不詳”です。見た目も中身も髪型も、特筆すべきことはない普通の27歳なのに、(この日お誕生日でした!おめでとうございます!) ちぐはぐな感覚が続きます。どこまでネタなのかわからないけれど、現代、主にネットやパソコンに翻弄される日々。アマゾンの翌日配送を”最近よく見ていたからこいつそろそろ買うだろうなとおもって近くに来てたんだなー”なんて発想をする人、20代にいるんだ!お母さんがとてもロックで、話で聞く分にはかっこよくて、なるほどこんなお母さんから生まれてきたのがここにいる小痴楽さんかー、とお母さんネタを聞くたび少し納得します。とにかく、いいかんじに危うい!(まくらを要約すると、お母さんが泥棒、ということになりましたが、宜しいでしょうか?誤解しか招かなさそうですが、大丈夫でしょうか?)
 何が年齢不詳かって、落語に入った瞬間にその”江戸言葉”が自然にするすると出てくるところ。今までのまくらとはぜんぜん違い、江戸っ子訛りが古典落語に華を添えます。ほんとうに、27歳?同世代として”若いのに”は言うのも言われるのも躊躇われるけれど、本心からそう思ってしまう。ご隠居がほんとうに年配に聞こえることもしばしばです。本日の両泥は、その江戸言葉と、危うさが、アクセントとなり、純粋にとても愉しめるものでした。滑稽でありながら二人ともが真剣で、おっちょこちょいで、根が優しい。
 あとひとつ言うならば、毎度、着物の乱れを本人が気にし、直しながら話すところも危うさのひとつです。上下に振るたびにすこしずつ崩れるのを、本人が自分で気がついて必死になおします。その直し方が、着物はそんなになおってはないんだけれど、豪快です。

春風亭百栄 ジャム浜

  • 春風亭百栄師匠

    春風亭百栄師匠

なんでもありか!
先月、松之丞さんが講談で盛り上げて盛り上げて、会場をどっと沸かせたのちの、絶妙な間で放りこんできた気の抜けた”こんちわぁ~”で一気に気が抜けちゃった百栄師匠。なんなんでしょうあの絶妙な心地よさ。ふらふら出てきた百栄師匠の口から飛び出す一言めを客席は待っています。”こんちわぁ~”今日も出るか!どうだ!
“こんちわぁ~。”なに挨拶でどっと沸くって。なんなの百栄師匠。素敵か。
強烈な印象の強い新作落語をお持ちの百栄師匠ですが、その手にかかれば古典もなんとなくモダンになります。ルパン三世とか五エ衛門とか、出していいの?おこられないの?
おそらく彼だけ法律が違うのです。三題噺やってみようかな~どうしましょうかね~ん?芝の浜?はいはい…って!なにそのちょっとした、それ!前衛的過ぎる!でもいいやもうそれで!言いながら自分で三題決めちゃってもいい法律の中でわたしも生きたい。
百栄師匠の古典を超えた”超古典”。ホットケーキミックスを牛乳と卵を混ぜて、焼く前に、食うなといわれているのに指ですくってどろどろのその素を親の目を盗んでこそこそ食べる、子供時代に経た、いたずらをともなうわくわくした気持ちをもたらしてくれる。おなかがそれほどまでに減ってるわけでもないのに、材料を混ぜただけの食べ物になる前の物体を”意外とこのまま食えんじゃね、っていうか焼いた後よりなんなら美味いんじゃね”と、身体に害が出ないレベルの背徳感を確実に楽しみながら、飽きずにいつまでも食べ続けられます。そんなの食べておいしいの?と聞かれる。うん。とてもおいしい。焼いた後より確実においしい。ほら、食ってみなよ一回。うん、食えるな。うまいな。
え、まだ焼いたホットケーキ食べてるの?もうそんな時代じゃないですよ? 侮れないな。こんなに美味しいってしらなかったよ。百栄師匠にはまだまだ古典の新しい食べ方を教わらなくてはならない。百栄師匠、というお皿の上に乗せられた芝浜には、迷わず、ジャムをダイレクトに。どなたかクックパットにあげておいてください。

正太郎 星野屋

  • 春風亭正太郎さん

    春風亭正太郎さん

 斬新でおいしいんだけれども、焼く前のホットケーキミックスは胸焼けがするしジャムは瓶からそのまま食べるし、新しすぎるよ、ちょっと一呼吸おきたいよ。と思っているときに、正太郎さんが出てまいりました。一人楽団、一人大合奏の始まりです。
 正太郎さんは登場人物に”成る”でも”演る”でもなく、登場人物を楽器のように”吹く”方です。手は2本しかないのに、奏でる楽器はたくさん!忙しいったらありゃしない。忙しくても、2本の手だけで器用に演奏します。
 成り切る、演じる、目線で魅せる。いろんなタイプの噺家さんがいてどんな形でも魅力的だけれど、バランスによっては、どの役をやっても噺家個人が前面に出てきて全員がその人に見えてしまったり、登場人物にどっぷりはまってしまってもう少しその噺家さんを見ていたい、とわがままな一観客としてはおもうことがあります。正太郎さんはまさに、登場人物を演奏するかように、意のままに音階を操りながら話はどんどん進んでいきます。
 正太郎さんの話のなかに出てくる、人の言うことを否定する人は強気だけれど、人に言い負かされる人がとても魅力的に悔しがってくれて、いじわる心がくすぐられ、ちょっとにやっとしてしまう。クライマックスは全員が騙し合いの連発だったので、高音の”んまー!”が炸裂!んまーくやしい!んまーくやしいねぇ!その”んまー”の高音が耳に心地よくておかしい。大合奏。30分の一人楽団。堪能させていただきました。

隅田川馬石 安兵衛狐

  • 隅田川馬石師匠

    隅田川馬石師匠

 いよいよ馬石師匠の登場です。高座に上がった瞬間から少し会場の空気が変わるのがたまりません。まくらの途中に客席にいらしたお子様をみつけて、”つまんないですよね、短めに済ませますからね”と声をかける馬石師匠。本当に抜け目ない。きゅんとします。
 万華鏡は外側から見れば地味なつくりで、覗き込む穴の外側には決して色彩が飛び出ることはありません。その人が覗き込んだその先に広がる幾何学模様の色鮮やかな景色。手を止めれば景色は転換を止め、覗き込むのをやめればその鮮やかな色彩は目には映らない。
 馬石師匠は、観客に自ら覗き込ませる魅力があります。もっとみたい。もっと聴いてみたい。新作落語に比べ当然、突飛な出来事は起こらないのに、そこに置かれていると手にとって覗き込んでしまう。変わりゆく景色を眺めていたくなる。そして幾何学のように上品で淡々とした美しさがある。そうです。美しいのです。
 上下を切って話をしても乱れない着物。最初に座るときにくっと手早く端を引いて座った際にできた腰から膝へ張った着物の布の斜めのラインが、最後の最後まで崩れることはありません。終わったあとに、すっと座布団から降りられて、何度も頭を下げる。克己なその姿勢に、わたしは心底魅せられてしまう。途中、馬石師匠の見開いた大きな目に吸い込まれてしまいそうになります。今日はとくにかわいらしさが垣間見えて、色っぽかったー。客席に沈み込みながら、あとからあとから、落語聞いたなー!と熱くなってしまう。話を聴いているはずが、どんどん目が離せなくなってしまう。これだから落語はやめられない、と聴いたあとに思わせてくれる馬石師匠。圧巻です。

  • トーク:カメントツさんと

    トーク:カメントツさんと

【この日のほかのお客様の感想】
「渋谷らくご」12/13 公演 感想まとめ