渋谷らくご

渋谷らくごプレビュー&レビュー

2016年 4月8日(金)~12日(火)

開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。

イラスト

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4月12日(火)20:00~22:00 桂三四郎、昔昔亭A太郎、三遊亭粋歌、春風亭昇々、林家彦いち

林家彦いちプレゼンツ 創作らくごネタおろし会「しゃべっちゃいなよ」

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プレビュー

今月も、創作らくごネタおろし会「しゃべっちゃいなよ」が開催されます。落語には、先人たちから脈々と継承され続けている古典落語と、私達と同じ時代に生きる落語家さんがつくり出した創作らくごがあります。

この回は、創作らくごのなかでも、まだ一度もやったことがない出来立ての創作らくごを披露する回です。世界初公開の落語が5本、登場します。この時代に落語を聴く人に、届けたい新しい落語。

客席にはほどよい緊張感があり、舞台にあがる演者さんは、勿論緊張感が漂っている。そのような会場が、興奮と喧噪で大爆笑が起こる様子も必見です。この「しゃべっちゃいなよ」を取り仕切るのは、創作らくごの鬼・彦いち師匠。若手からしたら鬼軍曹です。週3本ネタおろしをすることもある、ネタおろし中毒とも言っていいほどの、強い度胸と確かな話術と構成力。その彦いち師匠から招集をうけた4人の若手が勝負を挑みます。

三四郎さんは、今回シブラク初登場です。上方の創作らくごは今から楽しみです。A太郎さんと言えば、シブラクではおなじみとなった2015年渋谷らくご奨励賞「奇妙な二つ目賞」を受賞した持ち主。奇をてらっていて、ざらっとしたなにかを観客の心に残す創作らくごが最高です。粋歌さんは、女性の落語家。等身大の人物像をつくりあげ、日常の延長に落語を設定する妙が炸裂しています。昇々さんは、狂気が満ちている新進気鋭の落語家。どの方々も、ツイッターで当日までのネタづくりの苦悩や、緊張している様子がつぶやかれていることでしょう。ぜひドキュメンタリー的にも「しゃべっちゃいなよ」をお楽しみください。この瞬間から見逃せません。

  • 林家彦いち

    林家彦いち

    写真:橘蓮二

レビュー

文:木下真之/ライター  Twitter:@ksitam

林家彦いちプレゼンツ 創作らくごネタおろし会「しゃべっちゃいなよ」

桂三四郎(かつら さんしろう)-YとN
昔昔亭A太郎(せきせきてい えーたろう)-絵空
三遊亭粋歌(さんゆうてい すいか)-プロフェッショナル
春風亭昇々(しゅんぷうてい しょうしょう)-誰にでも青春2
林家彦いち(はやしや ひこいち)-あゆむ

彦いち師匠が鈴本演芸場の夜トリを休席して駆けつけた4月の「しゃべっちゃいなよ」。お客さんも増えてきて、定着しつつありますね。「江戸の風の8割は空調です」(彦いち師匠)から始まりました。

  • 林家彦いち師匠とオープニングトーク

    林家彦いち師匠とオープニングトーク

桂三四郎-YとN

  • 桂三四郎さん

    桂三四郎さん

初登場で、上方落語で、トップバッター。3つのアウェイ要素が重なる中、存在感をたっぷり見せてくれた三四郎さん。普段から吉本の劇場で若手の漫才に挟まれながら落語で勝負している地力の強さを感じます。転校生が朝礼でいきなり挨拶をさせられるように、「この人誰なんだ」の雰囲気が漂う中、イケメン落語家ブームを逆手に取りながらお客さんを味方に付け、自分の空気に持っていくのが抜群にうまいです。
ネタに入ってさらにびっくり。お寺の跡継ぎの男性と、病院の跡継ぎの女性のプロポーズを巡る会話のほとんどが「ギャグ」の応酬。「病院とお寺の癒着」「死人と病人に囲まれる」などなど、設定を活かしたフレーズが飛び出してきます。仏さまと病人は、水と油か、酵素と脂か。反発しあったり、融和しあったり。それはツッコミのセリフだけでボケ倒す漫才そのもので、会話自体がメロディであり、リズムになっていて、飽きることがありません。ここまで大量のギャグを連打しまくる創作落語は初めて見ました。
終盤にくると、予想も付かない場面転換。場所と時代を変えても夫婦の会話は相変わらずで、2人の輪廻は終わらないんだなーという納得の終わり方。ネタおろしでこのレベル。三四郎さん恐るべしです。

昔昔亭A太郎-絵空

  • 昔昔亭A太郎さん

    昔昔亭A太郎さん

体格が良くて精悍な顔つき。まさに男の中の男のイメージが強いA太郎さんですが、別人格の女性キャラにもなったりする側面を持っています。今回はそんな「夢見る乙女」のA太郎さんが炸裂する妄想一直線の創作落語でした。
夫婦の会話だったので三四郎さんとネタがかぶるかと思ったら、こっちは小3の息子を持つお母さんが占める比率が95%。父ちゃんは置いてけぼりです。ほとんどがお母さんのひとり道中。「親バカちゃんりん蕎麦屋の風鈴」。息子が各界で活躍する夢を見まくり、期待度高過ぎ。そんな母ちゃん絶対イヤです。子供は絶対グレます。人生を踏み外します。
A太郎さんの高座時間は、10数分足らずでしたが、ひたすら母ちゃんの妄想テンションで突っ走る。持てる体力を短時間に全部使い切った、相撲の取り組みのような熱のある創作落語でした。

三遊亭粋歌-プロフェッショナル

  • 三遊亭粋歌さん

    三遊亭粋歌さん

ドラマのセオリーとして、「人間は変わらなければいけない」というものがあります。冒険の旅に出た少年は、強者と戦い強くなって帰ってこなければならないし、幼い少女はひと夏の経験を経て、大人の階段を登らなければならないのです。そして人は変わった人間に共感し、それをアシストした人の人情に感動します。
粋歌さんの「プロフェッショナル」は、まさにそんなドラマの王道。「ドローン型」新入社員の若林君が、見事に生まれ変わり、社会に飛び立っていきました。社会人時代は総務部人事課だったという粋歌さん。人を見る目は、社会人時代から培ってきたものなのかもしれません。
感動を呼び起こすためには緻密な構成が必要ですが、粋歌さんは完璧でした。ひと癖もふた癖もある、製パン工場でプレミアム唐揚げサンドを担当するAブロックAチームの3人のおばちゃんのチャーミングなこと。マヨネーズ塗りの風谷さん。「悠里ロス」に陥っているものの、伊集院はくささない。サブカルでラジオ好きのお手本です。そして、クライマックスで流れるあのBGM。あまりの感動で涙流している人もいましたよ。本当に。
古典落語の基本は「変わりたくても人は変わられない」なので落語では珍しいタイプの作品になるのかもしれないのですが、こうした人情喜劇って本当に面白いです。そうだ。しじみ工場で変わっていく主人公を描いた満島ひかりの映画「川の底からこんにちは」を、見たのもこのユーロスペースだった。今思い出した。

春風亭昇々-誰にでも青春2

  • 春風亭昇々さん

    春風亭昇々さん

始まってから「あれー、どっかで聞いたことあるなー」と思っていたら、まさかのパート2。こんなやり方があるんだと衝撃をくらいました。もちろんストーリーは別ものなので、初めて見た人でも楽しめますし、衝撃度合いは初見ほど大きいはずです。
パート1の初演が昨年10月。それから半年経って、主人公たちは留年歴が1年増えて、9年生の高3になっていました。ナナコのパンツの色も「白」から「エメラルドグリーン」へと洗練されています。キザキャラのシラトリくんも健在。引きこもりで挙動不審のタカシ君を加えた4人を中心に、ドタバタの少女漫画風コメディが展開します。
創作過程では苦心して作ってるはずなのですが、舞台上の昇々さんはすごく楽しそう。どのキャラクターも生き生きしています。よく「勝手にキャラが動き始める」と言いますが、この落語もそう、人物を操る昇々さんでさえ手に負えないくらいです。特に私が好きなのは、猟奇的彼女キャラのナナコさん。今日もいきなりスクールアイドルになるといったり、下手な歌を歌ったり、演歌やオペラを歌ったり、ラップをしたり、もうやることが滅茶苦茶。楽しいなあ。
「みんなで印旛沼に浸かって、将来を語りあう修学旅行」ってセンスもすごい。まともな人が出てこないので、ストーリーは収束しないように見えて、最後はちゃんと事件は解決。この人たちは何も変わりません。「パート6までやる」という話が冗談でもなさそうな昇々ワールドでした。

林家彦いち-あゆむ

  • 林家彦いち師匠

    林家彦いち師匠

「しゃべっちゃいなよ」で全回出演しているのは彦いち師匠だけ。それなのに毎回パターンの違った創作落語を見せてくれるので、楽しみで仕方ありません。今回はサゲ(オチ)のセリフ「いい話だなー」を、一緒に言ってくださいねとあらかじめ客席に協力を求めておく異例の展開でした。
「いい話」をテーマに作ったというこの作品。いい話と正反対のことを言う落語との相性は? と不安になったのですが、心配無用。想像の上をゆくバカバカしいしい話でした。そういえば、先日読んだ「超一流の雑談力」というベストセラーに「事実をちょっと盛る」といいと書いてありました。やっぱり、一流になりたいなら、ちょい盛りが必要なんです。SNSで盛るのも、就職面接で盛るのも今や当たり前。現代人のサバイバル術です。
この落語の舞台となったバー「あゆむ」のマスターはちょい盛りどころか、デカ盛りの名人。悩みを抱えて次々と訪れるお客さんの相談に、色を付けてハッピーにしてくれます。「いい話だなー」と思いながら聞いていたら、いきなり時代がワープしてここからが本番。まんまと彦いちマジックにやられました。「いい話だなー」。

【この日のほかのお客様の感想】
「渋谷らくご」4/12 公演 感想まとめ

レビューその2

文:しのぶ Twitter @sakusaku_shio
20代 趣味:旅行と読書

4月12日20時~22時「しゃべっちゃいなよ」
桂三四郎(かつら さんしろう)「YとN」 昔昔亭A太郎(せきせきてい えーたろう)「絵空」 三遊亭粋歌(さんゆうてい すいか)「プロフェッショナル」 春風亭昇々(しゅんぷうてい しょうしょう)「誰にでも青春2」 林家彦いち(はやしや ひこいち)「あゆむ」

ドラマティックな2時間

シブラクに通うのは今回で5回目か6回目。
初のしゃべっちゃいなよ。そして初の彦いち師匠。チラシなどで見た彦いち師匠は怖そうな印象だったのでちょっと緊張。
タツオさんの紹介で出てくる彦いち師匠

ドッドッドッドッ(足音) ドンッ(着地)
「(あっ、この人可愛い…)」

跳ねながら出てきて最後軽くジャンプして着地。足音は重量感あったけどとっても可愛い!お茶目!
オープニングトークでは、出演されている映画「エヴェレスト」のお話、寄席のトリを休んできたお話(有難い!)、緊張感あふれる楽屋のお話などなど。
「しゃべっちゃいなよ」は演者も緊張してるから、お客さんに受け止めてほしいと仰ってました。気負わずに、気楽に楽しもうとリラックスできるオープニングからスタートした会でした。
通しで聴いてどの噺もドラマティックだなと感じたので、テレビドラマの枠とかけて感想を書いていきます。

土9「人生のアフターケアは任せろ」

  • 桂三四郎さん

    桂三四郎さん

シブラク初登場の桂三四郎さん。ちょっと緊張の面持ちで出てきました。
場所見知りしてると言いつつ、まくらからめちゃめちゃ笑わせてきます。
最近話題のイケメン落語家の話から、もし落語の登場人物が全員イケメンだったらというくだり
「お前のおっかさん、泣いてたゼ☆」
イケメンを意識してやってるのかわかりませんが申し訳ない、私にはなだぎ武がやるディラン・マッケイにしか見えなかった(笑)

本編はカップルの噺。
結婚する?しない?の相談から2人の関係性が徐々にわかってきます。
2人の関係は、彼女のかおりが医者で彼氏のこうじが寺のお坊さん。これが分かる頃には、笑いの渦に巻き込まれる準備は万端だ!
「医者と坊主やろ?業務提携してると思われたら困るやん!」死に際から死後はバッチリ☆確かに生きた心地はしない!(笑)
「仏やからブツブツ言うてんの?」かおりの煽りがまたイラッとくるのなんの。しかしこうじも負けじと煽り返してくるので結局はお似合いのカップルである。
「なんで坊さんがパンテーン使てんねん!」聞いた瞬間撃沈。やめてこれ以上笑わせないでー!
仏ジョーク医療ジョークがずーっと畳み掛けてきて、台詞の全部笑えるんじゃないかってくらいです。
基本落語は一話完結モノですが、この噺はしれっと続きがありそう。あるならぜひとも観てみたい。
ドラマ枠で例えるなら、だらだらと過ごした土曜日の夜、缶ビール片手にゲラゲラ笑いながら見たいと思ったので土9枠。
気持ちの良い関西弁で開口一番を務めあげた三四郎さんに、ぜひまたシブラクへ来ていただきたいです。

特別番組「世にも奇妙なA太郎」

  • 昔昔亭A太郎さん

    昔昔亭A太郎さん

「しゃべっちゃいなよ」の出囃子はJAZZ。とってもオシャレでテンション上がります。それをBGMにのっそのっそとキリンのような歩き方で登場したA太郎さん。A太郎さんが喋る前にやる”ルーティン”まだ見たことがない人はぜひ。シュールですよ。

夢は大きい方がいい、というまくらから本編へ。
子どもの教育方針について話す夫婦の会話。奥さんの妄想力が凄い!A太郎さんがやる女性大好物ですありがとうございます。強い。カカァ天下。強か。そんな単語が似合います。
子どもに何をやらせようか?CEO?サッカー選手?夢は膨らむ一方。
もしかして実体験入ってるのかな?少しアブないネタが入ると
「大丈夫よ今日はそういうネタなのよ!実験の場所でしょここは!」
本音出てますよAさんー!!(笑)奇妙なA太郎さんの素が垣間見えたかもしれない時間でした。
連続ドラマとかそういうものとはまた違うと感じたので、特別番組枠で世にも奇妙なあの番組を。うわーそのまんまだ!

NHK「朝ドラと思いきやドキュメンタリー」

  • 三遊亭粋歌さん

    三遊亭粋歌さん

新入社員のまくらで始まった粋歌さん。今年の新入社員はドローン型だとか、意識高い系の人たちについて話していました。

本編はからあげをパンに乗せる研修が耐えられない新入社員の噺。上司の説得に一応納得したものの、チームメイトの愚痴を零す新入社員の若林くん。
しかしそのチームメイトのアドバイスによって若林くんは驚きの成長を遂げる!!
この噺、最初から最後まで語ってしまいたいくらい素敵ですがこれはぜひ生で観てほしいです。
最初はなんとなく観てたけど、気がついたらハマっちゃって登場人物に感情移入しちゃったりして…!まさに朝ドラ!と思っていたらさすが粋歌さん仕掛けてきましたあのBGM。ここでー!?確かにたくさんプロフェッショナル言ってたけどここでー!?この驚きからの笑いはぜひ生で!
全部見ることで輝く噺ですが、個人的に大好きなのは粋歌さんの仕草です。タバコ吸うところ、マヨネーズ塗るところ…もう大好きです控えめに言っても最高!

苦渋の月9 「誰にでも青春2」

  • 春風亭昇々さん

    春風亭昇々さん

ネタ下ろしというのは人の頭をおかしくさせる、というまくらから始まった昇々さん。元から充分オカシイじゃないですか…と思ったのは私だけかな。

さらっと本編に入ったと思ったら
「かったりーなーかったりーなー!昼寝でもするか~」…あれ?
「やーっぱりここにいた」んん!?
これはどう見ても聞いても昇々さんの新作「誰にでも青春」ネタ下ろしだよね!?と焦ってたら
「この前のダンスパーティー楽しかったね」
まさかの続編!!!Twitterで昇々さんが「いつもと違う感覚にさせる」と言ってたのはこのことか!!
続編ということだけじゃない、今夜の昇々さんはいつもよりやばい!
「F4」「スクールアイドル」「神龍」もう色んなジャンルの単語がめちゃくちゃだ!いいぞもっとやれ!!(笑)
クロスオーバーもあり、昇々ファンにはたまらない噺でした。学園ラブコメ?ということで苦渋の月9枠。このシリーズ第6部まであるらしいので完結まで追いかけたいと思います。

深夜ドラマ「いい話だなー!」

  • 林家彦いち師匠

    林家彦いち師匠

今回は「いい話」がテーマだそうで。しかもサゲは師匠が「せーの」と言ったら会場みんなで「いい話だなー」という参加型。そういうの大好きです。オープニングトークで「しゃべっちゃいなよ」は会場みんなで作るものと仰っていたので、そのコンセプトにもふさわしいサゲ!始まる前から期待値を上げてくれる彦いち師匠すごい。

物語はいい話が聞けるというBARで始まります。マスターからいい話が聞けるだけではなく、お客さん自身もいい話ができるというBAR。
彦いち師匠の落語は初めてですが、さっきまでの二つ目の若手たちの熱量たっぷりの笑いは無いのに、じっくりと引き込まれる。静かな川のほとりでたき火しながら話を聞いているような感覚になりました。
もちろん笑えるところはほんとに笑えます。お客さんのいい話に脚色もしちゃうマスター。いいのか!?しかしやりおるマスター。ですが普通にいい話をするだけのお客さんが来るわけない!あの歌やあの古典落語に共感しすぎて、そのまま自分の話としてしゃべっちゃうお客さん…気持ちはとてもよく分かります。
そんなお客さんが来て、いい話から脱線しかけても、最後はちゃんと戻ってくる。笑いつつ、どこか心身に染み渡る噺でした。宣言通りサゲを会場みんなで言うのも新鮮で楽しかったです。
残業で疲れた帰り、コンビニで買ったおつまみと日本酒orワインを少しずつ飲みながら深夜に見たい。そういう理由でしっとりとした深夜ドラマ枠です。

「しゃべっちゃいなよ」は初めてでしたが来て良かったです!通常よりも程よい緊張感、より強固になる演者や会場との一体感、終わったあとの充足感。
「しゃべっちゃいなよ」は行ったことがないという人も、シブラク自体未体験という人もぜひ来てください。濃〜い2時間が味わえます。

【この日のほかのお客様の感想】
「渋谷らくご」4/12 公演 感想まとめ