渋谷らくご

渋谷らくごプレビュー&レビュー

2016年 4月8日(金)~12日(火)

開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。

イラスト

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4月9日(土)14:00~16:00 瀧川鯉八、立川吉笑、橘家文左衛門、柳亭小痴楽

「渋谷らくご」27歳二つ目、柳亭小痴楽、トリ公演。

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プレビュー

 4月9日、15時30分からの30分間。見逃してはいけない30分間になることでしょう。
 柳亭小痴楽、現在、27歳のヤンチャ小僧といった姿。16歳の時、落語界に飛び込んだ。芸歴は11年。
 この春咲くのは桜だけではありません。
 以前、小痴楽さんは言いました。「シブラクは出番前から緊張する」と。そしてそれが楽しいんだ、と。
 忘れもしない、最初にこの「渋谷らくご」に出演したときの小痴楽さんの演目は「大工調べ」。ほとんどなにを言っているのかわからないほど噛みまくり大工調べでした。思えば緊張していたんだと思います。出られなくなった出演者がいるときは、出演を志願してくださったこともありました。いまでも出番前はえづいています。
 渋谷らくごに緊張することがなくなる前に、その緊張を快感に変えたいと思います。だからこそ、この日、小痴楽さんにトリをお願いします。

 この小痴楽さんが初めてのトリ公演を盛り上げるメンバー、まずは鯉八さん。小痴楽さんとは入門してから一緒に戦い続けている芸風のまったくちがう戦友です。その次が吉笑さん。いま落語界のみならず、あらゆるジャンルの方に浸透している著書『現在落語論』芸歴5年目にして書いてしまう、落語界のルールを変え続けている方。小痴楽さんとそんなに接点のない、若手をあえて。そして文左衛門師匠。圧倒的な描写力と、師匠が持つキャラクターが相俟って、忘れられない落語体験になること間違いなしです。この真打のあとに、小痴楽さんはなにをやるのか。
シブラクで一番若い男は、中身はITに弱いおじいちゃん。みんなから愛される人ころがしな愛嬌も芸人らしくて大好きなんだけど、この日だけは全員で追い込みたいと思います。



  • 柳亭小痴楽

    柳亭小痴楽

    写真:橘蓮二



レビュー

文: 井手雄一 男 30代 独身 会社員 (趣味で水墨画を描いています)

4月9日(土) 14時~16時「渋谷らくご」

瀧川鯉八(たきがわ こいはち)「おちよさん」
立川吉笑(たてかわ きっしょう)「相模屋騒動 上・中」
橘家文左衛門(たちばなや ぶんざえもん)「千早ふる」
柳亭小痴楽(りゅうてい こちらく)「干物箱」

PUNK’S NOT DEAD

瀧川 鯉八さん

  • 瀧川鯉八さん

    瀧川鯉八さん

漫画「座敷女」のような、「本当にあった怖い話」と「怪談」の混ざった、現代の「都市伝説」でした。
世の中には「絶対に話しかけてはいけない相手」というものが存在します。それが例えばこの「おちよさん」です。
これがいわゆるただの「宗教の勧誘」や「悪質なキャッチセールス」などの場合は、断固として断り続ていければ、相手も「仕事」なのでいつしか諦めてくれます。
しかしこういう類の人間は、一度でも関わりを持ったが最後、地の果てまで追いかけてきて、相手を骨までしゃぶりつくしてしまいます。なぜなら彼女は「自分の命」を掛けて、まさに「崖っぷち」の思いで、こちらの人生に食らいついてくるからです。
あれよあれよという間に、こちらの身の上、素性その他すべてを「質問攻め」と「悪魔的直感」で丸裸にされて、気がつけば「主従関係」が完全に逆転してしまう。そうです、つまりこれは「洗脳」の始まりだったのです!
さらにこの作品は、最後が「まるでテレビのチャンネルを変えた」みたいに唐突に終わってしまうので、その後の展開がわかりません。「え、どういうこと?あの後、板前さんはどうなったの!?」と、段々とこの世のものならぬ不気味な気配がこみ上げてきます。
こんな「歌番組」じゃなくて、さっきのに戻してくれ!
漫画「闇金ウシジマくん」や「根本敬」のエッセイがお好きな方にもオススメです。

立川 吉笑さん

  • 立川吉笑さん

    立川吉笑さん

ゲーム「Grand Theft Auto Ⅲ」のような、一昔前の「洋ゲー」をやっているような感覚になりました。
「ゾーン」に入った方が何を言っているのかわからず、それが「まるでゲームキャラが、口を閉じたままペラペラ喋っている」ような奇妙な案配で、先輩から「マーカーを狙ってボタンを押せ!」と指示されても、手榴弾しか持っていないので、慣れるまでタイミングが激ムズです。またその先輩からの「チュートリアル」も、「日本語訳」が雑なのか元からそうなのか、「とにかくなんとかしろ!」ということしか伝わってきません。
30回くらい死んだあと、ようやく慣れてなんとかこの「リズムゲーム」をクリアするも、次の「蔵のなかのブツを入れ替えろ!」という「ミッション」も、今度は「時間が大変にピーキー」で、おまけに倉庫のデザインが色から何からもう「全く同じ」なので、ときどき自分が今どこにいるのか見分けがつかなくなります。さらに主人公は「ブツ」だけでなく、武器もたくさんもっているはずなのに「画面上では手ぶら」で表示されており、「目的地」に着きさえすれば、なぜか「ブツ」は運んだことになるのも不思議です。
またオートで動く通行人もゲームの「容量」の関係で、同じ顔、同じ服の女性が一度に四人も横断歩道を歩いていたりします。
こうした欠点は本来「これはゲームだから!」と目をつぶらないと、逆に「面白さ」が無くなってしまう類のものですが、しばらくやり込んでいると、次第に「その不完全さこそ」が楽しくなってきて、「全クリ」したあとも「チートコマンド」などを使って、ゲームバランスが崩壊するほどアイテムを出したり、空中を全力でダッシュして、ポリゴンでできた青空をパリパリと剥がしていくのが、だんだんと快感なってきたりします。そうした、今となっては話の内容は忘れたけど、その「体験」だけは妙にはっきりと覚えていることと、同じような面白さがこの作品にありました。すべてのゲーム好きに見ていただきたい「落語」です。

橘家文左衛門さん

  • 橘家文左衛門師匠

    橘家文左衛門師匠

まるで「町田康」の小説に出てくるような、平日の昼間から近所の公園でビールを飲みつつ、まったくどうでもいい話を真剣にしているような素敵な二人組が出てくる多幸感あふれる世界でした。
午後一時の「スーパー銭湯」を貸し切り状態で入り、女湯の女性と時ならぬセッションをしたことや、いわゆるホームレスの人たちが度々登場するなど、私が幼少時住んでいた尼崎を思い起こさせるような、本当にただあてもなく町をうろうろしている人間たちの描写からはじまり、この町の住民を代表するような二人が「百人一首」とか「歴史」とかはよくわからんので、適当に引きずり下ろして自分たちで勝手に遊びはじめると、突然「相撲取り」が登場し、それがいつのまにか「豆腐屋」になっているという、こちらもすっかり彼らの仲間になってダラダラとファミレスでしゃべっているような「ゆるい」バイブスに、首までどっぷり浸かっている気持ちになりました。
ここまでくると、もはや「最初の疑問」などというものは、完全にどうでもよくなっており、始終わけのわからないことを、のべつまくなしにしゃべり続け、脱線に脱線を重ねた末、最終的に「千早」という花魁がゴムボールのように弾み井戸の底に沈むという、もはやゴールははるか彼方、最後は辿り着けずに歩くのをやめてしまうというエンディングは、まるでジャック・ケルアックの「路上」のようでした。
それにしても、この「ベース・ギター」をぐりぐりと弾いているようなリズム感あふれる「言葉攻め」は本当に心地よく、映画でいうと岡本喜八監督の「ジャズ大名」を見ているような案配になりました。
アニメ「日常」がお好きな人にも、オススメできる作品かもしれません。

柳亭小痴楽さん

  • 柳亭小痴楽さん

    柳亭小痴楽さん

「マッドマックス 怒りのデス・ロード」みたいな「落語」でした。
砂漠を爆走しながら、ハンドルがすっぽり抜けちゃったり、落ちたら死ぬ速度なのに車外に乗りだして、走りながら「修理」や「給油」をしたかと思うと、マクラと本編にある絶壁では、「俺を見ろ!俺を!」といいながら、思いっきり後続車を巻き添えにしながら横転し大爆破する感じがたまりませんでした。
ですが、乗っている車は「巨大なタンクローリー」ではなくて、映画「トラック野郎」シリーズに出てくるような、ぴっかぴかの「デコトラ」で、また運転しているのも「菅原文太」扮する「星桃次郎」その人で、彼もやはりほとんど「吉原」に住んでいます。併走する仲間も当然「やもめのジョナサン」など、ねじり鉢巻きにステテコ姿の「トラック運転手」ばかりなため、とにかく運転中はエンジン音がうるさいので始終怒鳴るように会話しており、しかし例え車を降りても「自らが車となって」二階で怒鳴り散らす姿など最高で、色々あったけどラストはやっぱりトラックレースで勝負をつけるという展開は本当に痺れました。最後までガソリンを口から直接エンジンに吹きかけては、暴れた馬のように熱演する姿を見て、私はこの方が大好きになりました。無茶苦茶面白かったです。
「こち亀」で例えるなら、30巻から40巻あたりのノリでしょうか。他にも映画「狂い咲きサンダーロード」が好きな方に、是非みていただきたいです。

以上、最初は気味の悪い「変な人」が出てきて、やっぱり世間は怖いなと思う話。次はある種の「レトロ・フューチャー感」が漂う「ヘンテコな人」が、これでもかと出てくる話。三番手は、我々になじみ深い、その辺をうろうろしている「変な人」がたむろしている話、そしてオオトリは、「変すぎてもはや完全に逸脱している人」が、ひたすらシャウトし続ける話という、起承転結とにかくサーチ・アンド・デストロイしたくてたまらない「変人達の楽園」でした。「PUNKスピリット」を感じずにはいられない、素晴らしい番組だと思います。
個人的には「シブラク」で過去に見た番組のなかでも1、2位を争う面白さでした。
小痴楽さんがトリを取られる会は、しばらくの間できるだけ見に行きたいと考えています。
どうもありがとうございました。

【この日のほかのお客様の感想】
「渋谷らくご」4/9 公演 感想まとめ

レビューその2

文:bk_megumi (Twitter:@bk_megumi 性別:女性 年代:30才 ご職業:会社員 落語歴:1年弱 ご趣味:お酒とアニメと音楽  )
自己紹介コメント:落語の余韻をつまみに飲むお酒が何よりの幸せ

4月9日14時~16時

瀧川鯉八(たきがわ こいはち)「おちよさん」
立川吉笑(たてかわ きっしょう)「相模屋騒動 上・中」
橘家文左衛門(たちばなや ぶんざえもん)「千早ふる」
柳亭小痴楽(りゅうてい こちらく)「干物箱」

やってくれたぜ!!小痴楽兄さん

おちよさん/瀧川鯉八

  • 瀧川鯉八さん

    瀧川鯉八さん

 落語に登場する女は、イイ女が多い。美人だったり、世話焼き女房だったり、ガミガミ言うけど働き者だったり・・・でも、鯉八さんの作品に出てくる女は、めんどさい。ときどき美人も(?)出てくるけど、だいたいは「そうでもない」タイプの女で、そのくせ高飛車で、自己主張が強くて、内面も不細工。でもなんだか、そんなところが同じ女性からみると、愛らしいなあと思ってしまう。男性からみたらどうなんでしょうか?
鯉八さんの落語って、女性が主人公になることが多いですよね。落語とか漫才とか、笑いのイメージが強いエンターテイメントって、男の世界であることが多いのだけど、そんななか、女性が主人公で、しっかり笑えて、不思議で、ちょっぴりキュンとする。そこが、鯉八さんの「新感覚」落語の要素の一つなんじゃないかなと思いました。

相模屋騒動 上・中/立川吉笑

  • 立川吉笑さん

    立川吉笑さん

吉笑さんのまくらは、師匠や噺家仲間との微妙な人間関係のなかで起こるかけひきの一部始終を、心の声の実況中継付きで語ってくれるところが好きです。しかし、お酒の席ではいろんなエピソードを持つ吉笑さん。今回は、小痴楽さんや先輩噺家のいる打ち上げで「お前らみんなガンバレよ!」と言って帰ったという・・・また武勇伝が増えましたね。
さてさて、吉笑ファンの皆さま。「相模屋騒動 上・下」って何だと思います?実は「ぞおん」と「蔵替え」なんですよ。既にご存知かもしれませんが、「ぞおん」の翌日の出来事が「蔵替え」なんですよね。それを、シリーズ化してまとめたのがこの「相模屋騒動」のようです。「上」・「中」があるってことはもちろん「下」もあるということ!残念ながら私は今まで「下」となるべきネタを聴いたことがないのですが、既にお披露目されているネタなのか、それとも、いままだ現在進行中で温められている新作なのでしょうか?近いうちにシブラクで「相模屋騒動 下」を聴けるのでしょうか!?

千早ふる/橘家文左衛門

  • 橘家文左衛門師匠

    橘家文左衛門師匠

 いよいよボスの登場。のっけからガンガンいくぜ!な若手2人に対して、ユルーい感じのまくらから入ります。まくらで与作を歌ったのですが、ねえ師匠、いい声だと思いません?ご本人もけっこうお気に入りなのでは?
その様子から「大胆で豪快」といったイメージがありますが、実際は繊細な表現がとても印象に残る噺家さんです。すごく細かいポイントですが、噺のなかで説明に困った隠居さんが「いまそれを考えてるわけなのだよ。」というのですが、その語尾や言い方の胡散くささが絶妙でした。
以前シブラクで瀧川鯉昇師匠の「千早ふる」を聴いたのですが、鯉昇師匠の噺に登場する「竜田川」はモンゴル人力士で、モンゴルに帰国しパオで豆腐屋を営むというトンデモ設定だったので、今回は、「竜田川」日本人力士バージョンを聴けてまた逆に新鮮な感じでした。「千早ふる」の最後の文句である「とは」の意味を問われて、しばらく悩んだ挙句なんとこの一言でサゲ。
「”とは”は…トリの小痴楽に任せよう!」

干物箱/柳亭小痴楽

  • 柳亭小痴楽さん

    柳亭小痴楽さん

 「しらねーよ!!何やっちゃってんの!?あの師匠!」
開口一番この叫び(笑)そして今回の初のトリとして用意したネタ「干物箱」は、小痴楽さん自身のキャラクターにぴったり合っていて、相乗効果でめちゃくちゃ面白い噺に仕上がっていました。やってくれたぜ!小痴楽兄さん!
小痴楽さんのまくらは、そのへんにいる面白いお兄ちゃんが居酒屋で話してるみたいな感覚になりますよね。若手の噺家の中でも、小痴楽さんのいい意味での「敷居の低さ」というか「とっつきやすさ」は特別で、他にはない魅力だと思います。それでいて、落語は落語で、ちゃんとしっかり面白いんですから。これは追いかけ甲斐のある逸材だなあと・・・思った今ではもう既に、メディアやファンに追いかけられている売れっ子なんですがね。
小痴楽さんの人気の理由は、やっぱりギャップ萌えかと。高座ではあんなに軽くてへらへらっとした様子なのに、本番前はすごく緊張していたりだとか、年齢的には下なのに、一門の弟子の先輩として、「兄さん」としてしっかりやらなくちゃ、といった責任感を持っていたりするところとか。ご本人のキャラクターがとっても魅力的ですよね。 最後に、噺の中の善公の台詞「一発つるしあげまいらせ候」がすごくツボに入ったので、今度どこかで使わせていただきます(笑)

【この日のほかのお客様の感想】
「渋谷らくご」4/9 公演 感想まとめ