渋谷らくご

渋谷らくごプレビュー&レビュー

2015年 7月10日(金)~14日(火)

開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。

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7月13日(月)20:00~22:00 春風亭正太郎、柳家喜多八、春野恵子、立川生志

「渋谷らくご」圧倒的なものに触れる会

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プレビュー

月曜日の夜公演、2か月で大入り続きでが、今月のこの公演も絶対に注目してほしい番組となっております。

まず見所で欠かせないのは、喜多八師匠と生志師匠でしょう。このお二方の師匠は、落語初心者の方へ衝撃を与えた師匠です。
生志師匠は2月・3月の渋谷らくごで「落語ではじめて感動で涙が出ました」「感動しました。サゲまですごかった。全体もっていかれた」などと感想が殺到、ニコニコ生放送で同時中継された渋谷らくごのストリーミング配信でも「圧倒的な感動があった」などのコメントが殺到した伝説を目撃!
喜多八師匠ももちろん渋谷らくごで伝説を残しております。11月の公演では、枕もそぞろに落語に突入、会場は一気に期待と緊張でいっぱいに。その後その緊張を壊す師匠の渋い演技が光りました。これがものすごいものでした。終演後には会場で聴こえた10代の落語初心者と思しき方から発せられた「落語マジやべーな」という声に遭遇。これこそが喜多八師匠の的確な落語評なのではないでしょうか。

この盤石のふたりに加えて、今回は春野恵子さんと正太郎さんをお呼びしております。恵子さんは、渋谷らくごは5月に初登場されたとたんに「泣いてしまいました」「恵子さんの浪曲、すごく綺麗だった」と会場の空気を巧みにぐっと掴んだ浪曲の方。
正太郎さんは、3月の渋谷らくごで二つ目ながらトリをとって、シブラクファンを痺れさせた経験の持ち主。もう既に古くなって通用しないのではないかと思われていた落語のお約束を再考察し、日常生活でも感じるようなリアリティを生みだした方です。

飲み会の無い月曜日の夜、社会人の方、学生の方、初めての方、ご通家の方、全員いらっしゃってください、良い週始まりですよ。
今週の活力に、落語力・浪曲力を!

レビュー

文:今野瑞恵 Twitter:@tsururaku 女性、40代、鶴川落語会席亭、落語歴23年 趣味は読書、飲酒
自己紹介コメント:町田市で2ヶ月に一度落語会を開催しております。高校生と中学生の母親です。落語に癒やしを求める日々です。

新たな発見、そして願い

ユーロスペースがある渋谷・円山町は、オトナの皆さんはご存じでしょうが、日本屈指の「いかがわしい街」です。でも今回新たな発見をしました。ユーロスペースの近くに、私の行きつけの立ち飲み店である「串カツの田中」を見つけたのです!(ちなみに私の行きつけは町田店です。)今まで円山町ですれ違う人や景色をじっくり見たことがなかった・・・といいますか、見てはいけないと思っていたので、ユーロスペースへ猪突猛進とばかりに向かっていたのですが、よくよく見渡すと、ホテルの合間に素敵な飲み屋さんがちょこちょこあることが分かりました。落語はひとりで見に行くことが多い私なのですが、今度は誰かを誘って、渋谷らくごの帰りに串カツ田中にでも寄って、あーでもないこーでもないと語り合いながら串カツ食べて呑んで帰りたいと思います。

【春風亭正太郎-そば清】

  • 春風亭正太郎

    春風亭正太郎

最近の二ツ目さんは本当に面白いですね。その中でも正太郎さんの実力は折り紙付き。今年のさがみはら若手落語家選手権では優勝。将来を期待されている二ツ目さんのひとりです。
まくらで語られた相模原の老人ホームでのドタバタ。マイクスタンドがまさかの点滴スタンド!老人ホーム職員による正太郎さんの紹介でまさかの素人扱い!この出来事だけで新作落語ができちゃうんじゃないかと思うような内容でした。落語家さんのところには笑いの神様が降臨するんだなあと思わずにはいられません。

正太郎さんは何度か拝聴しておりまして、その時には感じなかったのですが、正太郎さんのふとした瞬間の声が古今亭志ん輔さんに似ているのです。正太郎さんの師匠は春風亭正朝さんなのに、今日はなぜか時折志ん輔さんを思い出しながら聞きました。一つは、先月新宿末廣亭で志ん輔さんの「蛇含草」を聞いたことが影響しているのかもしれません。今回正太郎さんが演じた「そば清」で最後に清兵衛が食べた草、その正体は「蛇含草」であり、平たくいうと「そば清」の上方バージョンが「蛇含草」なのです。「ちりとてちん」と「酢豆腐」のように、同じような内容なのに、江戸と上方でタイトルが違う噺は時々見受けられます。こういう違いを楽しむのも落語の楽しみ方の一つでしょう。

落語の楽しみとして、しぐさを楽しむということもあります。今回の正太郎さんはそばとうどん、そばときしめん、そばととろろそばの違いを扇子を使って巧みに演じられました。正太郎さんは場の空気を読んで、そこで求められているものを判断する能力に長けていると思います。正太郎さんが初出演された今月のTBS落語研究会ではお客様に温かく受け入れられたと聞きます。(Twitterでのご本人談。)TBS落語研究会のお客様はうるさがたが多いといわれる伝統の会です。そういう会でも渋谷らくごでも力を発揮し、お客様に受け入れられる正太郎さん、二ツ目とは思えない余裕を感じました。

【柳家喜多八-盃の殿様】

  • 柳家喜多八

    柳家喜多八

喜多八さんを渋谷らくごで聞くのは3回目となりますが、毎回まくらで渋谷らくごに悪態付いています。今回は照明へのダメ出しがありました。ひとり終わる度に照明が一度暗くなることが気取っているとの指摘でした。なかなか手厳しいです。渋谷らくごにはしょっちゅう出演しているけど、そんなにやれるネタがないと鯉昇さんと話しているとも仰っていました。そんなことあるめえよと心の中でツッコミましたが、こういうまくらが聞けるのも渋谷らくごの楽しみの一つなのかもしれません。

今日は会場まで自転車で来られて疲れたんだそうで、夏の噺である「鰻の幇間」や「あくび指南」でもいいなと思っていたんだけど体力なくなったということで、得意ネタの「盃の殿様」へ。学習院大学出身という理由で「殿下」と呼ばれる喜多八さんが演じる病弱な殿様。やる気なく気怠そうだったのにもかかわらず、品のある優男に変身しちゃうから不思議です。先月の渋谷らくごで喜多八さんは「粗忽の釘」を演じましたが、あのだらしない亭主とは全く違うお顔と声。いろいろな顔を見せてくれる喜多八さんに脱帽です。

九州から江戸への道のりを言い立てるところを聞いていても、本当に疲れていたの?と勘ぐってしまいました。ザ・熱演!という落語もいいのですが、喜多八さんのようにさらりと演じる(ように見える)落語もいいなあと思う今日この頃。ゲストの春日太一さんが終演後のトークで喜多八さんを「煮こごりを干した感じ」と評していらっしゃいましたが、旨味いっぱいの殿下、またいろんなところに聞きに行きます!

【春野恵子-神田松五郎】

  • 春野恵子

    春野恵子

出てこられた瞬間に会場がパッと華やぎました。華があるってこういうことなんだなと実感。袴を忘れてしまったこともオッケー、許しちゃいます。
恵子さんが「浪曲を見るのが初めての方は?」と質問すると、2,3人しか手が上がりませんでした。今日のお客さんはもう既に何度か渋谷らくごへ足を運ばれて、奈々福さんや太福さんを聞いていたのでしょうか。そういう状況を考えると、もう完全初心者向けのレクチャーは必要ないのかもしれない・・・とその時は思ったものの、春野恵子さんの浪曲レクチャーは結構楽しかったので、次回ご出演の際にもお願いしたいです。(私が頼むのもヘンですが。)この浪曲レクチャー、浪曲界の救世主・うなるカリスマ国本武春さんもよくやっていらっしゃいます。恵子さんのような若手も同じようなことをやっているんですね。「待ってました!」「たっぷり!」この掛け声をユーロスペースで練習させられるとは思いもしませんでしたが、会場の一体感が生まれる気がして、これもまた良いものだなあと思いました。

噺に入ると、とにかくストレートにガンガンきます。熱い思いが言葉の端々からほとばしる感じです。気合い、そして真剣勝負。華やいだ雰囲気も残しつつ、パワーいっぱいの「神田松五郎」を聞かせてくれました。関東節と関西節の違いもお楽しみ下さいと仰っていましたが、先月の玉川奈々福さんと聞き比べて感じたのは、今回の曲師・一風亭初月さんは三味線の調子が低めでした。帰宅して調べたところ、関西節は義太夫の影響を受けているため低く調子を取るんだそうです。(諸説あるようですので、断言は出来ません。)こうして演芸の世界を広げていく楽しみも、最近分かってきたところです。

【立川生志-お菊の皿】

  • 立川生志

    立川生志

喜多八さんもそうですが、生志さんにも私が主催する鶴川落語会へ出演していただきました。ご出演をお願いするってことは、嫌いなわけない、むしろ大好きなわけで、でもなかなか予定が合わなくて生志さんの会に行けていなかったところにこの渋谷らくごです。生志さんが渋谷らくごという空間で、どんな噺を演じられるか、楽しみにしていました。

まくらはやっぱり立川流らしさを強烈に感じる方向でスタート。新幹線の焼身自殺の事件に関して、あんなに堂々とご自身の見解を語られる落語家さんは他に見たことがありません。テーマは正直キツイわけですが、なぜか生志さんから語られると、憎めない。ただ好みは分かれると思います。

トークゲストの春日太一さんは生志さんを「悪役がピッタリで切り甲斐がある方」と仰っていましたが、一見悪役っぽいけど、内面は良識派で良い意味で頑固な方だと、まくらを聞く度に思う私です。談志師匠の話から立川流の今後が少し不安になったところで、「お菊の皿」へ。この日は猛暑だったのですが、そんな日にピッタリの噺でした。といっても幽霊のお菊が本当に恐ろしい・・・なんてひんやりする噺ではなく、一応怪談噺なのですが、コミカルで笑える噺です。わりとスタンダードな「お菊の皿」でしたが、途中生志さん独特のくすぐりもあり、場内大爆笑。生志さん演じるお菊ちゃんは、すれっからしの成り上がり。そこが生志さんの悪役っぷりを際立たせるところなのかもしれないですね。

ご本人も仰っていましたが、生志さんは立川流の中でも他派との交流が盛んな方です。それも生志さんの独自のスタイルが生まれる秘訣なのではないかと感じています。

  • トークの様子

    トークの様子

そしてトークゲストの春日太一さん、時代劇への深い愛情と役者さんへのリスペクトを感じました。仲代達矢さんの話、そして今日の演者を「必殺仕事人」に例えた話、面白かったです。落語は落語家さんが語った噺をそれぞれの頭の中で状況を想像しながら聞くものですが、それぞれの描く世界が全く異なるということを改めて再認識したトークでした。

この会のお客様の入りはイマイチ。会を主催している立場から言えば、今後の存続が不安になる入りです。先月は満員札止めの会へ参加したので、ギャップを感じずにはいられませんでしたが、今回のように入りがイマイチの会では、コアな場所でしか聞けないようなまくらが楽しめるように思います。

渋谷らくごで出会ったご贔屓の落語家さんを追いかけるという楽しみ方もありますが、いろんな落語家さんのいろいろな噺を聞くのも楽しいですよ。寄席はこの時代に他ではなかなか味わえない雰囲気の場所だと思いますし、他の落語会もその場所でしか感じられない、その場所ならではの空気がありますので、折角のご縁、末永く落語を楽しんでいただけたらと切に願います。

【この日のほかのお客様の感想】
「渋谷らくご」7/13 公演 感想まとめ