渋谷らくごプレビュー&レビュー
2015年 9月11日(金)~15日(火)
開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。
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プレビュー
鯉八さんから小痴楽さん、ろべえさんを経て文左衛門師匠が締める。この流れで気付くのは、徐々に江戸の雰囲気を感じるような配置になっているということでしょう。ディストピア鯉八から始まる流れ、「宇宙を感じました…!この方は他にどんな側面を持っているんだろう?と興味がわきました」という感想が寄せられ続けています。そうです鯉八さんの魅力は、次の一言に何が待っているのかわからないこと。たぶん鯉八さん自身も新鮮な気持ちで言葉を発していて、そこには新しい宇宙が生まれています!
次の小痴楽さん、26歳、そしてお父様も落語家のサラブレッド。そんな由緒正しい家系なのに、いまだやんちゃで元気が良い、疾走感がこの落語家さんにはあってて、聴いていて明るくなります。ときとして見せる若者の顔から、突如として落語家の家で育った男の品、そして稽古の後がにじみ出て、落語の奥行きも生みだす。可愛さもあってこれから長い時間かけてもずっと追い掛けていきたいです。
その次は、ろべえさん、古典落語の一言、一つのシグサに意味がある。落語と稽古を信頼して、真正面から取り組んで、ひたむきに格闘し続ける姿。かっこいい! この格闘が落語の女神さまに認められたのか、古典落語に最適な身体になってきているようにみえます。いま最も見てほしい若手落語家のひとりです。
そして最後が、文左衛門師匠。「落語世界の住人になりたくなるような心温まる至福の時間でした。」と感想が寄せられるくらい、落語の世界の隅々まで知っている落語家さんです。丁寧で優しさ溢れる師匠の古典落語は、置き手紙みたいにポンと心に置いてもらえるさりげなさもあって、それがいつまでもずーっと心に残るんです。
レビュー
文:サンキュータツオ Twitter:@39tatsuo
9月14日(月)20:00-22:00 「渋谷らくご」
瀧川鯉八(たきがわこいはち) 「ぷかぷか(ぷかぷか)」
柳亭小痴楽(りゅうていこちらく) 「佐々木政談(ささきせいだん)」
柳家ろべえ(やなぎやろべえ) 「五人廻し(ごにんまわし)」
橘家文左衛門(たちばなやぶんざえもん) 「天災(てんさい)」
「柳家ろべえさんを中心に見てみた公演」
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柳家ろべえさん
3人の個性豊かな二つ目と、最後に確実にお客さんを満足させて帰す真打。
鯉八さんは独自の落語を切り開きわが道をいく、お笑い好きにもたまらない芸風の創作落語家。
小痴楽さんは威勢のいいヤンチャな若者といった雰囲気で古典落語を演じる若手有望株。
ろべえさんは真打目前の超実力派、けだるい雰囲気の語りで笑わせていきいつの間にかお客さんをひきつける。
落語会はリレーのように演者ひとりひとりが力を合わせて客席を盛り上げていく。一方で、そのなかでも自分の存在を覚えてもらおうと工夫する。協調とオリジナリティという背反するふたつをこなすゲームのようなものでもある。
この日のゲームでは、私は柳家ろべえさんに注目した。
この日の最後にあがる文左衛門師匠の前で、どれだけ存在感を発揮できるか。この落語会の見どころはまさにそこにあったような気がする。
というのは、最初に鯉八さん客席を爆笑させ、小痴楽さんがまったく別のベクトルの古典落語でつないでいく、というのは事前に予想できるからだ。
落語をはじめて聴く方には、だれがどんなことをやるかわからないんじゃ楽しめないの?と思うかもしれませんね。だけど、わかっていても、わからなくても、結果なにをやるかは、演者さんの決断次第なので、会場の空気をただただ受け止めていけばいいだけです。
好きなバンドがどの曲をどういう順番で歌うかは事前にはわかりませんが、好きな人なら予想はしますよね。裏切られることもありますしサプライズもある場合があります。競馬とか競艇などの予想も、どういう展開かを予想して結果がどうだったか、その答え合わせがおもしろいですよね。落語会も、実際の落語の内容ももちろん、実はそんな「答え合わせ」の楽しみがあります。
文左衛門師匠はまちがいなく古典で締めてくる。ジンと感動させる人情噺か、爆笑を誘う滑稽噺か。余談だがこの日は腰痛による休養からあけた最初の高座。やりなれている噺でエンジンをかけてくるんじゃないかなというのが、なんとなくのイメージ。
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瀧川鯉八さん
展開はほぼ予想通り。いや、予想を上回ると部分もたしかにあった。鯉八さんは「とうもろこしの話をしようじゃないか」と、開口一番でとうもろこしがなぜあんなにおいしいのかをひたすら語り瞬く間に客席を自分の世界に引き込み爆笑を誘った。
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柳亭小痴楽さん
こうなると小痴楽さんががんばらないわけにはいかない。今度はみっちりと聴かせる噺で、空気を変えに来る。「佐々木政談」は二つ目が演じるには長い噺だが、「渋谷らくご」に出る二つ目さんとしては「まさにそういうのをやってほしかった!」という演目。トラブルが起きてそれを解決していく「裁きもの」を題材にした笑いもあって、お話のおもしろさもある噺。かなり重た目の古典だ。
ここでろべえさんの決断はどうだったか。
開口一番で爆笑の新作。二番目が聴かせて楽しい古典。最後はおそらくシンプルに笑わせてくる古典だ。間にはさまったろべえさんの選択は難しい。
ろべえさんの選択は、色っぽくて、聴くのにそんなにストレスがかからず、それでいて笑える噺「五人廻し」。何人もの男のお客さんが待っている状態で、いかに彼らをなだめていくか、というところが面白い噺だ。怒っているお客さんの様子、それに振り回される使用人。そのやりとりがおもしろい。
ただ、この噺が難しいのは、「吉原」という、現代の風俗店とは全然ちがう遊郭のシステム(遊女が客を待たせる仕組み、金銭が発生しても性行為が伴わない場合がある仕組みや支払いの仕組み)の説明を具体的にしないといけないこと。そしてもうひとつ、待たされているお客さんの演じ分けだ。
しかしろべえさんは師匠との話をするマクラから自然に「客商売」というキーワードで、廓のルールの説明を段取りよく済ませて、噺も三人の客を丁寧に演じて笑いを誘うシンプルな形に編集して、観客が頭を使いすぎることなく簡単に楽しめる、「見てわかる」ものに仕上げた。演じ分けも、リアルなお芝居によりすぎることなく、登場人物を記号的にデフォルメして丁寧にしていました。これには舌を巻きました。めちゃくちゃおもしろい!
スピードも急ぐことなく、ゆったりと、ディテールを演じて笑いを広げていきました。
文左衛門師匠は、「いま座薬が入っているので大きい声を出したら出ちゃうかも」という冗談を言いながら「天災」へ。
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橘家文左衛門師匠
喧嘩好きの江戸っ子が、喧嘩をしないように「心学」という学問の話をきいて、それを実践して失敗するという、笑いが多い噺。しっかりとお客さんを魅了して文左衛門師匠が復帰高座を終えた。かっこ良かったァ!
結果的に、ろべえさんは小痴楽さんの作った空気と、大きな噺を聴いたあとの満足感のあとに、「疲れさせ過ぎず」、だれが見ても楽しめる時間を演出したことになる。それでいて、遊郭の噺をすることで、後ろの文左衛門師匠の滑稽噺を引き出したともいえる。大きな仕事でした。
四者ともらしさを発揮し、輝いた会だったと思います。
落語会は出ている人たちの個性を味わうものです。お話は、いまこの文章を読んで理解できればそれ以上の知識はまるで必要ありません。ろべえさんのように、理解に必要な知識がある場合はなんらかの方法でわかるようにしてくれます。
専門的な知識も江戸時代の常識も、なんも知らなくても平気です。
どの回でもこうした愉しみがゴロゴロしているので、どうか「渋谷らくご」に来てみてくださいね。
大変な腰痛だったのにもかかわらず、渋谷らくごを復帰の場に選んでくださった文左衛門師匠の男気に感謝(たまたまそうなっただけなのだと思いますけれど)。
【この日のほかのお客様の感想】
「渋谷らくご」9/14 公演 感想まとめ